研究活動

1) 集学的治療による胃がん治療成績の向上に関する取り組み

 進行胃がんに対しては手術だけでは満足な成績が得られないため、術後補助化学療法が一標準治療とされています。しかしながら、一部の腫瘍に対しては化学療法だけでは満足な成績が得られないため、術前・術後の抗がん剤治療の効果に関して様々な臨床試験が行われております。臨床試験は一つの施設だけで行う事は困難ですので多くの施設の共同で行われます。我が国で胃がんに対してこの多施設行動臨床試験を行う研究グループとして最も規模が大きいものが日本臨床腫瘍研究グループ(JCOG)(http://www.jcog.jp/general/index.html)です。当科のスタッフはJCOG胃癌グループの主要メンバーとして活動し、様々な研究を推進しております。

2) 手術の安全性を向上させる工夫

 当科は日本で有数の切除数を誇っており、手術の安全性そのものは極めて高いものとなっています。しかしながら、術後合併症はゼロである事が理想であるため、それを目標とした臨床試験も、当科単独もしくは数施設との共同で進められております。
 近年、社会の高齢化に伴い胃がんの手術を受ける患者さんの年齢も上昇傾向にあります。高齢者に特有の合併症として、誤嚥性肺炎がありますが、科内で実施した臨床研究の結果、肺炎予防のプログラムが確立され、以降肺炎の合併症は軽減しました。
 高齢者で問題となるもう一つの大きな合併症は術後せん妄であります。術後せん妄の予防には術前からの介入が必要と考え、精神腫瘍科と共同で「胃癌周術期における高齢者患者を対象とした術後せん妄発症予防におけるラメルテオンの効果に関する臨床第Ⅱ相試験」を実施しました。その結果、ラメルテオンがせん妄予防に有効であることが証明されました。現在、高齢者胃癌患者におけるラメルテオンによる術後せん妄発症予防効果に関する多施設共同無作為化比較第 II 相試験が進行中です。
 これら以外にも、周術期管理の向上を目的として術後回復促進プログラムの有用性についても評価しております。現在、サルコペニアなどに代表される高齢者における栄養障害に対する介入試験を実施しております。
 現在、当科では患者家族支援センターやリハビリテーション科、歯科口腔外科などとの共同で、「包括的高齢者支援プログラム」を計画しております。このプラグラムでは、様々な問題を有する高齢者を、外来受診時から、入院、手術、退院(場合によっては転院、施設入所なども支援)、通院、在宅療養までを包括的に支援する予定としております。

3) 胃がんの悪性度評価に関する研究

 手術や集学的治療の進歩により、胃がんに対する治療成績は以前に比し確実に向上しています。しかしながら、未だ進展の早いがん、再発しやすいがんなど、がんの個性を判断し治療戦略を立案する治療の個別化は確立されていません。当科では、研究所と共同研究で胃がんの悪性度を評価する様々な研究を実施してきました。
 胃がんの新しい腫瘍マーカーを開発する目的でスプライシングバリアントに着目し、「胃がんの発症メカニズム解明と診断マーカーの探索に関する研究」を実施し、ある種のバリアントが胃がんの新たな腫瘍マーカーとして有望である事を報告しました。更に本研究の一環として、がんの代謝から胃がんの生物学的特性を判定する事を目的として、株式会社HMTとの共同で、胃がん組織のメタボローム解析を実施しました。胃がん組織では正常組織と代謝が異なる事、分化型がんと未分化型がんでは代謝のパターンに違いがある事を見いだしました。
 現在、静岡がんセンター全体で取り組んでいますプロジェクトHOPEの一環として、全進行がんの全エクソン解析、網羅的遺伝子発現解析を実施しています。2014年から現在までにおよそ1400人の患者さんにご協力をいただき登録されました。この研究から、我が国の胃がんは遺伝子発現型から予後の異なる幾つかのグループに分類可能である事を解明し、報告しています。また、同様な手法で、胃がんの中でも特に悪性度が高い神経内分泌腫瘍における特異的な遺伝子発現パターンを解析し、新規マーカー分子の同定も可能となっています。プロジェクトHOPEでは、胃がん術後の肝転移再発を予測に有用なバイオマーカ、胃がん術後の生存予測に対する新たな分類法、胃神経内分泌がんにおける腫瘍発生メカニズムに関する体細胞変異プロファイル、poorly cohesive adenocarcinomaとそのサブタイプにおける分子プロファイルと生存との関連、局所進行MSI-High胃がんにおける分子プロファイルと予後因子、胃がんに対するPARP阻害薬の感受性予測に有用なバイオマーカなど、様々な論文を報告してきました。
 これら、胃がんの悪性度の評価の研究を通じて、将来的には治療の個別化や、Precision Medicineへの応用を目指しています。

関連情報

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論文

胃外科

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