病院の活動_看護部門

(P144-170)

看護部門

 総括

    看護部長 水主 いづみ

  看護部のあゆみ
 私たち看護部は、病院の基本理念である“患者さんの視点の重視”、これに続く“がんを上手に治す”“患者さんと家族を徹底支援する”“成長と進化を継続する”の理念の基に、「がん患者と家族に寄り添いその人らしく生きる人を支える」全人的ケアの実践を心掛けてきました。そのために、「がん看護実践者の育成」「科学的根拠に基づくがん看護の提供」「多職種チームの推進」「包括的患者家族支援体制の確立」に全精力を費やした20年でした。

(1)2002年開院までの準備
 1997年3月に「静岡県がんセンター(仮称)基本計画─理想のがん医療を目指して─」が決定。同年4月に、県立病院から出向した看護職員を含めたがんセンター建設準備室が設置されました。ゼロベースでのスタートでしたが、これまでのしがらみに縛られず、患者中心の医療・療養環境を実現できる機会を得ることができました。準備室では、①がん看護実践者の確保、②看護の視点を重視した病院機能と療養環境、③患者参加型医療の実現に向けた患者支援システムの導入を、2002年4月の開設までの期間を要して整備してきました。特に、がん看護実践者の確保は困難を極めました。近隣の医療機関は中小規模病院が多いため、全国からがん看護を目指す人材を確保しました。また、がん看護指導者育成のため、国立がんセンター中央病院・東病院をはじめとした高度急性期医療機関での看護研修派遣計画を実践し、幹部候補者の育成に努めました。
 2002年4月から開院する9月までの5カ月間は、多職種と徹底的に討論し、看護部門の組織体制、看護基準、運用マニュアル、電子カルテの運用、多職種チームの診療体制を固め9月6日の開院を迎えました。

(2)開院後の看護部門の活動
 病床数615床に対する看護師数の確保は、新設病院であることから開院後、徐々に増員する方針をとり、開院時は313床でスタートしました。
 静岡がんセンターは、高度がん専門医療機関として2003年7月に病院機能評価機構の認定、2006年に都道府県がん診療連携拠点病院の指定、2013年に特定機能病院の承認を受け、看護実践レベルの向上と看護師確保を重点課題として取り組んできました。
 開院時に313床であった病床は、465床、509床、そして557床と段階的に増床し、2016年11 月に全床615床開床となりました。この間、がん看護に志の高い看護師を全国から集め、多職種チーム医療をリードすべきジェネラリスト、スペシャリストの人材育成を行ってきました。
 2008年には、当院のがん臨床をバックとして、全国初となる「病院立の認定看護師教育課程」を開講しました。この課程で当院の志ある看護師が学び、認定看護師となって帰るシステムを作り、院内に多くのスペシャリストが育っていきました。さらに、2019年には、特定行為研修を含む新たな認定看護師教育課程(B課程)をスタートさせ、より高度な臨床判断能力を有する看護師の育成に取り組んでいます。認定分野は、皮膚・排泄ケア、緩和ケア、がん薬物療法看護、がん放射線療法看護、乳がん看護の5分野であり、当院の看護師のみならず、全国の医療機関に勤務する看護師の認定看護師養成のための教育を精力的に行っています。
 また2009年には、全国のがん医療機関と協働して派遣元病院の看護師が当院で実践を積む、がん看護力強化プロジェクトをスタートさせました。修了生は、3機関13名(鶴岡市立荘内病院 10名、青森県立中央病院2名、那覇市立病院1名)となり、派遣元病院で地域のがん医療を担っています。
 このような取り組みから専門力、認定看護師、がん看護専門看護師数、リハビリ・ケア力、患者家族支援力などの点において高い評価を受け、がん看護のトップランナーとして評価されるようになりました。
 当院は、高い病床稼働率で推移し、国内でも上位の高度ながん治療を行うと共に、年間1,200 人の患者さんの看取りも行っています。そのため、その看護に携わる看護師にも高度な知識、技術が求められます。このような背景を踏まえ、2013年度からは連携大学院制度を開始し、大阪大学博士後期課程、慶應義塾大学健康マネジメント研究科後期博士課程、東京慈恵医大学大学院と徐々に連携先を広げました。これは、他の医療機関にはない教育制度であり、研究能力も踏まえたより高度な実践力を有する看護師の人材育成に努めています。

   現在の状況
(1)看護体制
 看護部門は、2022年4月現在、看護単位20単位で機能しています。病棟15単位、外来3単位(外来、中央診療部門、化学療法・支持療法センター)、特殊部門2単位(手術部、GICU)の20 単位です。さらに患者家族支援センターと認定看護師教育課程があります。1単位につき看護師長1名、副看護師長2名の配置を基本とし、部署の管理運営を行っています。
 職員数は、常勤看護職員672名、会計年度任用看護職員46名と看護助手85名の計803名が在籍しています。看護師が患者さんのベッドサイドケアに専念するために、看護助手の役割、存在は大きいものとなっています。現在、全看護師におけるジェネラリストの割合は85%、スペシャリストは9%(がん看護専門看護師17名、認定看護師52名)、看護管理者6%となっています。常勤看護師のうち、臨床経験10年未満が約50%を占めています。

(2)多職種チーム医療、包括的患者家族支援体制
 当院は、ケアの責任者は看護師、治療の責任者は医師とし、看護師が多職種チーム医療の中心となって支援を行っています。
 入院では、ジェネラリストのリンクナースが、ベッドサイドで患者の問題を早期に見つけ、専門家チームにつなぎ、支援するという機能が整っています。また、問題がある場合は、看護師が他職種にコンサルテーションし、早期に対応して問題解決を図っています。
 がん治療の場は、入院から外来、在宅へと移行しており、移行は加速しています。そして、高齢者の増加や患者家族背景も複雑化してきています。ゆえに、外来、化学療法センター、支持療法センター、中央診療部門については、臨床経験やがん看護の経験が豊富な看護師を配置し、対応しています。2012年からは、外来患者さんの支援の強化を目的に設置された患者家族支援センターとの密な連携により、ケアの継続性や専門性も高まっています。これらの患者さん、家族への徹底支援は、毎年実施する患者満足度調査の結果につながっています。2021年度の調査では「患者さんへの支援」の項目について、患者満足度は入院97.8%、外来98.3%と高い結果となっています。満足度は年々向上しており、過去5年と比較しても最も高い満足度となっています。

  未来に向けて
 現在、進めている包括的患者家族支援体制を発展させていくためには、より優秀な人材の確保に取り組んでいくとともに、確保した人材をより質の高い状況に育てていくことが必要であると考えます。専門性の高い看護師の育成はさることながら、患者さん、家族の状況や社会情勢をキャッチし、必要なケアにつなげられる人材の育成が急務です。この20年間において国内で注目されるがん専門病院の一つとなりました。これからは、臨床、教育に加え、研究実績を積み、院内外において科学的根拠に基づくがん看護が示せるよう、さらなる成長と進化を続けます。

 

 10西病棟

   看護師長 山田 好美

 10西病棟のあゆみ
 10西病棟は、開院より心地よく治療が受けられる女性専用病棟として、プライバシーに配慮し、優しい桜色を基調としたカラーで病棟全体を統一し、穏やかな環境・雰囲気作りを心掛けてきました。看護は主に乳がん患者さんを対象とした、手術療法、放射線療法、がん薬物療法看護です。10年生存率は、著しい治療の進歩により、早期乳がんのみならず、転移再発乳がん患者も劇的に延長しています。乳がん罹患率は増加し、40 〜 50歳の働き盛りの女性やAYA世代(15〜 39歳)の若い患者も増えています。昨今、妊孕性・母親役割といった女性特有の悩みや、老々介護など様々な世代における患者背景、それによる問題が多様化、複雑化しています。患者家族支援のため、多職種チーム医療の必要性がより高まり、小児家族支援、MSWなど多職種を上手に活用できる看護師のスキルがより強く求められるようになったことが大きな変化です。

