治療時間の短縮により効率的な治療を世代陽子線がん治療装置開発に関する包括的共同研究の成果を発表

治療時間の短縮により効率的な治療を
次世代陽子線がん治療装置開発に関する
包括的共同研究の成果を発表

静岡県立静岡がんセンター(総長:山口建、以下 静岡がんセンター)と三菱電機株式会社(執行役社長:山西 健一郎、以下 三菱電機)は、次世代陽子線治療によるがん治療技術の研究開発に関し、包括的な共同研究を完了し、その成果がまとまりましたのでお知らせいたします。

本共同研究は2005年12月に締結、その後6年間にわたり、次世代陽子線治療装置の実用化に向け、治療効率と照射技術の二つの側面から研究開発に取り組んできました。具体的な研究テーマは、(1)「効率的な治療運用技術の研究開発」、および次世代の(2)「ビームスキャニング照射法の研究開発」です。これらの研究に関して出願した特許は5つで、この研究成果は、今後の陽子線治療装置の最新化を図るための更新計画に反映する予定です。以下に研究成果の概略を紹介します。

(1)「効率的な治療運用技術」の研究開発

陽子線治療施設が全国的に増加する中、高額な医療機器を効率的に運用するための改善努力は必須です。しかし、陽子線治療装置のような大がかりな装置は、改造や入れ替えに相当の期間と多額の費用を要し、しかも医療用具の一変申請を伴う可能性が想定できるため、大幅な改造を加えることは容易ではありません。本研究では、現在使用している制御ソフトウェアに対して軽微な改良で対処できる技術に限定し、実際に掛かった治療時間から時間短縮がどれほど見込めるかを推定し、その改良効果を評価しました。対象とした陽子線治療の疾患は、頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がんなどの4部位7症例です。

陽子線治療の大まかな流れは、患者の入室⇒患者位置決め(レーザーとX線による照射位置の照合)⇒照射の準備⇒照射(2門の場合は、照射の準備から繰り返し)⇒退出の順となります。患者位置決めの所要時間が全体のおよそ3分の1を占めており、改良の着目ポイントであることが分かりました。この着目ポイントに対して、個別研究として行った三菱電機との共同研究成果「光学位置決め装置の基礎研究」を反映させると、これまで数回行っていた位置決めを1回で行うことができ、治療時間の短縮が図れることが分かりました。他の作業の改善については、これまでに得られた装置使用経験から、照射技術に対して部分改良を図ることにより、時間短縮の積算効果が期待できることが分かりました。改善予測としては、呼吸による上下動をコントロールする呼吸同期照射が必要な腹部(肺や肝臓)照射や全身状態の悪い患者に対しては、最大50%の時間短縮が見込めました。現在の陽子線治療施設の構成は、加速器1台で複数の治療室をカバーすることから、30分以上かかる治療の場合には、時間短縮する工夫は運用効率の改善に直結することから、制御ソフトウェアの機能改善の意義は大きいと考えています。

(2)「ビームスキャニング照射法」の研究開発

陽子線は、物質内を走った後、止まる位置の周辺に最大の線量を与えるという特徴をもつため、がん病巣の手前の正常組織への影響は低く抑え、がん病巣へ集中的なダメージを与えることができます。近年、陽子線治療の効果をさらに高めるため、より高度な照射装置や照射法の開発研究が世界的に進められています。本研究では、広く普及することが予想される ア「“スキャニング照射法”による線量分布の改善」と、イ「“単門集光スキャニング”と呼ばれる新たな照射方法の検討」という2つのステップに分けて実施しました。

ア 「“スキャニング照射法”による線量分布の改善」の研究
現在ほとんどの陽子線治療施設は、“ブロードビーム照射法”を採用しています。本研究では、陽子線治療で多く行われる頭頸部がん、肺がん、肝臓がん、前立腺がんの4部位を選び、従来の“ブロードビーム照射法”で治療計画した線量分布と、がん病巣へビームを走査して照射する“スキャニング照射法”で計算した線量分布との比較研究を行いました。その結果、“スキャニング照射法”は正常な重要臓器への線量を減らすように最適化することができ、陽子線治療の対象となる頭頸部がん、肺がん、前立腺がんに対して周辺の重要臓器への線量を大きく減らせることが示されました。また、 “スキャニング照射法”ではビーム強度を変調することで照射角度の選択肢が広がり、特に頭頸部がんに対してより優れた線量分布で照射できることが示されました。

