主な診断方法・治療方法・手術件数

主な診断方法

画像診断(CT検査、MRI検査、注腸造影検査など)

CT検査やMRI検査は主に、がんの周囲臓器への広がり、他の臓器や腹膜・リンパ節への転移の有無、さらに手術後の再発などを診断します。注腸造影検査はがんの正確な位置や大きさ、深達度(しんたつど)(深さ)を診断します。

大腸内視鏡検査

ポリープやがんを疑う病変を認めた場合、肛門から内視鏡を入れて粘膜を生検(せいけん)(直接組織をとること)し、病理組織検査(※リンク)で確定診断(病理組織学的ながんの診断を行うこと)をします。ポリープや、転移の危険性のない早期の大腸がんを認めた場合は、内視鏡的に腫瘍を摘出します。

病理組織検査

大腸内視鏡検査で採取した病変の一部を、顕微鏡で病変の確定診断を行います。また、手術で切除した病変も、組織型(そしきけい)、深達度(深さ)、リンパ節転移などを顕微鏡で詳細に検査し最終的な病期(ステージ)を決定します。

主な治療法

原発性大腸がん

手術治療

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一部の早期がんを除く大腸がんにおいて、治癒を目指す治療法は手術となります。腫瘍を含む腸管を切除するとともに、転移する可能性があるリンパ節を切除(リンパ節郭清)します。

がんを手術でしっかり治すことを大原則とし、腹腔鏡下手術、ロボット手術といった精度の高い低侵襲手術、また、がんが進展している場合は他臓器合併切除を伴う拡大手術など、各々の患者さんに応じて最適な手術を計画します。

直腸がんの患者さんには、なるべく人工肛門(一時的・永久人工肛門)を造らないように手術術式、手術手技の工夫をしています。

腹腔鏡下手術

おなかに挿入したカメラ(腹腔鏡)からモニターに映し出された画像を見ながら、腹腔鏡手術用の器具(鉗子[かんし])を挿入して手術を行います。手術部位を拡大して見るため微細な解剖がわかりやすく繊細な手術操作が可能になります。小さな傷で手術が受けられるため、傷が目立たない、術後の痛みが少ない、社会復帰が早いなどの利点があります。進行大腸がんや直腸がん、横行結腸がん、肥満例にたいする腹腔鏡下手術は難易度が高く、個々の手術チームの習熟度を十分に考慮して適応を決めなくてはなりません。当科では大腸領域で取得した日本内視鏡外科学会技術認定医が5人在籍し、腹腔鏡下手術を積極的に取り入れており、大腸がん全体のおよそ90%以上を腹腔鏡下手術で行っています。

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ロボット手術

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ロボット手術では、ダ・ヴィンチという最先端の手術支援ロボットを用いることで、腹腔鏡下手術より精度の高い手術が可能と考えられています。術者はコンソールの中で、腹腔鏡で拡大された鮮明な3次元画像を見ながらコントロールハンドルで鉗子操作を行います。
 ロボット手術を執刀できる術者は、学会により詳細に規定されていますが、当科ではすべてのスタッフがロボット支援手術認定プロクターの資格を有しています。

腹腔鏡下手術とロボット手術の違い

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腹腔鏡下手術の場合、手術に使用する鉗子は実際の手の動きとは反対方向に動き、さらに直腸のような骨盤の深いところでは実際の手の動きより大きく動きます。また直線的な鉗子を用いるため、操作の制限があり、腹腔鏡下手術の技術と工夫が必要となります。

ロボット支援で行う手術操作は、①実際の手の動きが鉗子に反映される直感的な操作、②人間の手の動きを模倣した多関節を持った鉗子であり、人間の手以上の自由な動き、③実際の手の動きを最大5:1まで縮尺して鉗子を動かすことによる繊細な動作が可能になります。このようなロボットの特性により、腹腔鏡下手術に比べて、容易に正確で繊細な手術が可能となります。
ロボット手術は最新の治療です。直腸がんは健康保険の対象です。結腸がんは現時点では、健康保険の適用外ですが、自由診療で実施することができますので主治医にご相談ください。

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ロボット手術は最新の治療であり、健康保険の適用外となります。自由診療となりますので主治医にご相談ください。

直腸がんに対する機能温存手術

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肛門に近い部分に生じた直腸がんの患者さんの外科治療において、永久人工肛門を提示されることがあります。このような患者さんに対して、肛門の括約筋の一部を残すことで自分の肛門を温存し、がんを取り除く術式:括約筋間[かつやくきんかん]直腸切除術(ISR)を行っています。綿密に腫瘍の状況を検査して適応をしっかり判断して手術すれば、永久人工肛門を回避できることがわかってきました。この手術は高度な技術を要しますが、十分な説明のもと希望される患者さんには積極的に行っております。

排尿、性機能に関わる神経が直腸の近くを走行しています。これらの神経や機能を残しながらがんを取り残さないようにする自律神経温存直腸切除術は極めて高度な技術が必要となります。

