がん遺伝外来

目次

がんと遺伝について

今日、がんは2人に1人が罹患する病気と言われています。
がんは、細胞内に遺伝子の変異が蓄積することによって起こりますが、その原因の多くは、生活習慣、喫煙、ウイルス感染などの後天的な環境要因であり、大部分のがんは親から子へ遺伝することはありません。しかし、まれに、生まれつき特定のがんになりやすい遺伝子の変異(遺伝要因)を持っていることがあります。特に、ある1つの病的な遺伝子の変異が親から子へ伝わることにより遺伝的にがんに罹患しやすくなり、その素因をもとに発症する疾患を「遺伝性腫瘍症候群」と呼びます。

遺伝性腫瘍症候群は、がん全体の1~5%存在し、以下のような特徴が見られます。
 1. 家系内に若くして(50才未満)がんに罹患した方がいる
 2. 家系内に1人で何回もがんに罹患した方がいる
 3. 家系内に特定のがんが多く発生している

がん遺伝外来について

遺伝性腫瘍症候群が疑われる場合、どんな病気なのか、早期に発見するにはどうしたらよいか、どんな予防法があるのか、遺伝子検査は受けるべきか、検査結果をどう解釈すればよいのか、検査結果は誰にどのような影響を及ぼすのか、子どもや家族の検査はどうするべきか、いつ検査したらよいか等、多くの問題が出てきます。家族関係、結婚、出産、就職、保険加入などの悩みが出てくることも少なくありません。

静岡がんセンター がん遺伝外来では、臨床遺伝専門医と認定遺伝カウンセラーが、患者さんとの遺伝カウンセリングや遺伝子検査結果に基づいて、ご家族も含めたがんのリスク評価を行い、早期診断と治療に向けて様々なアドバイスを行っています。また、正しい知識と情報をご提供し、患者さんやご家族が今後の生活に前向きになれるよう支援しています。患者さんご自身からのご相談だけでなく、がん診療連携拠点病院や開業医の先生方からのご紹介もお受けしております。

なお、プライバシーには十分に配慮し、個人情報については厳密に管理するよう努めております。

がん遺伝外来の対象となる方

1)がんと診断され、以下のような遺伝性腫瘍症候群が疑われる方と、そのご家族

リンチ症候群

リンチ症候群

病気の特徴
家系内に大腸がん、子宮内膜がん(子宮体がん)を発症する方が多い特徴があります。他に小腸がん、腎盂がん、尿管がん、また日本人では胃がんも発症する方が多いとされています。

以下のような特徴に当てはまる場合には、リンチ症候群の可能性について、専門家に相談することをお勧めします。
・若年(おおむね50歳未満)で大腸がんを発症している
・父方あるいは母方のどちらか一方の血縁者や兄弟姉妹の中に、大腸がんや子宮体がんを発症した人が多く(おおむね3人以上)いる
・1人の人が、同時期あるいは異なる時期に、2つ以上の大腸がん(転移ではなく原発の大腸がん)を発症している
・1人の人が、同時期あるいは異なる時期に、大腸がんと子宮体がんの両方を発症している

病気の原因
現在よく知られているリンチ症候群の原因遺伝子は、hMSH2、hMLH1、hMSH6、hPMS2の4つです。これら4つの遺伝子は、細胞分裂の際に起こり得るDNAの複製の誤りを修復する働きを持ちます(「ミスマッチ修復遺伝子」と言います)。リンチ症候群ではこの4つの遺伝子のどれかに変異が起こっているために、DNAの複製の誤りが修復できず細胞のがん化を引き起こすと考えられます。ただし、この4つの遺伝子変異だけではリンチ症候群の原因を全て説明することはできません。

遺伝形式
リンチ症候群の原因遺伝子の変異は、親から子に2分の1の確率で受け継がれます。つまり、親が遺伝子変異を持っていても、必ず子どもに遺伝子変異が受け継がれるわけではなく、その確率は50%ということになります。また、これらの遺伝子変異を持っていても、必ずしもがんを発症するというわけではありません。

家族性大腸腺腫症(FAP)

家族性大腸腺腫症 (Familial Adenomatous Polyposis:FAP)

