悩み(分類)

抗がん剤による吐き気



助言


【ポイント】
◎ すべての抗がん薬治療(※1)で吐き気やおう吐がでるわけではありません。
※1 抗がん薬治療:がん薬物療法(細胞障害性抗がん薬、ホルモン療法薬、分子標的薬等を含んだ総称)の別の呼び方として使用しています。以降、わかりやすいように『抗がん薬治療』とのみ表記します。なお、悩み文は、2003年、2013年の調査で患者さんが書かれた表記のままとしています。
◎ 吐き気の原因は、抗がん薬治療だけではありません。放射線治療で照射する部位が消化管や脳などの場合、他の薬剤(抗菌薬やオピオイドなど)によるもの、電解質の異常など、原因はいろいろあります。また、これまでのがんの治療で吐き気が出たことがあり、それを思い出して吐き気が起こる、不安が原因で吐き気が起こる場合もあります。
◎ 現在では、吐き気やおう吐が起こりやすい治療のときには事前に吐き気止めを使う、症状が出た後でも吐き気止めを追加できるなど、症状をコントロールする方法は進歩してきていて、新しいお薬も開発されています。
◎ 自分の吐き気のパターンを知り、自分なりに効果のある方法、メニュー、食材を日常生活の中に取り入れてみましょう。
◎ 治療の日は、治療前に軽く食事をとり、治療後数時間は、固形物をひかえましょう。
◎ 吐き気やおう吐のパターンから、タイミングをみて食べるようにしましょう。
◎ 少しずつ数回に分けて食べてみましょう。
◎ 胃への負担の少ない食品を選びましょう。
◎ 吐き気があるとき、控えたほうがよいものは、繊維の多い野菜、香りの強い食材、消化が悪いものなどです。
◎ おう吐がある場合、1~2時間食事をひかえましょう。
◎ おう吐がある場合、脱水に注意し、水分やカリウムなどが失われるのを考慮してスポーツ飲料などで補給しましょう。
◎ 身の回りの食べ物のにおいや環境に配慮しましょう。
◎ 参考になる冊子(PDF版)、ホームページのアドレス、リンクは、この項目の最後の『関連情報』にあります。
◎ SURVIVORSHIP.JPサイトには、症状に適したレシピなど計176品目が掲載されたアプリ(iOS版、Android版)もあります。

【吐き気止めの進歩】
抗がん薬治療には、吐き気や食欲不振、下痢、脱毛、しびれ、だるさなど、自覚症状があるものもあれば、骨髄機能低下、肝機能低下、腎機能低下、心毒性(心臓への影響)など、自覚症状はほとんどなく、検査などでチェックしていくものもあります。
使うお薬や使い方、組み合わせ方でも、副作用の種類や出方は違います。また、個人差もあります。

患者さんは、治療の説明の際、「この治療の場合、○○という副作用が出るのは、○%くらい」という説明を医師等から聞かれることもあると思います。けれども、一人ひとりの患者さんにとっては、確率よりも『1か0(自分にその副作用が出るか出ないか)』という気持ちが強いと思います。

吐き気(悪心・おう吐)に関して、予防したりやわらげたりするためのお薬やその使い方は、ずいぶん進歩してきています。現在は、吐き気止めの種類も増え、「制吐剤適正使用ガイドライン」にあるように、吐き気やおう吐の強さや種類にそって、コントロールできるようになってきました。
一方で、遅発期(治療して24時間以降に起こる)の、吐くまではいかないが、胸のあたりがモヤモヤ、ムカムカするという悪心の症状はなかなか0(ゼロ)にはなっていないのも事実です。

けれども、吐き気は、ずっと続くわけではありません。お薬によっても異なりますが、抗がん薬治療を行ってから2日から1週間程度でおさまってきます。

【吐き気やおう吐の種類】
吐き気やおう吐には、
(1) 急性(治療後、24時間以内に起こる)
(2) 遅発性(治療後、24時間以降から起こり、急性の吐き気やおう吐よりは弱いが、数日間続く)
(3) 予期性(これまでの抗がん薬治療での吐き気の経験など精神的な要因によるもの)
があります。

予期性の吐き気やおう吐の場合、抗がん薬治療で過去に吐き気やおう吐が出たことを思い出し、治療の前から、また治療のことを考えただけでも吐き気がでてしまうこともあります。
ただ、予期性の吐き気やおう吐は、以前は2割ほどの患者さんにみられていましたが、吐き気やおう吐に関して予防的にお薬を使ったり、新しくより効果のある吐き気止めのお薬が開発されたりと、吐き気やおう吐に関する症状コントロールが進歩することで、現在ではかなり減ってきています。

