診療情報管理室
2002年の開院以来、当院では情報管理のガイドライン等の下『診療情報管理規程』を策定し、それに基づいて、院内各部署の医療従事者が診療情報を適正に作成して診療を行うように努めています。診療情報管理室では、医師(副院長)である室長の下、それら診療情報の作成と維持が適切になされるよう管理し、診療情報がより安全かつ有効に活用できるよう記録の質向上に努めています。また、診療情報は厳重に守秘されるべき要配慮個人情報であるため、個人情報保護法および各種指針に準拠した対応も行っており、職員による診療情報の収集・記録・保有・利用等が適正に行われるよう支援もしています。
1. 診療情報管理士
診療情報の適切な運用のために、診療録等の管理を行いながら、記録を適切に保てるよう改善依頼・周知をする職種が診療情報管理士です。従来、病院機能評価や保険診療の要件では、退院患者2,000件に1人の診療情報管理士が必要とされてきました。電子カルテが開発され、ものの管理の必要性が少ないとされる電子カルテ運用での診療情報管理には、少ない人員での業務遂行が予想されておりました。しかしながら、電子カルテにおいては、そのシステム運用の煩雑性と同時に、多くの情報の中から必要な情報を得なければならないという新たな課題が生じ、専門的な知識を有する、より多くの診療情報管理士が求められることが分かってきました。IT対応などの知識・技術や更に幅広い能力が必要となったことも重なり、平成25年度の診療報酬改定において、人員確保と体制が充実している施設に、診療録管理体制加算要件としての増額が認められました。
2. 診療情報管理委員会
専門的な医療が行われるようになると、院内多職種間の横の繋がりはどうしても失われがちですが、診療情報管理を行うためには多職種での活動が必要となります。委員会という形で活動することにより、様々な職種の診療情報・診療記録の監視が行え、診療情報の作成・運用の是正をもって、記録のみならず診療そのものの問題点をあぶりだし、各職種間の齟齬をなくしていくことが可能になっています。また、それらの活動がチーム医療にも繋がっていきます。
3. 業務内容
診療情報データベースを活用した診療情報管理業務
電子カルテから重要データの収集を行い、データベース(以下DB)を作成しながら、電子カルテのデータの確認作業を進めています。この中での、病名や病理診断名のコーディング(WHOの国際疾病分類ICD, ICD-Oによる)は、診療情報管理士の専門的な業務とされています。近年では、がんの病期分類やUICC TNM分類、取扱い規約分類によるコーディングなど、診療情報管理士の能力向上が求められており、室員一同研鑽を積んでいます。
以下、各重要ポイント時のデータを電子カルテから抽出しDBに登録し、活用しています。
- 患者基本台帳:受診患者の基本情報をDB化(1患者1レコード)し、日々更新する
- 入退院台帳:入院に係る情報に退院情報を加えてDB化し、量的評価を付記する
- 手術台帳:手術実施情報をDB化し、手術部門からの情報を受けて更新する
- がん登録台帳:院内がん登録標準様式に準拠した形でがん情報をDB化し、予後調査時に更新する
- 救急台帳:救急受診のデータをDB化し、救急部門からの情報を受けて更新する
- カルテ監査台帳:指定カルテの、初診から初回退院までの範囲における質的評価をDB化する
各DBの登録・更新データを確認している中で、カルテ等に記載不備があれば、理由を明記した上で修正するよう働きかけを行っています。また、DBに登録して病院の医療活動の実績を明確にするとともに、情報の分析・加工を行うことで、病院組織における適切な管理・運営のための基礎資料(臨床指標等)を作ることが可能となります。これらの情報は、患者さんが治療選択をする際の有用な情報源ともなり、医療を安心して受けられることにも繋がります。
カルテに付随する文書管理業務(スキャン、ファイリング)
電子カルテ運用においても、紙での文書類は発生します。他院から届いた診療情報提供書類や、患者さんから受け取った同意書類などが主なものですが、診療情報と見なされるものは診療情報管理室にて1患者1ファイルで保管しており、すぐに閲覧が可能な状態となっています。また、院内ルールに従い、当該患者さんのカルテへスキャナ取り込みを行っています。なお、カルテに付随する文書類についても量的監査を行っているため、同意書の受領忘れやカルテへ受領状況の反映忘れがないか等についても把握しており、保管するべき書類が適切に管理されるよう努めています。
カルテ監査業務(量的・質的)
診療記録の適切性を担保するため、日本診療情報管理学会の「診療情報管理士業務指針」に準拠した「カルテ記載の手引き」を作成し、量的監査・質的監査を行っています。
量的監査
日々の診療記録およびカルテに付随する書類の記載有無を監査することで、不備事項の把握と具体的な改善提案が可能となり、入院医療において所定の様式で必要な診療記録が記載されるよう維持していくことを目的としています。監査項目は大項目7、小項目23を設定し、評価の視点を標準化して行っています。
質的監査
