悪性リンパ腫
1.中枢神経系原発悪性リンパ腫(Primary central nervous system lymphoma:PCNSL)とは?
- 中枢神経系原発悪性リンパ腫 (Primary central nervous system lymphoma:PCNSL)は血液のリンパ球が腫瘍化したリンパ腫の一種です。全身のリンパ節や骨髄には腫瘍は見られず、脳、脊髄にのみ発生し、節外性リンパ腫に分類されます。
- 高齢者に発生することが多く、高齢化に伴いその発生数が増加傾向で、全脳腫瘍の約3%程度となっています。
- 症状は腫瘍が発生した場所によって様々で、手足の麻痺、言葉がでにくい失語症状、記憶力や計算力が落ちる高次脳機能障害、痙攣発作などがあります。
- 週単位で急速に増大することから、早期の診断・治療が重要となる疾患です。
2.診断
- 頭部のMRI画像である程度診断することが可能ですが、確定診断には腫瘍組織を顕微鏡で観察する病理検査が必須となります。PCNSLは手術で全摘出してもすぐに再発してきてしまう一方で、放射線化学療法が有効なため、手術は腫瘍の一部だけを採取する生検術が行われることが一般的です。
- 生検術は細い針を挿入して行う針生検や、小開頭で行う開頭生検、内視鏡を用いた内視鏡下生検などがあります。針生検は局所麻酔でも可能ですが、腫瘍の場所によっては全身麻酔が必要となることもあります。
3.治療
- 初期治療としては高容量メトトレキサートを基盤とした化学療法がガイドラインで推奨されています。メトトレキサートは細胞の葉酸代謝を阻害することで、DNA合成を阻害する抗がん剤です。腎臓から排出される薬剤のため、腎機能障害があると使用ができません。
- 当院では65歳未満で、全身状態が比較的良好で症状が軽い方は、血液・幹細胞移植科で大量化学療法に加えて造血幹細胞移植行う治療法を行っています。
- 65歳以上で腎機能障害がない方は高容量メトトレキサートとリツキシマブ(B細胞抗原を標的とした分子標的薬)を組み合わせた化学療法を行います(図1)。2週間ごとの化学療法を4~6サイクル行います。その後、地固め療法として全脳照射または2か月ごとの高容量メトトレキサート療法を行います。 治療中は、メトトレキサートの排泄遅延、骨髄抑制(好中球減少・リンパ球減少)、感染症(ニューモシスチス肺炎など)の発生などに注意が必要です。
図1. リツキシマブ+高容量メトトレキサート療法で治療した症例
- 2020年から再発・難治性のPCNSLに対してベレキシブル(チラブルチニブ)が保険適応となりました(図2)。これはリンパ腫の増殖シグナルの下流にあるブルトン型チロシンキナーゼという分子を標的とした分子標的薬です。外来で内服での治療が可能です。比較的副作用の少ない薬ですが、皮疹などが起こりやすく休薬が必要となることがあります。
図2. 再発に対してベレキシブルで治療した症例