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抗がん剤治療の副作用

抗がん剤による脱毛

悩み

抗がん剤の副作用による脱毛(髪の毛、眉毛、まつ毛、体毛)が辛く、悩んだり落ち込んだりしている。

助言

【抗がん剤による脱毛】


脱毛自体は、抗がん剤の種類により、起こるものとそうでないもの、脱毛は起こる可能性があるが軽度のものなど異なります。患者さんによっては、脱毛や吐き気があるものは強い抗がん剤、そうでないものは弱い抗がん剤と考える人がいますが、決してそうではありません。
脱毛は、治療で抗がん剤を使用してから2~3週間目から起こります。通常、抗がん剤治療は、何回か繰り返し行うので、治療を行っている間は脱毛は続きます。ただし、治療がすべて終了すれば、髪は生えてきます。

【体験者の話を聞いてみる】


たとえば、通院治療のときは、外来診察の待ち時間や治療時などに顔を合わせる患者さんと話をしてみましょう。同じ体験をしたからこそ分かち合える気持ちもあります。また人に話すことで、つらさが少し楽になることもあります。もしかしたら、良いアドバイスをもらえるかもしれません。

【自分でできることを実行してみる】


脱毛が起こりやすい抗がん剤の場合、治療や副作用の説明があったときから、できることを準備してみましょう。脱毛が始まってからも、髪や地肌をいたわるためにできることを実行してみましょう。

1. 脱毛が起こる前にできること
かなりの確率で脱毛が起こる抗がん剤を使用する場合で、かつらの購入を考えているようであれば、事前に自分の頭の写真をとっておきましょう(正面、側面、後ろ側)。こうしておくと、実際にかつらを購入するとき、あるいは購入したかつらを整えるときに、今までの自分の髪型に近いものを選ぶことができますし、購入先で相談する際にも役立ちます。
また、脱毛が始まる前に、髪を短く切っておいたほうがよいでしょう。脱毛が始まると、髪を洗ったときなどに髪がからまり、ほぐれなくなることがある(最終的には、その部分を切らざるをえなくなります)ので、からまらないようにするためです。また、ヘアカラーやパーマは、刺激になるので、やめましょう。

2. 脱毛中のケア
脱毛中は、頭皮も敏感になっているので、低刺激のシャンプーを使用し、こすらずに、優しく洗い流すようにしましょう。リンスやトリートメントは、基本的に髪に対して使用するものなので、頭皮を中心に洗い流すときは、お湯や低刺激のシャンプーだけで構いません。ドライヤーも刺激になるので、できるだけ控え、かけるときは冷風にしましょう。育毛剤も刺激になりますので、脱毛中は使わないようにしましょう。
また、脱毛は髪の毛だけではなく、眉毛・まつ毛・鼻毛などの体毛にも起こります。鼻毛がないと、鼻の中が乾燥し粘膜がいたみやすくなるため、外出時などはマスクなどを使用するとよいでしょう。眉毛は、眉ずみなどで書き、まつ毛がないと眼にごみが入りやすいため、注意しましょう。
かつらや帽子を選ぶときは、よく検討しましょう。
かつらは、借りることもできますが、手続きや申し込みから届くまでの期間などもあるので、借りることを検討しているときは、事前にホームページで確認しておきましょう。
かつらを購入するときは、1)自分にあった素材を選ぶ、2)自分にあったスタイルを選ぶ、3)自分にあったカラーを選ぶ、4)価格を検討する、5)商品の機能特性を確認する、ことが大切です。
どこで、かつらを購入したらよいかわからないときは、かかっている病院の看護師や相談室に相談してみましょう。そこでもわからないときには、お近くのがん診療連携拠点病院の相談支援センターに相談してみましょう。
帽子を選ぶ場合、生え際が気になるときは、つばの広い帽子を選びましょう。ご自宅では、スカーフやバンダナを使ってもよいかもしれません。なかには、帽子にかつらのような毛がついたタイプのものもあります。

【こころが不安定な状態が続くときは心の専門家もサポートしてくれる】


不安定なこころの状態が続くときには、一度こころの専門家に相談してみるという方法があります。
こころが不安定で、他には何も考えられなくなった、何事にも集中できない、誰とも話したくない、あるいは毎日夜眠れない、食欲がない、そういった症状が続くようなときは、担当医やこころの専門家(精神腫瘍科医、心療内科医、精神科医、臨床心理士、心理療法士、リエゾンナースなど)に相談してみてください。気持ちを落ち着けるお薬を飲んだ方がいい場合もあります。

こころの専門家というと、抵抗を感じる方もいらっしゃると思いますが、これは、がんという病気にかかったことでのこころの悲鳴だと思います。がんという病気は、それほど大きな衝撃で、激しくこころを不安定にさせたりするものだということになります。こころの問題はがんにかかった多くの方が経験することです。
がんと向き合うとき、からだのほうは、担当医がサポートしてくれますが、こころの方は周囲の人とともに、サポートしてくれる専門家に少し頼ってみることで、どうしていけばよいか、自分なりの答えがみつけられることがあります。

抗がん剤による末梢神経障害(しびれ、違和感等)

悩み

抗がん剤の副作用による手や足のしびれが続き、今後回復するのか、いつまで続くのか不安になった。

助言

【しびれの特徴と日常生活での工夫】


抗がん剤によるしびれは、日々の暮らしの中で、しびれによる不快と生活への支障の両方を感じることが多く、つらさや不安も大きいものと思います。

抗がん剤による末梢神経障害(手足のしびれや知覚異常など)では、
◎抗がん剤の種類や組み合わせによって異なる
◎症状の程度、持続期間等、個人差がある
◎治療を重ねるほど(総投与量が増えるに伴って)、症状が出てきたり、強くなったりする
などがあります。

なお、薬の種類による特徴などは、同じ静岡がんセンターのHPにある『冊子・電子書籍・動画』のなかの『冊子PDF版 抗がん剤治療と末梢神経障害』をご参照ください。薬の名前、神経障害の症状、対象となるがんの種類などをまとめた表で確認できます。

治療終了後、しびれがやわらいでくるのは、月単位、あるいは年単位となることがあるといわれています。
患者さんのお話では、「1年以上かかった」、「やわらいでくるまで、6-7年かかった」という方もいらっしゃり、「手のしびれはよくなったけど、足の指先はまだ残っている」等、部位により異なる回復状況の方もいらっしゃいました。また、残念ながら、改善しない場合もあります。

しびれによるつらさや不安はなかなかぬぐえないかもしれませんが、しびれをやわらげる可能性のある試みと、しびれが原因で、やけどやけがなどしないように、日常生活のなかで注意が必要な点についてお話しします。

しびれの程度などは個人差があり、またしびれをやわらげる可能性のある試みも、すべての方に効果があるわけではありません。患者さんから経験談をお聞きすると、ご自分なりにいろいろ試して自分にあった方法を日常生活に取り入れたり、自分なりの工夫をしたり、されているようです。

【やけどに注意する】
◎ 手(指など)がしびれているときは、熱さを感じにくくなるので、湯飲みを持つときや熱い物にさわるときに、やけどに注意する(湯飲みではなく、取っ手のついたカップを使うなど)
◎ カイロなどでの低温やけどに注意する(カイロを長時間身につけておかない、ストーブのそばに長時間いないなど)
◎ 家事の時は、綿手袋などをし、直接熱いものに触らないようにする

【けがに注意する】
◎ 刃物を使うとき、指先がしびれて鈍くなっていることがあるので、けがをしないように注意する(調理をしなければいけないときなどは、包丁は危ないので、料理用はさみ、ピューラー、フードプロセッサーなどを使用する、あるいは、野菜などあらかじめカットされた状態で購入できる材料を活用するなどしてみる)
◎ 深爪をしないように注意する(入浴後など爪がやわらかい状態のときに爪切りをする、爪やすりを使うなど)
◎ 手や足のしびれがあるときは、買い物などで重いものを持てなかったり、買い物袋を落としてしまったりすることがある。ショッピングカートの利用、ネットスーパーやネット通販の利用、スーパーの配達(配達してくれるところであれば)などを利用する方法もある

【転倒に注意する】
◎ 足(足先や足の裏など)がしびれているときは、滑りにくい靴をはき、段差は特に気をつける
◎ 脱げやすい履物(サンダルやゆるい靴)は避ける
◎ ハイヒールは足先に体重がかかって転びやすいので履かないようにする
◎ 階段では手すりを使い、ゆっくり上り下りする。あるいは、エスカレーターやエレベーターを利用する。
◎ 足がしびれているときは、立ち上がるときに力が入りにくいことがあるので、ゆっくり立ち上がるように気をつける
◎ 部屋の床につまずきやすいものを放置しない
◎ 滑りやすいカーペットやマットなどを敷かない
◎ 転倒防止のためのバランス運動
特に高齢になると、筋力の低下、足首の関節が硬くなる、視力低下(老眼、白内障など)などが起こりやすくなり、そこに足のしびれが加わることで、転びやすくなります。家でできるバランス運動などを取り入れてみましょう。
バランス運動の例)
片足を軽くあげて(10cm程度でよい)、30秒間くらいそのままでいます。その後、反対側も同じようにします。
なお、からだがふらついても支えられるように、足を上げるのと同じ側の片手(たとえば、右足をあげるときは、右手)は壁などを触るか、テーブルなどを持ち、ふらついても大丈夫なように安全に気をつけましょう。

【日常生活での工夫】
日常生活の工夫の情報やグッズ等を探すときなど、『抗がん剤治療の副作用で起こるしびれ』と限定してしまうと、なかなか見つけにくいと思います。しびれという症状に着目して、『しびれがある』、『指や手の力が弱っている』ときに便利なものを探してみましょう。

特に、高齢者用やリハビリ用のグッズなど、100円ショップにも、使うと便利なグッズがあると思います。
◎ペットボトルやびんのフタなどがあけにくいときは、ペットボトルオープナーなどの補助具、指サックや太めの輪ゴムなどを使ってみる。指サックは、外出時に持ち歩くとどこでもすぐに取り出せ使える
◎ボタンのない服や、ボタンがはめやすい服を着る
◎靴下はしめつけないものを履く(履き口のゆるいものなど)
◎指に力が入りにくく、文字がうまく書けないときは、可能であれば、パソコンやスマホ、タブレット等を利用する
◎また、<筆記補助具(高齢者や手や指が不自由な方などための筆記具の補助具、すべりにくいシリコン製のグリップを筆記具の指があたるところにかぶせたものなど、いろいろ工夫されている>などを試してみる など

