Menu

手術の後遺症

術後(あるいは喉頭摘出後)、痰が多い、痰の切れが悪い

悩み

咳が多く、痰の切れが悪い。そのため、時折胸が痛いことがある。

助言

【水分摂取と部屋の加湿】


痰は、気道から過剰に粘液が分泌されたり、粘膜の働きが障害されて気道内に分泌液がたまったときに、体の外にだそうとするものです。
気道の炎症や、外的刺激など、いろいろな原因がありますが、喉頭全摘出術と永久気管孔造設の手術を受けた場合にも、痰が多く、かたくなります。永久気管孔から、直接空気が気道に入るため、鼻や口からの呼吸に比べ、空気の湿り気が少なく、また塵が入りやすくて気道が刺激されるからです。
痰の量や色などに変化があり、発熱や呼吸困難感など他にも症状がみられるときには、医師の診察が必要な場合もあります。
痰が多いとき、日常での工夫としては、水分を多めにとると、痰がやわらかくなって出しやすくなります。水分をとる回数を多くして、喉をしめらせた状態にしておくとよいでしょう。また、特に冬は乾燥しますので、部屋の加湿を行ってください。

持続する傷跡とその周辺の痛み、しびれ、つっぱり感等

悩み

手術後の傷の痛み、突っ張り感や傷痕内部のうずくような痛みに悩まされている。

助言

【自分の痛みの状況を知り、わかりやすく人に伝える工夫をしてみましょう】


【手術の傷跡や周辺の痛みやしびれ、つっぱり感など】 
(1)手術後の傷の痛みは、多くの場合、次第に和らいできますが、慢性的な痛みが、数ヶ月以上、あるいは何年も続くこともあります。
(2)手術後少なくとも3ヶ月持続する痛みを『遷延性術後痛(CPSP)』といいます。がんの手術でこれを発症する可能性が高い手術には、開胸手術や乳房手術なども含まれており、肺がんでは『開胸術後疼痛症候群』、乳がんでは『乳房切除後疼痛症候群』とも呼ばれていました。
(2)痛みの原因は、手術による神経の一部の傷つき(神経は全身に細かくはりめぐらされています)、手術による周囲の組織のダメージ、傷のひきつれ、癒着による痛みなどさまざまなことが考えられます。また、『遷延性術後痛(CPSP)』では、その他に心理的な要因、社会環境的な要因なども影響するといわれます。
(3)手術から時間がたち、傷の痛みが徐々にやわらいでほとんど感じなくなっていても、湿度が高い時、気温が低いときなどに傷跡周辺が神経痛のように痛むことがあります。
(5)痛みは個人差があり、客観的には判断しにくいものなので、医師などの医療者、家族などに伝わりにくいことがあります。伝える時は、相手にわかりやすく伝える工夫をしてみましょう。痛みのために、日常生活上で支障がある場合は、そのことも具体的に伝えましょう。
(6) 痛み止めを使えば痛みは一時的にやわらぐかもしれませんが、手術後の痛みに使われる痛み止めは、使いすぎると胃に負担がかかることがあります(これは、市販の痛み止めを使用したときにも同様です)。担当医があまり痛み止めを使わないように、あるいは湿布等で様子を見るように言う時があるかもしれませんが、それは痛みがわからないというより、痛み止めの副作用も考えての発言ということもあります。
(7)長く続く(慢性的な)痛みに対処するためには、毎日の生活の中で、痛みを和らげるための自分なりの工夫も取り入れてみましょう。
(8)痛みが続き、つらいようであれば、ペインクリニック(痛みの治療を専門にする診療所)などで診てもらってもよいと思います。
(9)傷跡が、ケロイドや肥厚性瘢痕になっている場合は、形成外科でみてもらってもよいと思います。

