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【がんと医療費】
がんの医療は、ずいぶん進歩してきています。その一方で、患者さんやご家族にとって、経済的負担が大きくなっているのは残念ながら事実です。
がんの医療費と一口にいっても、人によって捉え方はさまざまです。
「がんの医療費が高い」と思っていても、実はその何倍もの金額を、民間療法、健康食品、科学的な根拠のない治療、食事療法等につぎこんでしまう方もいらっしゃいます。
その一方、保険適用のがんの治療であっても、がん薬物療法(抗がん薬や分子標的薬など)を決められた回数や期間受けている場合、あるいは継続してがん薬物療法を受けている場合は、保険診療の高額療養費制度で自己負担限度額が決められていても、毎月一定の金額が、がんの医療費としてかかり、家計全体のなかでの負担を感じることもあると思います。
ここでは、少しでも負担を軽くするためにできることの情報をまとめました。
『知っておきたい相談できる場所』、『がんと診断されたとき、おこなっておくとよいこと』、『知っておきたい制度や情報』を中心にご説明します。
【知っておきたい相談できる場所】
現在は、情報を探すときは、まずインターネットという方も多いかもしれません。けれども、インターネットの情報は玉石混合、正しい情報と間違った情報、新しい情報と古い情報が入り交じり、情報の「質」を見極めるのが難しいところがあります。
さらに正しい情報であっても、一般化された情報が多く、(自分の場合はどうだろう)ともやもやする場合もあります。この「悩みと助言」の情報も多くは一般的な情報にとどまります。
その点、相談窓口は、あなたと相談員が情報のやりとりをするなかで、情報や問題が整理され、よりあなたの状況にそった情報を入手することができます。
1.病院の相談窓口
ご自分のかかっている病院の相談窓口を確認しておきましょう。
相談窓口については病院のパンフレットやホームページなどに案内されていることがあります。
「相談窓口」は、病院によっては、複数の場合があります。たとえば、経済的な問題や福祉制度のこと、療養中や退院後の生活のことなどは、医療ソーシャルワーカー、治療選択の迷い、病気や治療に関する悩みは看護師など、相談内容によって窓口や対応職種が異なる場合もあります。どこにいけばよいかわからないときには、「総合案内」やかかっている診療科で聞いてみましょう。
2.がん相談支援センター
全国のがん診療連携拠点病院(厚生労働省が指定)には、がん相談支援センターが設置されています。がん相談支援センターでは、がんの病気のことやがんの治療について知りたい、今後の療養や生活のことが心配などの質問や相談に対応しています。電話相談を行っているところもあります。電話相談は、相手の顔が見えないことで、緊張せずに気持ちを話せるかもしれません。
相談員は、患者さんやご家族のいろいろな不安や悩み、こころの声に耳を傾け、患者さんやご家族が問題を整理したり行動したりするお手伝いをしています。
がん相談支援センターの情報は、『国立がん研究センター がん情報サービス』で確認することができます。なお、がん相談支援センターの名称は医療機関によって異なる場合があります。
3.お住まいの市町の相談窓口
ひとり親家庭の医療費支援など、市町で実施しているいろいろな支援サービスもあります。お住まいの市町の「総合相談窓口」を確認しておくとよいでしょう。静岡県の方は、静岡がんセンターホームページで公開している『静岡県 医療と暮らしの情報』(https://www.scchr.jp/cancerqa/start_people.html)で、各市町の暮らしの情報で、さまざまな暮らしの困りごとへの相談窓口の連絡先などを確認できます。
【がんと診断された時、やっておくとよいこと】
1.『認定証』の申請
『高額療養費制度』は、医療機関等で支払った医療費(差額ベッド代や食事代などは別途必要になります)が、月の初めから終わりまでの1か月で一定の額(自己負担限度額)を超えた場合に、保険者に申請することで(多くの健康保険組合は、自動的に高額療養費が支給されます)、その超えた金額を支給する制度になります。
医療費は年齢や収入に応じて1カ月に支払う自己負担限度額が定められています。
医療費が高額になりそうなときには、あらかじめ所得区分の『認定証』の交付を受けて医療機関の窓口で提示することで、入院、外来診療ともに窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。
70歳以上の一般区分の方は認定証の申請は不要であり、医療機関の窓口で自動的に自己負担限度額までの請求になります。また、3割負担の方で現役並みⅢの方は、一般区分同様認定証はなく、窓口で自動的に自己負担限度額までの請求になります。ただし、保険証のみでは現役並みⅢか否かが判断できません。その為3割負担の方は、健康保険の窓口にて認定証の申請についてご確認ください。
