主な診断方法・治療法・手術件数

主な診断方法

画像診断(CTスキャン、MRI、腹部超音波検査)

肝臓、膵臓など体の奥深い位置にある実質臓器の内部にできた腫瘍を捉えるには、CTスキャン、MRI、腹部超音波検査といった横断画像検査(臓器の断面を映し出す画像検査)が必須です。腫瘍の存在部位、大きさ、個数、腫瘍の種類、周囲の血管との位置関係などを診断します。
また、CTスキャンやMRIを使って三次元画像を作成し、重要な胆管や血管の位置を正しく認識します。

kantansui002   図 CTスキャンで描出された肝細胞がん(矢印)
kantansui003 図 MRI (MRCP`)で描出した肝門部胆管がん(矢印の胆管が途切れている部分)

 

内視鏡検査

上部消化管内視鏡検査

口または鼻から内視鏡(カメラ)を挿入し、十二指腸乳頭部がんや十二指腸がんを内視鏡的に直接観察し、生検(鉗子を用いて腫瘍から細胞を採取すること)を行って病理検査でがんの診断をします。

内視鏡的逆行性胆管膵管造影 (ERCP)

内視鏡を十二指腸乳頭まで進め、乳頭から胆管や膵管の中にカテーテル(細い管)を挿入して、胆管や膵管を造影します。通常はこれに続いて、胆汁や膵液を採取して細胞診に提出したり、膵管や胆管に鉗子を挿入して生検を行い、腫瘍部分から直接細胞を採取して病理検査を行ってがんの診断をします。

超音波内視鏡検査 (EUS)

超音波を出す装置が先端についた特殊な内視鏡を胃や十二指腸に進め、膵臓、胆道、胆嚢の腫瘍を至近距離から超音波で観察します。また、超音波内視鏡の先端から針を腫瘍に刺して生検を行う場合もあります。

腔内超音波検査 (IDUS)

内視鏡的逆行性胆管膵管造影 (ERCP)の内視鏡的逆行性胆管膵管造影に際し、内視鏡の先端から細い超音波プローベを胆管内、膵管内に挿入し、胆管内や膵管内の微細な病変を超音波で観察します。膵管内腫瘍や胆管がんの診断に用いられます。

腫瘍マーカー

血液検査による腫瘍マーカーの測定は、がんの診断材料の一つになります。肝細胞がんではAFP、PIVKA-IIが、膵がん、胆道がん、肝内胆管がんではCEA、CA19-9がしばしば上昇します。ただしがんがなくても腫瘍マーカーが高くなる場合もあり、がんがあっても腫瘍マーカーが上昇しない場合もあります。腫瘍マーカーは絶対的な検査とは言えないため、がんを診断をする場合には、必ず画像診断と合わせて総合的に判断します。

主な治療法

 肝胆膵外科で扱っている代表的な疾患の治療法を以下に概説します。

肝細胞がん

肝細胞がんの治療法には、手術(肝切除術)、ラジオ波焼灼術(RFA)、肝動脈化学塞栓術(TACE)、肝動注療法、全身化学療法、陽子線治療、肝移植、など、様々なものがあります。どの治療法を選択するかは、腫瘍の個数や大きさ、肝機能(肝の予備能)などを考慮して決めます。これらの治療法のうち肝胆膵外科は手術(肝切除術)を担当していますが、手術を行うには、腫瘍の個数が概ね3個以下で、肝機能が比較的保たれていることが必要です。なお静岡がんセンターでは、RFA、TACE、肝動注療法、全身化学療法はIVR科が、陽子線治療陽子線治療科が担当しています。

kantansui004図 切除された肝細胞がん(矢印)、周囲の肝臓は肝硬変

肝内胆管がん

手術でがんを完全に切除できる場合には手術、完全に切除できない場合には化学療法(抗がん剤治療)を行います。手術は肝切除術+所属リンパ節郭清(肝周囲のリンパ節を切除すること)が基本で、がんが肝門部(肝臓の入り口の部分)の胆管に影響を及ぼしている際には、肝外胆管切除・胆道再建術も併施します。

kantansui005図 切除された肝内胆管がん(矢印)

転移性肝がん(他臓器原発がんの肝転移)

手術の対象となる転移性肝がんの大半は、大腸がん由来の肝転移です。大腸がん肝転移では、残肝機能を十分温存することができる場合には、転移個数にかかわりなく積極的に手術(肝切除)を行います。また、大腸がんは化学療法(抗がん剤治療)がよく奏功するため、初め切除不能と診断しても、化学療法が効いてその後に切除可能になる場合もしばしばあります。
あきらめずに治療することが大切です。

kantansui006 図 肝臓のほぼ全域を占める2個の直腸がん肝転移(A, B)。当初、切除不能であった。
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 図 化学療法によって、A, B2個の肝転移は著明に縮小した。
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図 最終的に手術可能となり、A, B2個の肝転移を切除した。

 

胆管がん

胆管がんは、①肝門部(肝臓の入り口周囲)にできる肝門部胆管がん(肝門部領域胆管がん)、②十二指腸に近い部分にできる中・下部胆管がん(遠位胆管がん)、③肝門部から十二指腸に近い部分にまで広がった広範囲胆管がんに分類されます。胆管がんの約9割は、胆管がつまることによって起こる黄疸(閉塞性黄疸)で発見されます。内視鏡的経鼻胆道ドレナージ(ENBD)などの方法で黄疸を軽減してから治療にのぞみます。①②③どの場合も、完全にがんを切除できると診断した場合に手術を行います。


