ダヴィンチ手術
ダヴィンチ手術とは
近年、胆石症、虫垂炎などの良性疾患だけでなく、大腸がん、胃がんなどの悪性疾患に対しても、腹腔鏡手術が行われる機会が増えてきました。腹腔鏡手術は従来の開腹手術と比べて、体に加わる負担が少ない(体に優しい)と考えられています。腹腔鏡手術の利点は、傷が小さいことによる術後の痛みの軽減、より早い術後の回復、より短い入院期間、より早い社会復帰、そして美容上の美しさなどが挙げられます。
ダヴィンチ手術は腹腔鏡手術をロボット支援下に行うもので、今までの腹腔鏡手術の利点をさらに向上させることができると考えられています。ロボットによる手術をおこなうことで、複雑で細やかな手術手技が可能となります。また3次元による正確な画像情報を取得できるため、より安全かつ侵襲(しんしゅう)の少ない手術が可能となり、次世代の医療改革の一端を担った分野と考えられています。
これまでいくつかの手術支援ロボットが開発されていますが、現在世界的に使用されているのはIntuitive Surgical社の開発した「da Vinci Surgical System (ダ・ヴィンチ)」です。この手術支援ロボットは、欧米を中心にすでに医療用具として認可され、1997年より臨床応用されており、わが国では2009年11月に本機器が厚生労働省により薬事承認されました。静岡がんセンターではダヴィンチ手術を2011年12月に直腸がんに導入し、以後胃がん、前立腺がん、縦隔腫瘍、肺がん、腎臓がん、子宮がん等に導入されています。今後、食道がんに対しても導入する予定です。直腸がんと胃がんに関しては、「da Vinci サージカルシステム症例見学施設」として、全国の病院の指導やサポートを行っております。
ダヴィンチ手術の特徴
ダヴィンチ手術は、通常の腹腔鏡手術をロボット支援下に行うものです。ロボットにより繊細で精密な手術が行えるため、手術成績の向上が期待されています。従来の開腹・開胸手術と比較して、通常の腹腔鏡・胸腔鏡手術と同様に、傷が小さく痛みが軽度で、手術後の回復が早い、手術中の出血量が少ないなどの利点があります。ロボット支援で行う手術操作は、①実際の手の動きが鉗子に反映される直感的な操作、②人間の手の動きを模倣した多関節を持った鉗子であり、人間の手以上の自由な動き、③実際の手の動きを最大5:1まで縮尺して鉗子を動かすことにより繊細な動作が可能になります。特に骨盤の深いところを操作するような前立腺がん、直腸がん、子宮がん手術などでは、より簡単に、より繊細な操作が行えます。
ただし、ロボット手術にも欠点があります。腹腔内・胸腔内の癒着が高度な症例や高度の肥満症例では従来の開腹・開胸手術の方が安全な可能性があります。ロボットを介しての手術となるため、術者は触覚を感じることができないため注意が必要です。しかし、当院ではこれまで触覚がないことが原因で患者さんが不利益を被ったことはありません。手術後の治癒率や再発率に関しては、まだ新しい治療法のため報告がほとんどありません。実際の執刀は、ダヴィンチ手術システムの使用のためにIntuitive Surgical社による認定ライセンスを受けた医師が行います。看護師においてもトレーニングを受けている看護師が介助を行います。
当院の導入状況
年 | 月 | 導入状況 | 備考 |
2011 | 9月 | ダヴィンチS(新規) | 1台体制 |
2013 | 4月 | ダヴィンチSi(新規) | 2台体制 |
2016 | 4月 | ダヴィンチXi(更新) | |
2019 | 4月 | ダヴィンチXi(更新) | |
2021 | 4月 | ダヴィンチXi(新規) | 3台体制 |
ダヴィンチ手術の累積件数
費用について
現在、下記の手術について実施しています。
(2022年4月時点)
部位 | 手 術 名 | 診療報酬点数 |
---|---|---|
胃 | 腹腔鏡下胃切除術(悪性腫瘍手術) | 73,590 |
胃 | 腹腔鏡下噴門側胃切除術(悪性腫瘍手術) | 80,000 |
胃 | 腹腔鏡下胃全摘術(悪性腫瘍手術) | 98,850 |
直腸 | 腹腔鏡下直腸切除術 | 75,460 |
直腸 | 腹腔鏡下直腸低位前方切除術 | 83,930 |
直腸 | 腹腔鏡下直腸切断術 | 83,930 |
腎 | 腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術 (原発病巣が7センチメートル以下のもの) |
70,730 |
腎 | 腹腔鏡下腎悪性腫瘍手術 (その他のもの) |
64,720 |
前立腺 | 腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術 | 95,280 |
胸腺 | 胸腔鏡下拡大胸腺摘出術 | 58,950 |
縦隔 | 胸腔鏡下縦隔悪性腫瘍手術 | 58,950 |
肺 | 胸腔鏡下良性縦隔腫瘍手術 | 58,950 |
肺 | 胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術(区域切除) | 72,640 |
肺 | 胸腔鏡下肺悪性腫瘍手術 (肺葉切除又は1肺葉を超えるもの) |
92,000 |
子宮 | 腹腔鏡下子宮悪性腫瘍手術 (子宮体がんに限る) |
70,200 |
食道 | 胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術 (頸部、胸部、腹部の操作によるもの) |
133,240 |
食道 | 胸腔鏡下食道悪性腫瘍手術 (胸部、腹部の操作によるもの) |
122,290 |
食道 | 縦隔鏡下食道悪性腫瘍手術 | 109,240 |
診療報酬点数は、1点あたり10円を乗じて医療費を算出します。診療報酬点数の合計は、上記の手術点数のほかに麻酔や検査・入院料等が加わります。患者さんの状態によって異なってきます。概算の自己負担額は下記をご覧ください。また、一定金額を超えた場合には高額療養費制度の適用対象となります。
概算の医療費(保険診療、3割負担として計算)
- 腹腔鏡下胃切除術 40~50万円(入院日数12~14日)
- 腹腔鏡下直腸低位前方切除術 40~50万円(入院日数7~10日)
- 腹腔鏡下前立腺悪性腫瘍手術 45~55万円(入院日数11~14日)