胸腔鏡手術

胸腔鏡(きょうくうきょう)手術とは?

 肺は胸腔(きょうくう)という肋骨や筋肉、横隔膜など囲まれた空間の中に存在しています。そのため、肺の手術では、胸腔内に到達した上で、その中にある肺を切除する必要があります。従来、10~20cm程度、場合によってはそれ以上の皮膚切開を行う際、筋肉と肋骨の間を切開し、外科医が直接肺を見て触って切除していました(開胸手術)。これに対し、直径5~10mm程度のビデオカメラを胸腔内に挿入し、そのモニター画像を見ながら、特殊な手術用器械を別の1~2cm程度の小さな穴から挿入して、肺を切除する方法を胸腔鏡手術といいます(図1,2)。当初、内視鏡を使った手術は腹部外科で導入され(腹腔鏡手術)、その後、肺にも応用され、1990年代からは徐々に肺がんに対しても全国的に行われるようになってきました。
 狭義では、胸の中に手を入れずに、モニター画面のみを見ながら行う手術を指して胸腔鏡手術と言いますが(完全鏡視下手術とも言います)、実際には胸腔鏡を併用して、開胸手術と胸腔鏡手術の中間的な手術(胸腔鏡補助下手術)が全国的には広く行われています。この方法では、創を6~8cm以下に小さくした上で、内視鏡画像と直接目で見て行う直視を併用し、手術操作も胸腔鏡手術器械のみならず、片手だけ入れて行うことができます。日本胸部外科学会の学術調査によれば、2013年における国内の肺がん手術は、約70%が胸腔鏡を使用した手術で行われています。一般的には胸腔鏡手術と胸腔鏡補助下手術は混同され、一緒に扱われることが多く、本当の胸腔鏡手術と胸腔鏡補助下の手術の割合は不明です。同じ質の手術が可能であれば、創は小さい方が良いですが、安全性と治りやすさとの兼ね合いになりますので、一概にどちらが良いということはありません。病院によって、創の大きさや数は異なりますので、胸腔鏡手術の方法に関しても、病院の担当医に確認した方が良いでしょう。

図1.胸腔鏡手術風景

図1.胸腔鏡手術風景

図2.胸腔鏡手術の創の大きさと位置(例)

図2.胸腔鏡手術の創の大きさと位置(例)

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胸腔鏡手術の特徴

 胸腔鏡手術の最大のメリットは創が小さいことです(図3,4)。創が小さいことから整容性(美容上)に優れています。また、手術後の痛みも少ないことも大きなメリットといえます。痛みが少なく、回復も早いため、入院期間が短くて済みます。ただ、実際には開胸手術と言っても近年の手術では10~15cm程度のことが多く、手術後7~10日前後で退院されている方が多いので、胸腔鏡手術での入院期間の短縮は2,3日程度です。
 一方、外科医側のメリットもあります。内視鏡での映像を大きなモニターで見るため、狭い手術個所や細かな所が良く見えるというメリットがあります。またテレビモニターを一緒に見るため、手術執刀医のみならず、手術助手の外科医や一緒に手術を行っている麻酔科医、看護師も同じ画面で手術風景を確認することができます。さらに、創が小さいため、胸を開いたり(開胸)、創を閉じたり(閉胸)するのに要する時間は短縮されますので、胸腔内の手術操作に習熟すれば、胸腔鏡手術の方が早く手術を終えることができます。この手術時間の短縮は患者さんの手術後の回復に大きく貢献します。

図3.大きな開胸手術

図3.大きな開胸手術

図4.静岡がんセンターの胸腔鏡手術の創

図4.静岡がんセンターの胸腔鏡手術の創

 

胸腔鏡手術は直接手を入れず、胸腔鏡用の手術器械を用いて操作するため、技術が高度で、熟練を要します。特に胸の手術では、胸腔という固い空間で手術をすること、心臓や気管、食道、大血管などの重要な臓器がひしめく中での手術となりますので、ひとたび手術中に不測の事態が起きれば重篤になる場合があります。特に遠隔操作で行うため、大出血などをきたした場合の対応が遅れる可能性があります。また手術の方法や肺がんの病状などによっては胸腔鏡手術が困難、あるいは不可能な場合があります。状況によっては胸腔鏡手術の方が上手にできる操作もありますが、やはり直接目で見て、手で触って行う開胸手術の方がより高度で確実な操作ができることが多いといえます。
肺がんの病状や予定する手術の方法などにより、胸腔鏡手術のメリットとデメリットを勘案して、開胸手術か胸腔鏡手術かを考慮する必要があります。

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静岡がんセンターの胸腔鏡手術

 肺がんの手術は最初の手術が非常に重要で、やり直しというのは多くの場合はできません。静岡がんセンター呼吸器外科では、”肺がんの手術はしっかり治す、治る肺がんを絶対に治し損ねない”ということを最重要課題としています。その上で、出来るだけ患者さんの負担を減らす低侵襲の手術を行うよう心がけています。
 当院では2011年より原発性肺がんに対する完全鏡視下肺葉切除術を導入しました。ただし、胸腔鏡手術を行ったがための再発や手術の安全性を損なうことだけは絶対に避けなければいけません。したがって、病状を良く考慮した上で、胸腔鏡手術の適応を厳しく決めています。そのため、病状が早期で、ほぼリンパ節転移がないと思われる小型の肺がんが対象になります。2016年現在、最大の創が3cm程度、その他に1~2cmの創が3か所、合計4か所の創で、胸の中には手を入れず行う完全鏡視下手術を中心に行っています。より患者さんの負担が少なくするため、このような手術の方法を選択していますが、リンパ節転移がない早期と思われる肺がんであっても、実際にはリンパ節転移は切除してみないと分からないケースが多々ありますので、胸腔鏡手術でも開胸手術と同程度のリンパ節廓清を行うようにしています。
 当院では完全鏡視下肺葉切除を行ってはいますが、実際には肺がんの病状に応じて、完全鏡視下手術から胸腔鏡補助下手術、開胸手術を詳細に検討した上で手術の方法を決定しています。また、前述のとおり、手術・胸腔鏡手術の方法は、病院によって異なるため、それぞれの病状をお聞きになって、患者さんの希望を伝えたうえで、主治医と相談されると良いでしょう。

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