主な診断方法・治療法・手術件数

主な診断方法

内視鏡検査

胃がんが疑われた場合にまず行われる検査です。のどに麻酔をした上で内視鏡を口(または鼻)から挿入し、食道から胃、十二指腸にかけてくまなく観察し、病変の有無、病変が存在する場合はその部位、大きさ、深さ(壁深達度)などを診断します。がんが疑われる部位は、組織の一部を生検(直接採取すること)し、病理検査に提出します。内視鏡による観察で粘膜内にとどまっている早期胃がんに対しては、内視鏡の先に付けた器具で病変部を切り取る「内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)」が行われることもあります。なお、内視鏡検査では、消化管の蠕動を止めるためにブスコパンなどの抗コリン剤が使用されますが、緑内障や前立腺肥大の患者さんには使えないので、検査前の問診時に申し出てください。

上部消化管造影検査(バリウム検査)

胃がんの集団検診でも用いられている検査ですが、胃がんと診断された場合にあらためて行う場合もあります。胃を内側から見る内視鏡検査とは異なり、胃全体の形がわかるので、がんができている場所を特定することができます。また、スキルス胃がんのように内側に広がっていくタイプでは、病変の拡がりがより把握しやすくなります。とくにがんが食道や十二指腸に浸潤している場合は、広がっている範囲を診断するのに役立ちます。さらに胃の変形や食道裂孔ヘルニアの有無も診断できるので、その結果に基づいて術後障害をできるだけ抑えた再建方法を選ぶこともできます。

腹部CT検査

胃がんの拡がりや、転移の診断に不可欠な画像検査です。最近は機器の進歩により10秒程度で腹部から骨盤部まで一気に撮影できるようになりました。胃がんそのものの深さ(壁深達度)や、周囲の臓器(膵臓、肝臓、大腸など)への浸潤の有無が判定できます。また、リンパ節や肝臓、副腎などへの転移の診断も可能です。この検査ではまず単純撮影をし、次に造影剤を注射して造影撮影を行いますが、まれにアレルギーを起こすことがあります。以前に造影剤で具合が悪くなった経験がある人は検査前の問診時に申し出て下さい。

腹部超音波検査

他の検査と比べて体への負担が軽い画像検査です。進行胃がんでは腫瘍そのものが見えることもありますし、大きなリンパ節転移の診断も可能で、肝転移は腹部CT検査より診断しやすい場合もあります。胃がん以外の病気の発見にも有効で、特に胆囊結石は容易に診断できます。

腹部MRI検査

腹部CT検査などで転移が疑われるものの確定できない時や、肝臓にできた腫瘍が良性か悪性か判断がつかない場合には、腹部MRI検査が有用です。最近では、造影剤を使った「造影MRI検査」によって、これまで診断できなかった小さな肝転移まで診断できるようになりました。

PET検査

ブドウ糖の一部に放射性元素を標識したFDGを用いて、腫瘍と正常組織でのブドウ糖の取り込みの差を利用してPETという装置で見る検査です。小さな病変の診断は苦手ですが、全身を一度に検索できるため、手術後に腫瘍マーカーが上昇しているのにCT検査などでは転移病巣が発見できない場合に有用な検査です。

超音波内視鏡検査

欧米では胃がんに対して一般的に行われている検査ですが、わが国では一部の施設でしか行われていません。胃がんがどこまで深く広がっているか(=深達度)の診断ができます。早期胃がんでは内視鏡治療が可能かどうか、進行胃がんでは他臓器に浸潤しているかどうかの判断や、胃や食道に接するリンパ節の転移診断にも使われます。また、胃の粘膜下から発生する消化管由来間質腫瘍(GIST)の診断にも超音波内視鏡検査が利用されています。

大腸内視鏡検査

胃がんの術前に必ず行わなければならない検査ではありませんが、進行がんで大腸に浸潤が疑われる場合に行われます。一方、胃がんの手術前に大腸内視鏡検査を行うと、約7%に大腸がんが発見されることから、大腸の検査を受けたことがない人は胃がんの手術前に受けたほうがいいでしょう。

審査腹腔鏡(診断的腹腔鏡検査)

超音波検査やCT検査などで腹膜への膜転移が強く疑われる場合、あるいは大きな浸潤型胃がんで腹膜転移の可能性が高い場合に行われます。通常、全身麻酔下でおなかに2~4カ所孔をあけ、カメラ(腹腔鏡)を挿入しておなかの中を観察します。転移が疑われる場合には、組織の一部を切り取って調べます(生検)。腹水や腹腔洗浄液の細胞診も同時に行われます。また、隣接する臓器に広がっているかどうかの診断も可能です。

主な治療法

胃がん

胃がんの治療に関しては、胃癌治療ガイドライン(日本胃癌学会編)により各Stage分類別に日常診療における標準的治療と、臨床研究として行われる治療を区分して提示しています。