診療記録を質的な視点で監査・改善提案を行うことで、診療記録の整備を促進し、診療に必要とされる記録が適切に記載されるよう維持していくことを目的としています。当院は、2015年度から初回入院患者さんのカルテ(初診~初回退院)の質的監査を始めました。診療情報管理室で行っている質的監査(1次監査)結果は診療情報管理委員会へ報告され、そこで選定されたカルテについては、多職種による質的監査(2次監査)も行っています。多職種カルテ監査については、1年間で全診療科・全医師が網羅されるように選定されており、すべての部署にもフィードバックがなされるよう工夫しています。質的監査における指摘事項については、診療情報管理委員長から改善指示を行っており、3カ月後に改善がみられているかの確認・是正・提案も行っています。
診療情報の診療目的外利用に係る点検業務
診療で発生した情報を当該患者さんの診療に利用するのは当然ですが、個人情報を保護したうえで診療以外の目的で使われることも多くあります。具体的には、医師をはじめとした医療従事者の学習や教育、薬剤や医療機器の開発、感染症などの公衆衛生上の調査、国民の健康増進に寄与する学会での統計調査、等々、その利用種類は多岐にわたっています。個人情報が適切に守られ、利用目的等を第三者に説明できる形で診療情報を有効活用すれば、医学にとどまらず他分野の発展にも寄与することが出来ます。当院では、院内全ての診療情報における診療目的外利用は申請を義務付けており、診療情報管理室が、不正な利用ではないか、利用目的が明確にされているか、申請内容に合致したデータとなっているか、個人情報は保護されているか、等を確認した後に許可がなされ、利用が可能となります。なお、申請内容やデータは保存され、第三者に説明できるようになっています。
【診療目的以外の診療情報利用種類】
・医療監視 ・病院機能評価 ・医療安全管理 ・医療の質評価 ・病院経営管理 ・感染症等疫学的調査
・委員会活動 ・医療従事者の学習/教育 ・統計/評価 ・学会発表 ・論文投稿 等
電子カルテ搭載雛形文書の管理業務
患者さんへの説明時は、電子カルテから発行した「説明・同意書」を用いて説明しています。電子カルテに説明・同意書の雛形を搭載して使用することにより、正確で十分な情報が網羅された一貫した内容が患者さん・ご家族に伝えられるため、患者さんが治療や検査を選択しやすくなります。また、説明と同意の事実が電子カルテに残りますので、その検証も可能となります。診療情報管理室では、院内の「インフォームドコンセントのガイドライン」および「説明文書作成のガイドライン」に準拠して作成された説明・同意書であることを確認し、診療情報管理委員会で承認を得たのちに電子カルテへ雛形登録を行います。申請情報をDB化しているため、登録・変更・削除等の情報が把握でき、更新を適宜行うよう働きかけも可能となっています。
カルテ開示業務
当院では開院以来、よろず相談で受け付けたカルテ開示の実務を診療情報管理士が行っています。過去、全国での薬害肝炎訴訟の対応時には、それぞれの病院での診療情報管理機能が問われましたので、当院でも患者さんの生の声をお聞きしながら業務に生かせるよう努力しています。カルテ開示の業務は、患者さんの立場に立った記録のあり方を模索する契機となっています。
実施年 |
2019年 |
2020年 |
2021年 |
2022年 |
2023年 |
開示件数 |
44件 |
49件 |
66件 |
41件 |
49件 |
がん登録業務
当院では院内がん登録を実施しています。院内がん登録とは、当院を受診した全ての患者さんのがん情報(部位、組織型、進行度、治療情報、予後など)を収集、登録する仕組みです。登録された情報は、国が実施する「全国がん登録」や国立がん研究センターが実施する「全国集計」に、個人が識別できない状態で提出・分析することで、正確ながんの実態把握をし、がん対策を推進することに繋がります。
(院内がん登録情報はHP内「院内がん登録の集計」に掲載)
※日本では、2013年12月に「 がん登録等の推進に関する法律 」が成立しました。この法律は、全国がん登録の実施やこれらの情報の利用及び提供、保護等について定めるとともに、院内がん登録等の推進に関する事項等を定めており、2016年1月1日から施行されています。
4.『電子カルテ記載の手引き』の作成
診療情報管理委員会では、各部署のメンバーが集まり、「電子カルテ記載の手引き」を作成・更新しています。ここには、診療記録をどのように記載すべきかがまとめられています。新入職員研修等でも、診療情報管理として大切なことやカルテとしての全体像を知るための学習の手引きとして活用されています。
5.質の高い安全・安心の医療を提供するために
質の高い医療の提供と、診療情報を発信・公開するには、診療情報を適切に作成・管理する必要があります。私達は、診療情報にある『未整理、不整合、未確定、あいまい、まちがい』をなくし、診療の確実性を担保して診療の根拠となる診療情報が適切に保てるようにしています。これにより、適切な医療の提供と正しいデータで作成した統計を作成することも可能となります。患者さんからの医療安全への期待が高まるにつれ、診療情報管理のあり方、診療情報の適正化が強く望まれ、病院にはそれらに応えていく責務があると言えます。医療者側からの視点だけではなく、患者さん側からの視点も大切にできるよう、いつも心がけて業務を行っております。