講座Q&A集 2005年度
市民公開講座第1回(2005年10月19日実施)
がん医療を受ける時-必要な知識と心構え
Q1.インフォームドコンセント、セカンドオピニオンという言葉はよく耳にするようになりましたが、その実施にあたっては医療機関による格差がまだまだ大きいと思います。格差是正に向けての取り組みはあるのでしょうか?
- 他の医療機関の状況についてコメントできるだけの情報は持ち合わせていませんが、個々の機関、あるいは医師一人ひとりによって対応は様々だと思います。最近、積極的にインフォームド・コンセント、セカンド・オピニオンに対応することを、患者さんへの説明文書等に明記する機関が増えています。インフォームド・コンセントについては、患者さんが気づきにくい形で、すなわち、かなり医師が断定的に治療方針を説明し、医師はインフォームド・コンセントを提示したつもりだが、患者さんはその説明がなかったと誤解することもあるようです。セカンド・オピニオンについては、医師の側から、話を持ちかけることは少ないので、患者さんの側から希望を伝えるのが一般的です。現在、厚生労働省は、地域がん診療拠点病院の整備を進めており、静岡県でも、静岡がんセンターを含む4病院が指定されました。こういう病院に医療相談室を充実させ、セカンドオピニオンに対応させるという計画が進行中です。
Q2.他の医療機関で診断を受けた病気について、静岡がんセンターでの診療を希望する時には、セカンドオピニオンを受ければよいのでしょうか?
- セカンド・オピニオンをきっかけに、別な病院で治療を受けるという考え方は誤りです。セカンド・オピニオンは、治療はあくまで、現在の担当医にお願いするが、現在の担当医の治療方針が正しいかの判断を他の専門家に問うという手法です。従って、静岡がんセンターにセカンド・オピニオンでお出でいただいた患者さんは、原則として、紹介元の病院に意見を持参し、紹介元の病院で治療を受けて頂きます。最初から、静岡がんセンターでの治療を希望する場合、あるいは、セカンド・オピニオンの結果、静岡がんセンターでの治療を希望される場合には、紹介元の病院の担当医に、静岡がんセンターに対する診療依頼書を作成してもらい、受診して頂くことになります。
Q3.告知に関してお聞きします。私自身ががんを患った場合、本人だけへの告知ではだめでしょうか?また、家族ががんを患った場合、本人への告知は必要でしょうか?
- がんの告知は、様々な状況下でなされます。現在の医療では、告知の対象者は、原則として、患者さん本人です。本人が希望した場合には、家族にその内容が伝えられます。がんとの闘いの中で、家族の励ましは大切なので、ほよどのことがない限り、本人と共に、家族の方にも告知をさせて頂くことを多くの医師が求めていると思います。生命倫理学的に厳格な医師であれば、家族に告知する前に、患者さん本人に、家族に伝えて良いかを確認します。逆に、家族ががんにかかった場合には、本人に告知をすることが原則です。様々な理由で、本人への告知が困難なこともあります。状況に応じて、医師を中心に相談されることをお薦めします。
Q4.家族の者でなかなかタバコがやめられない者がおります。食生活も自分でコントロールしません。どうしたら自覚してくれるでしょうか?特にタバコはどうしたらやめられますか?
- タバコは、ニコチンでやめられなくなった状況が作り、有害物質を吸い込むという嗜好品です。従って、普通の嗜好品よりも、大変やめにくいのは事実です。しかし、今は、昔のように精神論でやめねばならないということではなく、禁煙のためのニコチンパッチやガムが作られていて、格段に禁煙しやすくなっています。本人に、禁煙外来の受診を勧めたらいかがでしょうか?また、喫煙の害を、ねばり強く訴えることも大切です。ヘビースモーカーの2人に1人は、タバコの害で若死にします。現在、静岡県下の小学5,6年生全員に、防煙教育のための下敷きを配布しています。周りにそういう方がおられたら、見せて頂くことも一つの方法です。講座の担当者に申し出て頂ければ、下敷きをおわけします。食生活については、確かに、内容の調整になるので難しさは増します。最近、発表された厚生労働省の食生活ガイドラインは参考になります。
Q5.陽子線治療の個人負担は300万円かかると聞きましたが、保険は使えないのでしょうか?また、高額医療の対象になるのでしょうか?
- 残念ですが、陽子線治療は健康保険や高額医療費減免措置(高額療養費制度)の対象にはなっていません。従って、全額が自己負担になります。静岡県内の銀行が、この治療のためのローンを組み、静岡県も低所得者のための利子補給を実践してい ます。
がん情報を手に入れよう
Q1.PETについて詳しい情報を得るにはどうしたら良いでしょうか?
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インターネットでは「社団法人日本アイソトープ協会(http://www.jrias.or.jp/index.cfm/1.html)」のHPを見ていただきますと、その中の「核医学・PET検査」のページ、「PET検査Q&A」が参考になります。これはPET検査とはどのようなものか、核医学専門医がわかりやすく解説したものです。(PET施設一覧もあります)「あすなろ図書館」には上記の冊子やPET検査について解説されている資料が数点あります。また、当院の職員が、市民向けの講演の中でPETについて話をしているビデオがあります。貸出可能ですのでご利用下さい。
Q2.静岡がんセンターの疾病管理センターでは、抗がん剤の情報、未承認薬の治療を行った場合の医療費等の情報が得られるでしょうか?