早期胃がんに対する治療方針

早期胃がんのうちがんの深さが第1層目で大きさが2cm以下、組織型が分化型で、病巣内に潰瘍を伴わない症例に対しては内視鏡的切除法が推奨されています。これ以外の早期胃がんに対する内視鏡的治療は臨床研究として施行すべきであるとされていますが、適応拡大病変として、第1層目の分化型で潰瘍を伴うもので大きさ3cm以下、潰瘍を伴わないものでは大きさの制限を設けずに内視鏡的治療が施行されています。また、切除標本の詳細な観察は必須であり、一括切除が原則で、がんの深さが2層目の深いところまで達している場合や脈管侵襲が陽性の場合はリンパ節郭清(リンパ節を広範囲にとる手術)を伴う胃切除術が必要となります。
内視鏡的治療が適応とならない早期胃がんで臨床的にリンパ節転移が認められない症例は縮小手術の適応とされています。縮小手術とは定型的胃切除術(後述)に対比して,リンパ節郭清範囲や切除範囲の縮小を含む手術を指します。胃がんの手術は基本的に開腹手術が標準ですが、このような早期胃がんの患者さんに対しては腹腔鏡下手術も選択可能です。また、後述のように一部の早期胃がんの患者さんにはセンチネルリンパ節生検を併用した個別化手術も先進医療として行なっております。

進行胃がんに対する治療法

がんの深さが第3層目より深い場合や、早期胃がんでも臨床的にリンパ節転移が認められる場合には定型手術が推奨されています。定型手術とは,胃の2/3以上切除とD2(縮小手術より広い範囲での)リンパ節郭清を施行する術式です。進行胃がんに対する標準治療は開腹手術ですが、当院では臨床的Stage IIまでの患者さんに対しては腹腔鏡下手術も院内の承認を得て行っております。
近年増加している食道胃接合部がん(食道と胃の境目にできたがん)に対しては、食道への浸潤距離が短い(3cm未満)場合は開腹アプローチで行いますが、それより長い場合は開胸・開腹アプローチが必要となることもあります。

ロボット支援下胃切除術

臨床的Stage Ⅰ, Ⅱの患者さんに対しては保険医療としてロボット支援下の胃切除術も選択可能です。ロボット支援下の手術では、創の大きさは腹腔鏡下手術と同等ですが、より精緻な手術が可能となるため、術後の合併症を軽減することが可能となることが報告されています。

センチネルリンパ節生検を併用した個別化手術

早期胃がんの一部の患者さんでは、先進医療としてセンチネルリンパ節生検を併用した縮小した胃切除術も選択できます。センチネルリンパ節とは、がん細胞がまず最初にたどり着くリンパ節と定義され、乳がんや悪性黒色腫では、このリンパ節に転移がなければリンパ節郭清を省略することが日常診療として行われています。胃がんでも同様にリンパ節郭清と胃切除の範囲を縮小できる可能性があります。

集学的治療

・術後補助化学療法
治癒切除後の微小遺残腫瘍による再発予防を目的として,術後の化学療法が行われます。Stage Ⅱの患者さんで、手術でがんが全て取り切れた場合にTS-1を1年間内服して貰います。Stage IIIの患者さんにはTS-1の内服とドセタキセルの点滴の併用療法を1年間行います
・術前化学療法
化学療法によってまず腫瘍縮小や微小転移の消滅を図り、その後手術を行う集学的治療です。現時点ではその有用性は確立されていませんので、あくまでも臨床試験として行われています。

 

胃粘膜下腫瘍

基本的にGIST診療ガイドラインに則って治療方針を決定しています。すなわち、腫瘍の大きさが5cm以上のもの、2cmから5cmでも増大傾向のあるもの、生検でGISTと診断されているものは切除の適応とされます。このなかで、腫瘍径が5cm以上のものに対しては開腹手術を、5cm未満のものに対しては腹腔鏡下手術を行っています。基本的にGISTであってもリンパ節転移は極めてまれなので、極力胃を残した部分切除術が選択されます。腹腔鏡下手術の適応のなかでも、胃の内腔に向かって腫瘍が発育している腫瘍に対しては、内視鏡・腹腔鏡の合同手術(LECS)が行われます。
術後の病理検査の結果で、高リスクと診断された場合は、術後補助化学療法としてグリベックの3年間投与が推奨されます。

手術件数 2023年1月~12月

手術名 件数
胃がん切除例 218
 開腹胃全摘術 41
 腹腔鏡下胃全摘術 6
 ロボット支援下胃全摘術 10
 開腹胃切除術 21
 腹腔鏡下胃切除術 69
 ロボット支援下胃切除術 71
腹腔鏡内視鏡合同手術 8
審査腹腔鏡        37
その他          48
合計 311

胃外科

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