イ 「“単門集光スキャニング”と呼ばれる新たな照射方法の検討」の研究
がん病巣に陽子線を集光させる新たな固定ポート型の“単門集光スキャニング照射”方法の検討と、その装置を設計するための研究を行いました。主に頭頸部がんを治療対象とし、垂直および水平の2つの固定ポートから照射角度±22.5°の範囲で陽子線スキャニング照射を実現する装置を設計しました。この“単門集光スキャニング照射”装置を用いることで、巨大な回転ガントリー機構を用いなくとも、ガントリーと同等のがん病巣への線量集中性が得られると判断されました。

今後、これらの包括的な共同研究の成果を活用し、陽子線治療装置の最新化に生かしていく予定です。

静岡県立静岡がんセンター

静岡がんセンターは、2002年9月に開院し、陽子線治療、PET(陽電子断層撮影装置)などの高度な先進医療を提供する世界トップレベルのがん治療専門医療機関であり、健康産業の振興をねらった静岡県のファルマバレープロジェクト※1推進の中核施設として積極的に産学官連携を進めています。静岡がんセンターでは2003年10月から陽子線による一般診療(自由診療)を開始、さらに2006年1月からは先進医療の適用を受け、これまでに前立腺、肺、肝臓、頭頸部などの部位を対象に約1200人の患者を受け入れ、治療実績を積み上げてきました。また研究棟においても先導的な立場として陽子線治療に対し広く研究を行っています。

※1. 医療産業からウエルネスまで幅広い分野にわたり、世界レベルの研究開発を進め、臨床応用を図り、その成果により富士山麓に健康関連産業の集積を図り、特色ある地域の発展を目指すもの。

三菱電機株式会社

三菱電機は1994年に完成した放射線医学総合研究所の重粒子線がん治療装置(HIMAC)の主契約社としての経験を生かし、陽子線や炭素線を使ったがん治療装置の開発・製作を行ってきました。三菱電機の製作した装置は現在国内の7施設で稼働しており、治療が行われています。また、2003年度から3年間、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO技術開発機構)の助成金によりビームスキャニング照射法に関する基盤技術の開発を進め、そこで得られた成果を本研究に生かしています。

 

<陽子線治療の国内実施施設>

国立がん研究センター東病院、兵庫県立粒子線医療センター、筑波大学陽子線医学利用研究センター、静岡がんセンター、南東北がん陽子線治療センター、メディポリス医学研究財団がん粒子線治療研究センター、福井県立病院陽子線がん治療センターの計7施設

 

お客様からのお問い合わせ先/資料請求先
静岡県立静岡がんセンター マネジメントセンター

〒411-8777 静岡県駿東郡長泉町下長窪1007番地

電話:055(989)5222   FAX:055(989)5793 Mail:e.marumo@scchr.jp

 

三菱電機株式会社 電力事業部先端・医療システム部 粒子線治療システム課

〒100-8310 東京都千代田区丸の内二丁目7番3号

電話:03(3218)2466  FAX:03(3218)9027 Mail:pmd.ka-ptshi@ml.hq.melco.co.jp

 

~報道関係からのお問い合わせ先~
静岡県立静岡がんセンター マネジメントセンター 丸茂

〒411-8777 静岡県駿東郡長泉町下長窪1007番地

電話:055(989)5222  FAX:055(989)5793 Mail:e.marumo@scchr.jp

 

三菱電機株式会社 広報部 塩野谷

〒100-8310 東京都千代田区丸の内二丁目7番3号

電話:03(3218) 2809  FAX:03(3218)2431

Mail:Shionoya.Tetsu@ah.MitsubishiElectric.co.jp

提供日 2011年11月14日
担 当 がんセンター局 県立静岡がんセンター
連絡先 マネジメントセンター 丸茂 TEL 055(989)5222(代表)(内線4314)

 

お問い合わせ
企画広報部知事公室広報課
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ファックス番号:054(254)4032
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