【しびれをやわらげるための試み】
指先や足先がしびれているときに、これらを動かす(運動する)ことで、しびれがやわらぐことがあります。1日に数回、症状のある手足の筋肉を曲げ伸ばしする運動を数回ずつ行ったり、くるみを2個手のひらで転がしたり、くるみ大の小さな球やゴムボールを使ったり、手指の運動を行ってみましょう。
握力が弱った高齢者やリハビリ用に市販されているグッズもあります。

温めると血行がよくなり、しびれがやわらぐことがあります。入浴は、シャワーだけで済まさず湯船につかると、血行がよくなります。お湯につかっているとき、手指の運動も兼ね、手足の指先を動かしてみてもよいでしょう。
また、「温泉に行くと、温まるだけでなく、気持ちもほぐれて楽になる」と言われた患者さんもいらっしゃいました。
温めるという点では、特に寒い時期は、厚手の手袋や靴下で保温するのもよいでしょう。

しびれに対して対症的にお薬を使う場合もあります。ただ、日常臨床で使われていても、まだ科学的に有効かどうか検証されている途中のもの、十分に検証されていないものもあります。また、効果が期待できても、そのお薬の副作用(眠気やだるさ、ムカムカするなど)との兼ね合いで、慎重に検討する必要があります。
お薬を対症的に使うかどうかは、しびれの度合いや日常生活の支障、しびれのお薬の副作用との兼ね合いをよく検討した上になります。しびれがつらいときは、主治医とよくご相談ください。
実際に、さまざまな病院で使われているお薬に関しては、下記ページにより詳細な情報が掲載されています。

※『対症療法について』は、静岡がんセンターで作成した小冊子『抗がん剤治療と末梢神経障害』に、より詳細な情報が掲載されています。また、静岡がんセンターのHPで読むこともでき、PDF版をダウンロードすることもできます。

《参考文献》
(1) 日本がんサポーティブケア学会編.がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引 2017年版.金原出版
(2) 市川度 編著.がん薬物療法の副作用ケアとことん攻略本.メディカ出版.2016
(3) 飯田宏樹, 新田都子.痛み・神経障害ケア:がまんさせないケアへ.がん看護 2017; 22: 389-392
(4) 草場仁志.末梢神経障害.がん看護 2017; 22: 222-224

(最終更新日:2020年9月25日)

抗がん剤による吐き気

悩み

抗がん剤副作用による吐き気や脱毛、白血球減少で治療の進行が遅れたことなど、副作用についてもっと自分で勉強しておくべきだった。

助言

【抗がん剤による吐き気】


複数の症状が書かれていますが、ここでは吐き気について説明したいと思います。脱毛については、分類項目別の『11-1-1-1抗がん剤による脱毛』、白血球減少については『11-1-1-8抗がん剤によるその他の副作用症状』をご参照ください。

吐き気・おう吐は、おう吐中枢への刺激や、消化管粘膜の作用により起こります。緊張・不安など精神的な面や、不快なにおい・音・味覚などが誘因となることがあります。
人によって、吐き気・おう吐症状の有無や程度は様々です。「治療=吐き気・おう吐」というイメージをあまり強くもたないようにしましょう。
吐き気・おう吐が起こるパターンを知り、「いつ、どのような時に吐き気やおう吐が生じるのか」に注意し、比較的調子の良い時に食べるようにしましょう。


【吐き気やおう吐に対する工夫のポイント】


吐き気やおう吐に対する工夫のポイントを7つ紹介します。

<工夫のポイント>
1. 吐き気・おう吐のパターンから、タイミングをみて食べる
2. 少しずつ数回に分けて食べる
3. 胃への負担の少ない食品を選ぶ
4. 治療前に軽く食事、治療後数時間は固形物をひかえる
5. おう吐がある場合、1~2時間食事をひかえる
6. おう吐がある場合、水分やカリウムなどの損失を考慮して補給する
7. 食べ物のにおいや環境に配慮する

これらについて、具体的には、以下のような工夫をしてみましょう。

【吐き気・おう吐のパターンから、タイミングをみて食べる】


どういうときに吐き気やおう吐が起こるかを考え、その状況に沿った方法を試みましょう。

1. 食事前
食事の前に、レモン水や番茶などでうがいをすると、おう吐の予防になります。

2. 調理しているとき
冷凍保存や惣菜を活用して、調理時間を短縮してみましょう。また、家の人に調理してもらうのもよいでしょう。

3. 食事をしているとき
ゆっくりと食べましょう。また、室温程度の料理を食べましょう(少し冷ますとにおいが減ります)。

4. 食事のあと
食後2時間は仰向けに寝ないようにし、身体を衣類で締め付けないようにします。また、食後はゆっくりとくつろぎましょう。

【少しずつ数回に分けて食べる】


吐き気がある時は、一度にたくさんのものを飲んだり食べたりせずに、少しずつ何回かに分けて食べるとよいでしょう。サンドイッチやおにぎり、寿司など1口サイズに小さくして食べることをおすすめします。
また、食べる時には、よくかんでゆっくりと時間をかけて食べることも大切です。

○ おむすびやおかずを小分けにするなどして、冷蔵庫や冷凍庫に入れておくと、食べたい時に電子レンジで温めれば、すぐに食べられます。また、気分のよい時に作り置きしておくとよいでしょう。
○ 大きな器にたくさん盛り付けてしまうと、「こんなに残してしまった・・・」とか「これだけしか食べられなかった・・・」などと思ってしまうので、少しずつ盛り付け、いろいろな種類を用意してみるのもよいでしょう。

【胃への負担の少ない食品を選ぶ】


胃の中に食べ物が長くとどまっていることで吐き気をもよおしたり、おう吐によって消化・呼吸の動きが低下したりすることがあります。そこで、なるべく胃の中にとどまっている時間が短い食べ物(炭水化物など)を中心にとり、胃への負担を軽くしましょう。
また、消化があまりよくないものや繊維の多い野菜、脂質などは控えましょう。

1. 食べやすく、栄養をとりやすいもの
(1) 主食を変えてみる
米は、炭水化物を多く含んでいますが、炊きあがる時などのにおいで吐き気を感じることがあります。そんな時は、主食をパンに変えてみましょう。パンは、小麦粉からできていて米と同様に炭水化物を多く含み、調理をしなくてもよいので手軽に食べられます。パンを選ぶ時は、なるべくバター(脂質)の使用が少ないものを選ぶとよいでしょう。また、その他にはそうめん、スパゲティ、そば、うどんなどもおすすめです。
(2) くだものを利用する
食事だけにとらわれず、くだものも食べてみましょう。くだものの中でも、バナナ・りんご・キウイフルーツ・パイナップルなどは、炭水化物を多く含んでいます。缶詰で市販されている、桃・みかん・さくらんぼ・パイナップルなどを手軽に利用してみるのもよいでしょう。
(3) シリアル食品を利用する
シリアル食品は、とうもろこし・米・大麦・小麦など炭水化物が多く含まれているものを主原料としていて、器に入れて牛乳や豆乳、ヨーグルトなどをかければすぐに食べることができます。シリアル食品の中には、特定の栄養分を強化したものもありますので、手軽に利用してみるのもよいでしょう。
2. 控えたほうがよいもの
繊維の多い野菜 : たけのこ・ごぼう・れんこん・ふき
香りの強いもの : ウド・セリ・にんにく・セロリ
消化があまりよくないもの : きのこ類・こんにゃく・脂肪の多い肉

【治療前に軽く食事、治療後数時間は固形物をひかえる】


治療時には満腹でも空腹でも良くなく、胃の中に少し物が入っているくらいが、吐き気やおう吐を起こしにくい最も良い状態と言われています。

<治療当日の食事>
○ 治療の開始時刻に合わせ、朝食を少なめに摂るか、あるいは朝食は普通にとり昼食を抜くなどの工夫をしましょう。
○ 治療後数時間は固形物を食べることを控え、身体を楽にしていましょう。
○ 部屋の空気を入れ換えたり、音楽やテレビをみたり、好きなことをしながら気分転換をして、気持ちを落ち着かせましょう。

【おう吐がある場合、1~2時間食事はひかえる】


おう吐がある場合、消化管(食道や胃、腸など)の粘膜が過敏になっていることがありますので、1~2時間食事を控えてみましょう。
気分が悪く吐き気がある時は、だれでも食べられないものです。
「吐くのが嫌だから食べない・・・」 「食べると吐いてしまうから食べない・・・」と、食べることを自分で否定せず、食べられそうな時に食べれば良いと心にゆとりをもって、食べる気持ちを忘れないことが大切です。

◎ 患者さんの声
患者さんが食べ始めるきっかけとなったものは、ゼリー、フルーツ、シャーベット、ヨーグルト、スープ、レモン水、氷、乳酸菌飲料などです。

【おう吐がある場合、水分やカリウムなどの損失を考慮して補給する】


おう吐がある場合、水分と一緒に胃液などに含まれている電解質(カリウム、ナトリウムなど)も体外に排出されてしまいます。
多量に水分や電解質が失われると、脱水症状を起こすこともあるので、食事がとれない時やおう吐が続く時は水分をこまめにとりましょう。

水分をとりやすいもの
清涼飲料水(炭酸飲料・果汁飲料・茶系飲料など)、スポーツ飲料、お茶、水、スープ、みそ汁、アイス、栄養バランス飲料
※ 牛乳やみかんなどの柑橘系のジュースは、おう吐を誘発しやすいので控えましょう。
また、イレッサ服用中は、グレープフルーツジュースは控えてください。

<おう吐したときには・・・>
○ おう吐した時は、吐物を誤って気管に飲み込んだり、窒息を起こしたりしないように顔を横に向けます。また、吐物は速やかに片づけてもらいましょう。
○ 意識がはっきりしている時は、うがいをして不快感を軽減しましょう。レモン水や冷たい番茶などを使うと口の中がさっぱりします。