副作用でつらいという経験は心に大きく残ります。過去に副作用でつらい経験をしていると余計にその治療が怖くなったり、不安になったりしやすいということもあります。
医療者は、副作用が少しでも軽くなるように、できるだけのことは行っていくと思いますので、副作用への不安、つらい経験があったことなど、遠慮なく担当の医師や看護師にその旨お伝えください。

【通院治療と吐き気】
最近では、抗がん薬治療を通院で行うことが増えてきました。
これは、抗がん薬の副作用を軽くするための薬(吐き気止めなど)や、その他の対処方法が進歩したことが背景にあります。
患者さんが安心して、抗がん薬治療を受けられるように、病院によっては通院治療センターを開設し、専任スタッフを配置したり、リクライニングチェアやベッドを備えたりしています。
また、患者さんを治療する医師以外に、薬剤師、看護師を中心に、栄養士、心理職(公認心理師など)、医療ソーシャルワーカー、がん相談員など、多くの職種の者が患者さんをサポートします。

ただ、患者さんにとっては、通院で行われる抗がん薬治療は、病院を出ると医療者がそばにいないことになり、不安がつのることもあると思います。
その一方、『自分のペースでリラックスできる時間ができた』、『(精神的な状態に左右されやすい)吐き気や食欲不振も、入院して治療を受ける場合よりもかえって少なかった』と話される患者さんもいらっしゃいます。

吐き気やおう吐には個人差があり、通院治療の場合、それぞれ個人によって生活スタイルや立場も異なります。治療前、治療中、治療後の体調の変化を見きわめながら、吐き気に対して自分ができることを整理し、自分のペースで生活のリズムを作り出していくことが大切です。自分の体調の変化をつかむことで、より自分に合った対処方法を見つけることができると思います。

また、通院治療だからと言って、我慢をする必要はありません。わからないことがあるとき、つらいときは、医師、看護師、薬剤師、などにご相談ください。
医師の診察時間は短くて、うまく話ができないということであれば、治療の副作用や対処方法など説明をしてくれた薬剤師や、通院治療を行っている部門の看護師などに我慢せずに話してみましょう。

【治療当日の食事】
◎ 治療の開始時刻に合わせ、朝食を少なめにとるか、あるいは朝食は普通にとり、昼食を抜くなどの工夫をしましょう。
◎ 治療後数時間は固形物を食べることを控え、体を楽にしていましょう。
◎ 通院治療の場合、帰宅後は、部屋の空気を入れ換えたり、音楽やテレビをみたり、好きなことをしながら気分転換をして、気持ちを落ち着かせましょう。

【吐き気があるときの食事・調理・生活上の工夫】
自分の場合は、
◎ どのようなときに、吐き気が強くなるのか
例)
◇ 食事の時間になると、ムカムカする
◇ 温かいごはんや味噌汁のにおいでムカムカする
◇ 治療の日の朝
◇ お菓子の甘い匂い
◇ 2種類以上の野菜を混ぜ合わせた煮物
◇ 部屋のにおい、トイレのにおい、香水や香料のにおい、たばこのにおい など

◎ 食べやすい食事は何か
例)
◇ そうめん
◇ 酢の物
◇ シャーベット  など
治療後の体調の変化を、日を追って整理してみましょう。

自分の場合は、どのような状況で、吐き気が出たり強くなったりするのかを整理することで、そのきっかけをつくらないように工夫できることもあります。
吐き気が起こるパターンを知り、「いつ、どのような時に吐き気やおう吐が起こるのか」に注意し、比較的調子の良い時に食べるようにしましょう。
また、自分にとって食べやすい食事を整理すれば、時期にあわせて、自分なりの食事面での工夫をすることもできます。

吐き気やおう吐は、おう吐中枢への刺激や、消化管粘膜の作用によって起こります。緊張や不安などの心の状態や、不快なにおい、音、味覚などが誘因になることがあります。

気分が悪く吐き気がある時は、誰でも食べられないものです。
「吐くのが嫌だから食べない・・・」、「食べると吐いてしまうから食べない・・・」と、食べることを自分で否定せず、食べられそうな時に食べればよいと心にゆとりをもって、食べる気持ちを忘れないことが大切です。

胃の中に食べ物が長くとどまっていることで吐き気をもよおしたり、おう吐によって消化の動きが低下したりすることがあります。そこで、なるべく胃の中にとどまっている時間が短い食べ物(炭水化物など)を中心にとり、胃への負担を軽くしましょう。
また、消化があまりよくないものや繊維の多い野菜、脂質などは控えましょう。