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疾病管理センターを窓口に、抗がん剤の情報を入手して頂くことは可能です。また、「あすなろ図書館」には抗がん剤治療や抗がん剤についての資料があります。 未承認薬の医療費については、静岡がんセンターで実施している臨床試験の場合には、情報提供が可能です。
Q3.この病気にはこの先生、この治療法ならこの病院、という情報を入手するにはどうしたら良いでしょうか?
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優れた医師や医療機関を紹介する客観的な情報は入手困難です。一般的な書物として、病院のランキング本やそれが特集されている雑誌などの情報がありますが、専門家の立場から見て、必ずしも正しいとは思えないものも多数存在します。なお、静岡県ではHPで静岡県医療機能調査を公表しています。(http://www.pref.shizuoka.jp/kenhuku/kf-01/kikakukeiri/suijun/untitled_002.html)ここでは県内の病院の主な病気の手術や医療処置の件数がわかりますので、ひとつの参考資料になります。
市民公開講座第2回(2005年11月26日実施)
肝臓がん-診断から治療まで
Q1.経皮的エタノール注入療法は、どのような病巣、症状に対して行われるのでしょうか?
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経皮的エタノール注入療法は、腫瘍の大きさが3cm以下、個数が3個以下の肝細胞がんの治療に適しています。 その中でも、腫瘍の大きさが2cm未満で肝機能が中等度に悪化している場合には特によい方法です。 ただし、最近ではラジオ波焼灼療法が普及したため、経皮的エタノール注入療法が行われる頻度が以前よりも減りました。経皮的エタノール注入療法は、ラジオ波焼灼療法よりも合併症を起こす頻度は低いものの、局所再発率は高いと考えられています。なお、症状と治療法の選択とは、関係がありません。
Q2.GOT、GPTの検査はどのような意味があるのでしょうか?
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GOT、GPTはその時点で肝細胞がどの程度の勢いで壊れているかを表す数字です。従って、肝炎がまさに進んでいる時期には高くなります。逆に肝予備能が低下してしまった肝硬変であっても、肝臓の炎症としては落ち着いた時期であれば、GOT、GPTは一見正常な値をとる場合があります。GOT、GPTが正常値であっても、必ずしも肝臓の働きがよいとは言えないわけです。
Q3.毎年検診で中性脂肪値の高値と脂肪肝を指摘されます。肥満は肝がん発生のリスクになりますか?
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中性脂肪が高い肥満体の人が肝細胞がんになりやすいということはありません。
ただし、脂肪肝の中でも非アルコール性脂肪性肝炎と言われる特殊な脂肪肝の場合には、徐々に進行して肝硬変になったり肝細胞がんができたりすることが知られています。またアルコールの大量摂取も肝細胞がんの危険因子として知られています。
Q4.肝硬変や肝がんと食道静脈瘤の関係について、また、その治療法を教えてください。
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肝硬変症で肝臓が硬くなった場合、あるいは肝がんが門脈の中に進展していった場合には、門脈圧が高くなり、食道に静脈瘤ができます。すなわち、食道静脈瘤は門脈血の迂回路といえます。静脈瘤がひどくなると吐血の原因になります。治療法にはさまざまなものがありますが、内視鏡で破裂しそうな静脈瘤が見つかった場合には、内視鏡的食道静脈瘤結紮術(内視鏡下に、静脈瘤にゴムバンドをしてしまう方法)などを行うのが一般的です。
Q5.肝がんの末期は非常に苦しいと聞きます。その痛みを和らげるにはどんな方法があるのでしょうか?
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痛みに対しては、軽いものであれば各種の鎮痛剤を使います。つらい痛みに対してはモルヒネなどの麻薬が有効です。静岡がんセンターには、がんに伴うつらい症状をとることを専門にしている緩和医療科があり、痛み止めを初めとするいろいろなお薬を用いて、なるべく苦しくなく過ごしていただけるよう、援助・治療をしています。
Q6.肝炎の症状を教えてください。また肝炎ウィルスに感染しても肝炎にならない予防法はありますか?
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肝炎になっても、症状があるときとないときがあります。たとえばC型肝炎ウイルスに感染しても、多くの場合は知らないうちに慢性肝炎になっています。実際に肝炎ウイルスを持っている場合には、講演でもお話したように、インターフェロンなどでウイルス駆除をすることができる場合があります。
詳しくは、主治医の先生、または肝臓内科医に御相談下さい。
Q7.B型肝炎にかかると肝がんになりやすいですか?なりやすいとするならば、予防法はありますか?