注意)国民健康保険・後期高齢者医療保険制度の被保険者の方で、保険料の滞納がある方は認定証の発行がされない場合があります。
『認定証』の申請をせずにいったん窓口で支払いをした場合も、後日、保険者に申請をして自己負担限度額を超えた金額の払い戻しを受けることができます。ただし、高額療養費を申請して支給されるまでには、少なくとも3ヶ月程度かかります。1ヶ月に1つの医療機関での支払いが高額になる可能性がある場合は、『認定証』をあらかじめ申請しておきましょう。マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)の手続きをされている場合、マイナンバーカードを利用できる医療機関窓口では、限度額適用認定証がなくても、限度額を超える支払いは免除されます。
なお、マイナンバーカードを健康保険証として利用できる医療機関や薬局では、マイナンバーカードだけではなく、通常の健康保険証の記号番号等によりオンライン(オンライン資格確認等システム)で資格確認をすることが可能になります。これにより、患者さんは限度額定期用認定証を持参しなくても限度額の区分が医療機関に伝わります。ただし患者さん側に限度額の区分を証明する書類はありませんので、オンライン資格認証をした場合にはご自身の限度額の区分を確認しておいたほうがよいでしょう。
おかかりの医療機関等が「オンライン資格確認等システム」を導入しているかどうかは、医療機関等の支払い窓口、あるいは厚生労働省のマイナンバーカードの健康保険証利用対応の医療機関リスト(都道府県別)等でご確認ください。
2.保険者の問い合わせ先の確認
あなたが加入している公的医療保険の保険者の問い合わせ先を確認しておきましょう。保険証には、保険者の名称や連絡先などが記載されています。
また、保険者がホームページに保険の内容や申請書様式などを公開している場合がありますので、確認しておきましょう。
3.民間保険に加入していた場合に確認すること
民間保険に加入している場合は、保険証書や問い合わせ窓口などを確認しておきましょう。治療方針が決まったら、保証内容、手続き方法などを保険担当者に問いあわせをしましょう。
契約されている保険によっては、診断書が不要な簡易請求(医療機関で発行される診療明細書、領収証及び治療状況報告書等で請求)が可能な場合や、他の生命保険会社に提出する診断書のコピーでの対応ができる場合がありますので、保険請求手続きをする前に確認をしましょう。
4.会社の就業規則や保証を確認する
会社勤めの方などは、就業規則に目を通し、休暇のこと(休暇の種類や休職可能期間など)、「傷病手当金」のことなど確認しておきましょう。
5.医療費控除の準備をしておく
本人または家族(税法では「生計を一にする親族といいます)が、1年間(1月1日~12月31日)で、10万円を超える医療費を支払った場合、申告をすれば、その医療費の額をもとに計算される金額の所得控除を受けることができます。あらかじめ医療費の領収書や保険者から送付される「医療費のおしらせ」は整理しておきましょう。
また、公共機関(電車やバス)を利用した通院にかかった交通費は、医療費控除の対象になりますが、自家用車のガソリン代、駐車場代、一般的なタクシー代など(病状から見て急を要する場合など公共交通機関を利用できないやむを得ない事情がある場合のタクシー代は対象になります)は医療費控除の対象にはならないので、ご注意ください。
その他対象になる医療費や手続き等に関しては、国税庁のホームページや静岡がんセンター作成の小冊子「医療費控除のしくみ」(https://www.scchr.jp/book/manabi4/manabi4-3.html PDF版あり)をご参照ください。
6.住宅ローンがある場合
必要に応じて、借入先の金融機関に相談できるように、担当窓口の電話番号を確認しておきましょう。
住宅金融支援機構(旧 住宅金融公庫)の住宅ローンを組んでいる場合、月々の返済に困っているときに、返済方法の変更ができるようになっています。
また、住宅ローンの団体信用生命保険の契約内容も確認しておきましょう。住宅ローンの団体信用生命保険に三大疾病特約や八大疾病特約などがついていれば、その契約内容(特に「所定の状態」がどのような場合で、どのような保証内容になるのかなど)を確認すると共に、不明な点は、保険会社に問い合わせておきましょう。
【知っておきたい制度や情報】
日本の制度は原則申請主義となっているため、利用できる制度について、よく理解して有効に使い、経済的な負担が少しでも軽く済むようにしましょう。
1.傷病手当金
病気休業中に健康保険の被保険者そのご家族やの生活を保障するために設けられた制度になります。被保険者が病気やけがのために会社を休み、事業主から報酬が受けられない場合に標準報酬日額の3分の2の金額が通算で1年6か月まで支給されます。