【痛みの状況の整理と人への伝え方】
痛みは主観的なものなので、痛みの程度や痛みに伴うつらさは、なかなか人に伝わりにくいともいえます。そのため、医師など医療者が判断している痛みによるつらさと、患者さんが感じる痛みによるつらさに隔たりが出ることもあります。そこで、医師や他周囲の人々などにも理解してもらえるように、ご自分の痛みについてよく知り、人にわかりやすく伝えるという、伝える時の工夫も必要です。

同じ痛みでも人によってその苦痛は異なり、また痛みに伴うさまざまな生活の支障(動くと痛いので、あまり動きたくない、体をひねると痛いので動作が制限される、手を使うと痛みがひびく、痛みのせいで集中して仕事ができない、など)なども、整理して医師に伝えましょう。

1. 痛みを整理してみましょう
(1)どのような時に痛みが出てくるのか、あるいは強くなるのか
例)歩いているとき、動き始めるとき、からだの向きで、からだをひねったとき、重いものを持ったとき、雨の日や湿気の多い時期、下着などで傷跡周辺がこすれたときなど
(2)どのへんが痛むのか
例)創(きず)跡全体、創(きず)の左側の奥の方、など
(3)どのくらい痛むのか
例)数字で表してみる
0-10の数字で表す(0: 全く痛くない.........10: 耐えられないくらい痛い)
一日のうち、時刻による変化を数字で表してみる
(4)どのように痛いのか
例)きりきり痛い、ずきんずきんする、時々ぴりっと電気が走るよう、など
  (動作に伴って痛むときは、体を右にひねったとき、かがんだとき なども伝える)
(5)痛み止めを使っていればその効果
例)
・痛み止めをのむと、1時間くらいでいったん楽になるけれど、6時間くらいでまた痛くなる
・痛み止めを飲んでも、痛くて夜に眠れないときがある
・痛みのために、気分がふさぎがちになったり、いらいらしたりすることがある

2.痛みがあることで、生活上困っていることを整理してみましょう
例)家事ができない、食事がとりにくい、洗濯物をほすのが大変、布団をあげられない、パソコンを長い間打てない、体をひねると痛い、重いものが持てない、書き物がしにくい、など

長く続く痛みに対処するためには、毎日の生活の中で、痛みを和らげるための自分なりの工夫を取り入れることが有効的な場合もあります。
そのためには、
◎どのような時に痛みが楽になったり痛みを忘れたりするときがあるのか
◎どのような姿勢のとき、痛みが楽なのか
など『痛みの日記』をつけてみるのもよいでしょう。

痛みがやわらぐ状況は、時間帯、そのときしている活動、取っている姿勢など、人によっていろいろなきっかけがあります。『痛みの日記』をつけることで、“痛いところを温めたら楽になった”、“○○さんとしゃべっている時は痛みを忘れていた”、“よく眠った次の日には痛みが減った”、“お風呂で湯船に浸かり、十分温まったあとは楽だった”など、自分自身の痛みがやわらぐきっかけに気づくことができます。その中から、自分にとってよかった対処法を、日常生活に取り入れてみましょう。
ご自分なりの工夫で痛みをやわらげられることもあります。
自分の痛みと生活の過ごし方について、いろいろ検討し、よいと思われることは、生活の中に取り入れてみましょう。

【痛みの専門医に診てもらう】
痛みが長く続くようであれば、担当医に相談して、専門の医師を紹介してもらうことを考えてもよいでしょう。
最近では、『疼痛外来』、『ペイン外来』などの名称で、痛み治療の専門外来などを設けている病院やペインクリニックも増えてきています。また、痛みの種類や原因によっては、麻酔科や形成外科に相談することが、痛みの解消に役立つこともあります。それぞれの窓口で対応できる痛みとそうでない痛みがあるので、受診する前に自分の痛みの状況を伝えて、対応してもらえるかどうか確認するようにしましょう。