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B型肝炎にかかると、C型肝炎と同様に肝がんになりやすいと言えます。
いったん感染してしまうと、肝がんになることを100%予防する方法は残念ながらありません。 C型肝炎では、インターフェロンによるウイルス駆除療法やグリチルリチンによる肝機能の安定化が発がん予防につながることが証明されていますが、B型肝炎の場合は、こうした治療が発がん予防につながることは証明されていません。
定期的な検査を受けて、仮にがんができても早めに発見することが大切です。
Q8.肝がんの発生に関与する肝炎ウィルスを検査する方法や感染経路・予防策について教えてください。
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まず、ウイルス感染を調べる方法ですが、採血を行ってB型あるいはC型肝炎ウイルスのチェックを行います。これらの項目は、一般の成人病検診には含まれていません。C型肝炎は、感染している人の血液が直接体内に入ってくることによって感染します。具体的には、注射針や注射器を感染した人と共用した場合、刺青やピアスなどに際して感染している人に用いた器具を十分消毒しないで用いた場合、歯ブラシやかみそりなど血液がついているものを共用した場合、などがこれにあたります。
こうした行為を行わないことがウイルス感染を防ぐ予防法といえます。B型肝炎もC型肝炎同様、感染している人の血液を介して感染します。 さらにB型肝炎は性行為によっても感染する危険性が高い肝炎です。性行為にコンドームを用いることは、B型肝炎の感染を予防します。
Q9.輸血を受けるとC型肝炎になる可能性があると聞きましたが、なぜですか?また、確立はどのくらいですか?
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輸血は通常献血で集められた血液を使用します。昔と違って、現在ではC型肝炎のウイルスを高感度に検出する方法があるので、献血に際しては供血者がC型肝炎に感染しているかどうか必ずチェックされます。 ただし、C型肝炎に感染したごく初期に献血をすると、この検査をすり抜けてしまう場合があります。 従って、現在では輸血でC型肝炎に感染する率は極めて低いと言えますが、全くないわけではありません。
厚生労働省や日本赤十字社は肝炎ウイルス感染の検査目的に献血することのないよう、呼びかけています。
Q10.C型肝炎の患者は減少する傾向と聞きましたが、理由について教えてください。
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C型肝炎は、将来的には減少すると考えられています。
現在ではC型肝炎のウイルスを持っているかどうか簡単に検査できますので、以前にみられたような輸血等を介する感染が激減したからです。
Q11.C型肝炎ウィルスは家族間で感染するのでしょうか?また、遺伝と関係はありますか?
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C型肝炎ウイルスの家庭内感染はまれと考えられています。特に遺伝とは全く関係がありません。
家庭内で感染がおこるとすれば、感染者の血液に直接触れたような時だけです。従って、歯ブラシやかみそりなどを家族で共用するのはやめましょう。
Q12.家族がB型およびC型の慢性肝炎の診断を受けました。将来肝がんになってしまうのではないか大変不安です。不安の対処法についてアドバイスをお願いします。
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結果的に肝硬変や肝がんになるかどうかはわかりませんが、やはり肝炎ウイルスを持っていない人に比べれば、その危険性は明らかに高いのは事実です。
きちんと病院にかかって肝機能をなるべく安定させておくこと、肝がんができていないか定期的にチェックしてもらうことが大切です。御家族としても、御本人が前向きに治療・検査を受けられるよう、精神的な援助をしていただきたいと思います。
がんの手術を受ける時-麻酔科医の役割-
Q1.手術における麻酔の目的について教えてください。
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手術をするためには痛みをとるために必ず麻酔を行います。がんの手術は一般的に長時間の手術が多く、全身麻酔をしますが、肺や胃、腸、肝臓などの手術は手術後の痛みが強いため硬膜外麻酔を一緒にすることが多いです。
Q2.吐き気や頭痛などの麻酔の後遺症予防について教えてください。
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吐き気、頭痛は一時的なものですから後遺症とは言いませんが、辛い合併症です。
強い症状の場合は吐き気止めや痛み止めを使います。
Q3.麻酔の合併症について教えてください。
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麻酔の合併症は数多くあり、すべては述べられませんので、命にかかわる重篤なもののみお答えします。全身麻酔は呼吸を弱めますので、人工呼吸を必要としますが、麻酔の一番怖い合併症は麻酔中に呼吸が十分にできない事態に陥ることです。
気管挿管ができない、ぜんそく発作がおきる、人工呼吸器の不具合、人工呼吸から自分の力で呼吸ができるまでの間に起きるトラブルなどです。また、血圧が下がったり、重篤な不整脈が起きているのに気づくのが遅れ(この原因は麻酔だけではありません、手術操作でも起きます)適切な処置が遅れることです。いづれも心停止の危険がありますし、脳を傷つける(意識が戻らない)可能性があり、死亡することもあります。アレルギー反応によるショックも稀にあります。合併症を起こさないことは大切ですが、起きた場合、できるだけ早く 適切な処置をすることが重篤な後遺症を残さないためにより重要です。
Q4.硬膜外麻酔はどの位の期間、投与できるのでしょうか?
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硬膜外麻酔に使う管は異物ですから感染の危険が常にあります。通常は3,4日間、長くて1週間以内にとどめます。
Q5.麻酔科医が緩和医療に関わっているとの話でしたが、緩和医療における麻酔科医の役割について教えてください。
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がんの疼痛によっては、硬膜外麻酔や神経ブロックが有効で、鎮痛剤の使用を減らすことができますので処置を依頼されることがあります。また、麻酔科出身の医師が専従で緩和医療を担っている施設もあります。
市民公開講座第3回(2005年12月24日実施)
前立腺がん-診断から治療まで
Q1.PSA値が高値であってもがんと診断されない場合、どのくらいの間隔で受診したら良いでしょうか?