なお、健康保険における会社等にお勤めの方が加入する被用者保険(協会けんぽや健康保険組合等)の被保険者に限られ、自営業の方等が加入する国民健康保険の加入者にはこの制度はありません。病気やけがのために労務不能と判断され、連続した3日を含み4日以上お仕事をお休みされている方が対象であり、4日目から支給されます。詳細はご自身が加入されている「保険者」までお問い合わせください。
2.老齢年金の繰り上げ支給
老齢基礎・厚生年金は、原則として65歳から受け取ることができますが、希望すれば60歳から65歳になるまでの間に繰り上げて受け取ることができます。ただし、繰上げ受給の請求をした時点に応じて年金が減額され、その減額率は一生変わりません。
なお、原則として老齢基礎年金と老齢厚生年金は同時に繰上げ請求をする必要があります。また、一度繰り上げ請求をすると手続きの取り消しができない、繰り上げ請求した日以降の事後重症などによる障害年金を請求することができなくなる、繰り上げ請求をした日以降の寡婦年金の受給権を失う、などのデメリットがあります。
詳細は、「日本年金機構」のホームページ(https://www.nenkin.go.jp/)をご参照ください。もしくはお近くの年金事務所、もしくは年金相談センターなどでご相談ください。
3.障害年金
障害年金というのは、病気やけがなどによって、長期にわたり日常生活や仕事などが制限されるようになった場合に、受け取ることができる年金で、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。これは身体障害者手帳とは異なる制度です。障害の原因となった病気やけがについて初めて診療を受けた日から1年半経過した時点で(人工肛門造設時など例外もあります)定められている一定の障害状態にあることや障害年金は保険料の納付要件等の受給要件も多く、手続きが煩雑で、申請が通っても支給までに時間がかかるなどのデメリットがあります。ご自分で申請手続きをすることが困難と思われた場合は、障害年金に詳しい社会保険労務士に依頼することも方法です。
また、障害年金の診断書に日常生活の障害状況が適切に反映されるように、担当医にはあらかじめ病気になる前と比べ日常生活で変わったことを伝えておきましょう。
詳細は、「日本年金機構」のホームページをご参照ください。もしくはお近くの年金事務所や街角の年金相談センター(日本年金機構からの委託で全国社会保険労務士連合会が運営しています)などでご相談ください。
4.介護保険制度
65歳以上の介護が必要な方は、市区町村に申請して認定を受けることで、収入に応じて1割から3割の自己負担でさまざまな介護サービスが受けられます。同月に利用した介護保険サービス(食費・部屋代等を除く)の利用者負担を合算(同一世帯に複数の利用者がいる場合は世帯合算ができます)して、収入に応じて定められた上限額を超えたときには申請により超えた分が高額介護サービス費として後から支給されます。
40歳以上65歳未満の方も、特定の疾病にかかっている場合には利用できます(がんもがんの治療が難しくなり、生活で何らかの介護が必要になった場合には特定疾病の一つに含まれるので、介護認定を受けた場合は、介護保険を使ってサービスが受けられます)。
詳細は、お住いの市町の介護保険課もしくはお住いの地区の地域包括支援センターにお問い合わせください。
5.生活保護
ご自身の資産や能力、制度や家族からの支援など使える手段をすべて活用したとしてもなお生活に困窮する方に対し、「健康で文化的な最低限度の生活」を保障し、その自立を助長する制度になります。国が定めた最低生活費に足りない金額について、金銭(生活費や住宅費など)や現物(医療費や介護費など)として支給されます。
詳細はお住まいの市町の生活保護担当課にお問い合わせください。
6.小児慢性特定疾病医療費助成制度
小児がん等の子どもの慢性疾患について、医療費の自己負担分の一部が助成される制度になります。厚生労働省が指定している病気と認定されている18歳未満の方(引き続き治療を行う場合は20歳まで)が対象となり、収入に応じて上限額が定められています。
詳細は都道府県または政令市・中核市の保健所(健康福祉センター)にお問い合わせください。
7.ひとり親家庭等医療費助成制度
母子家庭、または父子家庭などの20歳未満の児童を養育している、父、または母、養育者、児童に対し、保険給付対象となる医療費の自己負担分を助成する制度になります。所得税非課税世帯など所得制限があります。※市町村によって助成額は異なります。詳細はお住いの市町の子育て支援課等にご確認ください。
(最終更新日 2025年7月25日)
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