 現在の状況
 病床数は42床で、乳腺外科、女性内科、呼吸器内科、形成外科の4診療科の混合病棟です。診療科別入院割合は乳腺外科50%、女性内科10%、呼吸器内科20%、形成外科8%です。看護師 28名が在籍し、パートナーシップと固定チームナーシングを取り入れ、パートナーやチームで協力できる看護体制を取っています。医療の進歩に伴い長期的な延命が望める一方、治療方針についての意思決定や治療に伴う有害事象のコントロールに難渋することが増えてきています。
2018年より乳がん看護認定看護師を中心として開始した外来病棟連携により情報共有、継続ケアが定着し、患者家族支援に活かされています。2022年度から在宅転院支援室との連携をさらに強化し、女性のライフサイクルに合わせた患者家族の支援を行い、安全で安心できる看護サービスに取り組んでいます。  

 未来に向けて
 がん遺伝学的検査や分子標的治療が発展していく中、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)の認知の向上もあり、遺伝学的検査を受ける方が増えています。予防的治療も今後増えていくことが考えられ、より専門性や遺伝カウンセラーとの連携が必要となります。また、診療科の特性上、脳転移や骨転移などを抱えながら治療し、生活していく患者さんが今後増えていくことが予想されます。そのために経験、広い視野を有した人材の育成、ケア力強化を目指します。関連する脳神経外科、整形外科病棟看護師の病棟間の研修システム、交流研修も構築したいと考えます。そして、専門性をもって患者・家族に寄り添えるスペシャリスト育成に取り組んでいきます。

 

 10東病棟

   看護師長 岩井 祐子

 10東病棟のあゆみ
 20年という月日の流れの中で、がんの治療は大きく変化しています。10東病棟の対象診療科である婦人科では、低侵襲性手術や高齢患者の手術の増加、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)によるリスク低減卵管卵巣提出術(RRSO)が開始されました。がん薬物療法においては、分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の使用と変化がありました。一方で、患者家族側の変化としてシングルマザーや核家族、独居患者の増加に加え、在宅療養、在宅看取りを希望する件数も増えています。その中で病棟管理者としては、病院の基本理念を念頭に実践にあたるよう、伝え続けてきました。その結果、現在は、「患者さんの視点の重視」を大切に専門的知識の習得や技術の向上に努めるだけでなく、女性病棟としての優しさや細かな心配りを失わず、ケアに努めることができるスタッフが育ち、患者家族の支援にあたっています。

 現在の状況
 病床数は42床で、主科は婦人科および消化器内科の2科を対象としています。診療科別入院割合は、婦人科9割、消化器内科1割です。看護は、外科手術療法看護、がん薬物療法看護、放射線療法看護が主ですが、治療の進歩により新たな手術、薬剤が導入されるため、知識のアップデートが求められます。20年前と現在で大きく異なる点は、様々な変化に対する対応力、スピード感が必要なことです。
 婦人科がんの治療は、短期入院が多く、1日の入院患者数が多いこと、週末は稼働率が一挙に下がることが特徴です。月から金の5日間に集中的に臨床判断と行為が求められています。このように治療に対応できる力に加えて、在宅療養を希望する患者さんのニーズが高まっている現状から調整や指導力は、より一層必要となっています。

 未来に向けて
 よりよい看護を提供するために、以下の三つに取り組んでいきます。
1)実践:「患者さんの視点の重視」を忘れず、看護を提供すること。患者家族
     支援が継続できるよう、多職種カンファレンスを継続していきます。
2)教育:遺伝看護やさらに高度な治療に対応するための知識を学び、倫理的
                   視点や感性が磨ける環境の整備。専門・認定看護師を目指す人材のさ
                   らなる育成。今後も、時代や患者さんの社会的背景、治療の変化に合
                   わせた看護の提供と、女性目線を大切に、看護師一人一人が成長と進
                   化を継続できる病棟であり続けたいと考えています。
3)研究:   病棟内での臨床研究への取り組みを具体的に進めていきます。

 

 9西病棟

                                                看護師長 名波 由香

 9西病棟のあゆみ
 9西病棟は、消化器内科、内視鏡科の病棟で、42床の病床を有し、がん薬物療法、放射線療法、内視鏡治療、緩和治療を受ける患者さんを対象にしています。中でも早期胃がんに行われる内視鏡治療のESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は近年発展し、従来の粘膜切除術では不可能だった大きな病変や瘢痕のある病変も切除可能となりました。外科手術に比べ、局所治療である内視鏡治療は後遺症がほとんど残らないため、QOLを保てるというメリットがあります。しかし、ESDが拡大していく中で、狭窄・出血・穿孔などの偶発症の頻度も増え、再度処置が行われるケースもあります。また治療中は鎮静が行われるため、術中から術後のモニタリングも非常に重要となります。
 近年、高齢化が進み、ESDを受ける患者の年齢層も高くなり、複数の疾患の合併のみならず、加齢に伴う諸臓器の低下、認知機能低下などのリスクがある中で内視鏡治療が行われます。術後に出血、誤嚥性肺炎の発症、歩行時に転倒する事例もあり、入院時から術後を通して、患者さんの状態をアセスメントし、異常時に医師への早期報告や個別に合わせたケアを考えていく事が重要になります。

 現在の状況
 42床の病床数に対し、看護師27名がケアにあたっています。認知症、高齢世帯、独居などの患者さんが増えていく中、退院後の生活を考える上で多職種チーム医療での支援は欠かせず、栄養士、在宅支援担当看護師、MSWと共にカンファレンスを行い支援につなげています。しかし、治療後2週間は出血リスクが高く、退院後に吐下血で緊急処置が必要な状況で再入院する事例もあります。そのため、入院時から患者さんのセルフケア能力を見極め支援していくこと、足りない点は家族が支援できるように指導すること、情報共有が必要な患者さんは外来でもフォローできる体制を強化しています。

 未来に向けて
 社会的背景が複雑な患者家族が増える中、入院にあたって外来での説明と同意、患者さんの理解度の確認、フォローをいかに充実・強化させるか、そしてそれらの情報をもとに入院時からの早期介入を進めていくことが、さらなる課題です。多職種チーム医療はもちろんのこと、まずは看護師同士の連携を密にとり、きれめなく患者家族支援を行うことが今後の課題と考えます。
 未来に向けて、9西病棟は、看護師一人一人のスキルアップ、倫理的課題に気づける感性を磨きながら、ケアのリーダーとして、多職種チーム医療を円滑に進め、病院の理念でもある「患者さんと家族を徹底支援」していきます。

 

 9東病棟

  看護師長 加藤 弘美

 9東病棟のあゆみ
 9東病棟は消化器内科と内視鏡科の病棟です。開院当初は1病棟42床(7階西)でしたが、 2006年に9東西病棟84床へ増床となりました。新薬が次々と開発される中で、がん薬物療法、放射線療法による有害事象のケア、セルフケア支援に積極的に取り組んできました。特に薬物療法においては、入院治療から外来通院にシフトし、ますますその重要性が高まっています。病棟の基本方針は「患者さんも参加する医療看護の実現」です。患者の社会生活に視点を向けた支援のために、個人の社会的背景や生活を十分把握し、訪問看護など社会資源を含めたケアに多職種と協働して取り組んでいます。看護の対象は進行がんから終末期の患者さんです。治療過程において複数回の入院を繰り返す患者さんに対し、そのケアの過程で、その人らしさを大事にしたケアを実践しています。全診療科、部署の中でも常に高い稼働率を維持しています。

 現在の状況
 42床の病床数に対し看護師28名、看護助手4名、病棟クラーク1名の人員で看護にあたり、看護師長1名、副看護師長2名のリーダーシップのもと2チーム体制で機能しています。看護方式は、パートナーシップナーシングシステムを導入しています。昨今、治療の進歩により、薬物療法においては、CVポート(皮下に埋め込み型の中心静脈アクセスポート)を造設し、投与中も自宅で過ごすことができるようになりました。同時に患者家族へ指導する項目が増えてきています。課題は、高齢者や独居患者の増加による説明、理解を進めることの困難さ、調整です。治療が進歩し長期療養するがん患者が増える中、進行がん、終末期患者の看護実践においては、対応力が強く求められています。
 これらに必要な能力を磨き、優秀な人材の育成、定着を図る上でも、連携大学院制度の利用による専門看護師の育成、院内にある認定看護師教育課程への派遣を積極的に行っています。その結果、2022年度現在、2名の看護師が大学院で学んでいます。

