主な皮膚障害の症状と抗がん剤の種類

抗がん剤の種類ごとに主な症状と起こしやすい薬剤(一部)について、述べていきます。

主な症状の解説と起こしやすい細胞障害性の抗がん剤

発疹(ほっしん)・紅斑(こうはん)
症状 皮膚に赤いブツブツができたり、赤い斑点が出現したりします。
ひどくなると、皮膚がむけるびらんが起こったりします
患者さんの訴え 紅斑;ほてり感・熱感がある
丘疹;ぶつぶつが出た、ざらざらする、 など
病態・原因 抗がん剤により分裂が活発な表皮の細胞が影響を受け、角質層が薄くなってしまい、皮脂腺(ひしせん)や汗腺(かんせん)の分泌が抑えられることから皮膚の本来の機能であるバリア機能が低下して皮膚炎などが生じるとされています。また、汗などに微量の抗がん剤が排出され、その影響であるとも考えられています。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
リポソーム化ドキソルビシン(ドキシル)、ベンダムスチン(トレアキシン、ベンダムスチン)、ゲムシタビン(ジェムザール、ゲムシタビン)、ドセタキセル(タキソテール、ドセタキセル、ワンタキソテール)、ペメトレキセド(アリムタ、ペメトレキセド)、など
色素沈着(しきそちんちゃく)
症状 手足や爪、顔が黒ずんだり、黒い斑点状のものが現れたりします。
患者さんの訴え シミが出ました、こんな色になってしまいました、 など
病態・原因 メラニン細胞が刺激を受け、メラニン色素の生産が亢進するためと言われています。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
フルオロウラシル(5-FU、フルオロウラシル)、カペシタビン(ゼローダ、カペシタビン)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワンなど)、テガフール・ウラシル(ユーエフティ)、ブレオマイシン(ブレオ)、ドセタキセル(タキソテール、ドセタキセル、ワンタキソテール)、パクリタキセル(タキソール、パクリタキセル)、ブスルファン(ブスルフェクス)、など
皮膚の乾燥
症状 皮膚が乾燥してかゆみを伴います。皮膚の表面は粉をふく感じになり、剥がれます。進行すると表皮の弾力性が失われ、皮膚にひび割れや出血を伴います。
患者さんの訴え カサカサする、痒い、ちくちく痛い、 など
病態・原因 抗がん剤により分裂が活発な表皮の細胞が影響を受け、角質層が薄くなってしまい、皮脂腺や汗腺の分泌が抑えられることから乾燥が起こるとされています。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
カペシタビン(ゼローダ、カペシタビン)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワンなど)、テガフール・ウラシル(ユーエフティ)、パクリタキセル(タキソール、パクリタキセル)、など
爪の変化
症状 爪が変色したり変形したりします。また、爪がもろくなる、白い帯状の横断線が現れることがあります。進行すると爪が剥がれてしまうこともありますし、爪の周囲に炎症を起こしたりもします。
患者さんの訴え 爪が変形(凸凹)、爪が欠ける、爪がもげる(痛い)、ボタンかけが痛い、出血する、手に力が入らない、 など
病態・原因 爪を作っている細胞は分裂が盛んです。分裂が活発な細胞に影響する抗がん剤によって爪の成長が障害され、もろくなったりすると考えられています。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
フルオロウラシル(5-FU、フルオロウラシル)、カペシタビン(ゼローダ、カペシタビン)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワンなど)、テガフール・ウラシル(ユーエフティ)、リポソーム化ドキソルビシン(ドキシル)、パクリタキセル(タキソール、パクリタキセル)、パクリタキセル アルブミン懸濁型(アブラキサン)、ドセタキセル(タキソテール、ドセタキセル、ワンタキソテール)、など
手足症候群(てあししょうこうぐん)
症状 指先や手のひら、足の裏の広範囲に紅斑や色素沈着が起こり、しびれや知覚過敏、ほてり、腫れを生じ、痛みを伴います。進行すると水ぶくれや表皮が剥がれたりして、物をつかんだり、歩行が困難になったりします。
患者さんの訴え むずむずする、痛痒い、皮膚が突っ張った感じ、ピリピリする、じんじんする、 など
病態・原因 物をつかんだり、立ったり歩いたりすることによって、一時的に手のひらや足底に圧迫が加わり、毛細血管が破壊されるとそこから抗がん剤が微量に漏れる現象が生じて起こると考えられています(ゆっくり起こる)。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
フルオロウラシル(5-FU、フルオロウラシル)、カペシタビン(ゼローダ、カペシタビン)、テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム(ティーエスワンなど)、テガフール・ウラシル(ユーエフティ)、リポソーム化ドキソルビシン(ドキシル)、ドセタキセル(タキソテール、ドセタキセル、ワンタキソテール)、など