病気の特徴
大腸の中にたくさんのポリープができ(100個以上の場合が多い)、やがてそれががん化することにより、大腸がんを発症する病気です。一般の大腸がんに比べて、若い年齢で大腸がんになるのが特徴です。この病気の場合、10~20歳でポリープが出来始め、20代半ばで約10%、40歳で約50%、60歳で90%の方が大腸がんを発症します。また、胃や十二指腸にもポリープが複数できることがあり、十二指腸がんもできやすいことが知られています。

病気の原因
APCと呼ばれる遺伝子が家族性大腸線種症の原因として知られています。 APCは、細胞のがん化にブレーキをかける物質を作るための情報です。したがってAPCに変異が起こるとブレーキがかからなくなり、細胞のがん化が起こります。

遺伝形式
APC変異は、親から子に2分の1の確率で受け継がれます。つまり、親がFAPという病気を持っていても、必ずFAPを持った子どもが生まれるというわけではなく、その確率は50%ということになります。また、FAPの患者さんのうち、両親のどちらかからAPC変異を受け継いで発症する方が約7割で、残りの約3割は両親にはなかったAPC変異が子どもに新たに起こり、家系内ではじめてFAPになったと考えられます(これを「新生突然変異」と言います)。この場合でも、患者さんから次の世代へは、やはり2分の1の確率でAPC変異が受け継がれます。

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(HBOC)

遺伝性乳がん卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer:HBOC)

病気の特徴
乳がん患者さんの血縁者に、複数の乳がん患者さんが見られる場合、家族性乳がんと呼びます。そのうち、特に乳がんの発症に強く関わる遺伝子の変異で乳がんを発症している場合を遺伝性乳がんと言います。遺伝性乳がんにはリ・フラウメニ症候群やカウデン病等も含まれますが、最も代表的なものとして、「遺伝性乳がん卵巣がん」が知られています。

以下のような特徴に当てはまる場合には、遺伝性乳がん卵巣がんの可能性について、専門家に相談することをお勧めします。
・若年(おおむね40歳未満)で乳がんを発症している
・1人の人が両側の乳がんあるいは乳がんと卵巣がん(または卵管がん、腹膜がん)の両方を発症している
・父方あるいは母方家系のいずれか一方の血縁者に2人以上の乳がん患者あるいは乳がん患者と卵巣がん(または卵管がん、腹膜がん)患者の両方がいる
・男性乳がんを発症している
・卵巣がん・卵管がん・原発性腹膜がんを発症している

病気の原因
BRCA1とBRCA2という2つの遺伝子が遺伝性乳がん卵巣がんの原因として知られています。これらの遺伝子のいずれかかに変異をもつ方では、乳がんや卵巣がんを発症する可能性が一般の女性に比べて非常に高いことが分かっています。

遺伝形式
BRCA1あるいはBRCA2の遺伝子変異は、親から子に2分の1の確率で受け継がれます。つまり、親が遺伝子変異を持っていても、必ず子どもに遺伝子変異が受け継がれるわけではなく、その確率は50%ということになります。また、これらの遺伝子変異を持っていても、必ずしもがんを発症するというわけではありません。

多発性内分泌腫瘍症1型(MEN1)

多発性内分泌腫瘍症1型 (Multiple Endocrine Neoplasia type1:MEN1)

病気の特徴
原発性副甲状腺機能亢進症、膵消化管内分泌腫瘍、下垂体腺腫を主徴とする遺伝性疾患です。MEN1ではその他にも、副腎皮質腫瘍、胸腺神経内分泌腫瘍など、様々な病変が認められます。

以下のような特徴に当てはまる場合には、多発性内分泌腫瘍症Ⅰ型の可能性について、専門家に相談することをお勧めします。
・原発性副甲状腺機能亢進症、膵・消化管内分泌腫瘍、下垂体腺腫のうち2つ以上を有する。
・上記3病変のうち1つを有し、一度近親者(親、子、同胞)にMEN1と診断された者がいる。
・上記3病変のうち1つを有し、MEN1遺伝子の病原性変異が確認されている。

病気の原因
MEN1という遺伝子が多発性内分泌腫瘍症1型の原因として知られています。
臨床的に診断されたMEN1では、家族歴を有する症例の90%以上にMEN1の病的変異が検出されますが、家族歴がない散発例でも約50%に病的変異が認められます。

遺伝形式
MEN1遺伝子変異は、親から子に2分の1の確率で受け継がれます。つまり、親が遺伝子変異を持っていても、必ずしも子どもに遺伝子変異が受け継がれるわけではなく、その確率は50%です。