 未来に向けて
 人材育成を積極的に進めていきます。専門看護師や認定看護師取得のための教育課程にスタッフを派遣することは、他のスタッフへの大いなる刺激になっていることを実感しています。チーム医療の一員として、エビデンスや臨床判断を踏まえながら、職種を超え患者さんにとって最適な時期に、医師等へも提案ができる人材育成に取り組んでいきます。

 

 8西病棟

   看護師長 妻木 浩美

 8西病棟のあゆみ
 8西病棟は、開院から胃外科を主診療科としてスタートしました。近年、がん薬物療法を行う患者さんの増加に伴い、現在は胃外科、消化器内科の混合病棟として、周術期看護、薬物療法および放射線療法、終末期に至るまで幅広い患者ケアを担っています。
 胃がん手術はクリニカルパスを導入しています。開院当初は、術後管理の標準化を目指し、医師の視点から作成した術式郭清度別パスで運用していましたが、その後、多職種で検討し、2010 年から胃切除パスとして統一を図りました。
 2014年「脾摘を伴わない75歳以下の胃切除患者を対象にERASプロトコールを用いた術前炭水化物負荷試験」を実施し、在院日数短縮および術後の栄養状態に影響を及ぼさないことの安全性が証明され、ERASパスとして確立しました。2018年には、75歳以上を対象とした高齢者パスを作成、改定し、入院前支援での嚥下機能評価や呼吸機能評価、せん妄リスク評価などを実施し、術後の食事開始基準を設けたパスになっています。2020年頃より嚥下機能障害を持つ高齢患者が増加し、胃がん術後の誤嚥性肺炎の予防強化に取り組みました。術後の食事形態を上げる手順について、ST、栄養士、摂食・嚥下障害看護認定看護師、胃外科医師と共に検討し、食道・胃癌術後嚥下食フローを作成し使用しています。これにより、誤嚥性肺炎の発症がなく経過しています。

 現在の状況
 看護方式は2014年からパートナーシップ・ナーシングシステムを導入しました。現在は看護師の勤務形態等の背景から以前の固定チームナーシングに戻しています。
 多職種チーム医療推進では、毎朝、胃外科と消化器内科別に、医師とのカンファレンスを行い、その後、在宅支援スタッフと退院後の社会資源の導入、転院支援の必要性のカンファレンスを行っています。常に患者家族のことを最優先に考え、より良い看護を提供できる体制を整え、実践しています。病床稼働率の目標値に対し2019年以降の3年間、数値が伸びないことから、より積極的に緊急入院患者の受け入れを開始しました。このことにより、当該診療科以外の患者さんを看護する機会が多くなり、煩雑さも増えています。一方で、看護師はこれまで経験したことのない処置や治療に携わることで経験知が上がり、臨床実践力が向上しています。

 未来に向けて
 高齢患者の増加に伴い、術後の生活を見据えた介入は必須です。社会資源の活用、家族のサポート力の把握など外来や在宅転院支援室との連携をさらに強化し、入院前からの早期介入に取り組んでいきます。科の特性から患者さんが早期の再入院なく自宅療養できるよう、栄養士等と指導の強化に取り組み、徹底したチーム医療を進めていきます。

 

 8東病棟

   看護師長 金子 昌代

 8東病棟のあゆみ
 8東病棟は、開院から肝胆膵外科を主科としてスタートしました。臓器は、肝臓、胆道(胆嚢、胆管、十二指腸乳頭)、膵臓領域が対象で、外科手術が中心となることから主には周術期看護を行っています。
 この20年間において、術式は開腹から腹腔鏡下、そしてロボット支援手術に変わり低侵襲の手術が多くなりました。しかし、科の特性から慢性肝炎、肝硬変、閉塞性黄疸などを有する患者さんが多く見られます。このような特性から手術部位はもちろんこと、全身管理が極めて重要となります。病棟では、徹底した多職種チーム医療のもと、医師、看護師、コメディカルと協働して治療、ケアに取り組んでいます。

 現在の状況
 8東では、肝切除術200件、膵切除術(膵頭十二指腸切除術、膵体尾部切除術、膵全摘術等)150件、その他の手術も含めると年間400件を超える手術患者の看護にあたっています。高侵襲かつ長時間手術、術後に複数のドレーンやカテーテルが挿入されている患者さんが対象であることから、ドレーンやカテーテルの安全な管理が求められます。加えて、胆管炎発症例など感染対策も重要な看護です。患者さんの体液から接触感染対策が必要となる菌が検出されることも少なくなく、MRSA、ESBL、VREなどの発生があります。医師、看護師は、日頃から感染対策に努め、医療者による水平伝播を起こさないよう努めています。
 2016年には、患者家族支援センター初診・入院支援室の体制整備に伴い、入院前から退院調整に向けた情報収集およびスクリーニングを実施し、在宅医療への移行を円滑にするための入院前支援が開始されました。高齢患者の増加に伴い、高侵襲の手術を受ける患者さんが増加しています。そのため、術後の生活を見据えた早期の介入は必須です。8東では、在宅支援担当看護師やMSW等と全入院患者を対象とした合同カンファレンスを実施し、家族背景やサポート状況、在宅療養環境の情報を収集し、アセスメントし、スムーズな退院につなげられるよう重点的な取り組みを行っています。     

 未来に向けて
 入院患者は、県外の患者が少なくなく、術後にカテーテル、ドレーン類を留置したまま退院するケースもあります。将来的には、近隣の病院、訪問診療、訪問看護との連携をとり、サポートできる体制を整えることが必要であると考えます。県内の医療機関との連携は進みましたが、今後は、県外の機関との強化を図っていくことが必要であると考えます。そのことが患者さんと家族の徹底支援につながると考えています。

 

 7西病棟

                                              看護師長 吉川 敦子

   7西病棟のあゆみ
 7西病棟は、大腸外科、内視鏡科、IVR科、皮膚科の4診療科を主科とした42床の病棟であり、大腸外科の占有率が高い病棟です。開院以降、院内において複数回の病棟編成が行われ、2006 年、大腸外科をメインとする病棟としてスタートし、今や外科看護を主流とする病棟です。
 がんの治療技術が進歩する中、2011年12月、手術支援ロボット・ダヴィンチが導入されました。術式は、開腹手術から腹腔鏡へと変わり、現在はロボット手術が主流となり、看護は、高侵襲手術を受けた患者の術後管理からセルフケア指導が中心となってきています。全国でも屈指の手術件数を誇る病棟として、日々、医療安全に取り組みながら看護にあたっています。高齢者、独居患者の増加などからセルフケア指導も困難になってきています。

 現在の状況
 病床数は42床であり、平均在院日数は、9.7日(2021年度実績)です。
 外科がメインであることから、年間死亡患者数は院内他部署と比較して少ない傾向があり 2021年度実績で年間30名です。診療科の入院割合は、大腸外科(60%)、皮膚科(17%)、IVR 科(17%)、下部内視鏡科(7%)であり、外科手術療法看護、ストーマケア、がん薬物療法看護、放射線療法看護にあたっています。人工肛門造設患者は術後7日目で退院となりますが、1 週間の短期間の中で、装具交換の手技獲得の指導や適切な装具の選定を行う必要があることから高度なストーマケアの知識・技術が求められます。専門的知識、スキルが要求されることについては、皮膚・排泄ケア認定看護師と連携し、ケアにあたっています。
 課題は、高齢化、独居患者を支援する家族の不在など、社会的に困難な患者家族が増加していることから多職種で患者さんを支援する体制が特に必要となっています。今後ますます外来との情報共有、入院後の在宅支援担当看護師との連携が欠かせない状況となっています。

 未来に向けて
 病棟の特徴、特殊性を踏まえ未来に向けて以下のことに取り組んでいきます。
1)実践:リンクナースを巧みに活用し、患者家族支援体制を充実させます。
2)
教育:皮 膚・排泄ケア認定看護師の育成に努めるとともに、外科療法や薬物
      療法看護の質の向上のために人材育成を強化していきます。
3)研究:ストーマケア、セルケア指導の成果についてまとめ発表します。

 