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至適なスパンは解明されていませんが、概ね 4-6M毎のチェックを提案する事が一般的です。あまり短い間隔では、PSAは変動のある数値なので、現実的では有りません。
Q2.PSAは前立腺だけでつくられるタンパク質と伺いましたが、手術で前立腺を全摘した場合は、PSA値は0になるのではないですか?また、経過観察で0.4~0.2以下がOKなのはどうしてですか?
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極めて論理的なご質問です。理論上はその通りです。解剖学的には男性尿道粘膜の一部、直腸粘膜の一部にPSA産生能がある事が知られています。通常これらから分泌されるPSAは測定限界以下とされており、血液検査で検出される事は無いと理解されていますが、詳しい事は判っていません。
実際には、術後の患者さんでもPSAが 0.1程度で 5年6年と横這いの患者さんは少なからず居られます。ずっと横這いのPSAを再発と定義すべきではないと考えられています。ところがPSAが 0.4を超えるとその後は上昇と一途であるという複数のデータや、場合によっては 0.2で分けても同様にその後は上昇の一途であるとのデータが示された事が、再発の定義の一つの根拠です。また再発後の治療の面から考えますと、再発後の治療の一つに放射線療法があります。術後PSAの上昇を待たないで放射線を実施した場合と、PSAの上昇を待ってから放射線治療をした場合の比較試験は実施されており、術後PSAの上昇を伴わない(術後のPSAが 0.4以下の)状況での放射線治療にはメリットが無い事も判っています。
Q3.どのような時にPSA検診を受けたら良いでしょうか?
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症状がある時は、医療機関での相談(受診)が一般的です。原則的に検診は無症状でも実施する検査です。概ね 50才以上の男性にPSA検診が提案されています。
Q4.一般的に前立腺がんは画像診断ではとらえるのは難しいのでしょうか?また、他の臓器のがんも同じでしょうか?
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すべての前立腺がんが画像診断で見えない訳ではありません。最近MRIの進歩で、今まで画像ではキャッチ出来なかった病変も抽出可能になりつつあります。しかし、他のがんに比べて、画像診断で見えにくいがんであることは確かです。一般的に画像でみえ易いがんは、がんとがんでない部分の性質が大きく違う場合です。
例えば肺がんは、がんでないところの殆どが空気であるのに対してがんの部分は「肉」ですから、がんが見えやすいといえます。しかし肺がんでも放射線治療後はがんでないところも繊維化がおこるので、がんの輪郭がみえにくくなります。がんが画像で見え易いか、見え難いかは、それぞれの臓器、がんの種類によって様々であり、一概に小さな紙幅で説明する事は難しいようです。
Q5.生検でそれがおとなしいものか、たちの悪いものかをどのように見分けるのでしょうか?
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生検とは組織をとる事ですが、顕微鏡で観察して、正常細胞とどれくらい異なっているか(=異型)を見ます。がん細胞の配列の仕方(構造異型)とがん細胞1つ1つの形(細胞異型)を観察し、がんではあるが正常細胞に近いがんを「おとなしい」、正常細胞からかけ離れた構造のがんを「たちが悪い」とします。
Q6.病期や治療法などで、生存率はどのくらい異なるのでしょうか?
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切羽詰ったご質問だと承りますが、限られた紙幅ではお答えが難しいですね。
自分の場合は?とご担当の先生と相談してください。データをご覧になる時は、以下の事に留意してください。寿命=生存率としてお話しますが、○○の病気(前立腺がんT2N0M0とか)に△△の治療(放射線70Gyを全骨盤に40Gy、前立腺に30Gy照射)をしたときの10年生存率と申し上げた場合、全生存率と疾患特異性生存率があります。全生存率とは、交通事故や自殺でなくなった患者さんも含めて生存率を表現する方法です。この方法は、極めて公平といえますが、受診された患者さんの平均年齢が65才の病院と、70才の病院では比較が出来ないことになります。都会は高齢者が少なく、地方は高齢者が多い事はご存知の通りですので、少なくとも調査対象の平均年齢を把握する必要があります。
一方、疾患特異性生存率とは、交通事故でなくなった患者さんは、交通事故までは生存しておられたとして扱い、前立腺がんで亡くなった患者さんだけを死亡として扱う方法です。一見わかり易いようですが、不当に高い生存率を示す危惧があります。
放射線治療に二次がんのリスクがあることは、講演したとおりですが、二次がんで亡くなった人がカウントされなくなります。ホルモン療法も薬の種類によっては、狭心症が増える事が判っています。ホルモン療法の治療成績を狭心症で亡くなった人を除いて集計する事は問題です。従って、治療法が異なる場合の比較には適切ではありません。(手術と放射線とどちらが長生きかの比較に疾患特異性生存率は向かない)ご参考までに、アメリカのメイヨークリニックにおいて、T2N0M0前立腺がんに対して、前立腺全摘を実施した場合の10年全生存率は75%、疾患特異性生存率は
90%と報告されています。
Q7.前立腺がんの治療方法は欧米諸国と比べて違いがありますか?
