「膵がん患者のS-1(エスワン:抗がん剤)術後補助化学療法」が標準治療“グレードA”の推奨診療に

2013年10月24日
静岡県立静岡がんセンター

膵がん治療では、手術による切除が唯一治癒を目指すことができる治療です。しかし、切除可能な症例は20~30%前後にすぎず、たとえ切除されても、術後2年以内に約7割が再発し、切除後の5年生存率はおよそ20%と、最も予後の悪いがん腫の一つとなっています。その改善に向けて、これまでもさまざまな臨床試験が実施されてきましたが、過去30年間、膵がんの切除後の生存率を大幅に引き上げる結果は生み出されてきませんでした。

このような状況下で、2007年から開始された「膵がん切除後の補助化学療法における塩酸ゲムシタビン療法とS-1療法の第Ⅲ相比較試験(JASPAC 01試験※1・2:研究代表:静岡がんセンター 副院長兼肝胆膵外科部長 上坂克彦)」は、膵がん切除後の再発率を下げることを目的として実施され、結果として生存率が大幅に向上する良好な結果が得られました。具体的には、膵がん切除後に、これまで標準的に使われていた塩酸ゲムシタビンのかわりにS-1を使用すると、2年生存率が53%から70%に向上し、その際のS-1のハザード比は0.56である(S-1は塩酸ゲムシタビンに比べて、膵がん術後の死亡のリスクを44%減少させる)ことが明らかになりました。

この良好な試験結果を受け、このたび新たに改訂された「膵癌診療ガイドライン2013(日本膵臓学会 膵癌診療ガイドライン改訂委員会作成)」の術後補助化学療法の項において、「術後補助療法のレジメンはS-1単独療法が推奨され(グレード※3A)、S-1に対する忍容性が低い症例などではゲムシタビン塩酸塩単独療法が勧められる(グレードB)」と記載され、S-1が新たな術後補助化学療法の標準治療として位置付けられましたことをお知らせいたします。

※1 JASPAC 01試験について

膵癌補助化学療法研究グループ(Japan Adjuvant Study Group of Pancreatic Center)
http://www.fuji-pvc.jp/center/jaspac/nojoin.aspx?j=1

※2 JASPAC 01試験結果

主要評価項目である全生存期間は、S-1群が塩酸ゲムシタビン(GEM)群よりも優れていることが統計学的に証明されました(ハザード比(HR)=0.56、99.8%信頼区間0.36-0.87、P<0.0001 非劣性、P<0.0001 優越性(log-rank test))。なお、2年生存率はGEM群53%、S-1群70%でした。副次的評価項目である無再発生存期間についても、中央値はGEM群が11.2ヶ月、S-1群が23.2ヶ月であり、S-1群がGEM群よりも優れていることが統計学的に証明されました(HR=0.56、95%信頼区間0.43-0.71、P<0.0001 log-rank test)。

※3 グレード(推奨度):エビデンスレベルにより分けられる治療の推奨度のこと。A~Dの5段階で表記される。

A:強い科学的根拠があり、行うよう強く勧められる
B:科学的根拠があり、行うよう勧められる
C1:科学的根拠はないが、行うよう勧められる
C2:科学的根拠がなく、行わないよう勧められる
D:無効性あるいは害を示す科学的根拠があり、行わないよう勧められる

【JASPAC 01試験の国内外の学会における主な報告状況】

(海外)

(国内)

【膵がん治療の近年の動き】

日本における膵がんは、肺、胃、大腸、肝に次いで、がん死の第5位を占めており、男女ともに罹患率が増加しています。外科的に切除することが唯一根治を目指せる治療ですが、発見時点で切除可能な症例は2~3割に過ぎず、たとえ切除されても、術後2年以内に約7割が再発すると報告されています。このように、難治がんの代表である膵がんの治療に、この数年で動きがでてきました。下記の臨床試験について、良好な結果が出始めています。

1.切除可能な膵がん
JASPAC 01試験:術後補助化学療法にS-1を使用することで、2年生存率が塩酸ゲムシタビン群53%に対し、S-1群は70%、死亡のリスクを44%減らす(ハザード比0.56)という結果が報告された。
2.切除可能かどうか境界領域にある膵がん(Borderline resectable 膵がん)
切除可能かどうか境界領域にある膵がん(Borderline resectable 膵がん)
JASPAC 05試験:がんの進行度を下げる等の目的で、手術の前に「化学放射線療法」を行い、従来は切除できなかった膵がんがどの程度切除できるようになるかの研究を進行中。
3.切除不能膵がん(転移性膵臓がん)
・FOLFIRINOX:2010年の米国臨床腫瘍学会(ASCO 2010)で発表された、オキサリプラチン、ロイコポリン、イリノテカン(CPT-11)、5-FUの4剤併用レジメン。全生存期間(OS:Overall survival)の中央値は、FOLFIRINOX群 11.1ヶ月、塩酸ゲムシタビン群 6.8ヶ月で、ハザード比は0.57と良好な結果となったため、5月に4剤の各製薬会社は適応を追加申請中。・「ナブパクリタキセル+ゲムシタビン併用療法」: 2013年の米国臨床腫瘍学会 消化器がんシンポジウムで発表された。切除不能膵がんに対して、従来のゲムシタビンに加えてナブパクリタキセルを使用すると、生存期間の中央値はナブパクリタキセル+ゲムシタビン療法では8.5カ月、ゲムシタビン単独療法では6.7カ月、ハザード比は0.72であり、ナブパクリタキセル+ゲムシタビン療法はゲムシタビン単独療法よりも生存期間を有意に改善することが示された。

 

本プレスリリースPDFはこちら → ico_pdf(PDFファイル:347KB)

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※本件に関するお問い合わせは、下記までお願いいたします。
静岡 県立静岡がんセンター マネジメントセンター 医療広報担当  TEL 055(989)5222

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