 7東病棟

                     看護師長 松本 貴也

 7東病棟のあゆみ
 2002年、脳外科、整形外科の混合病棟としてスタートしました。2016年4月専門的医療の進化に伴い、患者の病態や年齢など、よりきめ細やかな質の高い医療と看護を推進するために、病棟再編成が行われ、現在の泌尿器科・脳神経外科の混合病棟として新たにスタートしました。
 泌尿器科では、先進医療であるロボット支援手術の導入により、患者さんの術後回復過程において、より苦痛が少なく、社会復帰を早めることが可能となっています。また、尿路を変更した人工膀胱造設患者の増加、新膀胱造設患者が増えたことにより、早期に患者さんの問題をアセスメントし、個別性にあった適切な看護実践ができる専門的な知識技術がより強く求められるようになっています。
 脳神経外科では、神経膠腫や悪性リンパ腫といった悪性腫瘍や髄膜腫や下垂体腫瘍などの良性腫瘍の治療と診断、他臓器からの脳転移に対する治療を行っています。2022年からは下垂体腫瘍に関して内視鏡的に腫瘍を摘出する新規手術も導入されました。科の特徴から、麻痺や高次機能障害、高齢患者の認知機能低下などADLが低下しやすい患者さんが多いです。よって、治療後の療養生活において十分なアセスメントと在宅転院支援室やリハビリ部門などとの早期連携がより強化される必要があり、多職種連携の中でもリーダーシップが発揮できる看護師が求められるようになっています。

 現在の状況
 7東病棟は、泌尿器科・脳神経外科ともに、周手術期看護、がん薬物療法看護、放射線療法看護、終末期看護など、様々ながん治療期にある患者さんのケアにあたっています。泌尿器科では、ストーマ管理や失禁ケア、脳神経外科では高次機能障害に伴う認知症ケア看護の質向上が課題です。また、近年、高齢独居患者も増加傾向にあり、患者さんが入院治療後に安心した生活ができるような退院支援看護の強化が課題であると考えます。

 未来に向けて
 泌尿器科、脳神経外科は、退院後も専門的な医療的処置が必要な患者さんのケアが求められます。加えて、認知機能低下の患者さんを支える家族への支援として、皮膚・排泄ケア領域や認知症ケアといった分野でのスペシャリストの活躍が大きく期待されます。そのため、看護師の経験を積みながら、専門性を養い、スペシャリスト育成ができる体制の強化が必要です。また、入院から退院まで様々ながん治療期の看護ができるジェネラリストのケア力の強化、退院支援看護師の育成も課題です。医療の進歩、社会変化が著しい中で、患者家族がより質の高い看護が受けられる体制の強化を図っていきます。

 

 6西病棟

                                               看護師長 小林 考江

 6西病棟のあゆみ
 6西病棟は、開院以来、多職種チーム医療を活発に実践する病棟として医師他、多職種と協働して患者家族の支援にあたってきました。対象診療科である頭頚部外科では、咽喉頭頚部食道摘出術、遊離空腸再建術などの高侵襲の手術、食道外科では、胸腔鏡下食道亜全摘術が年々、増加しています。また、内視鏡下経口的咽喉頭部分切除術(TOVS)などの低侵襲性手術、2022年には、低侵襲ロボット支援手術(ダヴィンチ手術)が開始されています。治療が著しく進歩する中、患者さんの高齢化、核家族化等の影響により独居患者の退院調整が困難となっています。これまで病院の基本理念である「患者さんの視点の重視」を念頭にケアを実践してきましたが、社会的背景が複雑な患者家族が増える中で、今、より一層支援する側のケア力の高さ、スキルの高さが求められています。

 現在の状況
 病床数42床、主科は頭頚部外科および食道外科、眼科、再建・形成外科、歯科口腔外科であり、入院患者の7割は頭頚部外科が占めています。看護は、外科手術療法看護、放射線療法看護が主ですが、新たな治療の導入に合わせて、常に知識をアップデートし、柔軟に対応することが求められています。
 頭頚部外科・食道外科のがん治療は、治療後の生活に大きな変化をもたらします。看護師は、患者さんが失声やボディイメージの変化に対し、上手に受容し、前向きに、その人らしく生活していけるよう、共に寄り添い、支援しています。コミュニケーションに障害をきたす診療科を有する部署であるがゆえに、筆談など、コミュニケーション手段を上手に活用し丁寧に関わっています。そのため、専門的知識、技術の習得はもちろんのこと、ボディイメージの変化、失声、コミュニケーションの工夫など、患者さんの自己効力感を高める支援方法についてのスキル向上にも努めています。また、看護の専門性を超えた社会的背景が複雑な患者家族の支援にあたっては、専門職種に上手につなぐ主体性、協調性を大事に、チーム医療を機能させています。

 未来に向けて
1)患者さんの視点を重視した支援に取り組み続けます。
  病棟と外来で連携をとり、個別性を踏まえた多職種チーム医療を実践していきます。多職種チーム医療における役割発揮ができるよう調整力を磨きます。
2)摂食・嚥下障害看護認定看護師など、専門性をもった看護師の育成に取り組みます。
3)20年間弱かった研究に取り組んで発表していきます。そして、看護の質の向上を目指します。

 

 6東病棟

看護師長 黒木 香也子

 6東病棟のあゆみ
    6東病棟は国内初の「小児・AYA世代病棟」として、2015年6月に設置されました。現在、整形外科/小児・AYA病棟の混合病棟で38床、小児エリアは6床あり、そのうち2床は(自家)造血幹細胞移植が施行できるようにクリーンルームとなっています。また、小児エリアにはプレイルームがあり、患児たちが発達段階に応じた遊びができるようになっています。開院時、小児科は血液内科との混合病棟で、整形外科は脳外科との混合病棟でした。小児疾患は、骨軟部腫瘍や脳腫瘍が多く、開院時より小児科病棟では、非上皮性腫瘍に対する看護を実践してきた経緯より、現在の整形外科/小児・AYA病棟になってからも、その専門性を維持した医療・看護が継続されています。そして、チャイルド・ライフ・スペシャリスト(以下CLS)が常駐し、医療者以外の立場で患児の意思決定支援や治療のサポートを行っています。

 現在の状況
    整形外科は、骨軟部腫瘍の治療のほか、全ての悪性腫瘍で認められる骨転移
に対する治療を行っています。整形外科医師・理学療法士・看護師で骨メタカンファレンスを開催し、患者の病態と安静度、注意点を共有し、患者へ自立支援を行っています。小児科では、脳腫瘍に対する鎮静下での陽子線治療が実施されることが多く、CLSや放射線技師と共に鎮静中にどのようなことが行われているのかを患児と親に説明し、患児なりの納得が得られる支援を行っています。AYA世代に対しては、診断時や治療中に様々なライフイベント(就職や恋愛中・結婚、妊娠の予定、子どもの入学など)が重なっていることがあり、治療に関連したケアだけでなく、治療に集中できるようにライフイベントに対するサポートも重要な支援です。中でも、AYA世代ピアサポート(座談会)によって、ライフイベントをどのように乗り越えてきたか経験者から話を直接聞ける機会を設けています。AYA世代では、社会的役割の継続や妊孕性の問題など、一人では解決困難な苦悩を抱えていることがあり、患者がその悩みを打ち明けることができるよう、人間性を育むことも重要な看護の一環となっています。

 未来に向けて
    小児科からAYA世代がん患者となる移行期に関して、日本では数少ない貴重ながん看護が経験できる病棟の特性により、思春期から若年成人層患者が抱えるライフイベントを可視化して、治療との両立支援を適切なタイミングで開始できるように、院内での多職種連携や院外での連携先や連携方法についての実践を積み上げていきます。

 

 5西病棟

看護師長 工藤 友子

 5西病棟の歩み
    5階東西病棟(84床)は、開院当初より肺がんを中心とした胸部悪性腫瘍のケアを担ってきました。入院患者の8割は呼吸器内科であり、がん薬物療法、放射線療法、緩和医療、残り2割が呼吸器外科で手術療法を受ける患者さんです。進行肺がん(悪性胸膜中皮腫瘍、胸腺腫を含む)に対するがん薬物療法・放射線療法は、この20年で大きく進歩し、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬等の新規薬剤が数多く導入されました。これにより治療の奏効率や生命予後も大きく向上しています。5西病棟では、臨床試験や治験等の新規治療から終末期ケアまで様々な状況にあるがん患者さんに安全で質の高い看護を提供し、患者さんのQOL向上に貢献できるよう、看護師、医師、薬剤師、心理士、CRC、PT/STや栄養士などがチームとなり、患者の治療や生活背景、意向に応じたケアを提供してきました。看護スタッフも変化する治療に対応できるよう研鑽を重ねています。