【食べ物のにおいや環境に配慮する】


吐き気やおう吐は、見た目やにおいなどが原因で起こることもあります。生活環境や調理方法なども、工夫してみましょう。

◎ 家・部屋などの生活環境で気になるにおい
(汗、たばこ、芳香剤、化粧・香水、ペット、家庭のごみ)

○ 窓を開けて空気を入れ換えたり、音や光の刺激をおさえたりしましょう。
○ たばこや香水などにおいの強いものは、できるだけ控えるように家族みんなで協力しましょう。
○ 花や芳香剤などの香りも気分によっては気になることもありますので、香りの強いものは控えましょう。

◎ 食べ物で気になるにおい
(ご飯の炊けるにおい、魚の生臭さ、具材の種類が多い煮物)

○ ご飯の炊けるにおいや粥のにおいなどは、吐き気を増強させることがあるようです。ご飯は冷凍保存して食べる時に電子レンジで温めると、においをおさえることができます。また、どうしても気持ちの悪い状態が続く時には、主食をパンやめんに変えることをおすすめします。
○ 魚・野菜の煮物で具材の種類が多いと、においが混ざり合い、吐き気を起こしやすくなります。また、味が薄いものも吐き気を増強させることがあるので、だしを効かせたりなど味をはっきりさせる工夫が必要です。

【ゆっくりとリラックスする】


吐き気・おう吐は、緊張や不安などの精神的な面が誘因となることがあります。精神的な緊張を取り除き、リラックスした気持ちでいられるようにしましょう。

抗がん剤による外見の変化(爪が黒くなる、皮膚症状)

悩み

抗がん剤の副作用で、皮膚が黒ずみ、手荒れがひどく憂鬱である。

助言

【抗がん剤副作用の皮膚障害】


抗がん薬(抗がん剤)の副作用の一つである皮膚障害には、手や足の裏、指先などの皮膚がひりひりしたり、ちくちくする、知覚過敏になる、ほてり感、赤い斑点になる(紅班)、むくんだり赤く腫れるなどが起こる『手足症候群』や、皮膚の色が黒ずむ色素沈着、爪の変形や黒ずみ、爪にスジが出るなどの爪の変化などがあります。

『手足症候群』は、しびれや皮膚知覚過敏などを伴う抗がん薬や分子標的治療薬による副作用の一つです。どのようにして起こるのか(発生機序)に関しては、皮膚基底細胞やエクリン汗腺への直接作用などがあげられていますが、まだはっきりはしていません。
『手足症候群』を起こす代表的な抗がん薬は、(1)ティーエスワン(商品名)、カペシタビン(一般名)など代謝拮抗薬などの抗がん薬、(2)ネクサバール(商品名)、スチバーガ(商品名)、スーテント(商品名)などのマルチキナーゼ阻害剤です。それぞれで症状が出てくる時期や出現形態が違うので注意が必要です。

【日常生活での注意点】


日常生活での注意点には、以下のようなものがあります。

◎ 皮膚を清潔に保ちましょう
手足を洗うときは、刺激の少ない石けんを用い、アルコールを含んだ化粧品は避けましょう。
◎ 皮膚を保湿しましょう
保湿クリームや保湿ローションなどをこまめに使用し、皮膚の保湿に心がけましょう。
◎ 日焼けを避けましょう
外出時には、帽子や日傘を使ったり、長袖の上着をはおったり、UV加工の手袋をしたりしましょう。

抗がん剤による食欲不振や味覚変化

悩み

抗がん剤治療で、食欲不振になり、食事がとれなかったことがとてもつらかった。

助言

【抗がん薬治療で食欲が低下し、食事がとれないとき】


抗がん薬治療(※1)で、食欲が低下している場合、食欲不振以外に吐き気や味覚障害も起こっている場合があります。そこで、ここでは、食欲低下時の対応に加え、吐き気や味覚障害に対する対応の情報も掲載しています。
※1 抗がん薬治療:がん薬物療法(細胞障害性抗がん薬、ホルモン療法薬、分子標的薬等を含んだ総称)の別の呼び方として使用しています。以降、わかりやすいように『抗がん薬治療』とのみ表記します。なお、悩み文は、2003年、2013年の調査で患者さんが書かれた表記のままとしています。

【食欲不振があるときのポイント】
食欲不振に対する工夫のポイントとして
◎ 食欲不振の原因が明らかなときには、その原因を改善する工夫をする(例:吐き気、味覚の変化、気分の落ち込みなど)
◎ 気分のよい時に、食べられるものを食べる
◎ 抗がん薬治療に伴うからだの変化を知り、食事のとり方にメリハリをつける
◎ 食欲がないとき、味覚がおかしいとき、吐き気があるときなどの症状が強いときは、好物は控えるようにしてみる。
◎ 口に合う、たんぱく質豊富な食品をさがす
◎ 栄養補助食品を利用する
などがあります。

【味覚の変化があるときのポイント】
食欲不振の原因の一つである味覚変化があるときのポイントとして
◎ 口の中を清潔な状態を保ち、保湿(口の中の乾燥を防ぐ)にも心がける
◎ 違和感のある味(まずい、金属のような味など)は避けて、いろいろな味付けを試してみる
◎ 自分にとって、他の食べ物よりは少し多く食べられる、少し食べやすいなど、比較的食べられる食べ物の味や特徴をチェックし、食事に積極的に取り入れてみる
◎ 口の中が乾燥しているときは、お茶や汁物等で口の中を潤したり、あんかけ料理にしてみたり、食べ物に水分を補ってみる
◎ 味を感じにくい場合は、味付けをはっきりさせてみる(だしをきかせる、ごま、ゆずなどの香織や酢を利用する)
◎ 治療による影響とは別に、もともと味覚は個人差がある(年齢、性別、精神的な条件や身体的な条件、気候風土などによっても異なる)ため、同じメニューや素材でも、人によって合う、合わないはある

【吐き気があるときのポイント】
食欲不振の原因の一つである吐き気があるときのポイントとして
◎ すべての抗がん薬治療で吐き気やおう吐がでるわけではない。
◎ 吐き気の原因は、抗がん薬治療だけではない。放射線治療で照射する部位が消化管や脳などの場合、他の薬剤(抗菌薬やオピオイドなど)による吐き気、電解質の異常など、原因はいろいろある。また、これまでのがんの治療で吐き気が出たことを思い出して吐き気が起こる、不安が原因で吐き気が起こる場合などもある。
◎ 現在では、吐き気やおう吐が起こりやすい治療のときには事前に吐き気止めを使う、症状が出た後でも吐き気止めを追加できるなど、症状をコントロールする方法は進歩してきていて、新しいお薬も開発されている。
◎ 自分の吐き気のパターンを知り、自分なりに効果のある方法、メニュー、食材を日常生活の中に取り入れてみる。
◎ 治療の日は、治療前に軽く食事をとり、治療後数時間は、固形物をひかえる。
◎ 吐き気やおう吐のパターンから、タイミングをみて食べるようにする。
◎ 少しずつ数回に分けて食べてみる。
◎ 胃への負担の少ない食品を選ぶ。
◎ 吐き気があるとき、控えたほうがよいものは、繊維の多い野菜、香りの強い食材、消化が悪いものなど。
◎ おう吐がある場合、1~2時間食事をひかえる。
◎ おう吐がある場合、脱水に注意し、水分やカリウムなどが失われるのを考慮してスポーツ飲料などで補給する。
◎ 身の回りの食べ物のにおいや環境に配慮する。

【食欲がないときには、抗がん薬治療に伴うからだの変化を知り、食事のとり方にメリハリをつける】
治療中は正常細胞へのダメージも強く、通常よりもエネルギー量を必要とするため、体力を維持するための食事は重要で、栄養価が高い食品、タンパク質をとることは大切です。

けれども、栄養面や体力にこだわりすぎていると、食べることが『義務感』となり、かえってつらくなってしまいがちです。食欲は、精神的なことからも影響を受けるので、『食べること』が重荷になってしまうと、これまで食べられていたものも食べたくなくなるという状況に陥ってしまうことがあります。
このバランスをとるのは、難しいとは思いますが、自分の食事に関係する症状(吐き気、味覚の変化、口内炎など)やその度合いの日々の変化を知り、『無理をしない時期』と『自分なりにがんばってみる時期』を探してみましょう。

食欲がないときは、1日3食など食事の基本的なルールはあまり気にせず、気分のよい時に食べられるもの、好きなものを食べるという気持ちをもつように意識してみます。
また、食欲がないとき、味覚がおかしいときは、これまで好物だったものを食べると、『おいしくない』と感じ、好物が嫌いになってしまうことがあるので、症状がひどいときは、好物は控えるようにしてみましょう。

同時に、メリハリをつけて、少しがんばって、食事や栄養をとることを意識する期間も作りましょう。
食欲の状態や、吐き気、味覚の変化など食欲不振に関わる症状の日々の変化をみながら、症状がやわらいでくるポイント(期間)を見つけます。その時期は、『がんばって食べてみる』ことを意識し、タンパク質や栄養価の高い食品をメニューに取り入れてみる、あるいは自分で食事に関する目標を決めてみましょう。
その目標は、小さなものでかまいません。
例えば、『1日1つ(1パック)は、ヨーグルトか牛乳を摂る』、『1日1回果物を食べる』などです。

具体的なメニューやレシピ、副作用への対応策に関しては、静岡がんセンターホームページ(HP)の『冊子・動画ダウンロード』のページにある『がんよろず相談Q&A  抗がん剤治療・放射線治療と食事編』が参考になります(PDFファイルで、該当する箇所の分冊、もしくは1冊全てダウンロードできます)。

また、インターネット上の情報提供サイトとして、『SURVIVORSHIP.JP』も参考になります。
『SURVIVORSHIP.JP』のコンテンツの一つである『抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』では、180近いレシピを絞り込み検索して表示したり、症状別に一覧表示したりできます。
『SURVIVORSHIP.JP』のトップページでは、上記のアプリ版の紹介があります。iPad版、iPhone版、Android版のアプリがあるので、アプリをダウンロードしておけば、いつでも症状に合わせて、メニューやレシピ、ちょっとした工夫を確認できます。
その他参考になるホームページは、助言の最後をご覧ください。