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米国では、勃起機能を大事にする患者さんが多いようです。また、放射線に対する法律が日本とはかなり異なり(規則が緩やか)ます。従って、勃起機能を温存する治療を選択される患者さんが多いといえます。体内に放射線物質を埋め込む内照射(Brachy)も日本より盛んに行われているようです。一方、Caucasoid(白人人種)はMongoloid(黄色人種)に比べて、血管の疾患が多く、先の勃起を大事にする事と相まって、ホルモン療法はあまり盛んではないとされています。また、北欧では、日本や米国に比べて、無治療の選択が多いようです。国による治療方針の違いは、やはりその国々での人生の質に対する考え方からいえると思います。
Q8.前立腺がんのホルモン治療はどの位の期間が必要ですか?
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ホルモン療法は「がんを根こそぎ退治」する治療ではなく、「がんの勢いを抑える」治療です。従って、治療を継続されることが一般的です。がんの勢いを十分抑えられているときに、しばらく治療を休止することは可能と思います。
Q9.ホルモン治療の薬に抵抗性を認められた場合は、どのような治療を行っていくのですか?
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あるホルモン治療の薬に対して抵抗性を認めた場合は、別の薬剤を投与する事により、効果が見られる事が少なくありません。日本で入手可能なホルモン療法治療薬は、すべて試みる価値はあると言えます。また、抗がん剤を試してみる方法もあります。がんを縮める為の治療では、有効性が乏しい割りに、副作用が大きいと判断した場合は、がんを縮めることを積極的に止めて、症状緩和につとめる事が、ベストの場合もあります。
Q10.前立腺がんの化学療法の奏効率はどのくらいでしょうか?
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従来は前立腺がんに対する抗がん剤は有望な薬はないとされてきました。近年ドセタキセルという薬が、ホルモン抵抗性の前立腺がん患者さんに対して有望であると海外のデータが示され、日本でも承認の準備中です。
Q11.前立腺がんは骨転移すると聞きましたが、肝臓への転移は何%くらいあるのでしょうか?
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がんが進行した状態では、肝転移は決して稀ではありませんが、通常最初の転移が肝臓である確立は非常に低いとされています。私個人的には肝臓への初発転移(骨にもリンパ節にも転移はないが、肝臓だけに転移がある状態)は、診察した経験はありません。
放射線治療と陽子線治療-副作用を減らすには
Q1.陽子線治療は抗がん剤に変わる医療になるのでしょうか?
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陽子線治療は局所治療です。多くの場合、抗がん剤投与による全身化学療法とは目標が異なります。
Q2.陽子線治療のときにも皮膚のびらんができやすいのですか?
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皮膚への線量が一定のレベルを超えると、相応の反応として一時的な湿性皮膚炎(びらん)が生じることは陽子線治療でも同じです。
Q3.IMRT(強度変調放射線治療)、呼吸同期照射は、主にどこのがんに有効ですか?
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IMRTは頭頸部がんや前立腺がんに実施されている施設があります。呼吸同期照射は肺や肝臓の陽子線治療で用いられています。
Q4.放射線治療は再発などがあった場合、繰り返し受けることができるのでしょうか?
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正常の組織や臓器・器官が耐えられる限度(耐容線量)が知られており、それを越える照射は重い後遺症発生の可能性を高めると推定されるので、特別な事情がない限りは通常は行いません。
Q5.放射線治療を受ける場合、患者として何について確認したら良いでしょうか?
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一般的にはご自身が受ける放射線治療の目標、治療方法、予測される副作用(有害反応)などを、担当の放射線治療医から治療開始前によく説明を受けることが基本です。
Q6.頭頸部に放射線治療を受けたのですが、唾液分泌障害や嚥下障害などの後遺症があります。この後遺症は治らないのでしょうか?また、なにか良い対処法がありますか?
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通常分割法で60G/30回の線量が耳下腺などの大唾液腺全体に投与されると、唾液分泌機能の回復は期待できません。顎下腺や舌下腺への線量とも関係しますが、頭頸部の放射線治療に伴う口腔乾燥症状の改善に対して適応をもつ塩酸ピロカルピン製剤が最近承認されました。ただし狭心症や喘息など心臓や肺に疾患をお持ちの患者さんには使用できません。
Q7.静岡がんセンターでは、今後、小線源治療を導入する予定はありますか?
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高線量率小線源治療装置が設置されています。ご質問は早期前立腺がんに対する「低線量率線源による組織内小線源治療法」のことと思われますが、ヨード-125線源永久刺入治療法関連装置に対する予算を請求中です。
市民公開講座第4回(2006年1月14日実施)
整形領域のがんと骨転移
Q1.人工関節が入っていると、MRIは通常不可能なのでしょうか?また、腫瘍用の人工関節はMRIが可能なのでしょうか?
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通常の人工関節では、磁性体金属を含むので、この周囲の腫瘍にMRIをおこなっても情報が得られません。ただし、この関節から離れたところの検査であれば可能です。
腫瘍用の人工関節は、チタン合金で作られているものもあり、MRIでも影響が少ないですが、必ずしも良好な情報が得られるわけではありません。
Q2.骨シンチはどの位の頻度で検査していくのですか?