 現在の状況
     5西病棟は、「安全で質の高い看護の提供」「ワークライフバランスの充実」を基本方針としています。看護方式は、パートナーシップナーシングシステムを導入しています。パートナーシップナーシングシステムは、2人1組の看護師で患者さんを看護するため、病棟方針である安全で質の高い看護の提供に加え、新人の不安軽減にも効果を発揮しています。
 病棟の特徴は、胸部悪性腫瘍の患者さん以外にCOVID-19に感染した患者さんの治療も行っています。2021年度から現在まで100名以上のCOVID-19患者を受け入れていますが、アウトブレイクなどの感染事例もなく、病棟目標である安全で質の高い看護実践を行っています。
 呼吸器内科の患者さんは、薬物療法や原疾患の悪化などにより入退院を繰り返すことが多いため、外来部門や患者家族支援センターと連携し、継続的かつ在宅へのスムーズな移行を目指し看護に取り組んでいます。   

 未来に向けて
 今後は、遺伝子情報に基づいた治療が薬物療法の中心になっていくと予測されます。奏効率・生命予後が改善したことで、長期間持続する治療の有害事象に対するケアや、就業など患者さんの生活面への支援の必要性が高まっています。これまで以上に外来や地域と連携しながら、様々なステージにあるがんサバイバーを支援する体制の構築が今後の課題であると考えます。

 

 5東病棟

看護師長 望月 美保

 5東病棟のあゆみ
 5東病棟は、2002年開院当初は主に肝胆膵外科病棟としてスタートし、その後、病棟編成を経て現在の呼吸器内科・外科、脳神経内科の混合病棟となりました。主に肺がんの治療を対象とし、呼吸器内科でがん薬物療法を受ける患者さんが8割を占め、2割が外科手術等を受ける患者さんです。その他、肺がんに特徴的な骨転移や脳転移に対する放射線療法や原発巣に関連した症状緩和も行っています。肺がんの手術は、胸腔鏡下手術が主であり、近年では切除範囲を少なくした区域切除や体の負担の少ないロボット支援手術も多くなっています。また原発肺がんだけでなく、転移性肺腫瘍の手術も増えています。

 現在の状況
 病棟の看護方式は、パートナーシップナーシングシステムとし、多職種チーム医療を実践しています。42床の病床数に対し27名の看護師でケアにあたっています。患者家族を徹底支援するという理念実現においては、経験豊富な看護師が新人看護師のモデルとなり、患者さんに寄り添うケアの実践をみせながら人材育成にあたっています。また、病棟在籍のがん看護専門看護師は、根拠に基づく看護の知識・技術が提供できる役割モデルであり、質の高いケアを行う上で、ジェネラリストにとって良い刺激となっています。
 昨今、在院日数が短縮化する中、病棟には、手術後の補助化学療法を受ける患者さんや、薬物療法定期入院、緩和治療へ移行する患者さんなど一人一人の患者さんに長期間にわたって関わることができます。人生を支えることに携われることは、大変意義のあることであると考えます。一方で、この20年において高齢患者が急増し、退院支援、退院指導における調整が大きな役割となっています。病棟で大事にしていることは、多職種とのコミュニケーションです。
 様々な背景をもつ患者さん、高齢者のケア等、支援の複雑化により、多職種との連携を密にし、各職種の専門性を上手に活用することで今後の課題を乗り越えていけると考えています。

 未来に向けて
 看護師は、患者の最も身近で患者家族の悩み、負担に寄り添う職種です。世の中は、未来に向けて、さらに増加する高齢患者に加え、独居患者や複雑な社会的背景をもつ人が増えていきます。今後、これらに対応していくためには、看護技術、疾患、治療に関する知識はもちろんのこと、患者家族が有する精神的、社会的問題に対応できる看護師の育成が必要であると考えます。
 求められていることに対し、耐え得る人材をいかに育成していくかが課題です。徹底支援をキーワードに取り組んでいきます。

 

 4西病棟

   看護師長 岩田 夏子

 4西病棟のあゆみ
 4西病棟は、2002年に本棟4階に17床で開棟しました。その後、別棟の全床(25床)オープンから6年後の2012年に25床全床開棟し、緩和ケア病棟全50床となりました。これまでの20年間で約3,700人を看取り、2021年度は年間300人以上という多くの看取りを行いました。私たちは、常に「その人らしく最期を迎えられる」ということを大切に、家族も含めたケアを提供してきました。また、一人一人の看取りのケアだけではなく、地域との連携にも力を入れてきました。その成果として、入院患者の多くが院内からの転科であったものが、現在は地域からの入院数が増加しています。長年の取り組みにより、拠点病院としての機能を担えるようになっています。一方、自宅や自宅の近隣の施設で最期を迎えたいと希望する患者さんの想いを叶えるために、在宅転院支援室との連携を強化し、症状が緩和された後自宅等に帰れるよう連携、調整に取り組んでいます。

 現在の状況
 4西病棟は、在棟日数が約3週間という短い中で患者の身体、心理、社会面、スピリチュアルな面において苦痛がないように、医師、看護師、心理士などで日々カンファレンスを行い、多職種で症状緩和を行っています。医療用麻薬も薬剤が豊富になってきたため、難治性の症状でもコントロールが可能になっています。薬剤選択には看護師の観察が重要となり、効果や副作用の評価をアセスメントし、患者のQOLを維持することを最優先にしています。人生の最終段階に関わる中、複雑な家族背景を抱える事例が年々増え、社会的な問題も踏まえて看取りのケアをすることが求められています。このような問題は、MSWやCLSとの連携、調整、支援が必要です。そのため看護師は、多職種の中で調整の役割を取れる存在であることを意識して日々のコミュニケーションを行っています。
 COVID-19による様々な制限は、患者さんが限られた時間をどこで誰とどのように過ごしたいかを改めて考えるきっかけとなりました。今、もう一度、患者家族の想いをつなぐケアとは何かを考え直す時に来ています。

 未来に向けて
 苦痛症状の緩和方法として、薬剤以外でも神経ブロックや緩和的IVR治療など進化を遂げています。このような中でも医療者の考えが優先にならないよう、本人の意向を尊重し、倫理的側面も考慮して支援できる看護師の育成を行っていきます。そのためにもスペシャリストになる人材育成を計画的に進めていきます。また、院内外の看護師間の交流を進め、「緩和ケア」を理解し、実践できる人材を増やしていける取り組みを進めていくことが課題です。

 

 4東病棟

看護師長 土屋 美佐子

 4東病棟のあゆみ
 開院時4東病棟は、血液・幹細胞移植科と小児科の混合病棟でした。静岡県東部で唯一、同種造血幹細胞移植(以下同種移植)が実施できる移植施設で、病棟全体が無菌管理され、その中に移植ユニットが4床あり、成人の同種移植を年間約30件前後実施していました。2016年には、血液・幹細胞移植科の単科となり、移植ユニットは6床へ増床し、現在は年間約45件の同種造血幹細胞移植を実施しています。開院時より超大量化学療法や造血幹細胞移植のケアには、担当医と担当看護師を中心に、栄養士、歯科口腔ケアチーム、リハビリテーション科や長期間の閉鎖空間での生活に対する精神的ケアに心理療法士、治療費や社会復帰について医療ソーシャルワーカーなど、多職種チーム医療で患者のサポートを行ってきました。近年、造血器腫瘍における新薬の開発によって、移植前や再発後の治療の選択肢が増えるとともに生存期間の延長が認められるようになり、これまで以上に意思決定支援や延長した時間の生活の質を維持するため、多職種連携によって、退院後の生活支援が活発に行われるようになっています。