① 肝門部胆管がん(肝門部領域胆管がん)

肝門部胆管がんでは、肝葉切除以上の広範な肝切除術(全肝の1/3~2/3程度を切除)+肝外胆管切除・胆道再建術が基本術式です。肝門部では胆管、肝動脈、門脈が近接し複雑に入り組んでいるため、門脈合併切除・再建術や肝動脈合併切除・再建術など、高度な手術手技を要する場合がしばしばあります。肝門部胆管がんの診断、術式立案、手術は消化器がんの中でも極めて専門性の高い領域で、この手術を毎年10件以上安定して行っているのは、わが国でも数施設しかありません。静岡がんセンターでは、毎年10数件~20数件の肝門部胆管がん手術を行っています。

② 中・下部胆管がん(遠位胆管がん)

中・下部胆管がんでは膵頭十二指腸切除術が基本術式です。術式の概略は、膵がんの項をご参照ください。

③ 広範囲胆管がん

上記、①②を組み合わせた手術、すなわち広範な肝切除術に加えて膵頭十二指腸切除術が必要です。10時間以上を要するたいへん大きな手術ですが、静岡がんセンターでは毎年数人の方にこの手術を行っています。

胆嚢がん

胆嚢は胆管と連続し、肝臓の下面に付着しています。また周囲を十二指腸、膵臓、大腸(横行結腸)によって囲まれています。従って、胆嚢がんはこれらの臓器に容易に広がり(浸潤し)、その程度よってさまざまな手術が必要になります。いわゆる早期胆嚢がんは胆嚢摘出術のみで完治します。進行がんの場合には、がんの肝臓への浸潤の程度によって胆嚢床切除術(胆嚢付着部周囲の肝臓を1~2cm程度切除)、肝S4a+5切除術、肝拡大右葉切除術(全肝の2/3程度切除)、肝右3区域切除術(全肝の3/4程度切除)など、さまざまな程度の肝切除が必要になります。これに加えて、がんが胆管に浸潤している場合には肝外胆管切除・胆道再建術を、十二指腸・膵に浸潤している場合には膵頭十二指腸切除術を、横行結腸に浸潤している場合には結腸部分切除術を併施します。いずれの場合も、がんを完全に切除できると診断した場合に手術を行います。

十二指腸乳頭部がん、十二指腸がん

十二指腸乳頭部がんや十二指腸がんでは、膵頭十二指腸切除術が基本術式です。術式の概略は、膵がんの項をご参照ください。

膵がん(浸潤性膵管がん)

膵がんは、その発生部位によって①膵頭部がん、②膵体尾部がん、③膵全体がんに分類します。がんの広がりをCT等でよく検討し、肝転移や腹膜転移などの遠隔転移がなく、肝動脈や上腸間膜動脈(腸を栄養している動脈)にがんが影響をおよぼしていない(浸潤していない)場合には切除可能(resectable)と判断し、積極的に切除します。さらに術後には、抗がん剤による補助化学療法(再発を予防するための抗がん剤治療)を行います。切除不能(unresectable)の場合には、化学療法または放射線化学療法を行います。

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図 膵臓とその周囲の構造

① 膵頭部がん

膵頭部は十二指腸と接し、また膵頭部内を総胆管が走行しています。従って膵頭部がんを切除するには、これらの臓器も一緒に切除する膵頭十二指腸切除術を行います。膵頭部のすぐ左側を門脈という静脈が走行しているため、膵頭部がんは容易に門脈に浸潤します。静岡がんセンターでは、2015年現在、毎年80~90件程度の膵頭十二指腸切除術を行い、このうちの4割に門脈合併切除・再建術を行っています。

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図 膵頭十二指腸切除術の切除範囲と再建

② 膵体尾部がん

膵体部がん、膵尾部がんでは、膵体尾部を脾臓とともに切除する膵体尾部切除術を行います。がんの広がりによっては、左副腎合併切除術や十二指腸部分切除術、結腸部分切除術などがしばしば必要になります。

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図 膵体尾部切除術の切除範囲

③ 膵全体摘

膵全体に広がるがんの場合、上記①②を合わせた膵全摘術を行います。術後には、膵臓が分泌していたインスリンを代表とするホルモンと、消化酵素を豊富に含む膵液が出なくなります。従って術後は、インスリンの補充療法(自己血糖測定と自己インスリン注射)と消化酵素剤の内服が必要になります。従来は極力避けていた術式ですが、最近は扱いやすいインスリン製剤や高力価の消化酵素剤が開発されたため、以前より本術式を行う頻度が増えてきました。静岡がんセンターでは、毎年数人の方にこの手術を行っています。

手術件数 2022年1月~12月

手術名 件数
胆嚢摘出術 15
腹腔鏡下胆嚢摘出術 13
胆嚢悪性腫瘍手術 5
肝門部胆管悪性腫瘍手術 23
肝切除術 73
腹腔鏡下肝切除術 80
膵体尾部腫瘍切除術 12
腹腔鏡下膵体尾部腫瘍切除術 22
膵頭十二指腸切除術 109
その他 65
総手術件数 417

*kコードによる分類

肝・胆・膵外科

肝・胆・膵外科