この項目の最後に掲載している『コラム』では、治療中等の食事のメニューやレシピの載った書籍をいくつかご紹介しています。

1. 食べやすく、栄養をとりやすいもの
(1)汁物
手軽にたくさんの種類の食品をとる方法として、みそ汁やスープのような汁物をおすすめします。いろいろな食品を一緒にとることで、相互作用が引き出され栄養価が高まります。また、温かいスープや冷たいスープなど工夫して食べてみましょう。
(2)カレーライス・めん類・酢の物
香辛料や味の濃いもの、酸味などで食欲を刺激することもあります。
(3)プリン・茶わん蒸し・豆腐・山いも
食べられるようであれば、たんぱく質が多く含まれている食品を加えてみましょう。また、のどごしをよくするのも、おすすめです。豆類、鶏肉、卵などが比較的加えやすいといえます。
(4) 季節のくだもの・野菜ジュース
何種類かのくだものや野菜を組み合わせて、効率よく栄養をとることができます。旬のものなどを取り入れ、おいしく飲みましょう。ただし、あまり甘くしすぎないように気をつけましょう。
※ イレッサ服用中は、グレープフルーツジュースを控えてください。

2. すぐに食べられる工夫
食事の時間にこだわらず、「今なら調子も少し良いし、食べられそう」というように、自分の体やこころに問いかけて、気分のよい時にすぐに食べられる工夫をしましょう。

◎ 好きなものや食べられそうなものをいつも準備しておくと、気分のよい時にすぐに食べられます。
◎ おむすびやおかずを小分けにするなどして、冷蔵庫や冷凍庫に入れておくと、食べたい時に電子レンジで温めれば、すぐに食べられます(吐き気があるときは、温かいごはんのにおいで吐き気がすることがあるので、マスクをしてからレンジのドアをあける、冷ましてから食べるなどしましょう)。
◎ 気分のよい時に作り置きしておくとよいでしょう。
おむすびは、普通の大きさではなく、一口で食べられるくらいの大きさにしておくと、食欲がなくても、(これくらいなら食べられる)と気持ちをプラスにもっていくきっかけになる可能性があります。達成感は、こころのがんばりの素になります。
◎ 食べられそうなものや食べやすかったものを覚えておいたり、作る人に伝えたりするとよいでしょう。

☆--★--☆ コラム:メニューやレシピが掲載されている本 ☆--★--☆
がんの治療を受けている患者さんや、食事を作るご家族のなかには、インターネットやスマートフォンなどのモバイルツール、パソコンなどが苦手という方もいらっしゃると思います。
最近では、治療を受けているがん患者さんのための食事の本も増えてきているので、いくつかご紹介します。
(1) 『改訂版 症状で選ぶ!がん患者さんと家族のための 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』
 出版社:女子栄養大学出版. 価格:税抜き2000円
 注)「がん体験者の声Q&A 抗がん剤治療・放射線治療と食事編」をリライトしたものです。)
(2) 『がん患者さんのための国がん東病院レシピ』
 出版社:法研 価格:税抜き2000円
(3) 『抗がん剤・放射線治療を乗り切り、元気いっぱいにする食事116』
 出版社:主婦の友社 価格:本体1500円
(4) 『抗がん剤・放射線治療をしている人のための食事』
 出版社:ナツメ社 価格:税抜き1700円
(5) 『抗がん剤・放射線治療と向きあう食事』
 出版社:女子栄養大学出版. 価格:税抜き1600円
(6) がん治療中の食事サポートブック2018
 発行:がん研究振興財団
(がん研究振興財団が発行している冊子で、1冊200円です。同財団のHPをご参照ください。なお、PDF版は無料でHPからダウンロードできます)

【味覚変化の症状と原因】
抗がん薬で起こる味覚の変化は、
◎ 舌にある味を感じる部分である味蕾(味細胞)のはたらきが低下する
◎ 末梢神経が傷つき、味を感じて脳に情報を伝達する神経が治療により影響を受け、<味覚中枢が信号を受信して感じられた味を判断する>という一連の流れがうまくいかない
などにより、起こります。
また、抗がん薬による口内炎(口の中の粘膜障害)、唾液の分泌が悪くなって起こる口の中の乾燥、心理的な要因などによっても起こります。
多くの場合、味蕾が再生する3-4週間後には回復します。

抗がん薬に伴う味覚の変化は、「うま味」や「塩味」が感じにくくなる、「甘味」は強く感じるなどの症状があります。「酸味」の変化は少ないといわれています。

味覚変化で起こる症状には、下記のような症状などがあります。
◎ 自発性異常味覚
何も食べていないのに、いつも口の中で『苦い味』(あるいは、『渋味』など)がする自発性異常味覚が最も多くみられます。
例えば、「金属の味がする」、「苦く感じる」などです。
◎ 味覚の低下
抗がん薬の影響で、味覚を感じにくくなり、「特定の味がわからなくなる」、「何を食べても味がしない」、「砂をかんでいるみたい」などがあります。
◎ 味を強く感じる
「何でも甘く感じる」、「塩辛く感じる」などがあります。

【味覚の変化があるときの食事の工夫】
味覚の変化といっても、いろいろなパターンがあるので、どのような変化なのか、あるいは同時に生じている食事に関連した症状(吐き気、口内炎など)などもあわせて、味の調整を検討してみましょう。

<工夫のポイント>
1.味覚の変化や症状に合わせて、味の調整をする
2.うがいをしたり、あめをなめたりする
味覚の変化の状況によって、工夫を変えてみましょう。

1. 味が濃すぎると感じる場合
◎ 強く感じる味の調味料や素材は使わずに、他の味付けをメインにして工夫する。
◎ 状態に合わせて、薄味かだしのみの調理にしてみる。
◎ 化学調味料(だし)を使用せず、天然のだしを利用する。
◎ 食べるときに味付けできるようにしてみる。
◎ 特定の味(苦味・甘味・塩味など)を強く感じる場合は、だし煮やスープ煮のような調理法もおすすめ。
◎ 食品そのものが障害となる味のあるもの(例えば、ハムやソーセージなど)で、苦味を強く感じたり、干物などの塩味を強く感じたりする時は、障害となる味のあるものは控える。あるいは、甘みを強く感じるときは、干し柿やジャムのようなものは控える。

2. 甘みに敏感になり、何でも甘く感じる場合
◎ 砂糖やみりんを料理には使用しないようにする。
◎ 塩、しょう油、みそなどを濃いめにしてみる。
◎ ゆずやレモン、酢などの酸味を利用してみる。

3. 味が本来の味と違って感じる場合(苦い、金属ような味など)
◎ 肉類の味に変化が起きて食べられなくなった場合には、別の食品でたんぱく質をとる。
例)チーズ、ヨーグルト、牛乳、アイスクリーム、ピーナッツバターなど
◎ 肉や魚は、あく抜きや臭み抜きをする。

4. 味が感じにくい場合
◎ 味付けをはっきりさせる。
◎ 香辛料や香味野菜を使う。
◎ 香りやうま味を利用して、風味や深みを加える。
◎ 料理の温度を人肌程度にしてみる。

例えば、「味がしない」、「味が薄すぎる」と感じる場合は、味のはっきりした料理にしましょう。
味付けがはっきりしている料理とは、味付けを濃くすることもそうですが、塩分を多くとったり砂糖を多く入れたりすることばかりを言うのではありません。味をはっきりさせる工夫を参考にしましょう。

◎ だしをきかせる
塩分を増やさずに、味をはっきりさせる工夫をしましょう。
削り節を煮出した後、しばらくおいて冷ますことで、だしがよく出ます。また、シチューにバターなどの乳製品を加えたり、煮物にみりんや酒を加えたりすることで味にコクが出ます。

◎ ごま、ゆずなどの香りや、酢を利用する
酢の物にレモン、かぼす、ゆずなどを添えると酸味がよく利くようになります。
焼き魚は、塩や酒で臭みを抜いて、味付けなしで焼き、レモンやかぼす等を添え、酸味を利用しましょう。また、アジを素焼きにして、レモンなどをしぼって食べてみましょう。しょう油をかける時は、なるべく少量にするよう心がけます。また、片栗粉をまぶして揚げてから酢じょうゆにつけ、南蛮風にしてみるのもよいでしょう。

◎ 食材のうまみをいかす
食材を増やすことで、具のうまみがたくさん出て味がはっきりします。
汁物を作る時は、みそやしょう油の量は普段通りで増やさずに、具をたくさんにする、具の種類を増やすなど工夫します。また、うま味を利用して、味を薄めにして、だしを濃くしてみましょう。

◎ 味にアクセントをつける
味の変化が少し分かる場合には、味に変化をつけたりアクセントになるものを添えたりすることが効果的です。
からしあえ、ごまあえ、梅肉あえ、しょうが焼き、セロリやクレソンのサラダ、カレー風味など、多少の香辛料や香味野菜を用いて味に変化をつけるとよいでしょう。また、漬物などを味のアクセントにそえることも効果的です。

◎ 少し低温の料理にする
できたての温かいものを食べるよりも、少し冷めた程度の料理を食べる方がおいしく感じることがあります。
肉じゃがやシチュー、茶わん蒸しなどは、冷ましてから食べてみましょう。

苦味、薬のような味、金属のような味など、本来と違う味を感じたり、嫌悪感を覚えたりする食品や調味料は控えましょう。
◎ 塩味を控えめにする。
◎ だしを利かせたり、ごまやゆずなどの香り、酢を利用したりしてみる。
◎ 化学調味料の味が気になることがあるので、控えめにする。

【口に合う、たんぱく質の豊富な食品をさがす】
患者さんの多くは食欲不振などの症状から低栄養状態になり、食べやすいものとして糖質系(めん・パン・くだものなど)が中心になりがちです。そのため、たんぱく質の補給がとても重要になります。
けれども、実際にはたんぱく質を多く含む食品は、においなどから敬遠されがちです。患者さんの口に合うもので、たんぱく質が豊富に含まれる食品を探してみましょう。