◇◆◇控えたほうがよいもの
◎ 繊維の多い野菜:たけのこ・ごぼう・れんこん・ふき
◎ 香りの強いもの:ウド・セリ・にんにく・セロリ
◎ 消化があまりよくないもの:きのこ類・こんにゃく・脂肪の多い肉

おう吐がある場合、水分と一緒に胃液などに含まれている電解質(カリウム、ナトリウムなど)も体の外に排出されてしまいます。
多量に水分や電解質が失われると、脱水症状を起こすこともあるので、食事がとれない時やおう吐が続く時は水分をこまめにとりましょう。
手軽に電解質を摂取できる飲み物では、スポーツドリンクがあります。スポーツドリンクは常温に近いものを、少量ずつ回数を多くして飲みましょう。また、そのまま飲むより1/2に薄めた方が、吸収もよくなり、おう吐も起こりにくくなります。

◇◆◇水分をとりやすいもの
清涼飲料水(炭酸飲料・果汁飲料・茶系飲料など)、スポーツ飲料、お茶、水、スープ、アイス、栄養バランス飲料
※ 牛乳やみかんなどの柑橘系のジュースは、おう吐を誘発しやすいので控えましょう。
また、イレッサなど一部の抗がん薬や高血圧のお薬の一部等では、相互作用の可能性から、グレープフルーツジュースを控えるように説明があると思いますので、ご注意ください。

【食べやすく栄養をとりやすいものと控えたほうがよいもの】
1. 食べやすく、栄養をとりやすいもの
(1) 主食を変えてみる
米は、炭水化物を多く含んでいますが、炊きあがる時などのにおいで吐き気を感じることがあります。そのような時は、主食をパンに変えてみましょう。パンは、小麦粉からできていて米と同様に炭水化物を多く含み、調理をしなくてもよいので手軽に食べられます。パンを選ぶ時は、なるべくバター(脂質)の使用が少ないものを選ぶとよいでしょう。
また、その他にはそうめん、スパゲティ、そば、うどんなどもおすすめです。

(2) くだものを利用する
食事だけにとらわれず、くだものも食べてみましょう。くだものの中でも、バナナ、りんご、キウイフルーツなどは、炭水化物を多く含んでいます。
バナナは、皮をむき両端を切ってラップでくるみ1本丸ごと、あるいは好みの厚さに切ってフリーザーバッグに入れて冷凍しておき(変色が気になる場合は、皮をむいたあと、レモン汁を少々ふりかけておく)、食べる際に自然解凍して食べてもおいしく食べられます。バナナ以外にも、ぶどう、いちご、パイナップル、ベリー類など味が濃いフルーツ(冷凍すると、甘みなど感じにくくなるため)なども冷凍にしておけます。市販でも冷凍フルーツが売っているので、それを常備してもよいでしょう。
リンゴは、煮リンゴにして(砂糖等は使わず)冷蔵庫で冷やしておくと、やわらかく食べやすいでしょう。缶詰で市販されている、桃、みかん、さくらんぼ、パイナップルなどを手軽に利用してみるのもよいでしょう。

(3) シリアル食品を利用する
シリアル食品は、とうもろこし、米、大麦、小麦など炭水化物が多く含まれているものを主原料としていて、器に入れて牛乳や豆乳、ヨーグルトなどをかければすぐに食べることができます。シリアル食品の中には、特定の栄養分を強化したものもありますので、手軽に利用してみるのもよいでしょう。

治療時には満腹でも空腹でもよくありません。胃の中に少し物が入っているくらいが、吐き気やおう吐を起こしにくい最もよい状態と言われています。

◇◆◇患者さんの声
患者さんが食べ始めるきっかけとなったものは、ゼリー、フルーツ、シャーベット、ヨーグルト、スープ、レモン水、氷、乳酸菌飲料などです。

【吐いてしまったとき】
◎ 吐いてしまったときには、うがいをして口の中の不快感をやわらげましょう。レモン水や冷たい番茶などを使うと口の中がさっぱりします。
◎ おう吐がある場合、消化管(食道や胃、腸など)の粘膜が過敏になっていることがあるので、1~2時間食事を控えてみましょう。
◎ 吐いたもののにおいで、再び吐き気が誘発されることがあります。吐物は速やかに片付けましょう。トイレで吐いた場合は、すぐに流すようにしましょう。
また、『ちょっと動くだけで吐きそうになる』ときなどは、横になっている枕の脇などに、乗物酔い等で使うエチケット袋を準備しておくと、よいでしょう(密封性があり、においももれない、吐いたモノをゼリー状や固めるタイプのもの)。
おう吐した後は、口の中をすすいだ方がよいので、ストロー付きの容器なども準備しておき、上記のレモン水や冷たい番茶などで口をすすぎ、エチケット袋を閉じて、少し楽になってから、始末しましょう。

