よせられた質問及び回答集(前立腺がんー診断から治療まで)

2005年度 市民公開講座第3回(2005年12月24日実施)

 PSA値が高値であってもがんと診断されていない場合、どのくらいの間隔で受診したら良いでしょうか?
 至適なスパンは解明されていませんが、概ね 4-6M毎のチェックを提案する事が一般的です。あまり短い間隔では、PSAは変動のある数値なので、現実的では有りません。
 PSAは、前立腺だけでつくられるタンパク質と伺いましたが、手術で前立腺を全摘した場合は、PSA値は0になるのではないですか? また経過観察で0.4~0.2以下がOKなのはどうしてですか?
 極めて論理的なご質問です。理論上はその通りです。解剖学的には男性尿道粘膜の一部、直腸粘膜の一部にPSA産生能がある事が知られています。通常これらから分泌されるPSAは測定限界以下とされており、血液検査で検出される事は無いと理解されていますが、詳しい事は判っていません。
実際には、術後の患者さんでもPSAが 0.1程度で 5年6年と横這いの患者さんは少なからず居られます。ずっと横這いのPSAを再発と定義すべきではないと考えられています。ところがPSAが 0.4を超えるとその後は上昇と一途であるという複数のデータや、場合によっては 0.2で分けても同様にその後は上昇の一途であるとのデータが示された事が、再発の定義の一つの根拠です。また再発後の治療の面から考えますと、再発後の治療の一つに放射線療法があります。術後PSAの上昇を待たないで放射線を実施した場合と、PSAの上昇を待ってから放射線治療をした場合の比較試験は実施されており、術後PSAの上昇を伴わない(術後のPSAが 0.4以下の)状況での放射線治療にはメリットが無い事も判っています。
 どのような時にPSA検診を受けたら良いでしょうか?
 症状がある時は、医療機関での相談(受診)が一般的です。原則的に検診は無症状でも実施する検査です。概ね 50才以上の男性にPSA検診が提案されています。
 一般的に前立腺がんは画像診断ではとらえるのは難しいのでしょうか? また、他の臓器のがんも同じでしょうか?
 すべての前立腺がんが画像診断で見えない訳ではありません。最近MRIの進歩で、今まで画像ではキャッチ出来なかった病変も抽出可能になりつつあります。しかし、他のがんに比べて、画像診断で見えにくいがんであることは確かです。一般的に画像でみえ易いがんは、がんとがんでない部分の性質が大きく違う場合です。
例えば肺がんは、がんでないところの殆どが空気であるのに対してがんの部分は「肉」ですから、がんが見えやすいといえます。しかし肺がんでも放射線治療後はがんでないところも繊維化がおこるので、がんの輪郭がみえにくくなります。がんが画像で見え易いか、見え難いかは、それぞれの臓器、がんの種類によって様々であり、一概に小さな紙幅で説明する事は難しいようです。
 生検でそれがおとなしいものか、たちの悪いものかをどのように見分けるのでしょうか?
 生検とは組織をとる事ですが、顕微鏡で観察して、正常細胞とどれくらい異なっているか(=異型)を見ます。がん細胞の配列の仕方(構造異型)とがん細胞1つ1つの形(細胞異型)を観察し、がんではあるが正常細胞に近いがんを「おとなしい」、正常細胞からかけ離れた構造のがんを「たちが悪い」とします。
 病期や治療法などで、生存率はどのぐらい異なるのでしょうか?
 切羽詰ったご質問だと承りますが、限られた紙幅ではお答えが難しいですね。自分の場合は?とご担当の先生と相談してください。データをご覧になる時は、以下の事に留意してください。寿命=生存率としてお話しますが、○○の病気(前立腺がんT2N0M0とか)に△△の治療(放射線70Gyを全骨盤に40Gy、前立腺に30Gy照射)をしたときの10年生存率と申し上げた場合、全生存率と疾患特異性生存率があります。全生存率とは、交通事故や自殺でなくなった患者さんも含めて生存率を表現する方法です。この方法は、極めて公平といえますが、受診された患者さんの平均年齢が65才の病院と、70才の病院では比較が出来ないことになります。都会は高齢者が少なく、地方は高齢者が多い事はご存知の通りですので、少なくとも調査対象の平均年齢を把握する必要があります。
一方、疾患特異性生存率とは、交通事故でなくなった患者さんは、交通事故までは生存しておられたとして扱い、前立腺がんで亡くなった患者さんだけを死亡として扱う方法です。一見わかり易いようですが、不当に高い生存率を示す危惧があります。放射線治療に二次がんのリスクがあることは、講演したとおりですが、二次がんで亡くなった人がカウントされなくなります。ホルモン療法も薬の種類によっては、狭心症が増える事が判っています。ホルモン療法の治療成績を狭心症で亡くなった人を除いて集計する事は問題です。従って、治療法が異なる場合の比較には適切ではありません。(手術と放射線とどちらが長生きかの比較に疾患特異性生存率は向かない)ご参考までに、アメリカのメイヨークリニックにおいて、T2N0M0前立腺がんに対して、前立腺全摘を実施した場合の10年全生存率は75%、疾患特異性生存率は90%と報告されています。
 前立腺がんの治療方法は欧米諸国と比べて違いがありますか?
 米国では、勃起機能を大事にする患者さんが多いようです。また、放射線に対する法律が日本とはかなり異なり(規則が緩やか)ます。従って、勃起機能を温存する治療を選択される患者さんが多いといえます。体内に放射線物質を埋め込む内照射(Brachy)も日本より盛んに行われているようです。一方、Caucasoid(白人人種)は Mongoloid(黄色人種)に比べて、血管の疾患が多く、先の勃起を大事にする事と相まって、ホルモン療法はあまり盛んではないとされています。また、北欧では、日本や米国に比べて、無治療の選択が多いようです。国による治療方針の違いは、やはりその国々での人生の質に対する考え方からいえると思います。
 前立腺がんのホルモン治療はどの位の期間が必要ですか?
 ホルモン療法は「がんを根こそぎ退治」する治療ではなく、「がんの勢いを抑える」治療です。従って、治療を継続されることが一般的です。がんの勢いを十分抑えられているときに、しばらく治療を休止することは可能と思います。
 ホルモン治療の薬に抵抗性を認められた場合は、どのような治療を行っていくのですか?
 あるホルモン治療の薬に対して抵抗性を認めた場合は、別の薬剤を投与する事により、効果が見られる事が少なくありません。日本で入手可能なホルモン療法治療薬は、すべて試みる価値はあると言えます。また、抗がん剤を試してみる方法もあります。がんを縮める為の治療では、有効性が乏しい割りに、副作用が大きいと判断した場合は、がんを縮めることを積極的に止めて、症状緩和につとめる事が、ベストの場合もあります。
 前立腺がんの化学療法の奏効率はどのくらいでしょうか?
 従来は前立腺がんに対する抗がん剤は有望な薬はないとされてきました。近年ドセタキセルという薬が、ホルモン抵抗性の前立腺がん患者さんに対して有望であると海外のデータが示され、日本でも承認の準備中です。
 前立腺がんは骨転移すると聞きましたが、肝臓への転移は何%くらいあるのでしょうか?
 がんが進行した状態では、肝転移は決して稀ではありませんが、通常最初の転移が肝臓である確立は非常に低いとされています。私個人的には肝臓への初発転移(骨にもリンパ節にも転移はないが、肝臓だけに転移がある状態)は、診察した経験はありません。

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