主な症状の解説と起こしやすい分子標的型(ぶんしひょうてきがた)抗がん剤

ざ瘡様皮疹(ざそうようひしん)
症状 にきびの様なできものですが、にきびと異なり必ずしも細菌感染を伴いません。多くは、頭部、顔面、前胸部、下腹部、上背部、腕・脚などに出現します。鼻の孔や頭部など毛が生えている部位では強い痛みを伴うこともあります。
患者さんの訴え ぶつぶつができてきた、にきびがたくさんできた、 など
病態・原因 治療開始後数日で出現、1~2週間でピークになります。毛穴に角質がつまり、症状が引き起こされます。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
ゲフィチニブ(イレッサ、ゲフィチニブ)、エルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)、ラパチニブ(タイケルブ)パニツムマブ(ベクティビックス)、セツキシマブ(アービタックス)、など
爪囲炎(そういえん)
症状 爪の周囲に炎症が起こり、腫れや痛みがでて、さらに亀裂を生じ、なかなか治らないと肉芽(にくげ)が形成されます。もろくなった爪の欠損により皮膚を傷つけやすくなります。
患者さんの訴え ゆび先が痛い、痛くて靴が履けない、ボタンがかけられない、字が書けない、携帯のキーが押せない、 など
病態・原因 爪の周りに炎症を生じ、紅斑・腫脹、亀裂、肉芽(にくげ)が形成されます。治療開始後1~2ヵ月ごろより出現します。治療抵抗性で長引くことが多いです。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
エルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)、オシメルチニブ(タグリッソ)、ダコミチニブ(ビジンプロ)、ラパチニブ(タイケルブ)、パニツムマブ(ベクティビックス)、セツキシマブ(アービタックス)、ペミガチニブ(ペマジール)、など
手足症候群(てあししょうこうぐん)
症状 手のひらや足底の部分的な紅斑から始まり、荷重がかかる部位の皮膚が硬くなって腫れたりします。痛みを伴うことが多く、進行すると水ぶくれを形成したりします(急激に起こる)。
患者さんの訴え むずむずする、痛痒い、皮膚が突っ張った感じ、痛い、歩けない、やけどしたみたいになった、 など
病態・原因 角質層が厚い、手のひらや足の裏に起こります。治療開始後2週目頃から出現し、6~9週までに見られます。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
ソラフェニブ(ネクサバール)、アキシチニブ(インライタ)、レゴラフェニブ(スチバーガ)、スニチニブ(スーテント)、パゾパニブ(ヴォトリエント)、レンバチニブ(レンビマ)、ダブラフェニブ(タフィンラー)、など
皮膚乾燥症(ひふかんそうしょう)
症状 皮膚が乾燥してかゆみを伴います。進行すると皮膚が硬く厚くなって、カサつき、手足の先端や踵などがひび割れを起こしやすくなります。
患者さんの訴え カサカサします、白い粉がふきます、かゆい、ひび割れてきた、痛痒い、 など
病態・原因 治療後3~5週間後に角質層の水分保持能力が低下し、著しく乾燥します。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
ゲフィチニブ(イレッサ、ゲフィチニブ)、エルロチニブ(タルセバ)、アファチニブ(ジオトリフ)、オシメルチニブ(タグリッソ)、ダコミチニブ(ビジンプロ)、ラパチニブ(タイケルブ)、エヌトレクチニブ(ロズリートレク)、パニツムマブ(ベクティビックス)、セツキシマブ(アービタックス)、アキシチニブ(インライタ)、スニチニブ(スーテント)、ダサチニブ(スプリセル、ダサチニブ)、エンホルツマブ ベドチン(パドセブ)、など

主な症状の解説と起こしやすい免疫チェックポイント阻害薬

白髪・白斑(皮膚色素減少症)
症状 全身のどこにでも出現します。白斑の大きさや形はさまざまです。
患者さんの訴え 毛が抜けちゃった、白髪が増えた、 など
病態・原因 免疫機能により色素を生成するメラニン細胞が攻撃を受けて、メラニンの生成が障害されると考えられています。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
ニボルマブ(オプジーボ)、イピリムマブ(ヤーボイ)、ペンブロリズマブ(キイトルーダ)、など
紅斑(こうはん)・多型紅斑(たけいこうはん)および丘疹(きゅうしん)
症状 赤い皮疹を「紅斑」といいます。そしてポチポツと盛り上がった皮疹を「丘疹」と言います。免疫チェックポイント阻害薬ではこの両方が同時に出現することがあり、全身のどこでも出現します。その他に、面積がふぞろいのものが混在した「多型紅斑」が出現することがあります。
患者さんの訴え かゆい、皮膚が赤くなった など
病態・原因 免疫チェックポイント阻害薬による紅斑および丘疹が出現する明確なメカニズムはわかっていません。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
ニボルマブ(オプジーボ)、イピリムマブ(ヤーボイ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、など
乾癬(かんせん)
症状 くっきりと赤く盛り上がった斑点で、斑点の表面が白または銀色の鱗屑(りんせつ;うろこ状の皮膚の垢)を伴います。
患者さんの訴え かゆい、粉がでる、カサカサになる など
病態・原因 「乾癬」は角質が炎症を起こして発症すると考えられていますが(下図参照)、免疫チェックポイント阻害薬による発症のメカニズムは解明できていないのが現状です。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
ニボルマブ(オプジーボ)、ペムブロリズマブ(キイトルーダ)、アテゾリズマブ(テセントリク)、アベルマブ(バベンチオ)、など

主な症状の解説と起こしやすいホルモン療法薬

多型紅斑(たけいこうはん)
症状 全身に様々な大きさと形の赤く盛り上がった皮疹が出現します。この薬剤による皮疹は、比較的ゆっくり(数週~数カ月)に出現します。
患者さんの訴え かゆい、皮膚が赤くなった など
病態・原因 明確な原因はわかっていません。
抗がん剤名
(一般名)
()内は商品名
アパルタミド(アーリーダ)

※薬の一般名と商品名
 「一般名」とは薬の有効成分を示す名前です。これに対して「商品名」とは製薬会社が医薬品を販売するためにつけた名前です。

抗がん剤治療と皮膚障害

抗がん剤治療と皮膚障害