1. チーズ
◎ 料理にのせて焼いてみましょう
   パン・ハンバーグ・ホットドッグ・ピザ・肉・魚・野菜・卵
◎ すり下ろして料理にかけてみましょう
   スープ・ソース・グラタン・野菜・マッシュポテト・パスタ
◎ サラダに混ぜてみましょう
◎ 料理に加えてみましょう
   パスタ・オムレツ・いり卵・カレー
◎ おやつに加えてみましょう
   チーズケーキ・ホットケーキ・クレープ

2.牛乳・ヨーグルト
◎ 飲み物や料理に使ってみましょう
  カレー・シチュー・グラタン・卵焼き・スープ・ホットケーキ・ヨーグルトサラダ
◎ インスタント食品に加えてみましょう
  シリアル(コーンフレーク)・スープ・ココア
◎ その他
  ドレッシング、魚や肉の下味、ヨーグルトシェイクやヨーグルトアイスなどデザートに

3. 豆・豆腐
◎ 煮たり、裏ごしにしたりして、食べてみましょう
  茶わん蒸し・あんこ・プリン
◎ 料理に加えてみましょう
  カレー・グラタン・ハンバーグ・煮物・炊き込みご飯

【吐き気やおう吐の種類】
吐き気やおう吐には、
(1) 急性(治療後、24時間以内に起こる)
(2) 遅発性(治療後、24時間以降から起こり、急性の吐き気やおう吐よりは弱いが、数日間続く)
(3) 予期性(これまでの抗がん薬治療での吐き気の経験など精神的な要因によるもの)
があります。

予期性の吐き気やおう吐の場合、抗がん薬治療で過去に吐き気やおう吐が出たことを思い出し、治療の前から、また治療のことを考えただけでも吐き気がでてしまうこともあります。
ただ、予期性の吐き気やおう吐は、以前は2割ほどの患者さんにみられていましたが、吐き気やおう吐に関して予防的にお薬を使ったり、新しくより効果のある吐き気止めのお薬が開発されたりと、吐き気やおう吐に関する症状コントロールが進歩することで、現在ではかなり減ってきています。

副作用でつらいという経験は心に大きく残ります。過去に副作用でつらい経験をしていると余計にその治療が怖くなったり、不安になったりしやすいということもあります。
医療者は、副作用が少しでも軽くなるように、できるだけのことは行っていくと思いますので、副作用への不安、つらい経験があったことなど、遠慮なく担当の医師や看護師にその旨お伝えください。

【通院治療と吐き気】
最近では、抗がん薬治療を通院で行うことが増えてきました。
これは、抗がん薬の副作用を軽くするための薬(吐き気止めなど)や、その他の対処方法が進歩したことが背景にあります。
患者さんが安心して、抗がん薬治療を受けられるように、病院によっては通院治療センターを開設し、専任スタッフを配置したり、リクライニングチェアやベッドを備えたりしています。
また、患者さんを治療する医師以外に、薬剤師、看護師を中心に、栄養士、心理職(公認心理師など)、医療ソーシャルワーカー、がん相談員など、多くの職種の者が患者さんをサポートします。

ただ、患者さんにとっては、通院で行われる抗がん薬治療は、病院を出ると医療者がそばにいないことになり、不安がつのることもあると思います。
その一方、『自分のペースでリラックスできる時間ができた』、『(精神的な状態に左右されやすい)吐き気や食欲不振も、入院して治療を受ける場合よりもかえって少なかった』と話される患者さんもいらっしゃいます。

吐き気やおう吐には個人差があり、通院治療の場合、それぞれ個人によって生活スタイルや立場も異なります。治療前、治療中、治療後の体調の変化を見きわめながら、吐き気に対して自分ができることを整理し、自分のペースで生活のリズムを作り出していくことが大切です。自分の体調の変化をつかむことで、より自分に合った対処方法を見つけることができると思います。

また、通院治療だからと言って、我慢をする必要はありません。わからないことがあるとき、つらいときは、医師、看護師、薬剤師、などにご相談ください。
医師の診察時間は短くて、うまく話ができないということであれば、治療の副作用や対処方法など説明をしてくれた薬剤師や、通院治療を行っている部門の看護師などに我慢せずに話してみましょう。

【吐き気に対処するための工夫】
1.治療当日の食事
◎ 治療の開始時刻に合わせ、朝食を少なめにとるか、あるいは朝食は普通にとり、昼食を抜くなどの工夫をしましょう。
◎ 治療後数時間は固形物を食べることを控え、体を楽にしていましょう。
◎ 通院治療の場合、帰宅後は、部屋の空気を入れ換えたり、音楽やテレビをみたり、好きなことをしながら気分転換をして、気持ちを落ち着かせましょう。

2. 自分の体調に合わせた工夫
自分の場合は、
◎ どのようなときに、吐き気が強くなるのか
例)
◇ 食事の時間になると、ムカムカする
◇ 温かいごはんや味噌汁のにおいでムカムカする
◇ 治療の日の朝
◇ お菓子の甘い匂い
◇ 2種類以上の野菜を混ぜ合わせた煮物
◇ 部屋のにおい、トイレのにおい、香水や香料のにおい、たばこのにおい など

◎ 食べやすい食事は何か
例)
◇ そうめん
◇ 酢の物
◇ シャーベット  など
治療後の体調の変化を、日を追って整理してみましょう。

自分の場合は、どのような状況で、吐き気が出たり強くなったりするのかを整理することで、そのきっかけをつくらないように工夫できることもあります。
吐き気が起こるパターンを知り、「いつ、どのような時に吐き気やおう吐が起こるのか」に注意し、比較的調子の良い時に食べるようにしましょう。
また、自分にとって食べやすい食事を整理すれば、時期にあわせて、自分なりの食事面での工夫をすることもできます。

吐き気やおう吐は、おう吐中枢への刺激や、消化管粘膜の作用によって起こります。緊張や不安などの心の状態や、不快なにおい、音、味覚などが誘因になることがあります。

気分が悪く吐き気がある時は、誰でも食べられないものです。
「吐くのが嫌だから食べない・・・」、「食べると吐いてしまうから食べない・・・」と、食べることを自分で否定せず、食べられそうな時に食べればよいと心にゆとりをもって、食べる気持ちを忘れないことが大切です。

胃の中に食べ物が長くとどまっていることで吐き気をもよおしたり、おう吐によって消化の動きが低下したりすることがあります。そこで、なるべく胃の中にとどまっている時間が短い食べ物(炭水化物など)を中心にとり、胃への負担を軽くしましょう。
また、消化があまりよくないものや繊維の多い野菜、脂質などは控えましょう。

◇◆◇控えたほうがよいもの
◎ 繊維の多い野菜:たけのこ・ごぼう・れんこん・ふき
◎ 香りの強いもの:ウド・セリ・にんにく・セロリ
◎ 消化があまりよくないもの:きのこ類・こんにゃく・脂肪の多い肉

おう吐がある場合、水分と一緒に胃液などに含まれている電解質(カリウム、ナトリウムなど)も体の外に排出されてしまいます。
多量に水分や電解質が失われると、脱水症状を起こすこともあるので、食事がとれない時やおう吐が続く時は水分をこまめにとりましょう。
手軽に電解質を摂取できる飲み物では、スポーツドリンクがあります。スポーツドリンクは常温に近いものを、少量ずつ回数を多くして飲みましょう。また、そのまま飲むより1/2に薄めた方が、吸収もよくなり、おう吐も起こりにくくなります。

◇◆◇水分をとりやすいもの
清涼飲料水(炭酸飲料・果汁飲料・茶系飲料など)、スポーツ飲料、お茶、水、スープ、アイス、栄養バランス飲料
※ 牛乳やみかんなどの柑橘系のジュースは、おう吐を誘発しやすいので控えましょう。
また、イレッサなど一部の抗がん薬や高血圧のお薬の一部等では、相互作用の可能性から、グレープフルーツジュースを控えるように説明があると思いますので、ご注意ください。

【吐いてしまったとき】
◎ 吐いてしまったときには、うがいをして口の中の不快感をやわらげましょう。レモン水や冷たい番茶などを使うと口の中がさっぱりします。
◎ おう吐がある場合、消化管(食道や胃、腸など)の粘膜が過敏になっていることがあるので、1~2時間食事を控えてみましょう。
◎ 吐いたもののにおいで、再び吐き気が誘発されることがあります。吐物は速やかに片付けましょう。トイレで吐いた場合は、すぐに流すようにしましょう。
また、『ちょっと動くだけで吐きそうになる』ときなどは、横になっている枕の脇などに、乗物酔い等で使うエチケット袋を準備しておくと、よいでしょう(密封性があり、においももれない、吐いたモノをゼリー状や固めるタイプのもの)。
おう吐した後は、口の中をすすいだ方がよいので、ストロー付きの容器なども準備しておき、上記のレモン水や冷たい番茶などで口をすすぎ、エチケット袋を閉じて、少し楽になってから、始末しましょう。

【吐き気があるときの食事・調理・生活上の工夫】
どのような状況時に吐き気やおう吐が起こるかを考え、その状況に沿った方法を試みましょう。

1. 食事前
食事の前に、レモン水や番茶などでうがいをすると、おう吐の予防になります。

2. 調理しているとき
冷凍保存や惣菜、ミールカット(食材がすべてカット済みになっていて、調味料等もついている場合があります。あとは調理するのみとなっている時短食材)などを活用して、調理時間を短縮してみましょう。また、可能であれば、家の人に調理してもらうのもよいでしょう。
メニューは、シンプルに1つ、あるいは少ない数の食材にして、調味料も塩味だけなどシンプルにしましょう。具材が多すぎるとにおいが混ざって吐き気を誘発することがあります。

3. 食事をしているとき
ゆっくりと食べましょう。また、室温程度の料理を食べましょう(少し冷ますとにおいが減ります)。

4. 食事のあと
食後2時間は仰向けに寝ないようにし、からだを衣類で締め付けないようにします。また、食後はゆっくりとくつろぎましょう。

5. その他の工夫
◎ 吐き気がある時は、一度にたくさんのものを飲んだり食べたりせずに、少しずつ何回かに分けて食べるとよいでしょう。サンドイッチやおにぎり、寿司など1口サイズに小さくして食べることをおすすめします。
また、食べる時には、よくかんでゆっくりと時間をかけて食べることも大切です。