Q3.自己骨を戻す場合、熱処理などによる影響について教えてください。
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熱処理骨とはいえ、体外に出して熱を加えるのですから、いったん死んだ骨になります。したがって、これだけでは成長しません。通常は、これに血管つきの骨移植を加えて、血流の再開を待ちます。
Q4.整形外科領域のがんと骨転移における骨シンチ、PET検査について詳しく教えてください。
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骨シンチは骨の異常を見る検査としては、もっとも敏感な検査です。しかし、骨の腫瘍のほかに、炎症や、小さな骨折なども敏感に反映するために時に骨転移と誤認することがあります。また、脳腫瘍や、肝臓癌、甲状腺癌などでは陽性に出ないことがあります。PET検査は、骨の病変のほかに、リンパ節や、内臓の中の悪性腫瘍も反映するので、きわめて敏感な検査です。しかし、骨を豊富に形成するような癌(たとえば、前立腺がんの転移や骨肉腫など)では陽性に出ないことがあります。また、PETは県内に3施設にしかない検査です。
Q5.骨転移の病変がレントゲン検査ではわからないことがあるのでしょうか?
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リンパ腫や胃がんの一部など、骨髄内に病変を作っても、骨を大きく破壊することの少ない腫瘍では、骨転移がレントゲンでわからないことがあります。骨シンチを行っても、肝臓癌や骨髄腫では陽性に出ないことがあります。MRIなどの検査を組み合わせて、総合的に判断しないと診断にいたらないこともあります。
Q6.骨転移の治療の場合、放射線治療、陽子線治療、重粒子線治療では、効果的に差異がありますか?
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骨転移の放射線治療は、通常のレントゲン線による治療が原則です。陽子線、重粒子線は治療対象が重要臓器に近接し、小さい場合に威力を発揮しますが、骨転移で対象となることはほとんどありません。
Q7.頭蓋骨に転移があった場合どのような治療をするのか教えてください。
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頭蓋骨転移だけに対して積極的な治療はしません。大きくなって脳を圧迫したり、脳の表面の硬膜の中に浸潤してくるようであれば放射線治療の対象になります。
Q8.前立腺がんで肋骨と骨盤に転移があり、現在無治療で経過観察中です。今後症状が出現した場合はどのような治療法がありますか?
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前立腺がんは最も放射線治療の効果が高い癌のうちのひとつです。したがって、骨転移については放射線治療が原則です。しかし、骨転移があっても日常生活にさほど支障の無い状態であれば、ホルモンや、抗がん剤治療の効果を待ってからでもいいです。
Q9.骨転移は非常に痛いと聞きますが、具体的にどのような痛みなのでしょうか?
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脊椎転移は、体の大黒柱が破壊されるわけですから、起居動作の際に支えが無いと大変になります。頚椎への転移では、手とかカラーなどの支えが無いと、首を動かすのがつらい状態になります。大腿骨への転移では、片足で立つのがとても大変になります。上腕骨への転移では、物を持って持ち上げることが痛みと脱力で困難になります。
Q10.骨転移をした場合でも腫瘍マーカーに数値として現れますか?
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もとの癌で腫瘍マーカーが高かったのであれば、骨転移でもマーカーが上がります。
しかし、最初から腫瘍マーカーが上がらない癌もありますので、この場合には骨転移の場合にも指標になりません。
Q11.治療が終了して5年以上が経ちますが、少しでも痛みがあると、骨転移が気になってしまいます。どのような心構えでいたら良いでしょうか?
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骨転移の不安はいつまでもあります(乳癌の場合には15年、20年たっても骨転移が起ります)。しかし、骨転移で怖いのは、骨が弱くなって骨折を生じたり、背骨が潰れて麻痺になったりすることで、この兆候が出始めてから治療しても遅いわけではありません。癌の既往のある人は、骨の痛みがある場合には、念のために骨転移を疑って検査することが必要ですが、逆に骨の転移が早めに見つかっても、日常生活に支障がなければすぐには治療を要さないこともあります。
Q12.軟部腫瘍の検査は専門病院で受けることが必要だと聞きました。静岡がんセンターで検査を受ける場合はホームドクターの紹介状が必要ですか?
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軟部腫瘍の大部分は、脂肪腫とかガングリオンといわれる良性の病変です。
したがって、腫瘤に気づいたらまずホームドクターに相談されるのがいいかと思いますが、講演でも述べたように5cm以上で、皮膚より深いところにある腫瘍では悪性腫瘍の可能性がありますから、当院に紹介していただくようにお願いされたほうがいいかもしれません。
不安を覚えたら、どう対処する?
Q1.どのような経緯で精神腫瘍科を受診するケースが多いのでしょうか?
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各一般診療科の医師からの初診依頼が最多で8割を占めます。その他、看護師、心理士の順になります。精神科というと名前に敷居の高さを感じられる方もいらっしゃるので、受診前に主治医に精神腫瘍受診の必要性について確認をとっていただきています。
Q2.あまりひどくない状態で精神腫瘍科を受診しても良いのでしょうか?
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「念のため」の受診は歓迎されるべきでしょう。薬物治療が不要と判断された場合には、また必要を感じた時に再診すればよいのです。基本的にはごく軽症であれば、周囲の方々のサポートで十分対応できます。
Q3.不安な状態が続く場合、うつ病と診断されるのはどの位の期間が目安でしょうか?
