日本緩和医療薬学会”優秀演題賞”の受賞について

2022年7月6日
薬剤部長 篠  道弘

 5月15日に開催された第15回日本緩和医療薬学会年会において、当部門の田中 怜(緩和薬物療法認定薬剤師、医療薬学指導薬剤師)が「優秀演題賞(口頭発表)」を受賞し、稲葉年会長より表彰されました。この受賞は、静岡がんセンター研究所と共同で行っているプロジェクトHOPEの遺伝子データベースを活用し、オピオイド(医療用麻薬)による副作用(眠気)が発現する可能性の高い2種類の遺伝子変異を見出した研究業績に対して称えられました。

 

研究論文
 

Influence of genetic variants of opioid-related genes on opioid-induced adverse effects in patients with lung cancer: A STROBE-compliant observational study(Medicine: November 05, 2021 – Volume 100 – Issue 44 – p e27565)
Rei Tanaka, Junya Sato, Hiroshi Ishikawa, Tetsu Sato, Michihiro Shino, Yasuhisa Ohde, Tetsumi Sato, Keita Mori, Akifumi Notsu, Sumiko Ohnami, Maki Mizuguchi, Takeshi Nagashima, Ken Yamaguchi

研究の経緯と成果

 

 2000年代初頭から始まったがんの個別化医療における発展は著しく、各個人のがん細胞の遺伝子変異に応じた抗がん薬が選択され、最適な治療が行われるようになりました。しかし、がんに伴う痛みに対する鎮痛薬については、19世紀以前よりモルヒネを始めとしたオピオイド(医療用麻薬)が用いられているにも関わらず、未だ各個人の遺伝子から最も有効かつ安全な治療を選択することができておりません。
 実用化が難しい理由として、痛みや鎮痛薬のメカニズムに関連する遺伝子が多岐に渡るため、一つ一つの遺伝子変異の影響がどの程度大きいのか分からないことが挙げられます。そこで、静岡がんセンターにおけるプロジェクトHOPEの遺伝子データベースを活用し、多数の遺伝子変異とオピオイド(医療用麻薬)による副作用発現率を同時に解析することで、どの遺伝子変異の影響が大きいのか調査することとしました。
 研究の結果、細胞がオピオイドをつかむ部位の遺伝子(オピオイドμ受容体と呼ばれる)か、神経伝達物質の一つであるアドレナリンの分解に関連する遺伝子(カテコール-O-メチルトランスフェラーゼと呼ばれる)の、どちらか一方にでも変異があると、オピオイド(医療用麻薬)による眠気が発現しやすいことが分かりました。
 現在までに、オピオイド(医療用麻薬)による眠気に対する予防法や改善法は開発されておらず、本研究の成果は鎮痛薬に関する個別化医療発展の一歩となると考えられます。

表彰
 

日本緩和医療薬学会 優秀演題賞
 演題名:「オピオイド開始時の副作用発現率と各遺伝子変異の有無における後方視的相関解析」

 

薬剤部

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