直腸がんに対する側方リンパ節郭清

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下部進行直腸がんの場合、15~20%の頻度で骨盤内の側方リンパ節に転移があることがわかっています。側方リンパ節郭清を行うことで再発率が減少し予後が改善するといわれています。日本における標準治療は通常の直腸切除術に加え側方リンパ節郭清術を行うことですが、側方リンパ節郭清には高度な技術が必要です。
当院では、がんの根治性と機能温存(排尿・性機能)のバランスを考え、患者さんに応じた過不足のない側方リンパ節郭清を行っています。当院における側方リンパ節郭清の局所再発率(骨盤内の再発)は5%と良好な成績が得られています。
欧米での標準治療は、手術前に化学放射線療法を行い側方リンパ節郭清を省略する術式ですが、長期的には放射線治療に伴う合併症(排便障害、排尿障害、性機能障害、腸炎、2次がんなど)があり、放射線治療の選択は慎重な判断が必要です。

骨盤内臓全摘術

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拡大手術のうち最も大きな手術が骨盤内臓全摘術です。膀胱や骨(仙骨)、男性の場合は精嚢・前立腺、女性の場合は子宮や膣まで大きくがんが浸潤して、通常の手術ではがんを取り切れない場合、骨盤内臓全摘術を行うことでがんを含む骨盤内の臓器を全て摘出し根治を目指すことができます。難易度が高く大きな手術になりますので、患者さんの体力が保たれていることが必要条件になります。当院で行った原発性大腸がんに対する骨盤内臓全摘術後の5年生存率は80%、そのうち手術で完全に腫瘍切除した場合の5年生存率は約90%です。一方で、大きく切除するため術後の排尿、排便、性機能を含めた日常生活の障害が生じます。主治医とよく話し合い、納得した上で手術をうけるかどうか決めて頂きます。

化学放射線療法

術前検査の結果、手術のみで直腸がんを完全に切除することが難しい場合には手術前に抗がん剤を併用した放射線療法を行った後に根治手術を行うことがあります。この場合、約6週間の化学放射線療法を行った後、6-8週間後に手術を行います。

消化管内分泌神経腫瘍(NET)

消化管神経内分泌腫瘍に対する治療は、大腸がんに準じて行います。消化管神経内分泌腫瘍は腫瘍の大きさが1cm未満の小さい病変で発見されることも少なくありません。その場合、内視鏡で腫瘍を切除し病理検査において、腫瘍の深さ、脈管侵襲[みゃっかんしんしゅう]、免疫学的検査(Ki-67指数)を評価し、転移の危険性が高い場合にリンパ節郭清を伴う手術を行います。

消化管間質腫瘍(GIST)

切除可能なGISTにおける治療の第一選択は外科治療になります。通常、大腸がんと比べて周囲の組織への浸潤やリンパ節転移はまれとされています。よって、リンパ節郭清を伴う腸管切除を行う大腸がん手術とは異なり、切除する臓器の機能温存を考慮した切除(直腸GISTの場合は肛門温存など)が治療の原則となります。

転移性大腸がん、大腸がん術後再発

転移性大腸がんは、肝臓、肺、腹膜、遠隔リンパ節などに生じます。転移した大腸がんと原発巣(大腸がん)が全て切除可能な場合には、すべてのがんを手術で切除することを目指します。
 大腸がん術後再発においても、まず再発部位が手術可能かどうか評価します。直腸がん術後再発、骨盤内再発に対する骨盤内臓全摘術も適応があれば積極的に行っています。
 切除が難しい場合には、全身化学療法や放射線療法、陽子線治療、症状に対する治療などを行います。大腸外科をはじめ、消化器内科、内視鏡科、病理診断科、肝胆膵外科、呼吸器外科、画像診断科、放射線治療科、陽子線治療科、緩和ケア科など、それぞれ異なる領域の知識・技術・経験を持つ専門家と連携し、チームとして治療を行っていきます。

遺伝性大腸疾患(家族性大腸腺腫症など)

家族性大腸腺腫症は、優性遺伝する疾患で頻度は全大腸がんの1%未満とされており、大腸に腺腫が多発することが特徴です。これらの腺腫を放置するとほぼ100%の患者さんに大腸がんが発生します。確実な治療法はがんが発症する前、もしくはがんが進行する前に全大腸を切除することであり、当院では適切な時期に、大腸全摘・回腸(かいちょう)嚢(のう)肛門(こうもん)吻合(ふんごう)を行います。
 また、リンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸がん(HNPCC))は消化管ポリポーシスを伴わない遺伝性の大腸がんで、一般の大腸がんに比べ若年発症することが多いです。子宮がん、尿管がん、小腸がん、胃がんなど他の臓器のがんを合併することも多いです。
 家族性大腸腺腫症のような優性遺伝する疾患は親子間で50%の確率で遺伝します。ご家族の方のこのような方がいらっしゃいましたら是非相談してください。また、当院では遺伝外来が開設されており、専門の医師やカウンセラーも在籍しております。詳しくは担当医におたずねください。

手術件数 2022年1月~12月

手術名 件数
直腸・肛門がん手術 205
結腸がん手術 301
※腹腔鏡手術  208
※ロボット手術 264
その他 148
合計 654

大腸外科

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