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診断基準では2週間以上、うつ病の症状が持続していることが明記されていますので、この基準に準じて判断します。ただし、病名告知後の動揺が大きく、適切な支持的反応がなければ、うつ病に到達する可能性が高いと判断される場合もあるので、柔軟に判断しています。
Q4.うつ病の治療には心と体の休養が大事だと伺いましたが、おおよそどの位の期間、休養が必要でしょうか?また、職場復帰までにはどの位かかるのでしょうか?
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早期発見と早期治療(対応)が重要です。対応が早いと回復も一般的には早いとされています。治療上、抗うつ薬などの薬物を投与して状態安定後数ヶ月してから、復職に移っていくのが標準的です。軽症ならば休職は不要ですし、中等症の場合の休職期間は3ヶ月くらいが目安でしょう。がんの場合、経過の中で様々なことが起き、ストレスが多彩になることがありますので、慎重に対応する必要があります。
Q5.絶望の状態にある人にカウンセリングで共感を示すと、さらに迷路に入り、結果、自殺を考えるような方向にいってしまうことはありませんか?
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そのような場合は入院対応と考えられます。ゆっくり眠ることが必要かつ有効です。
入院に拒否的な場合には、ご家族の確実な協力を要請します。会話するほどに悪循環に陥る場合、翌日に再診することも少なくありません。
市民公開講座第5回(2006年2月11日実施)
抗がん剤治療の基礎知識
Q1.日本で抗がん剤治療の標準治療が普及していない理由はどのような事が考えられますか?また、標準治療を実施している病院をどのような方法で知ることができますか?
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抗がん剤治療は手間がかかる割に、収支が悪いため、病院経営の点からみると、病院全体としての抗がん剤治療をサポートするシステムが構築しておらず、医師の個人的な努力にまかされていることが大きな原因の一つであると思われます。また、このような状況では、残念ながら日本では外科の先生がお忙しい手術の合間で抗がん剤治療を行っておられることが多いため、標準治療よりも副作用と手間の少ない治療を選ばれる傾向があるようです。さらに、米国では標準治療を行わない医者が訴えられた場合には、裁判にも負けるでしょうが、日本では「お医者様はいいことをしてくれるに違いない」とまかせきりになっていることも影響していると思います。標準治療をしているかどうかは病院単位で異なるのではなく、診療科または担当医師によって異なります。まずは最初に見ていただいた先生に「標準治療かどうか」を確認されて、標準でなかった場合には「標準治療をされている医師」を紹介いただくことがいいかと思います。
Q2.日本では、標準治療を普及させる為にどのようなことがなされていますか?
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日本臨床腫瘍学会などが、抗がん剤癌治療専門医の育成、認定などの努力をしております。
Q3.標準治療のガイドラインは誰でも入手することができますか?
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米国NCCNのガイドラインはinternetで入手可能です。(英語で記載されておりますが)。日本語では、胃癌学会、大腸癌学会などからもガイドラインがだされていますが、あまり具体的な記載のされかたではないと思われます。
Q4.抗がん剤治療で副作用の出現状態と治療効果と関係がありますか?
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多くの抗がん剤では、副作用のでかたと効果との間には明らかな関係はありません。
Q5.白血球が減少すると治療を中止しなくてはならない、休めば白血球はもとに戻るとの事ですが、事前に減少しないように患者に出来ることや、お薬はありますか?
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現時点では「ありません」としかお答えできませんが、白血球減少を予防するお薬が研究されつつあります。
Q6.認可されている薬と未承認の薬についてもう少し詳しく教えてください。
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認可されているお薬は、厚生労働省がある病気に対して使用を許可したものであり、その費用の一部が保険で支払いがなされます。逆に、認可されていないお薬は、日本人での効果安全性が確認されていないために、一般的には使用しないのが原則です。ただし、海外からの情報や日本で進行中の臨床試験での最新の情報を入手した場合には、未承認薬でも使いたいと思うお薬は少なくありません。上記の原則と使いたい気持ちのバランスが担当医によって異なります。また、認可されていないお薬を使用した場合には、保険から病院に支払いされないため、病院にとって赤字となってしまいます。赤字を覚悟でも使用してもいいという病院と、赤字になるので保険適応以外の使用を許可しない病院があることは、やむを得ないと思います。
さらに、患者様が自己負担でもいいから使いたいとおっしゃっても、自費と保険の混合診療の問題があり、簡単ではありません。
Q7.抗がん剤治療に関する悩みをセカンドオピニオンで確認したり相談するには、どのようにしたら良いでしょうか?
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担当の先生にセカンドオピニオンを聞きたいから紹介状を書いてほしいとおっしゃればいいと思います。ただし、治療開始前のセカンドオピニオンにしていただいた方が有効です。我々も、すでに治療を開始された患者様に対してセカンドオピニオンをご提示しますが、よほどひどい治療を受けていない限り、「この治療は良くない」、「私の治療の方が優れている」と言うことはできません。一旦同意されてから治療が開始されたのであれば、その治療の効果と副作用が確認されるまで、担当医を信頼して治療を続けていただくことをお勧めいたします。
市民公開講座第6回(2006年2月25日実施)
内視鏡検査の上手な受け方
Q1.ITナイフで切除した場合にかかる時間と出血の有無について教えてください。また、日帰りで出来るのでしょうか?