◎ おむすびやおかずを小分けにするなどして、冷蔵庫や冷凍庫に入れておくと、食べたい時に電子レンジで温めれば、すぐに食べられます。また、気分のよい時に作り置きしておくとよいでしょう。

◎ 大きな器にたくさん盛り付けてしまうと、「こんなに残してしまった・・・」とか「これだけしか食べられなかった・・・」などと思ってしまうので、少しずつ盛り付け、いろいろな種類を用意してみるのもよいでしょう。

【食べやすく栄養をとりやすいものと控えたほうがよいもの】
1. 食べやすく、栄養をとりやすいもの
(1) 主食を変えてみる
米は、炭水化物を多く含んでいますが、炊きあがる時などのにおいで吐き気を感じることがあります。そのような時は、主食をパンに変えてみましょう。パンは、小麦粉からできていて米と同様に炭水化物を多く含み、調理をしなくてもよいので手軽に食べられます。パンを選ぶ時は、なるべくバター(脂質)の使用が少ないものを選ぶとよいでしょう。
また、その他にはそうめん、スパゲティ、そば、うどんなどもおすすめです。

(2) くだものを利用する
食事だけにとらわれず、くだものも食べてみましょう。くだものの中でも、バナナ、りんご、キウイフルーツなどは、炭水化物を多く含んでいます。
バナナは、皮をむき両端を切ってラップでくるみ1本丸ごと、あるいは好みの厚さに切ってフリーザーバッグに入れて冷凍しておき(変色が気になる場合は、皮をむいたあと、レモン汁を少々ふりかけておく)、食べる際に自然解凍して食べてもおいしく食べられます。バナナ以外にも、ぶどう、いちご、パイナップル、ベリー類など味が濃いフルーツ(冷凍すると、甘みなど感じにくくなるため)なども冷凍にしておけます。市販でも冷凍フルーツが売っているので、それを常備してもよいでしょう。
リンゴは、煮リンゴにして(砂糖等は使わず)冷蔵庫で冷やしておくと、やわらかく食べやすいでしょう。缶詰で市販されている、桃、みかん、さくらんぼ、パイナップルなどを手軽に利用してみるのもよいでしょう。

(3) シリアル食品を利用する
シリアル食品は、とうもろこし、米、大麦、小麦など炭水化物が多く含まれているものを主原料としていて、器に入れて牛乳や豆乳、ヨーグルトなどをかければすぐに食べることができます。シリアル食品の中には、特定の栄養分を強化したものもありますので、手軽に利用してみるのもよいでしょう。

治療時には満腹でも空腹でもよくありません。胃の中に少し物が入っているくらいが、吐き気やおう吐を起こしにくい最もよい状態と言われています。

【栄養補助食品を利用する】
食事に対する基本的姿勢としては、「食べられる時に食べられるものを」ですが、重度の体重減少またはそう予想される場合は、濃厚流動食(バランス栄養飲料)や他の補助食品などで栄養状態を維持・向上する必要があります。

「栄養補助食品」とは、一般的にはビタミンやミネラルなどのサプリメントがよく知られていますが、通常の食事で必要な栄養が得られない場合に、効率よく栄養を補うために用いるものです。
また、最近の栄養補助食品は、種類や形状、味も豊富になりました。中には、お茶、あずき、黒豆、コーンスープなどの味もあり、飲みやすく摂取しやすいドリンクタイプもあります。

◎ 栄養補助食品の購入方法
「栄養補助食品を買おうと思ったけれど売っていません。どこで買えばいいの?」と、いうような声を耳にすることがあります。
残念ながら、栄養補助食品は、一般のスーパーなどで買えないものが多いのが事実です。しかし、通信販売などシステムは充実していますので、かかっている病院の管理栄養士に相談して購入できるところを教えてもらうのもよいでしょう。

【口の中をきれいにして、保湿する習慣を身につける】
口の中には、もともとたくさんの雑菌(細菌)が存在します。本来なら、唾液が自然と口の中をきれいにしてくれたり、歯磨きやうがいで口やのどをきれいにしたりしていますが、副作用で唾液の出が一時的に悪くなる場合もあります。

そこで、副作用で体調が悪いときも、できるだけ口の中のきれいにして、保湿することが重要です。そして、口の中をきれいに保つためには、以下のことを毎日続け、習慣化していくことが大切です。
 a)正しいブラッシングを覚え実行する
 b)歯間清掃を行う
 c)うがい
 d)保湿

1. 歯みがき
◎ ヘッドは小さなもの
◎ 毛の硬さ:通常はナイロン毛の『ふつう』の硬さの歯ブラシ
注)ただし、出血傾向、歯ぐきなどの痛み、骨髄抑制(白血球、赤血球、血小板などが低下しているとき)が強いときは、「軟毛」、「超軟毛」を使用
◎ 歯ブラシの交換:1カ月に1回程度
◎ みがき方:ペンを持つように歯ブラシをもち、歯と歯ぐきに対して、90度、あるいは45度くらいの角度であてて、歯ブラシの毛先を歯と歯ぐきの境目にあてて、軽い力で小刻みに動かす。
◎ 歯磨き回数:起床時、毎食後、寝る前
注)だるさが強いとき、吐き気があるときなどは、無理して、回数を守らなくてもかまいません。ただ、その場合でも、1日に少なくとも1回はきれいに磨くように努めましょう。

2. 歯間清掃
◎ 歯間をきれいにする際、歯間清掃用の歯間ブラシやフロスなどを使うと、歯と歯の間の歯垢(しこう)を取り除く効果が高くなる。
注)ただ、使い方に気をつけないと、歯ぐきを傷つけやすいので注意する。

3. 口の中の粘膜の清掃
◎ 口の中の粘膜をきれいにすることで、口の中の細菌数も減る。
◎ 粘膜清掃の道具:『軟毛の粘膜ブラシ』、『スポンジブラシ』など
◎ 歯磨き剤は、使用しない
◎ ブラシやスポンジに少量の水を含ませて、口の中の奥側から手前に動かしてきれいにする。
両側の頬の粘膜、舌の下側、舌など

4. 入れ歯の管理
◎ 入れ歯の表面は、入れ歯の材質や形などの関係で、細菌が付着しやすく、カビの一種(カンジダ)も増えやすい。そのため、入れ歯を汚れたまま使っていると、感染の危険性が高くなる。
◎ 毎食後、入れ歯を外し、入れ歯用のブラシを使い、流水で入れ歯についている食べ物かすや汚れなどをきれいに取り除いてから、『義歯洗浄剤』につけておく。

5. うがい
◎ 口の中をきれいにして、保湿も保つために、1日に4回以上、水、あるいは生理食塩水でのうがいを行う。
◎ 生理食塩水の作り方
(1) 準備するモノ:きれいに水洗いした500mlのペットボトル1本、食塩4.5g(小さじ1杯弱)、水500ml
(2) きれいに洗った500mlのペットボトルに、食塩小さじ一杯弱と水を容器の9割くらい(約500ml)まで入れる
(3) ふたをして、塩がとけるまでよく振る
(4) コップに小分けして、うがいに使用する
注)生理食塩水のうがい水は冷蔵庫で保存して、1日で使い切る

6. 保湿について
口の中が乾燥しないように『保湿』につとめることは、口内炎ができたり、悪化したりするのを防ぐための大切です。
市販の保湿剤には、マウスウォッシュタイプ、スプレータイプ、ジェルタイプがあり、多くのメーカーから多種多様な保湿剤が出ています。
頬の粘膜や舌のふちは、歯のとがった部分や歯並びの影響で頻回に接触して刺激を受けることで、よけいに障害を受けやすいので、予防的にジェルタイプの保湿剤などを塗りましょう。
また、就寝時にも口腔(こうくう)内が乾燥しないように、マスクをつけて寝るのもよいでしょう。

【食事とご家族と】
患者さんやご家族、どちらからも食事に関する悩みやつらさをうかがうことがあります。
例えば、患者さんからは、「せっかく私のためにと、一生懸命に工夫して作ってくれているのに、食べられなくて申し訳ない。」、「食べられない自分を責めてしまう。」、ご家族からは、「少しでも栄養になれば、力になればとがんばっているけれど、(患者さんの)つらそうな表情や、一口、二口しか食べられないのをみていると、どうしてよいかわからなくなる。無力さを感じる。」など、お互いを思いやるが故、自分を責めてしまったり、無力感に襲われたりすることがあるようです。

患者さんにとっては、がんばってもどうしても食べられない時期があります。また、ご家族が一生懸命、体力がつくように、栄養がとれるようにとがんばってつくっても、患者さんは食べられないこともあります。けれども、これは、患者さんとご家族、どちらが悪いわけではありません。

お互いががんばりすぎないように、そして、食に関連する症状が強いときは、ご家族は、患者さんが体とこころを休め、無理をしない時間の中でつらさがやわらぐように、『見守る』ことを第一にしましょう。そして、患者さんの具合が少しずつ楽になってきたら、そのときは、一緒に食卓を囲み、おしゃべりをしながら食べてみましょう。

『自分を責める』、『相手を責める』、どちらも、自分も相手もつらくなるばかりです。相手をほめたり、ねぎらったり、「ありがとう」をいえたりするのは、お互いにとって、力にもなります。

患者さんが、自分の食事に関係する症状(食欲不振、吐き気、味覚の変化、口内炎など)やその度合いの日々の変化を知り、『無理をしない時期』と『自分なりにがんばってみる時期』のめりはりをつけるように、ご家族も、『見守る時期』と『食事作りなどをがんばってみる時期』というように、めりはりをつけてみましょう。