<参考資料>
(1)西日本がん研究機構.患者さんのためのガイドブック よくわかる肺がんQ&A 第4版 .金原出版. 2014
PDF版:http://www.wjog.jp/doc/guidebook/guidebook_v4.pdf
(2)日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版. 金原出版.2019
HP版:http://jbcs.gr.jp/guidline/p2019/
(3)日本形成外科学会:一般の方へ
https://jsprs.or.jp/general/
(4)日本ペインクリニック学会:一般の皆様へ
https://www.jspc.gr.jp/ippan/ippan.html

(最終更新日:2022年1月5日)

術後後遺症による上肢(腕)の運動障害

悩み

術後の後遺症で(患側の)腕が上がらず、動きが制限され、生活や仕事への支障が出ることに悩んだ。

助言

【退院後の家事】


退院後もまだ創(きず)が痛み、腕や肩をよく動かせないと思います。しかし術後の早い時期から腕を動かさないでいると、肩の関節の動きや腕の筋力が低下します。日常の動作もリハビリテーションになるので、適度に活動するとよいでしょう。

家事動作は、腕を大きく動かしたり、力を使ったり、細かい手の動きをすることが多いと思います。また、仕事では、周囲への気遣いや遠慮、責任感から、つい無理や我慢をしがちになると思います。無理をしないよう、できない部分は、周りの人にお願いして、あせらず少しずつやっていきましょう。

腋窩リンパ節郭清術後後遺症による日常生活への影響

悩み

術後のつっぱりや痛み、しびれのため、寝返りが自由にできない。

助言

【楽な姿勢を工夫する】


寝返りは、眠っているうちに体の重みがかかって特定の部分の筋肉が疲労したり、血液の循環が悪くなったりするのを防ぐ生理的な現象です。
体のある部位にしびれなどがあると、適度に寝返りをうつことができずに、血液循環や筋の働きが障害されて、だるさがあったり、日中の体の疲れが取れにくく感じたりすると思います。
就寝中の体の圧迫や血液循環の偏りをただすために、枕やクッションを使って、腕を支えるとよいでしょう。上向きで寝るときには肩と腕を少し高めにし、横向き(手術した側が体の上にくるように)で寝るときには枕を抱くようにすると楽かもしれません。ご自分の体にあった楽な姿勢を工夫して下さい。

術後の呼吸障害(息切れ、息苦しさ等)

悩み

肺の手術後、歩行時、階段昇降時、体を動かした時、会話時などに息切れし、息苦しいことがある。

助言

【呼吸の働きにあった生活をする】


肺は、体内に酸素をとりこみ体外に二酸化炭素をだす、つまり換気の働きをしています。肺切除により、換気をする面積が減少します。活動のエネルギーを作り出すには酸素が必要で、十分でないと息切れなどがみられます。
エネルギーの消耗を防いで、効率のよい呼吸を行い、残された呼吸の働きにあった生活をすることが大切です。
息切れや息苦しさなどの症状は、階段昇降や重い物を持ったときなど運動量の多いときに自覚する人もいれば、入浴、腕を上げる動作でも出現する人がいて、その人の呼吸機能や体力、合併症などによって異なります。
動いていて、息切れ、呼吸困難感があれば、休憩をとり、無理をしないようにしましょう。
しかし、活動せずに安静にしてばかりいると全身の筋肉が低下してしまいます。呼吸に関係する筋肉の維持のためにも、適切な運動を続けることが大切です。それぞれの患者さんに適した運動の量や内容については、担当医にご相談ください。

日常生活では、様々な場面で支障が生じると思います。例えば、重い物が持てないことにより、買い物や力仕事、趣味などに制限があるでしょう。息切れなどの症状、創(きず)の痛みなどによる疲労感と不安から、術後、活動の楽しみが減っているかもしれません。けれども、生活の仕方を工夫することで、新たな楽しみや目標が見つかると思います。

