医療現場発のものづくり 高密着性オーダーメイド “ボーラス(放射線治療補助具)”を開発

2018年6月7日
静岡県立静岡がんセンター
株式会社 ア・ジャストポリマー
一般財団法人 ふじのくに医療城下町推進機構 ファルマバレーセンター

 医療現場発のものづくりを支援する静岡県ファルマバレーセンターは、医療現場で必要とされる医療器具やケア用品などのアイデアを募集し、企業と医療機関で共同開発し製品化する支援を行っています。

 この度、静岡県立静岡がんセンター(総長:山口建、以下静岡がんセンター)と株式会社ア・ジャストポリマー(代表:勝間田喜美、以下ア・ジャストポリマー)は、放射線外部照射で使用されるX線や電子線の治療精度を高めるため、透明軟質素材を用いた高密着性のオーダーメイド ボーラス(以下、「3Dアジャストボーラス」)を開発しました。今回開発したボーラスは、照射する部位の皮膚にぴったりと密着させることができるため、放射線治療計画に即したより精度の高い治療か可能となりました。

 なお、本製品の基礎研究成果は、『日本放射線腫瘍学会第30回学術大会』(2017年11月17日:大阪市)、『第74回日本放射線技術学会総会学術大会』(2018年4月14日:横浜市)で発表し、静岡朝日テレビ「池上彰の発掘!静岡のチカラ(2018年6月11日 18時54分~19時54分)の番組内で紹介される予定です。

 

開発の背景と製品化までの経緯】

 放射線治療で使用されるX線や電子線は、体表から数㎜〜数㎝体内に入ったところで照射される線量が最大になるという特性があります。そのため、人体表面にある病巣を治療する場合は、放射線に対して、人体とほぼ同じ特性を持った「ボーラス」と呼ばれる一定の厚みを持ったシート状の素材を皮膚の上に載せ、人体表面での線量が最大になるようにして治療を行っています。ボーラスは、照射部位の皮膚に「ぴったりと密着させる」ことが重要ですが、頭部、顔面、頸部、乳房などの曲面部位や凹凸のある部位を照射する場合、市販のシート状のボーラスでは、皮膚との間に隙間ができるため、ぴったりと密着させることは困難な状況でした。また、ボーラスの素材が半透明なため、密着状態を確認することが難しく、照射精度の向上が課題となっていました。

 2014年11月、静岡がんセンター放射線・陽子線治療センターの医師や技師は、市販ボーラスと同等の放射線特性で、目視確認可能な透明性があり、凹凸部分にも確実に密着する柔らかさを持つ新しいボーラスのアイデアをファルマバレーセンターに提案しました。ファルマバレーセンターは、新しいボーラスの製品化には素材の開発と製造技術開発が不可欠であることから、県内の十数社を訪問し、事業化の可能性の調査を実施。その結果、軟質素材加工に卓越した技術を保有しているア・ジャストポリマーと共同開発することになりました。

 なお、この新しいボーラスの製品開発費は、経済産業省の革新的ものづくり・商業・サービス開発支援補助金(2015年9月~2016年2月)、および静岡県地域活性化基金事業(2017年~2018年1月)の助成金による支援を受けています。

 

【本製品の概要】

本ボーラスは、個々の患者さんの治療目的に合わせて作製するオーダメイド型のボーラスです。製造方法は、医師が作成した治療計画装置を用いて作成したボーラスのデータを3Dプリンターにより型を作製し、その型の中に新しく開発した素材を流し込んで硬化させて完成させます。患者さんの治療部位の形状に合わせて作製するため、凹凸部位にも容易にかつ確実に密着し、その密着状態を目視で確認できるのが特徴です。

 <新しいボーラスを装着させた状態>

 ・頭部の場合

Borus head2

 ・鼻部の場合

<市販のシート状ボーラスと新しく開発した3Dアジャストボーラスの鼻部密着性の比較>

開発に携わった西村哲夫氏(静岡がんセンター副院長 兼 放射線・陽子線治療センター長)からのコメント

 これまでも3Dプリンターにより作られたボーラスは発表されていましたが、密着性と素材の硬度については課題であると感じていました。今回開発した製品は、従来のものと比べて密着性が高く、目的の線量をより確実に当てることができます。また、柔らかい素材でできているため、患者さんはボーラスを押しあてられる際の圧迫感が軽減されます。素材は放射線に対する同等の特性であること、作製してから時間が経っても形状や性状・放射線特性には変化がないことが検証されましたので、本年6月より臨床試験を開始しました。

 ボーラスの製造は、治療を実施する医療機関が治療計画データを製造部門へ送り、1週間以内で完成品が医療機関に届きますので実用可能と考えます。今後、陽子線治療にも応用し、より照射精度を高めていきたいと思います。

 

技術コーディネータ 関口守氏(ファルマバレーセンター 事業推進部)からのコメント

 技術コーディネータは、医療現場のニーズを吸い上げ、地元中小企業の匠の技術により付加価値の高い医療関連製品を開発し、事業化後の推進までを総合的に支援しています。

 今回の製品開発では、軟質素材の成形技術と、成形までの工程数を少なくしたところがポイントです。試行錯誤が続きましたが、3Dプリンターによる薄型製造技術と、この薄型に軟質素材を充填、硬化後の離型技術のノウハウが決め手となり出来上がりました。

 この製品は、患者さん個々の体形にあわせたオーダーメイドの新しいビジネスモデルです。国内市場でのビジネス構築後、グローバルな市場展開を目指しています。

 

「3Dアジャストボーラス」に関するお問い合わせ先

 

※本リリースに関するお問い合わせは、下記までお願いいたします。
ファルマバレーセンター 事業推進部
静岡県駿東郡長泉町下長窪1002-1 静岡県医療健康産業研究開発センター1階
電話:055(980)6333  FAX:055(980)6320

プレスリリースはこちら → ico_pdf (PDFファイル:350KB)

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