《参考文献》
(1) 静岡がんセンター. がん体験者の声Q&A 抗がん剤治療・放射線治療と食事編.2007(冊子)
(2) 監修 日本がん看護協会. 編集 狩野太郎、神田清子. がん治療と食事 治療中の食べるよろこびを支える援助. 医学書院. 2015(書籍)
(3) 岡田明子、他. 乳癌化学療法による味覚障害の実態調査. 外科 2017 ; 79 : 257-260
(4) 神田清子、他. 化学療法を受けた患者の味覚変化に関する研究. 日がん看会誌.1998 ; 12 : 3-10
(5) 石川徹 、他.アンケート調査による外来がん化学療法に伴う味覚異常の発生に関する検討. 癌と化学療法. 2013; 40: 1049-1054
(6) 市川度 編著. がん薬物療法の副作用ケア とことん攻略本. メディカ出版. 2016
(7) 日本がん口腔支持療法学会/ 日本がんサポーティブケア学会.がん治療に伴う粘膜障害マネジメントの手引き 2020年版. 2020.金原出版

(最終更新日:2020年6月23日)

抗がん剤による粘膜障害(口内炎等)

悩み

副作用で粘膜障害がひどく、食事がとりづらい。

助言

【口内炎の対処のポイント】


口内炎の原因としては、抗がん剤治療の薬が、直接口の中の粘膜に作用することと、抗がん剤治療による骨髄抑制で白血球が減って感染を起こすことが挙げられます。
口内炎があると、食欲の低下、味覚の変化、食事がしみる、食事が飲み込みにくいなどの症状がでることがあります。

口内炎の対処のポイントを3つ紹介します。
<ポイント>
1. 口の中をきれいに保つ
2. 栄養をできるだけとる
3. 痛みをやわらげる

【口の中をきれいに保つ】


口の中には、もともとたくさんの雑菌(細菌)が存在します。本来なら、唾液が自然と口の中をきれいにしてくれたり、歯磨きやうがいで口やのどをきれいにしたりしています。
口内炎に対しては、まず口の中をきれいにすることが大切ですが、治療により口の中やのどの粘膜がただれて痛み、歯磨きが十分にできなくなったりすると、口の中の雑菌が増え、感染症や口内炎ができたところに細菌がつき、更に症状を悪化させたりします。
食事の前後に歯磨きをし、口の中をいつもきれいに保つよう、心がけましょう。また、清浄作用や粘膜保護作用のあるうがい薬などを使用してもよいでしょう。

【栄養をできるだけとる: 食べやすくなる工夫をする】


口内炎があると、痛みであまりかまずに飲み込んでしまいがちです。食事はできるだけやわらかく調理し、細かく刻んだり、ミキサーにかけたり工夫して、食べるようにしましょう。また、市販のスポーツ飲料や高カロリー飲料などを利用してもよいでしょう。

1. 食べやすくなる工夫
(1) 水分が多くやわらかい、口当たりのよい食品を摂りましょう。
(2) 少量の油脂類を加えると飲み込みやすくなります。
(3) あんかけやソースにからめるなど、水分にとろみをつけると食べやすくなります。
(4) 誤嚥の心配がある時は、食品の形態や水分に注意が必要です。(増粘剤などを利用しましょう)
(5) 食事は飲み物や汁物とセットで食べるとよいでしょう。
(6) 食事は人肌程度がよいでしょう。
(7) 痛みが強い場合は、食品の形態をゼリー状やピューレ状、流動食にしてみましょう。
(8) 味付けがしみるような場合は、薄味にしましょう。

2. 控えたほうがよいもの
熱い・辛い・すっぱいなどの刺激の強い食品、かたく乾燥した食品
酸味の強いくだもの、甘みの強い飲み物

3. 消化がよく、やわらかいものを食べる
あまりかまずに飲み込んでも胃に負担がかからないように消化のよい食品を選びましょう。また、調理方法を工夫することで、消化しやすくなることもあります。例えば、揚げる・炒める・焼くといった調理方法よりも、煮る・蒸す・ゆでるといった調理方法の方が消化を助けるためおすすめです。

【栄養をできるだけとる: 栄養補助食品の利用】


食事に対する基本的姿勢としては、「食べられる時に食べられるものを」ですが、口内炎がひどく食事があまりできない時は、濃厚流動食(バランス栄養飲料)や栄養補助食品などを利用し、栄養状態を維持・向上するとよいでしょう。
これらは、栄養やカロリー補給になるだけではなく、乳製品や大豆を主原料にしているものが多く、口内のあれた部分にしみにくく飲みやすいので効果的です。 

◎ 栄養補助食品の購入方法
「栄養補助食品を買おうと思ったけれど売っていません。どこで買えばいいの?」と、いうような声をよく耳にします。
残念ながら、これらの栄養補助食品は、一般のスーパーなどで買えないものが多いのが事実です。しかし、通信販売などのシステムは充実していますので、かかっている病院の管理栄養士に相談して購入できるところを教えてもらうのもよいでしょう。

【痛みをやわらげる】


痛みが強ければ、痛みをやわらげる軟膏やうがい薬を使用する場合もありますので、担当医や看護師に相談してください。

抗がん剤による下痢や便秘

悩み

抗がん剤で、便秘、吐き気、下痢、食欲不振などに悩んでいる。

助言

【体調の変化をみながら対処し、自分のペースで生活リズムをつくる】


抗がん剤治療時は、使用する抗がん剤の種類、組み合わせなどによって、生じる副作用は異なります。また、吐き気や食欲不振、便秘、下痢などはそれぞれが影響し合って症状が出てきます。たとえば、吐き気が強いと食事が食べられなくなり、食事量や水分量が減り便秘の原因になったり、横になった状態が続くと腸の動きが悪くなって便秘になることがあります。
ただ、抗がん剤治療による便秘、吐き気、下痢、食欲不振などの副作用は時期がくれば落ち着いてきます。治療前、治療中、治療後の体調の変化を見きわめながら、症状に対して自分ができることを整理し、自分のペースで生活のリズムを作り出していくことが大切です。

【吐き気と食欲不振について】


◎ 吐き気や食欲不振が強い時期は無理をせずに、『食べられるときに食べられるものを食べる』ようにしましょう。そして、吐き気や食欲不振がやわらいできた時期には、少し栄養のバランスや食事量のアップを意識して食事をしてみましょう。
◎ 吐き気には、抗がん剤を投与してから24時間以内に起こる急性おう吐、24時間以降に出現してくる遅発性おう吐、以前の記憶や経験によって生じる予測性おう吐の3つの種類があります。
自分の場合は、どういうパターンで吐き気やおう吐が出現するのか、どういうときに、吐き気が強くなるのか、食べやすい食事は何かなど、体調の変化を日を追って整理してみましょう。食事についても、食べやすかったもの、食べると吐き気を催したものなど、毎日の食事内容と吐き気との関連を同じメモに残しておきましょう。
たとえば、食事の時間になるとむかむかしてくる、ごはんのにおいでむかむかする、香水などのにおいで吐き気が出てくるなど、どういう状況で、吐き気が出たり、強くなるのかを整理することで、そのきっかけをつくらないように工夫できることもあるでしょう。また、自分なりの食べやすい食事を整理すれば、時期にあわせて食事面での工夫ができるかもしれません。
◎ 吐き気・おう吐は、緊張や不安などの精神的な面が誘因となることがあります。精神的な緊張を取り除き、リラックスした気持ちでいられるようにしましょう。

【便秘と下痢について】


◎ 抗がん剤治療による下痢は多くの場合、腸粘膜の傷害によるもので、抗がん剤を投与後数日たってから出てきます。もう一つは、コリン作動性と考えられているもので、抗がん剤投与開始後24時間以内に起こり、持続時間も比較的短いものです。
◎ 下痢がひどいときには脱水症状に注意が必要です。
◎ 下痢や便秘の際には、下痢止めや緩下剤などのお薬を併用したほうが良い場合もあります。担当医や看護師にご相談ください。
◎ 下痢がひどいときに下痢止めを飲んだら便秘気味になり、緩下剤を飲んだら下痢になったというように、お薬でのコントロールがうまくいかないときには、担当医や看護師に相談してみましょう。
◎ 便秘に対しては、一般的には、食物繊維の多い食品をとる、水分補給を心がける、適度な運動を行い腸蠕動を促す、おなかをマッサージするなどが試みられています。
ただし、抗がん剤治療で吐き気や食欲不振が強いとき、まただるさが強いときなどは無理をせず、できることを行っていきましょう。
◎ 便意がなくても毎朝、朝食後(胃ー結腸反射が起こりやすい)にトイレに行き排便を試みてみましょう。食事が食べられないときでも、毎日決まった時間にトイレに行く習慣を身につけましょう。

【消化器症状で食事のメニューに悩んでいるとき】


吐き気や食欲不振、便秘や下痢があってどういうメニューにしたらよいか悩んでいるときには、参考になるホームページに掲載している『SURVIVORSHIP.JP』が役立つかもしれません。メニューやレシピを症状にあわせて絞り込んで閲覧することができます。

抗がん剤による副作用症状(その他)

悩み

抗がん剤で、からだのだるさや易疲労感、脱力感があり、悩んだ。

助言

【抗がん剤治療中のだるさ等の原因】


抗がん剤治療を続けていらっしゃる方から、よく「からだがだるい」、「日中もすぐ横になりたくなる」、「疲れやすい」などの声を聞くことがあります。
ただし、だるさや易疲労感の原因は、様々です。

原因として、以下のようなことが考えられます。
◎ 抗がん剤の副作用である食欲不振や吐き気による一時的な食事量減少(低栄養状態)
◎ 抗がん剤の副作用(下痢など)による体力の消耗
◎ 治療による体力の消耗
◎ 不眠
◎ 精神的な原因(治療に伴うストレスなど)

原因は一つだけではなく、いくつか重なって起こる場合があります。

【治療に伴うからだの変化を理解しましょう】


原因がわかれば、原因にあわせた対応をしていきましょう。
抗がん剤治療による吐き気や食欲不振、下痢等が原因であれば、食事に関して工夫したり、担当医に、吐き気止めや下痢止めなどの使用を含めて相談してみましょう。
また、吐き気や食欲不振、下痢等は、抗がん剤が体の外に出ていくと徐々に落ちついてきます。