手術の影響による消化管の通過障害

悩み

通過障害があり、喉の周りの圧迫感やひっかかり感による苦痛のために食事をするのが苦しい。

助言

【原因別にコツがあります】


口のなかや喉の手術を受けると、食べ物をかみ砕いたり、まぜたり、飲み込んだりすることが困難になる場合があります。例えば、咽頭部の手術を受けた場合、鼻に逆流したり、むせたりすることがあります。
飲食物を飲み込むというからだの仕組みは複雑です。飲食物が咽頭に入ると、鼻、気道との通路がふさがれ、食道が開いて胃に送り込まれていきます。この複雑な協調運動のどこに原因があるかによって、対処法は異なります。
咽頭筋の収縮が不十分であれば、あごをひくと飲み込みやすくなります。一方、食べ物を後方に送り込む舌の力が弱いときには、あごを上げるとよいです。
姿勢のほか、食物の形態も飲み込みに関係します。サラサラしたもの、あるいはドロドロしたもの、どういった飲食物が摂りやすいかは、患者さんご自身がよく把握されていると思います。
軟らかいものから摂り始め、術前と同じような食事が摂れるようになるには、数ヶ月かかるとされています。ただし、固いものや大きなものは飲み込みにくさが続くようです。患者さんやご家族のなかには、退院後「しばらくは、食べたいもの、食べやすそうな食材を選んで、調理法も工夫して、試行錯誤だったが、だんだん分かってきた」と話される方もいます。
数ヶ月経っても、食事の飲み込みに困られているなら、担当医に相談して下さい。飲み込みに関するリハビリの専門家として、言語聴覚士がいる病院もあります。原因別に、食事のときの姿勢や、飲み込むコツを教えてもらうとよいでしょう。

【飲み込みやすいもの、飲み込みにくいもの】


かみくだいたり、飲み込んだりすることが困難になっている場合には、そういった動作が楽にできるように工夫する必要があります。
一般に、飲み込みやすいもの、飲み込みにくいものは、次のように言われています。
<飲み込みやすいもの>
○やわらかいもの
○性質が均一
○口の中でまとまったまま食べられる
○表面の滑りがよいもの

<飲み込みにくいもの>
○かたいもの
○さらさらした液体
○水分と固形物が混ざっているもの
○口の中でばらばらになるもの
○口の中に張り付きやすいもの

【飲み込みやすい食事の工夫】


上記に該当する方向けの食事の工夫のポイントを紹介します。

<工夫のポイント>
1. 水分が多くやわらかいもの、口当たりのよいものを
○ ゼリー状にする
水分が多くさらさらしているものは、ゼラチンを使って、ゼリー状にすると食べやすくなります。寒天寄せは、一見良さそうに思われますが、かむと分散して誤って飲み込んでしまう恐れがあるので、注意しましょう。
○ とろみをつける・あんかけにする
液体や、口のなかでばらばらになるものは、むせやすくなります。片栗粉、くず粉、増粘剤などを使って、ポタージュ状、ヨーグルト状、ジャム状など、とろみをつけると食べやすくなります。また、あんかけやクリームソースをかけるのもよいでしょう。

*嚥下補助食品の「増粘剤」は、材料に添加して混ぜるだけなので、手軽にとろみをつけることができます。

○ ミキサーにかける
かたいものや繊維の多いものでも、ミキサーにかけると食べやすくなります。さといものような粘りけのあるものを一緒に入れると、とろみがつきやすくなります。
○ 油分を用いる
適度な油分が必要です。マヨネーズであえると食べやすくなります。
○ 卵を利用する
プ リンや茶碗蒸し、卵豆腐などにするとよいでしょう。
○ 薄味にする
味が濃いとむせやすくなります。特に、酸味や酢がきついとむせやすくなります。だしで薄めるなどしましょう。

2. 食品の形態、大きさを工夫
小さく、食べやすい大きさにしましょう。ただしあまり細かくきざみすぎるとむせやすくなるので、一口大くらいにするか、とろみをつけましょう。

持続する術後後遺症(その他)