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ITナイフで切除する場合、出血はほぼ必発ですが、多くの場合少量ですので、輸血が必要になることは1%以下です。内視鏡的な手術ですので、日帰りではなく、4-5日入院していただいています。
Q2.がんの浸潤は切除前にどのくらいの正確性をもってわかるものでしょうか?
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内視鏡切除の場合、癌の浸潤があたる確立はだいたい80~90%です。ときには浅いと診断して切除しても深い場合もあります。
Q3.内視鏡手術の翌日はどのようなケアがされているのでしょうか?
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内視鏡切除の翌日に内視鏡検査をして出血の有無やその他の状態を確認しています。
Q4.胃がんと診断され、治療法は外科手術と言われた場合でも内視鏡手術が可能な場合があるのでしょうか?また、他院で診断を受けている場合で、静岡がんセンターの内視鏡科に受診する時はセカンドオピニオンになるのでしょうか?その際、紹介状は必要ですか?
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最初の病院で手術と言われた場合でも、内視鏡手術ができることもあります。もちろん、やはり外科手術ということもありますので、それはケースバイケースです。セカンドオピニオンでも一般診療でもどちらでもよいですが、紹介状があったほうがよいです。
Q5.内視鏡検査の時の麻酔はあまりしないほうが良いのでしょうか?また、使用した場合悪影響があるのでしょうか?
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私の発言が舌足らずだったかもしれませんが、麻酔はしたほうが楽にできます。ただしあまり強い麻酔は呼吸が止まることがあるので避けた方がよいです。
Q6.静岡がんセンターでは、麻酔から覚醒させる薬は使用しないのでしょうか?
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麻酔から覚醒させる薬はありますが、あまり深い麻酔をかけないことと、覚醒させる薬が高価であることから使用しない場合が多いです。
Q7.内視鏡検査前に使用する注射は、緑内障の患者には使用できないのでしょうか?
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胃腸の動きを止めるお薬も、軽い麻酔薬も眼圧に悪影響を及ぼします。緑内障には二種類あり、薬が大丈夫なものもありますので、眼科で診断書をもらってください。
Q8.大腸検査でピロリ菌や、C型肝炎などウィルスに感染する心配はありませんか?また、検査で痛かったりしますが、身体の中が傷ついたりすることはないのでしょうか?
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当院では、スコープを、一人一人国際規格に基づいた消毒をしていますので、感染する心配は限りなく低いです。腹部手術をされた方は癒着のため痛い場合があります。
ポリープをとったりしたときに、出血や穿孔といって穴があく場合が低い確率ですがあり得ます。
がんの顕微鏡診断-ミクロの世界
Q1.一つの臓器中、いろいろな種類のがんが発生することはあるのでしょうか?
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なくはないです。ひとつの臓器で異なった時期に異なった種類のがんが発生する可能性はあります。同時期の場合は、きわめてまれです。
Q2.上皮内がんは細胞の性質自体は良性だと思っていました。基底膜を越えるか越えないかの違いで性質は違うのでしょうか?
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上皮内がんは、細胞の性質自体は良性ではありません。しかし、がんの時期が非常に早期だということです。すなわち、基底膜を越えないうちは、がん細胞の数が増えても体に広がらないでその場にとどまります。基底膜を越えると、急に浸潤という形で体に広がり始めるわけです。したがって、基底膜を越えるか越えないかで、がんの性質は大幅に変わるといってよいでしょう。
Q3.胃がんの高分化腺がんと印環細胞がんとではどちらが悪性度が高いでしょうか?また、再発率が高いのはどちらでしょうか?
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高分化腺がんよりも印環細胞がんのほうがたちが悪いです。従って、再発の確立も高くなっています。
Q4.がんの中には、増殖に「ホルモン」が関与する種類があると聞きましたが、もう少し詳しく教えてください。
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特に、よく知られているのは、前立腺がんです。前立腺がんだと男性ホルモンによって増殖しやすくなっています。男性ホルモンが強く働くと増殖しやすく、女性ホルモンを投与すると、がんの増殖は抑制されることが多いです。しかし、そういうことがあまりおこらないホルモンに依存しない前立腺がんもあります。このことは、乳がんについても似たようなことがわかっています。
Q5.転移が発見されても、原発巣がわからない場合があるのでしょうか?
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がんには、原発巣が容易に見つかることが多いのですが、転移がいくつかの部位に発見されてもその原発巣が不明なことがまれにあります。一つは、画像ではわかりにくい場所であること、いまひとつは、原発巣が非常に小さいことなどが考えられます。しかし、死亡に至って、病理解剖で全身を調べてもわからない場合もきわめてまれにあります。
Q6.再発したがんの組織型が変化することはありますか?
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大きく変わることは少ないです。しかし、よりたちが悪くなる可能性はあります。
Q7.病理診断に使用された組織の標本(スライドガラス)は永久保存されるのでしょうか?
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その通りです。50年後でも大丈夫です。少なくとも、その患者さんが亡くなるまでは保存されています。