患者さんの理解を深める「処方別がん薬物療法説明書」を作成

患者さんの理解を深める「処方別がん薬物療法説明書」を作成
消化器・呼吸器・皮膚科領域の疾患70療法の冊子を公開します

2019年2月21日
静岡県立静岡がんセンター

 静岡がんセンターは、がん体験者の視点に立ったがん医療の実現を目指すため、よろず相談(相談支援センター)で受けた相談や1万2千人から回答を得た全国実態調査から、がん体験者の悩みや負担の全貌を明らかにしてきました。近年目立つのが、がん薬物療法に関する悩みです。その理由として、①およそ7~8割の薬物療法が外来で実施されている、②分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤といった新しい薬剤の登場、③術前・術後に投与の機会の増加等が挙げられます。たとえば、2003年と2013年に実施した全国調査(がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査、「がんの社会学」に関する研究グループ、研究代表者:山口建)の「症状・副作用・後遺症」のがん薬物療に関する悩み・負担の項目の割合は19.2%から44.3%と飛躍的に増加しており、日々の生活に大きく影響していることがうかがえます。

  現在、当院では年間およそ3700人が薬物療法(抗がん剤治療)を受けています。そのうち約7割の方は外来で通院しながら治療しており、その割合は増加傾向にあります。そのため、医療者が傍にいない院外での体調の変化は、まずはご自身で判断する必要があり、副作用の出方や対処について事前に理解しておくことが重要です。

 医療機関では、これまで医師・看護師・薬剤師それぞれの職種の視点で作成した説明書を用いていましたが、患者さんにとってはわかりづらいものとなっていました。また、製薬企業から発行されている患者さん向け冊子の多くは単剤療法の冊子ですが、がん薬物療法の現状は多くが併用療法です。静岡がんセンターは、副作用別に、副作用症状や対処法に関する情報を小冊子にまとめ、ホームページ等で情報提供していますが、今回、その取り組みを一歩進め、「患者さんやご家族が、知りたいこと、知っておかなければならない情報を的確に提供する」という「情報処方」の考えに基づき、薬剤の組み合わせ(レジメン)や病気の種類別にした「処方別がん薬物療法説明書」を医師、看護師、薬剤師等が協力して作成いたしました。この説明書は、職種によらず、治療法、副作用の対処を1冊で説明できるようにしています。説明書の試案作成は2012年度から始まり、2015年には、作成した説明書を25人の患者さんで試行研究を実施、医療者が適宜、治療説明の際に用いて評価を行いました。患者さんの視点から得られた評価・意見をふまえ改訂を経て、2017年3月より32療法、43冊で院内運用を開始し、さらに改訂と療法の追加を行ないました。当院でこれまでに約1,900人(2019年1月末時点)の患者さんに使用しており、説明書の種類は、現在、当院で実施しているがん薬物療法上位100療法の約3割をカバーしています。

 ホームページで初回に公開するものは、70療法91冊になります。1冊の説明書を全医療職が共通して使用し、患者さんがしっかり読むことで、これから受ける抗がん剤治療の全貌を容易に把握でき理解が深まると考えています。

 

【「処方別がん薬物療法説明書」の概要】

 説明書は、治療を受ける患者さんやご家族にぜひ知っておいてほしい内容として、治療法(目的、効果、スケジュール)、注意事項(治療前、治療中)、副作用の対処と工夫(病院への連絡の目安、予防を含めた具体的対処法)などを記載しています。これらの情報は、従来、医師、看護師、薬剤師等が患者さんやご家族に説明していますが、説明者による内容のばらつき、重複、治療開始前の一時期に集中して説明することによる不十分な理解に繋がり得る状況がありました。この説明書は、職種によらずに医療者が共通して説明に使用できるよう、1冊に必要な情報をまとめ、医療安全に配慮しながら、情報の標準化を目指す試みの一つです。今後、当院での実施頻度の高い療法を中心に拡充し公開していきます。

「処方別がん薬物療法説明書」のURLとQRコード

   https://www.scchr.jp/information-prescription.html

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◉ 説明書編集担当者からのコメント(静岡がんセンター研究所 看護技術開発研究部長 北村有子)

 当院では医師、看護師、薬剤師等が各場面で使用しています。患者さんからは「具体的に書いてあり、安心感につながった」「食欲不振の内容が参考になった」、医療者からは「患者さんに伝えるべき項目の漏れが少なくなった」「説明書に十分目を通している患者は説明の理解度が高いと感じた」などの声がありました。

 免疫チェックポイント阻害薬など、目まぐるしく変遷しているがん薬物療法に対応していくと同時に、より使いやすい形に洗練させていきたいと考えています。また、近い将来、当院で実施しているがんゲノム医療のプロジェクトHOPE研究と連携した遺伝情報も盛り込むなど、より適切な情報処方について検討していきたいと考えております。

 

 ※本リリースに関するお問い合わせは、下記までお願いいたします。
  
静岡県立静岡がんセンター マネジメントセンター 医療広報担当
    電話:055-989-5222 

  プレスリリースはこちら → ico_pdf (PDFファイル:175KB)

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