漠然と、“食欲がない”、“吐き気がする”、“からだがだるい”、“つらいなあ”ではなくて、自分なりに治療に伴うからだの変化をまず理解しましょう。治療開始前や治療時の体調は毎回全く同じではありませんが、だいたい同じような副作用が同じくらいの時期に出てきて、同じくらいの時期に落ち着きます。
たとえば、治療当日、1日め、2日めと日にちごとに症状や食事量、その他気づいたことなどを書いておき、一つの目安にするとよいでしょう。このとき、つらいところだけではなく、「○日め ○○なら食べられるようになった」とか、「○日め 少しだるさがとれてきた」なども書いておきましょう。そして、治療に伴う自分の体調の変化をつかみ、その変化にあわせて生活を工夫していくようにしてみましょう。
からだのだるさや疲れは、こころの状態とも影響しますので、“今は治療のあとの一番つらい時期だから、日中も横になりたいと思ったときは、やっていることを中断して横になろう”、“そろそろ食事も食べられるし、だるさも少し楽になってきたから、からだを動かし、食事も栄養を意識しながらがんばってすすめてみよう”と区切りをつけていくことが大切だと思います。

【ご家族など周囲にも理解してもらう】


だるさとか疲れやすいという感覚は、周囲の人にはなかなか伝わりにくいものです。周囲の人に体調の変化を理解してもらい、つらいときは周囲の人にサポートしてもらいましょう。
通院で抗がん剤治療を受けながら、仕事に行ったり、家事をしなければならない場合もあります。特にご家族には、抗がん剤治療を受けた後、自分の場合は、いつ頃こういう状態になる、だから、こういうときは手伝ってもらうこともあるし、何かした後、すぐ横になって休むかもしれないと、わかってもらったほうがよいと思います。がんばりすぎないようにしていくことも大切です。

抗がん剤の副作用全般に関すること

悩み

抗がん剤の副作用による身体への負担が大きく、今健康な部分も含めて他の臓器への影響など心配だった。

助言

【抗がん剤治療は、からだ全体の状況をチェックし観察しながら行われます】


抗がん剤治療を行う際、担当医はまず開始前にその患者さんの全身の状態を調べ、心臓、肺、腎臓、肝臓などの重要な臓器に問題がないかなどもチェックします。
抗がん剤はその種類によって副作用が異なりますが、肝臓、腎臓などの臓器に影響を及ぼす可能性がある抗がん剤もあります。また人間にとって大切な血液をつくる造血幹細胞も抗がん剤治療によってはたらきが一時的に低下することがあり、『骨髄抑制』と呼ばれるこの副作用に関しても、医師は注意深く検査等でチェックします。
このように、医師は使用している抗がん剤の副作用による体への影響にも十分配慮し、抗がん剤開始後も注意深く観察と検査等によるチェックをしながら治療をすすめていきます。

近年、抗がん剤のお薬自体ずいぶん進歩してきていますが、進歩しているのはお薬だけではありません。抗がん剤の副作用対策も充実してきています。医師や看護師は、患者さんのつらさをできるだけやわらげるための対処を行ったり、やわらげる方法を患者さんにお伝えすると思います。副作用で心配なことがあれば、一度担当医や看護師に相談してみましょう。

抗がん剤治療の副作用は、副作用が出てくる時期が大体決まっています。ただ、副作用のなかには、回復するものと回復しにくいものがあります。また、抗がん剤治療は、何コースか繰り返し行うので、いったん回復した副作用が次のコースが始まるとまた出てくるので、治療を続けていく中で長く続くような感じがすることもあると思います。

副作用の多くは時期がくれば改善してきます。吐き気やおう吐、食欲不振、下痢や便秘などは回復してくる時期を患者さん自身が実感できると思います。一方、手足のしびれなどの神経障害は、抗がん剤治療が終了しても回復するまでに時間がかかります。脱毛も抗がん剤治療を行っている間は続くので、回復まで時間がかかると感じるかもしれません。だるさは、治療そのものによる影響以外に、吐き気や食欲不振などの消化器症状で栄養が十分とれなかったり、あるいは不眠がちになったりというさまざまな事柄が影響しますし、こころの状態によってもだるさの感じ方が異なってきます。
骨髄抑制の副作用も、時期がくれば回復してきます。骨髄抑制の期間は、感染や出血に注意する必要があります。

不安や気がかりを感じる要因はさまざまですが、自分の治療について理解することは、つらさをやわらげる助けになります。
◎ 自分が受けている治療はどういう薬をどのように組み合わせて行っていくのか
◎ 何コース、どういうスケジュールで治療を行うのか
◎ どういう副作用がいつ頃出てくる可能性があるのか
◎ それぞれの副作用はどのくらいの期間続くのか
◎ 副作用を予防するために、また副作用に対処するために自分自身でできることは何か
◎ 治療に伴う自分の体の変化を理解する(いつ頃どういう副作用が出て、日常生活にどういう影響が出ているのかなど)
たとえば、治療当日、1日め、2日めと日にち毎に症状や気づいたことことなどをメモしてみましょう。特に1回目の治療時は、説明を受けていても実感としてわかりにくいので、治療日記のようにメモをしていき、その結果を2回目以降の治療時にいかしていくとよいでしょう。

治療を受けるなかで副作用を予防したりやわらげるための自分でできる対処を実行していくことは大切です。そして、副作用などからだの変化を医療者に伝えることも大切です。その際、漠然と「副作用がつらい」と伝えるのではなく、いつ頃から、どういう症状があるのか、具体的に伝えましょう。

抗がん剤の副作用症状の長期化

悩み

抗がん剤を始めた頃からずっと口内炎に困っている。

助言

【予防をするためにできること】


抗がん剤のお薬の種類によっては、口内炎が起こることがあります。これは、治療により、細胞分裂の活発な細胞を傷つけてしまうことがあるからです。この細胞分裂が活発な細胞のなかに、口やのどの粘膜もあります。
また、口内炎は、抗がん剤の影響で、骨髄抑制が起こり白血球が減少したときに、口の中で局所感染が起こり、感染が広がって起こることもあります。
口内炎を予防するために、大切なことは口の中を清潔に保つことです。口の中には、もともとたくさんの雑菌(細菌)が存在します。口の中やのどの粘膜がただれて痛み、歯磨きが十分にできなくなったりすると、口の中の雑菌が増えてしまい、傷ついたところから感染を起こし、さらに治りを悪くしてしまいます。
日頃から、口の中の清潔を保つために、うがいや歯磨きの習慣を身につけておきましょう。うがいは、のどの『がらがら』だけではなく、口の中で『ぶくぶく』とさせ、口の中全体に行き渡るようにしましょう。清浄作用や粘膜保護作用のあるうがい薬などを使用してもよいでしょう。また、歯垢がたまらないように、毎食後のブラッシングを行い、できれば舌もブラッシングしましょう。

【口内炎ができたときの対処法】


口内炎ができてしまったら、自分でもよく観察し、痛みの状態や食事ができるかどうかなど担当医に伝えましょう。口内炎が起きたとき、担当医からお薬がでることもありますが、口内炎ができてしまってからも、やはり口の中を清潔にしておくことが何より大切です。歯ブラシが固い場合は、やわらかい歯ブラシにかえてみましょう。また、口内炎ができると、ポビドンヨードのうがい薬はしみることがありますので、しみるようであれば、消炎・粘膜修復効果のある水溶性アズレンのうがい薬にかえてもらってもよいでしょう。
また、食事は刺激の強い食品、酸味の強い食品や熱いものも避けたほうがよいでしょう。口内炎がひどいときは、食事もとりにくくなることがありますが、栄養をとっていくことも粘膜が再生していくために大切です。

【飲み込みやすく、食べやすくなる工夫をする】


食べやすいようにやわらかく調理し、細かく刻んだり、ミキサーにかけたり工夫して、できるだけ口から食べるようにしましょう。
市販のスポーツ飲料や高カロリー飲料などを利用してもよいでしょう。

1. 食べやすくなる工夫

(1) 水分が多くやわらかい、口当たりのよい食品をとりましょう。
(2) 少量の油脂類を加えると飲み込みやすくなります。
(3) あんかけやソースにからめるなど、水分にとろみをつけると食べやすくなります。
(4) 誤嚥の心配がある時は、食品の形態や水分に注意が必要です。(増粘剤などを利用しましょう)
(5) 食事は飲み物や汁物とセットで食べるとよいでしょう。
(6) 食事は人肌程度がよいでしょう。
(7) 痛みが強い場合は、食品の形態をゼリー状やピューレ状、流動食にしてみましょう。
(8) 味付けがしみるような場合は、薄味にしましょう。

2. 控えたほうがよいもの

熱い・辛い・すっぱいなどの刺激の強い食品、かたく乾燥した食品
酸味の強いくだもの、甘みの強い飲み物

抗がん剤の副作用による日常生活への影響

悩み

口内炎で食事で悩んでいる。

助言

【口内炎を悪化させないための生活管理】


口内炎は、抗がん剤の直接作用で粘膜が破壊され粘膜の再生が妨害されて起こす場合と、抗がん剤治療による骨髄抑制で白血球低下時の局所感染によって起こす場合があります。

口内炎を完全に防ぐのは難しいのですが、適切な対処を行っていけば、症状がひどくなるのを防ぐことができます。

◎口の中を清潔に
毎食後、寝る前など、歯、歯肉、舌などの口の中をきれいにしましょう。歯ブラシは柔らかめのブラシで、またミント等の香料、研磨剤等は刺激になるので、できるだけ低刺激の歯磨き粉を使いましょう。口内炎ができていてしみるときは、歯磨き粉をつけず水だけでもかまいません。口があきにくいときなどは、毛の部分が小さい歯ブラシを使いましょう。口内炎がひどく歯磨きができない場合も、できるだけ口の中をきれいに保つために、うがいは続けましょう。
◎口の中の乾燥を予防
口の中を常にしめらせておくようにします。水などのペットボトルを準備して水分を摂取したり、氷片をなめたりしましょう。
◎口の中を観察し異常を早期発見
抗がん剤治療開始後は、洗面時などに口の中の痛みや粘膜が赤くなったり白くなっているところはないかなど観察し、異常があれば受診時に医師や看護師などに伝えましょう。
◎刺激のあるものは避ける
香辛料や酸味の強い食品、喫煙、アルコールなどは避けましょう。また、機械的刺激になりますが、入れ歯があわないときには粘膜が傷つく原因になりますので、歯科医に相談しましょう。