多発性内分泌腫瘍症2型(MEN2)

多発性内分泌腫瘍症2型 (Multiple Endocrine Neoplasia type2:MEN2)

病気の特徴
甲状腺髄様がんならびにその前病変であるC細胞過形成や副腎褐色細胞腫、原発性副甲状腺機能亢進症を主徴とする遺伝性疾患です。MEN2は臨床像や家族歴に基づき、MEN2A、MEN2B、家族性甲状腺髄様がん(familial medullary thyroid carcinoma; FMTC)の3病型に分類されます。MEN2AはMEN2全体の約85%を占め、甲状腺髄様がん、褐色細胞腫、原発性副甲状腺機能亢進症を主徴とします。MEN2BはMEN2の約5%であり、甲状腺髄様がん、褐色細胞腫に加えて舌・口唇などの粘膜下神経腫、マルファン様体型、四肢過伸展、腸管神経節腫、角膜神経肥厚などの身体的特徴を併発します。FMTC はMEN2の約10%を占め、甲状腺髄様がんのみが唯一の臨床症状となります。

病気の原因
RETという遺伝子が多発性内分泌腫瘍症2型の原因として知られています。遺伝性甲状腺髄様がんの95%以上に遺伝子変異が検出されますが、甲状腺髄様がんや褐色細胞腫の家族歴がなく臨床的に一見散発性と思われる甲状腺髄様がん症例においても4~20%でRET遺伝子の病的変異が検出されます。

遺伝形式
RET遺伝子変異は、親から子に2分の1の確率で受け継がれます。つまり、親が遺伝子変異を持っていても、必ず子どもに遺伝子変異が受け継がれるわけではなく、その確率は50%ということになります。

その他

疾患名 腫瘍所見・症状
フォンヒッペル・リンドウ病(VHL) 腎がん, 膵臓の内分泌腫瘍や嚢胞, 副腎腫瘍, 眼底の血管像の異常など
カウデン病 甲状腺がん, 乳がん, 皮膚の乳頭腫など
ポイツ・イエーガー症候群(PJS) 消化管(胃〜小腸〜大腸)に多発するポリープ, 唇の色素斑など
若年性ポリポーシス(JPS) 20歳以下で消化管に多発するポリープ, 低蛋白血症, 下痢, 毛細血管拡張, 繰り返す鼻出血や消化管出血, 動静脈奇形など

2)がんの遺伝や遺伝子検査について、相談を希望される方

診療日・担当者

十分に時間をかけてお話しをお伺いいたしますので、完全予約制となります。

領 域 担  当 時間帯
臨床遺伝
専門医
認定遺伝
カウンセラー
乳腺系 西村 東川・浄住 月曜日 午後4時〜5時
婦人科系 東川・浄住 水曜日
消化器・その他 松林 東川・浄住 適宜(電話で事前相談)
全領域 東川・浄住 月〜金 午後1時~4時

カウンセリング実施日は、遺伝カウンセラーとの事前電話相談で決定します。

費用

原則として自費診療になります。
遺伝カウンセラーによるカウンセリング料:3,000円(税別)
臨床遺伝専門医によるカウンセリング料:5,000円(税別)/30分
 ※遺伝子検査を受ける場合、臨床遺伝専門医による遺伝カウンセリングが必須です。
遺伝子検査や診断に関しての諸検査については、別途実費を申し受けます。
   検診や精密検査の結果, 異常が指摘されている臓器や病変の検査・治療に関しては保険診療となります。

予約方法

個人の方から

お電話にて下記の予約センターまでご連絡いただき、遺伝カウンセラーによる事前相談を受けていただきます。
静岡がんセンターで診療中の方は、担当医にお申し出いただくか、下記の予約センターまでお電話でお申し込みください。

予約センター  電話番号:055(989)5680
※受付時間 午前8時30分~午後5時(土・日・祝日を除く)
医療機関から

FAXにて紹介状を送信ください。紹介状にはカウンセリングを希望される方の連絡先を明記ください。後ほど遺伝カウンセラーからご本人に電話をかけ、事前相談を実施いたします。

地域医療連携室  FAX番号: 055(989)5623
         電話番号: 055(989)5646 
※受付時間 平日9時00分~16時00分

診療案内

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