 現在の状況
 血液がん看護、小児がん看護と特殊性のある病棟です。がんの中でも、唯一、がん薬物療法で完治を目指すことが可能な診療科であるため、治療に関連した合併症や支持療法については、徹底したスタッフ教育を実施してきました。また、疾患の特性より若年層の入院もあり、発達段階に合わせた医療が提供できるように、小児科やチャイルド・ライフ・スペシャリストと協働して、患者や家族のサポートを行っています。現在は血液・幹細胞移植科の単科となり、2018年より開始した血液がん看護キャリアアッププログラムに沿って継続看護教育を行っています。2 年目の後期に同種移植の患者の担当看護師となり、最終的には、造血細胞移植学会で認定されている移植後患者の長期フォローアップ外来の対応ができるよう、移植看護のリーダーシップや教育者となる看護師育成を行っています。造血器腫瘍は、長期にわたる治療となるため、多職種で患者を支え、患者とともに看護師自身も成長が促進され、血液がん看護にやりがいを感じることができる病棟となっています。

 未来に向けて
 今後は移植後長期フォローアップ外来を開設して、退院後の患者個々の生活に合わせた支援を継続し、社会復帰のプロセスに対して多職種でサポートできるシステムの構築を検討していきたいです。また、南関東造血幹細胞移植地域拠点病院として、移植看護の実績を積み上げていきます。

 

 GICU

看護師長 橋本 雄一

 GICUのあゆみ
 GICUは、重症患者の集中治療や大手術後の経過観察(治療、看護)を行う部署として設置されました。2002年の病床総数は313床であり、うちGICUは14床の病床数でスタートし、2015 年16床、2017年20床、2020年には全床開棟となる28床へと段階的な増床を行ってきました。
 当初の入室対象以外に、現在は満床時の緊急入院患者の収容ベッドとして、2020年からは COVID-19重症患者収容ベッド(1床)として運用しています。この20年間で術式は開腹から腹腔鏡、そしてロボット支援手術(ダヴィンチ)へと変わり、より侵襲の少ない手術に向かっています。8名の看護師長によって全床開棟に至った過去の功績に敬意を表しながら、現在の機能に併せた部署運営を行っています。

 現在の状況
 スタッフ数は、2022年12月現在、看護師30名、看護助手3名であり、集中ケア認定看護師2 名が在籍しています。ハイケアユニット入院医療管理料1の施設基準で看護体制は4対1です。入室される患者さんの約8割が術後患者で、残りの約2割が全身状態悪化に伴う循環器や呼吸器系の集中治療を要する緊急入室患者、COVID-19重症患者などです。
 看護師は、様々な術式の進歩に伴い、複数かつ複雑な術後の全身管理やドレーン類、装着機器の管理がより多く求められています。私たちは、常に異常の早期発見、早期対応に集中し、周術期管理にあたれる人材の育成に努めています。時代の変遷とともに求められる技術は高度化します。手術療法を受けた患者に対する数日間のケアとなりますが、患者さんと家族を徹底支援することを重視し、看護しています。

 未来に向けて
 昨今、高侵襲な手術においても高齢者の手術患者が増えています。加えて、がん重症患者の集中治療対応となる人工呼吸器装着における長期的な管理や療養場所の調整、DNARなど倫理的課題を有する患者さんの増加に伴い対応にあたることが増えていることを実感します。
 クリティカルケア領域においては、がん看護を目指す看護師の特性とそのギャップの中での人材育成、定着の困難さがあります。それでもなお、私たちに求められていることは、高度がん専門医療機関として、多職種連携において臨床判断、行為ができる人材育成です。未来に向けて、がんの三大治療である外科治療の周術期、がん薬物療法または放射線療法中の重篤な副作用、治療前の重篤な全身状態の急変に対応していくために、集中ケアの専門部署として、その機能が十分に発揮できるよう不断に成長していく考えです。

 

 緩和ケア病棟別棟

看護師長 岩本 由美子


 緩和ケア病棟別棟のあゆみ
 緩和ケア病棟別棟は、2002年17床で開棟し、4年後の2006年に25床全床開棟しました。国内でも最大級の病床数を有し、年間200名以上、20年間で4,000人以上の患者さんを看取り、『死の質』の向上に取り組んできました。具体的には様々な苦痛の症状緩和に取り組み、その人らしい最期が送れるよう患者家族に寄り添うことを大事にしてきました。質の向上に取り組む一方で、今日では家族関係が希薄な患者や金銭面など社会的問題がある患者家族が増えており、緩和ケア病棟においても、より一層の多職種チーム医療の必要性が求められています。

 現在の状況
 別棟25床は27名の看護スタッフでケアにあたっています。患者は、院内からの転棟患者と院外から症状コントロール目的で転院してくる患者が主であり、常に満床状態です。主な看護は症状緩和、終末期ケア、遺族のケアです。症状緩和は、薬物療法と非薬物療法を組み合わせ、QOLを重視したケアを行っています。終末期ケアにおいては、身体的ケアに加えて、患者家族の精神的なケアが必要です。看護師は、身体的苦痛の緩和と同時に、不安や死に対する恐怖、予期不安について、医師や心理士と協働して介入しています。特に自律と自己決定を尊重し、その人らしさに寄り添えるような看護を行うことを重視しています。この20年間で一人一人の生き方、考えを尊重したケアが実践できる看護師が育ったことは患者満足度にも表われています。2020年度以降、コロナ禍による面会制限があり、家族との十分な時間を過ごすことができなくなりました。ゆえにどのような対応、ケアをしていくべきか問われる毎日です。ご遺族を対象にした茶話会の開催は、これまでもこれからも重要なケアの一つであると考えています。

 未来に向けて
 緩和ケア病棟において看護師は、患者家族の一番近い医療者として、患者さんの苦痛をアセスメントし、ますます求められる多職種との連携を密にし、看護を行っていきます。 
 一般病棟で緩和ケア経験のある看護師と緩和ケアに特化した緩和ケア病棟看護師が、それぞれの経験を上手に活かして患者家族の支援にあたれるよう病棟間の情報共有、連携を密に図っていく取り組みを開始します。加えて、スペシャリストになる人材を計画的に育成し、ケアの質の向上に向けての人的資源を確保していきます。さらに、地域の医療従事者や介護職の方々への緩和ケア教育と啓発活動について拠点病院の役割を意識して動くことが課題であると考えます。

 

 手術室

看護師長 泉 眞美


 手術室のあゆみ
 手術室は、がんの根治を目指し、難治がんの手術・機能温存手術への対応など、患者さん一人一人の病態に応じた適切な手術を追求することを基本方針に掲げスタートしました。開院当初 3,000件(推定)であった年間手術件数は、現在4,700件まで増えています。その中で、特に感染対策、医療安全を重視しながら効率的運用に取り組んでいます。開院当初は開腹・開胸手術が術式の中心でしたが、その後、腹腔鏡・胸腔鏡手術に変わり、2011年には、直腸がんに対するロボット支援手術が導入されました。準備は医師、看護師、臨床工学技士によるチームで進めてきました。現在8診療科まで拡大しています。これには、看護師の活躍、貢献が大きかったと考えています。さらに「プロジェクト HOPE」では、血液・腫瘍の提出において重要な役割の一端を担っています。   

 現在の状況
 手術室の看護師数は38名で看護方式はパートナーシップナーシングシステムを導入しています。看護業務は、常に病院の理念・方針を意識し、病院機能評価を意識してPDCAサイクルを活用した運用をしています。感染対策、医療安全、術前・術後訪問、褥瘡予防を重点課題とし、褥瘡予防対策では、皮膚・排泄ケア認定看護師の介入基準を設け、直接褥瘡予防対策の指導を受けることでケアの質が向上し、患者一人一人に合った褥瘡予防対策が実施できるようになったことは大きな成果といえます。感染対策は、COVID-19により強化し、術中の防護具着用を徹底することで感染拡大を防ぎ、手術部運営に支障をきたさないよう取り組んでいます。さらに、高難度な手術をより安全に実施するために、職種の壁を越え、伝えるべきことはきちんと伝えること、曖昧にしないことを徹底しています。職種、役割に関係なく日頃からチーム内で提案し合える関係性が、今日、危機に直面した際の成果に見え始めています。

