県内初 追尾機能を備えた強度変調放射線治療(IMRT)専用機の導入について

2020年11月27日
静岡県立静岡がんセンター

 放射線治療は外科治療、薬物療法とともに、がん治療に欠かせない治療法のひとつです。「切らずに行う局所治療」とも言われますが、手術が困難な方、特に高齢者でも身体に負担の少ない治療として、年々、治療患者数が増加しています。当院の放射線・陽子線治療は、リニアック(エックス線)・陽子線・小線源などを用いて、照射装置の特徴(※1)や腫瘍の性質と大きさ、照射による正常組織への影響等を考慮し、高精度の放射線・陽子線治療を目指しています。この度、治療患者数の増加対応と既存の治療装置を更新するため、新たにリニアック治療室を設け、強度変調放射線治療(IMRT)専用機を設置し、11月24日より治療を開始いたしました。常時4台のリニアック装置が稼働していることになります。

 この数十年間、放射線治療において、放射線治療装置や治療計画技術など、様々な進歩を遂げています。この一つに治療計画の技術進歩があります。治療計画は照射する部位と放射線量を決定するために治療開始前に行う大事な作業で、初期の段階では「フィルムを使用した2次元上での治療計画」が行われていました。CT撮影装置が普及してくると「複数の画像を用いた3次元治療計画」が主流となり、CT撮影装置のレベル向上に伴って「短時間で複数の断面画像を用いた治療計画」が可能となりました。そして、今回導入する装置は、「腫瘍の微細な位置変化を考慮した4次元治療計画」が可能となっています。

 一方、放射線治療装置の進歩においては、腫瘍のみに放射線が当たるという理想に向かって様々な技術が登場しました。向かい合う2方向からの照射、360度あらゆる方向から腫瘍に向かって照射する3次元原体照射、より腫瘍に放射線を集中させるため多くの方向からビームの強さや照射野の形状を変化させながら照射する強度変調放射線治療(IMRT)へと進化してきました。そしてIMRTの技術は、治療中に動きのある腫瘍を追尾しながら照射を行うという段階にきています。

 当院では、国内トップクラスとなる年間およそ1900名(総治療件数32,500件)の治療にあたっています。既存のリニアック放射線治療装置4台のうち強度変調放射線治療(IMRT)は、頭頸部を中心に、肺、食道、腹部、骨軟部、骨盤部、前立腺等を対象にしています。あらたに導入した装置は、呼吸と共に動く臓器や病巣の動きを追尾しながら照射するため、正常組織への照射リスクが下がり、より効果的な治療が可能となります。これまで提供してきた、陽子線治療など高精度治療に新たな技術が加わり、全人的医療を目指す当院の放射線治療の質の向上につながると期待しています。

 ※1:照射装置の特徴:照射法による線量分布の違い
     

◉ IMRT専用装置設置についてのコメント(放射線・陽子線治療センター 沼野真澄(診療放射線技師、医学物理士))

 国内トップクラスの放射線治療実績のある当施設では、装置の入れ替え作業に伴う放射線治療装置の一時的な停止が問題となっていました。今回、「リニアック治療室1」の装置を更新するにあたり、新たに「リニアック治療室5」を整備したことで、4台のリニアック装置を稼働させたまま新たな装置を導入することができました。一般的にリニアックの装置寿命は10年程度と言われており、当施設では数年ごとに更新が必要となります。装置の入れ替えや準備などには半年単位での時間を要することから、常時4台を使用できる環境は、患者さんの治療待機日数の短縮や、スタッフの負担軽減にも大きく寄与すると考えています。

 リニアック治療室5に導入した装置は、白を基調とした明るい雰囲気の部屋に置かれ、従来と異なる丸い外観と相まって、患者さんには穏やかな気持ちで治療を受けていただけると思います。また、安心安全な放射線治療を提供するため多職種で取り組んでいます。医師の診察から始まり、看護師による説明、そしてCT撮影や放射線治療の現場では、放射線技師が携わっています。CTの撮影から放射線治療開始の間には、放射線の性質を熟知した医学物理士が参画することで、IMRTなど精度の高い治療計画を作ることができます。放射線・陽子線治療センターでは、医師、看護師、技師など50名を超える多職種のスタッフが、患者さんをサポートしています。新しい部屋の整備や本装置の導入により、これまで以上に正確で安心できる放射線治療を提供できますようスタッフ一同努力して参ります。

<新規の強度変調放射線治療装置(IMRT)>


リニアック治療室5に設置されたRadixact X9

 

(報道提供資料)
 ・県内初 追尾機能を備えた強度変調放射線治療(IMRT)専用機の導入について(PDF:403KB)

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静岡県立静岡がんセンター マネジメントセンター 医療広報担当
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