悩み

しびれや痛み等のため、夜十分に睡眠がとれず、悩んだ。

助言

【原因や程度にあわせて選択します】


患者さんの場合、症状や心配事があって、睡眠がとりにくくなることがあります。
睡眠を整えるための方法には、薬を使う方法、環境を整える方法などがあり、それぞれ考えられる原因や程度に合わせて選択します。
痛みやしびれが原因で眠れない場合には、痛み止めなどの薬が適切な場合があります。
睡眠薬は、医師の指示で正しく使えば安全で、「くせになる、だんだん効かなくなって量を増やさないといけない」というのは誤解です。
睡眠は、昼間の活動による疲れを回復させて、エネルギーを蓄える働きがあります。それぞれの患者さんの体とこころの状況に応じた活動と休息がとれるよう、担当医にご相談ください。

【自分で痛みを評価して、人に伝える】


痛みは個人差があり、主観的なものなので、伝わりにくいものではありますが、伝える時の工夫も必要だと思います。それは、ご自分で痛みについてよく知り、人にわかりやすく伝えるということです。

1. 痛みを整理してみましょう
(1) どのような時に痛みが出てくるのか、あるいは強くなるのか
例)歩いているとき、動き始めるとき、からだの向きで、からだをひねったとき、重いものを持ったとき、など
(2) どのへんが痛むのか
例)創(きず)跡全体、の創(きず)左側の奥の方、など
(3) どのくらい痛むのか
例)数字で表してみる
0-10の数字で表す(0: 全く痛くない.........10: 耐えられないくらい痛い)
一日のうち、時刻による変化を数字で表してみる
(4) どんなふうに痛いのか
例)きりきり痛い、ずきんずきんする、時々ぴりっと電気が走るよう、など
(5) 痛み止めを使っていればその効果
例)痛み止めをのむと、1時間くらいでいったん楽になるけれど、6時間くらいでまた痛くなる
  痛み止めを飲んでも、痛くてよる眠れないときがある
2.痛みがあることで、生活のどのようなことに困っているか
例)家事ができない、食事がとりにくい、洗濯物をほしたり、布団をあげられない、など

手術後合併症による一時的な症状

悩み

胃の手術後、退院して2日めに、足の静脈血栓をおこし、10日間入院を余儀なくされた。

助言

【血栓症の予防】


深部静脈血栓症が起こる要因として、いくつか言われていますが、そのひとつに、手術中・後の長時間の安静により、血液の流れが滞ることが挙げられます。
下肢の静脈の血管に血液の固まり、つまり血栓ができると、流れていった先の血管をつまらせる場合があります。もし重要な臓器である肺などの血管をつまらせると、生命に関わってくるので、血液をサラサラにする薬などを飲んで治療します。
下肢の深部静脈血栓症の予防として、ベッド上安静で足を自由に動かすことができない時も、足首を動かしたり、下肢全体に力を入れたりしてみましょう。足の指や足裏を曲げるように、あるいは、下肢をベッドに押しつけるように、力を入れたりゆるめたりすると、筋肉が収縮し、血液の流れが促されます。術後早期からリハビリテーションをしたり、歩いたりすることは、血栓症の予防としても効果的です。また、水分をよく摂るようにしましょう。

手術によるコミュニケーション障害(舌がん等)

悩み

手術後、発音がうまくできず、言葉が言いにくくなり、困った。

助言

【舌がん術後の障害について】


舌は会話をしていくための動きや音を作り出す筋肉でできています。舌がんの場合、がんの進行度によって切除する範囲が異なります。舌の1/2程度の切除では発音の障害(構音障害といいます)や飲み込みに関する障害は軽いのですが、切除する範囲が深く広くなるにつれてこれらの障害の程度が強くなります。
舌がん術後の構音障害の特徴として、タ行、ダ行、カ行、ガ行などの発音の明瞭度が低下しやすいといわれています。また、母音ではイの発音が不明瞭になりがちです。これ以外にもくちびるがうまく動かない場合には、パ行、バ行、マ行の発音も不明瞭になります。
このように、舌をどの程度切除したか、再建術を行ったかどうかなどによって、構音障害の状況は変わります。手術後は、このような特徴をふまえて評価をしながらそれぞれの患者さんにあった対応を行っていきます。
舌の部分切除の場合は、数ヶ月で構音障害は軽快してきます。構音障害の著しい改善は、術後6ヶ月から1年ですが、場合によっては長期間改善傾向がみられる場合もあります。