 未来に向けて
 手術を取り巻く環境は大きく変化しています。より難度の高い手術が行われていく中で、看護師には、その変化に柔軟に対応し、患者さんの安全を担保した手術看護が求められます。また、患者・家族は高齢化し支援体制の強化が必要となっていることから、今後は、術前・術後訪問に加え、患者家族への支援として術中訪問導入の検討を開始しています。
 今後も常に病院理念を意識し、手術患者の看護にあたっていきます。それには、成長と進化を継続する努力を怠らないことを約束し、目標達成に向けて進みます。

 

 救急外来

看護師長 松見 しのぶ

 救急外来のあゆみ
 開院から2016年度末までの救急外来の機能は、緊急処置、治療が必要な外来患者を対象とし、救急車で来院する患者や緊急受診患者の受け入れを行ってきました。看護体制は、外来看護師による当番制です。その後2017年4月、担当看護師の常駐体制としました。それまでの機能に加え、外来受診患者のうち、待ち時間待機が困難な患者さんを看護師がトリアージし、担当医に連絡し、診察につなぐなど、早期発見し早期に処置、治療にあたる機能を付加しました。2018年からは、これらの機能に加え院内感染対策としてVRE患者の対応、2020年からはCOVID-19への対応を開始しています。

 現在の状況
 救急外来に配置された看護師は、専門外来の一つのチームとして位置づけられ看護実践、業務にあたっています。現在の救急外来担当看護師数は5名です。看護師長1名とスタッフ4名であり、2022年度は患者家族の直接ケアのほか、新たな課題への解決方法検討、実践方法提案、マニュアル作成を行っています。救急外来に医師が常駐していないことから、担当看護師は、がん専門病院で通常求められる知識や技術を駆使するだけでは患者さんを助けられない状況に直面することもあり、高い臨床判断能力と臨床行為が求められます。2017年からの5年間は、これらのことを強く意識した実践、教育を行ってきました。担当医だけではなく、救命に必要な診療を行う医師が患者さんのもとに集まるという、開院時に目指したことが継続的に実践できる医療を行っています。     

 未来に向けて
 日本は、超高齢少子化時代を迎え、さらにその先の人口減少時代を迎えようとしています。このことは、高齢者世帯や生産年齢世帯ががん診療を受ける時代になることを意味します。このような時代にがん診療を安全に行うためには、高齢者世帯には身体や精神的な負担の少ない治療の提供、生産年齢世帯には社会生活を継続しながらの治療が必要となります。そのため、現在外来患者に対して救急外来で行っている身体的苦痛の軽減や社会生活を継続するためのケアはますます重要となります。今後は様々な背景を持つ患者さんに必要なケアを予測し早期に対応するために、電話相談の対応時から適切な臨床判断を行えるようになる必要があります。すでに一部取り組み始めていますが、救急外来機能と外来電話対応の両方の機能を併せ持つことも検討していきます。予定外に受診した患者さんに何が起こっているのかを臨床判断し、医師に状況を報告するだけではなく看護師の判断を医師に伝え、命を助けるという強い気持ちと知識、技術を持った人材育成は急務であると考えます。

 

 外来

看護師長 下山 美智子

 外来のあゆみ
 開院翌年となる2003年度の外来患者数は、1日平均約500人でしたが、この20年で1日約1,200 人となり、2倍強となっています。これは、がん患者の増加に加え、この地域におけるがん専門病院としての期待が大きいことによると考えています。さらに外来看護への影響としては、医療制度改革に伴う在院日数短縮化により、がんの診断から治療決定までが外来で行われ、過去は入院で行われていたものが外来へ大きくシフトしてきました。この動きに対し、様々な体制を整備してきましたが、患者家族への説明と同意の必須化、療養指導の徹底など外来看護に求められることは年々増え続けています。また、入院から外来治療への移行に伴い、病気や治療がもたらす問題に患者さん自らが取り組む姿勢が求められ、セルフケア支援の重要性がより強くなっています。

 現在の状況
「多職種と連携しつぎ目のないシームレスな支援ができること」を目標とし、2018年から固定チームナーシング方式を採っています。46名の看護師は1F2チーム、2F2チーム、救急外来1チームの計5チーム体制とし、担当診療科に特化した専門性の高いケアを提供できることを目指して看護にあたっています。2022年度以降は「患者家族への説明と同意」の体制整備を重要課題として取り組んでいます。病名・病状説明時や治療方針決定・変更時、手術説明時の診察には、外来看護師が同席し、患者さんへの分かりやすい説明とその後のフォローを行っています。継続的支援という点においては、患者家族支援センターと協働することが重要であることから、相互に連携しながら支援にあたっています。
 当院の理念「患者さんと家族を徹底支援する」ために、患者さんの関心や気がかりなことを明確にし、いずれの職種につなぐか、適切なタイミングはいつかを見極め、支援をしています。また、患者さんが主体的に医療に参加できるように支援するための体制づくりを進めています。

 未来に向けて
 がんの診断・治療技術の進歩とともに、がん患者さんがよりよい生活を送り、よりよく生きるための支援が一層必要となっています。これからも患者さんと看護師が互いの顔が見える立場で支援を提供するという「顔の見える看護」を心掛けていきます。また、地域医療機関、院外関係先との連携において、外来看護師が積極的に関わっていくよう院内の関係部門、担当者と連携を図っていきます。
 最後に、様々な価値観、考えをもつ患者家族が増えていることに対し、外来看護師として一人一人に丁寧に向き合い、対応できるよう人材を強化していきます。

 

 中央診療

                  看護師長 小泉 聡美

 中央診療のあゆみ
 中央診療は、内視鏡、画像診断、放射線陽子線治療センターの三つの部門で運営し、最先端の診断および治療機器を備え、がんの診断や治療、処置を行っています。IVRでは肝細胞がんに対するラジオ波凝固療法、肝動脈化学塞栓術、内視鏡では早期消化管がんに対する内視鏡的粘膜下層剥離術や食道がんに対する内視鏡的光線力学療法、胆膵領域の閉塞性黄疸に対する内視鏡的処置、放射線陽子線センターでは外照射、腔内照射などが行われています。診断や治療技術の進歩、最新機器の導入等により検査や治療件数は、開院当初の2002年と比べ約2倍に増加しています。これらに伴い、専門的な知識や技術を有する看護師がケアにあたるよう、がん放射線療法看護認定看護師や学会認定である内視鏡技師、インターベンションエキスパートナース(INE)取得を積極的に進め、看護の質の向上に努めてきました。また、患者さんに安全・安心・安楽で確実な検査・治療を提供できるよう医師、診療放射線技師、臨床工学技士等と共に多職種チームで対応しています。カンファレンスで情報共有を図り、外来や病棟看護師との連携を図っています。

 現在の状況
 中央診療は看護師36名(看護師長1名・内視鏡17名・画像診断12名・放射線陽子線治療センター 6名)、看護助手4名が配置されています。2019年6月から固定チームナーシングを導入しました。夜間の緊急時対応が自立するまで6カ月〜 1年の教育期間を要します。各部門を一つのチームとし、メンバーを一定期間固定することにより、専門性の高い知識や技術を有するエキスパートナースに育ち、臨床実践にあたっています。現時点で資格を取得している者は、内視鏡技師11名、INE4名、がん放射線療法看護認定看護師1名です。各部門は、これらスタッフを中心に年間少ない本数ではあるものの研究にも積極的に取り組み、学会発表が増えています。第88 回日本消化器内視鏡技師会において『大腸内視鏡的粘膜下層切除術を受ける患者の褥瘡発生予防の検討 短時間で発赤ができた1事例』の演題について会長賞を受賞できたことは部署として大きな意義があったと考えます。

 未来に向けて
 AI技術の向上や様々な技術を組み合わせた新たな治療法の開発などにより、今後、さらなる低侵襲治療が実現し、治療選択や対象年齢が広がる可能性が考えられます。看護師は、患者さんのセルフケア能力をアセスメントし、患者自身で自己解決できるように支援することが求められます。そのために、日々のスキルアップ、自己研鑽を怠らず、がん専門病院の看護師として役割発揮できるよう努力を続けます。

 