【吐き気があるときの食事・調理・生活上の工夫】
どのような状況時に吐き気やおう吐が起こるかを考え、その状況に沿った方法を試みましょう。

1. 食事前
食事の前に、レモン水や番茶などでうがいをすると、おう吐の予防になります。

2. 調理しているとき
冷凍保存や惣菜、ミールカット(食材がすべてカット済みになっていて、調味料等もついている場合があります。あとは調理するのみとなっている時短食材)などを活用して、調理時間を短縮してみましょう。また、可能であれば、家の人に調理してもらうのもよいでしょう。
メニューは、シンプルに1つ、あるいは少ない数の食材にして、調味料も塩味だけなどシンプルにしましょう。具材が多すぎるとにおいが混ざって吐き気を誘発することがあります。

3. 食事をしているとき
ゆっくりと食べましょう。また、室温程度の料理を食べましょう(少し冷ますとにおいが減ります)。

4. 食事のあと
食後2時間は仰向けに寝ないようにし、からだを衣類で締め付けないようにします。また、食後はゆっくりとくつろぎましょう。

5. その他の工夫
◎ 吐き気がある時は、一度にたくさんのものを飲んだり食べたりせずに、少しずつ何回かに分けて食べるとよいでしょう。サンドイッチやおにぎり、寿司など1口サイズに小さくして食べることをおすすめします。
また、食べる時には、よくかんでゆっくりと時間をかけて食べることも大切です。

◎ おむすびやおかずを小分けにするなどして、冷蔵庫や冷凍庫に入れておくと、食べたい時に電子レンジで温めれば、すぐに食べられます。また、気分のよい時に作り置きしておくとよいでしょう。

◎ 大きな器にたくさん盛り付けてしまうと、「こんなに残してしまった・・・」とか「これだけしか食べられなかった・・・」などと思ってしまうので、少しずつ盛り付け、いろいろな種類を用意してみるのもよいでしょう。

☆--★--☆ コラム:メニューやレシピが掲載されている本 ☆--★--☆
がんの治療を受けている患者さんや、食事を作るご家族のなかには、インターネットやスマートフォンなどのモバイルツール、パソコンなどが苦手という方もいらっしゃると思います。
最近では、治療を受けているがん患者さんのための食事の本も増えてきているので、いくつかご紹介します。
(1) 『改訂版 症状で選ぶ!がん患者さんと家族のための 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』
 出版社:女子栄養大学出版. 価格:税抜き2000円
 注)「がん体験者の声Q&A 抗がん剤治療・放射線治療と食事編」をリライトしたものです。)
(2) 『がん患者さんのための国がん東病院レシピ』
 出版社:法研 価格:税抜き2000円
(3) 『抗がん剤・放射線治療を乗り切り、元気いっぱいにする食事116』
 出版社:主婦の友社 価格:本体1500円
(4) 『抗がん剤・放射線治療をしている人のための食事』
 出版社:ナツメ社 価格:税抜き1700円
(5) 『抗がん剤・放射線治療と向きあう食事』
 出版社:女子栄養大学出版. 価格:税抜き1600円
(6) がん治療中の食事サポートブック2018
 発行:がん研究振興財団
(がん研究振興財団が発行している冊子で、1冊200円です。同財団のHPをご参照ください。なお、PDF版は無料でHPからダウンロードできます)

《参考文献》
(1)山口建他(がんの社会学に関する研究グループ).がんよろず相談Q&A 第3集 抗がん剤治療・放射線治療と食事.2007
(2)日本癌治療学会(HP)がん診療ガイドライン.制吐薬適正使用ガイドライン 2015年10月【第2版】一部改訂版ver.2.2(2018年10月).http://www.jsco-cpg.jp/item/29/index.html(最終アクセス日 2019年12月18日)
(3) 監修 日本がん看護協会. 編集 狩野太郎、神田清子. がん治療と食事 治療中の食べるよろこびを支える援助. 医学書院. 2015(書籍)
(4)市川渡 編著. がん薬物療法の副作用ケア とことん攻略本. プロフェッショナルがんナーシング 2016年春季増刊. メディカ出版. 2016.

(最終更新日:2020年6月22日)


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