【運動機能訓練】


構音障害に対する訓練として、運動機能訓練と構音訓練があります。訓練は、言語聴覚士(ST)を中心に行われます。
運動機能訓練は、残っている舌の部分や舌根部の運動機能、頬や口びるの筋肉による補助的な動きを強化するために行います。
◎ くちびるの運動
くちびるをとがらす(ウと発声)、横に引く(イを発声)
◎ 舌の運動
前に突き出す、左右の奥歯につけるように意識して舌をあげる、舌を左右に突き出す
◎ 下あごの運動
開く・とじる、あごを左右に動かす、左右の口角をなめる、くちびるのまわりをなめる などがあります。

【構音訓練】


もう1つの訓練は構音訓練です。構音訓練は簡単な音や障害されていない音から始めるのが原則です。そして、障害のある発音を五十音の発音、単語訓練とすすめていきます。舌の切除で本来の構音動作ができない場合には、舌の代わりに上の歯と下のくちびるでタ行やダ行の発音をつくるなどの方法を行っていきます。また、ゆっくり話す、区切りながら話す、丁寧に話すなど話し方を工夫します。

手術による嚥下障害

悩み

食事の誤嚥(気管に入る)により、肺炎にかかりやすいのが心配。

助言

【誤嚥(ごえん)とは】


食物が気管に入ってしまうことを誤嚥(ごえん)と言います。
気管につまると窒息の危険や、その先の肺に入ると、肺炎を起こしてしまうことがあります。
誤嚥を防ぐための食事の工夫を以下に示します。
また、口の中の清潔も大切と言われています。なぜなら、口の中には細菌がいて、この細菌が肺に入ると肺炎を起こす原因になる場合があるからです。歯磨き、義歯の手入れをして、口の中をきれいに保つようにしましょう。

【食べやすくする工夫・対応】


飲み込みにくいものは、ひと手間かけて安全な食事を心がけましょう。
飲み込みにくいもの別に、食べやすくする工夫・対応をまとめました。

(1)サラサラした液体(水、汁もの)
とろみをつけましょう。
 ○市販のとろみ剤を利用する
 ○片栗やくずを使う
 ○粘りけのある食材を使う

(2)バラバラするもの(口の中で小片となってばらけるもの)
まとまる工夫をしましょう。
 ○あんでとじたり、とろみをつけたりする
 ○ゼラチンや寒天で固める
 ○つなぎをいれる

(3)パサパサするもの(パン、ふかしいも、ゆで卵の黄身、焼き魚)
適度な水分・油分を加えましょう。
 ○煮たり、蒸したりする
 ○あんでとじる
 ○マヨネーズなど油脂類を加える

(4)かたく、かみにくいもの(こんにゃく、イカ、こぼう)、はりつきやすいもの(のり、わかめ、もち)
 ○繊維質を断つなど、切り方を工夫する
 ○やわらかくする下処理をする
 ○他の食べやすい食材に混ぜる
 ○肉はひき肉を利用するなど材料を考える
 ○無理なものは控える

手術による嗅覚障害・味覚障害

悩み

味覚と臭覚がもどらないので、食事の支度に差し支え、外食が多くなってしまう。

助言

【においと味覚の相互作用】


嗅覚が正常でないと、食べ物も味気なく感じてしまいます。味は、味覚だけでなく嗅覚や食物の温度、柔らかさなどの情報が総合されて生じると言われています。
食べ物の味がこれまでと変わって感じるので、ご自身がとる食事の内容にも気をつかわれているかもしれません。そのうえ調理をされる方の場合、味つけが以前と異なっていることを家族から指摘されたりして、食事摂取と調理という二つの悩みに増えてしまうことがあります。治療中または治療後、自宅で生活される方が多くなるにつれ、このような声を聞くことが増えました。