 認定看護師教育課程

課程長 谷口 貴子

 認定看護師教育課程のあゆみ
 静岡がんセンター認定看護師教育課程は、2008年11月に社団法人日本看護協会の認定を受け、2009年に病院立では全国初となる認定看護師教育機関(A課程)を開講しました。病院の方針のもと、院内看護職員の25%が認定看護師の資格を取得することを目標としています。開講分野は、皮膚・排泄ケア、緩和ケア、がん化学療法看護、がん放射線療法看護、乳がん看護の5分野としましたが、開講当初、教員の確保が難しかったことから、段階的に開講分野を増やし、2013 年度に5分野が開講に至りました。2020年4月からは、日本看護協会の新たな認定資格制度の開始に伴い、認定看護師に特定行為研修を組み込んだ教育課程(B課程)に移行しました(1分野名称変更)。看護の専門性を基盤とした認定看護師教育に臨床推論や病態判断力など、医学的知識をベースとした特定行為研修の内容を加え、教育期間はeラーニングを含め1年間となりました。特定行為研修は、院内の関係診療科医師、関係行為習得が可能な医療機関と密に連携し、座学だけでなく複合演習を行うなど、実践力を高めるよう研修体制を整えています。

 現在の状況
 研修生は全国各地より入学しA課程修了者は477名(表1)、2020年度からのB課程修了者は148名(表2)と合計625名が修了しています。

 静岡がんセンターの看護師は、5分野合計37名が認定看護師の資格を取得し、専門的知識・技術のスキルが発揮できる部署で活躍しています。加えて、当院が行っているがん看護強化プロジェクト10名の看護師が当課程を修了し、各分野のスペシャリストとして派遣元病院で活躍しています。修了生に向けたフォローアップの特徴は、卒業後も講義を聴講できることです。希望者は静岡がんセンター内で実践研修を受けることも可能としています。このように病院立の教育機関の環境、臨床に近いという強みを十分に活かした教育に取り組み続けています。     

 未来に向けて
 認定看護師教育課程は、当初全看護師の25%を認定看護師にすることを目標に開設されましたが、現在は10%程度に留まっています。私たち教員は、定期的に臨床現場にでて患者家族のケア、スタッフ指導、コンサルテーションを行っています。これらの実践を通して、専門性を極めたいと思う看護師の人材発掘、育成に関われるよう活動を続けています。現在、教員10名のうち6名は、当教育課程の修了生です。資格取得後は実践者として活動し、研修生の教育、実習指導に携わるなど幅広く経験し、スペシャリストとしてさらに成長することができ、また教育者としての道を目指すことも可能となります。教育者となってからも臨床で実践しながら、その経験を教育に生かすことができるのも当課程の強みであると考えています。
 未来に向けて、教育者としてのスキルを向上させるため、教員内ではFD(ファカルティ・ディベロップメント)の取り組みを始めています。教員自ら教育の在り方を見直し、研鑽に努めています。目標は、看護の専門性とがん看護の質向上を図るために、静岡がんセンター看護師の 25%が認定看護師となるべく5分野のスペシャリスト育成に尽力します。教員自らが育てる力を磨き続け、臨床での実践と教育者としての能力を共に高め、患者家族の徹底支援が絶え間なくできる人材を育てていきます。

 

 患者家族支援センター

患者家族支援センター長 遠藤 久美

 患者家族支援センターのあゆみ
 患者家族支援センターは2012年4月に設置されました。がん治療の場が入院から外来へ移行する中で、がんと共生しながら通院治療や在宅療養を続ける患者さんと家族の支援を強化する必要性が高まり開設に至りました。
 その後2015年4月には「入院前支援室(現:初診・入院支援室)」「通院患者支援室(現:外来患者支援室)」「緩和ケアセンター(緩和ケア室)」の3室となりました。3室が連携しながら外来通院患者への支援をする中で、独居や高齢世帯など周囲のサポートが少ない中でギリギリまで通院でがん治療を続けるケースなど、患者さんと家族の悩みや負担が複雑化していることを目の当たりにしました。そこで2017年4月からは元々疾病管理センター内にあった「地域医療連携室」と「在宅転院支援室」を患者家族支援センターに移動し、「初めての受診(予約時を含む)からその後の通院・療養生活まで切れ目のない支援をする」ことを目指した5室体制となりました。

 現在の状況
 患者家族支援センターは、看護師31名、MSW2名、検査技師1名、事務10名の多職種が所属し、5室が連携して支援を行っています。
 地域医療連携室は初診患者が適切な診療科で診察を受けられるための予約調整やかかりつけ医の紹介など前方後方連携を行っています。初診予約患者の情報は初診・入院支援室の問診担当看護師と共有し、初診時からの支援に備えています。また五大がんの地域連携クリニカルパスの運用やがん治療前の口腔ケアを推進するために、かかりつけ歯科医との連携にも力を入れています。
 初診・入院支援室では、初診患者がスムースに診察を受けられるよう医師診察前に診察の流れや支援体制を紹介するビデオ視聴や診療オリエンテーションを含めた看護師の問診を行っています。問診時には初診患者全員に「悩み・負担・苦痛のスクリーニング」を実施し必要な支援が受けられるようつなぐ役割も果たしています。また全身麻酔手術と内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)を受ける全患者を対象に日常生活や周囲のサポート状況などを聞き取り、入院前から退院支援につなげる入院前支援を実施しています。さらに高齢者の術後合併症予防目的で看護師・栄養士・理学療法士・言語聴覚士・歯科衛生士による入院前スクリーニングと必要時の介入を実施しています。
 外来患者支援室は初診・入院支援室や外来医師・看護師からの依頼を受け、通院する全ての患者さんと家族が安心して療養できるように初診時から対応しています。外来治療中の治療や病状の不安に対する支援や治療選択への迷いに対する意思決定支援が主な支援内容になっています。これらの支援は外来患者支援室専従の認定・専門看護師だけでなく、外来や病棟、化学療法センターや放射線陽子線治療センターに所属する認定・専門看護師と連携しながら行っており、患者の治療の場が移行しても支援が途切れないようにしています。
 在宅転院支援室は、入院患者の退院支援と外来通院患者の在宅療養支援を行っています。入院患者に対しては担当制にしており、1名の看護師が2病棟を担当しています。入院早期からMSW (よろず相談所属のMSWを含む)と共に病棟カンファレンスに参加し、病棟看護師による退院支援スクリーニングをもとに支援・調整を行っています。また在宅で医療処置が必要な患者が増えていることから通院患者の在宅療養支援件数が増えており、外来担当の在宅支援看護師が外来看護師と連携して対応しています。開院から20年が経過し、静岡県東部地域で在宅看取りを含めた訪問診療を行う診療所や終末期がん患者に対応する訪問看護ステーションが増えてきており、現在200以上の院外機関と連携してがん患者の在宅療養を支援しています。
 緩和ケアセンターでは、院内緩和ケア提供体制の強化を図るため、外来においては症状緩和が必要な通院患者への支援体制整備と最期を過ごす療養場所の意思決定支援、入院においては緩和ケアチームによる症状緩和に加え緩和ケア病棟を希望する患者がスムースに入棟できるための体制整備に力を入れています。また静岡県がん診療連携拠点病院の緩和ケアセンターの役割として、緩和ケア地域連携カンファレンスを通じた地域連携パスや症状緩和パスの作成や医療者を対象にした緩和ケア研修会にも取り組んでいます。

 未来に向けて
 今後発展していくために必要なこととして、地域との連携促進が挙げられます。がん患者の高齢化が進み合併症を持つ患者さんが多いこと、治療を継続しながら在宅で過ごす患者さんが増えていることから、かかりつけ医制度を進めるなど地域と連携して患者さんと家族を支援していく必要があります。そして受診前から地域の支援者と情報共有し在宅療養支援を開始できるよう、初診・入院支援室と在宅転院支援室を一体とするような組織体制の検討も必要だと考えます。緩和ケアにおいても、在宅での緩和ケアを推進するための地域連携はますます重要になるため地域全体の緩和ケアの質向上に向けた活動を積極的に行っていきます。
 地域連携を推進し、今後もよろず相談と並ぶ「相談窓口」としての役割、「初めての受診(予約時を含む)からその後の通院・療養生活まで切れ目のない支援をする」役割を果たしていきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

静岡がんセンター・ファルマバレープロジェクト 20年のあゆみ

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