夕食の準備をするとき、例えば、味付けの確認を家族に代わってもらうのも、ひとつの方法です。面倒になりますが、調味料の量を計っておくと、次回から同じように作ることができます。また、冷凍保存できるものは、一度に多く作っておくとよいでしょう。
外食では、脂質や糖質、塩分の摂取量が多くなり、ビタミン、ミネラル、食物繊維が少なくなりがちです。手軽なものとして野菜や果物などを加えることを心がけてください。

術後後遺症による歩行困難

悩み

手術後の足の痛みやしびれにより、歩行が困難になった。

助言

【転倒の予防】


足の痛みやしびれの症状に関しては、医師の診察を受けてください。内臓だけではなく整形外科の診察を受けたほうがよい場合もありますので、医師にご相談ください。

日常生活の注意点として、転倒の予防を心がけましょう。脱げやすいスリッパやサンダルは避け、靴をはきましょう。外出時だけでなく、家のなかでも転倒の危険があります。お風呂場の濡れた床、階段以外に、生活の大半の時間を過ごす居間も危険の高い場所です。電気コードや座布団に引っかかったり、新聞広告の上に足を置いてしまったりして、転倒することもあります。動作のはじめも、バランスを崩しやすいので、動作は余裕をもって行うようにしましょう。

また、動かないでいると、筋力が低下してしまうので、ご自身に合った適度な運動が大切です。歩行が不安定な方でも行いやすい運動の一例として、椅子に座った状態から、足首を起こしながら膝を伸ばす運動などがあります。

手術の傷跡が痛くてシートベルトができない

悩み

車のシートベルトが痛くてできないときがあり、検問で説明したら証明書をもらうように言われたが、病院では「しなくても良いということは書けない」と言われ、どうしたらいいのかわからない。

助言

【シートベルトが直接傷に当たらない工夫を検討しましょう】


シートベルトの装着に関しては、道路交通法の運転者本人のシートベルト装着義務の部分に、やむを得ない理由があるときにはこの限りではないとあり、やむを得ない理由が列挙してあります。そのなかに、『負傷若しくは障害のため又は妊娠中であることにより座席ベルトを装着することが療養上又は健康保持上適当でない者が自動車を運転するとき。』という項目があります。この場合、シートベルトによる圧迫で症状が悪化するなどの内容の診断書を担当医に書いてもらう必要があります。
検問で証明書をもらうようにいわれたというのは、このことをさしているのではないかと思います。これに関して、病院で「しなくて良いとは書けない」とされたのは、シートベルトをしないことのリスクも考えての対応だったのかもしれません。

現在は妊婦の方に対しても健康上適当でない場合をのぞきシートベルト着用を推進するようになっています。これは、妊婦の方も「正しく着用すれば交通事故の際の被害から母胎と胎児を守ることができる」という理由によるものです。妊婦の場合、腰ベルトをおなかのふくらみを避けてつけるようにし、肩ベルトも肩から両胸の間を通しておなかを避けて脇腹に通すようにするなどのつけ方などが紹介されています。

実際に、乳がん体験者の方のなかには、タオルや薄いクッションを服の中や服の上の直接シートベルトがあたる部分にあてるなどの工夫をされている方もいらっしゃいます。
原則的には、車に乗る際の自分の身を守る安全のためにはシートベルトはつけておいた方がよいといえるでしょう。傷にベルトが直接あたらないようにベルトの位置を妊婦の方のときの肩ベルトのようにできるだけ両胸の間の位置にするなど少し変えてみるなどの工夫もしてみましょう。