悩み(分類)

抗がん剤によるしびれや違和感など神経障害



助言


【末梢神経障害と抗がん剤】
末梢神経障害は、
(1)微小管阻害薬
◎パクリタキセル(一般名)、ドセタキセル(一般名)などのタキサン系
(商品名)タキソール、パクリタキソル、タキソテール、ドセタキセル、アブラキサンなど
◎ビンクリスチン(一般名)、ビノレルビン(一般名)、ビンデシン(一般名)などのビンカアルカロイド系
 (商品名)オンコビン、ナベルビン、ロゼウス、エクザール、フィルデシンなど
(2)白金製剤
◎オキサリプラチン(一般名)
 (商品名)エルプラット、オキサリプラチンなど
◎シスプラチン(一般名) 
 (商品名)シスプラチン、ランダ、ブリプラチンなど
◎カルボプラチン(一般名)
 (商品名)カルボプラチン、パラプラチンなど
などでみられます。抗がん剤の種類によって症状の出方や障害の頻度が異なり、副作用の程度や出現時期にも個人差があります。
※『末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤について』、『お薬別の末梢神経障害の症状について』は、静岡がんセンターのHP>冊子>学びの広場シリーズからだ編の『抗がん剤治療と末梢神経障害』により詳細な情報が掲載されています。

【末梢神経障害で起こる症状】
抗がん剤で起こる末梢神経障害には、
◎感覚運動障害(しびれ、痛み・熱さ・冷たさなどの感覚が鈍くなる、チクチクした感じ、痛みなど)
◎運動神経障害(力が入りにくい、物が持ちにくい、歩きにくいなど)
◎自律神経障害(立ちくらみ、排尿障害、発汗異常、便秘など)
があります。

【他の原因で起こる末梢神経障害】
末梢神経障害は、抗がん剤だけで起こるものではありません。糖尿病、アルコールの過剰摂取、ビタミンB欠乏などの代謝異常によるもの、中毒性、遺伝性、特発性による末梢神経障害もあります。
また、糖尿病、アルコール依存症、非アルコール性肝障害、低栄養状態などで抗がん剤治療によって起こる末梢神経障害の発症するリスクが高まるといわれています。

【症状がいつまで続くか】
抗がん剤による末梢神経障害は、抗がん剤の種類や組み合わせによって異なり、症状の程度、持続期間等も個人差があります。また、治療を重ねるほど(総投与量が増えるに伴って)、症状が出てきたり、強くなったりします。
治療終了後、やわらいでくるのは、月単位、あるいは年単位となることがあるといわれています。
患者さんのお話では、「1年以上かかった」、「やわらいでくるまで、6-7年かかった」と長くかかった方もいらっしゃり、また「手のしびれはよくなったけど、足の指先はまだ残っている」等、部位で異なる回復状況の方もいらっしゃいました。また、残念ながら、改善しない場合もあります。

【日常生活で起こる支障の例】
◎ボタンが留めにくい
◎ヒモやネクタイが結びにくくなる
◎つまずきやすい
◎パソコンのキーボードが打ちにくい
◎ペットボトルの蓋があけにくい
◎箸が使いにくい
◎テレビなどのリモコンが操作しにくい
◎字が書きにくい(指に力が入らない) など

【日常生活での注意点としびれをやわらげる可能性のある試み】
しびれの程度などは個人差があり、またしびれをやわらげるための試みも、すべての方に効果があるわけではありません。
患者さんから経験談をお聞きすると、ご自分なりにいろいろ試して自分にあった方法を日常生活に取り入れたり、自分なりの工夫をされているようです。

■やけどに注意する
◎手(指など)がしびれているときは、熱さを感じにくくなるので、湯飲みを持つときや熱い物にさわるときに、やけどに注意する(湯飲みではなく、取っ手のついたカップを使うなど)
◎カイロなどでの低温やけどに注意する(カイロを長時間身につけておかない、ストーブのそばに長時間いないなど)
◎家事の時は、綿手袋などをし、直接熱いものに触らないようにする

■けがに注意する
◎刃物を使うとき、指先がしびれて鈍くなっていることがあるので、けがをしないように注意する(調理をしなければいけないときなどは、包丁は危ないので、料理用はさみ、ピューラー、フードプロセッサーなどを使ったり、野菜などあらかじめカットされた状態で購入できる材料を活用するなどしてみる)
◎深爪をしないように注意する(入浴後など爪がやわらかい状態のときに爪切りをする、爪やすりを使うなど)
◎手や足のしびれがあるときは、買い物などで重いものを持てなかったり、買い物袋を落としてしまったりすることがある。ショッピングカートの利用、ネットスーパーやネット通販の利用、スーパーの配達(配達してくれるところであれば)などの利用という方法もある

■転倒に注意する
◎足(足先や足の裏など)がしびれているときは、滑りにくい靴をはき、段差は特に気をつける
◎脱げやすい履物(サンダルやゆるい靴)は避ける
◎ハイヒールは足先に体重がかかって転びやすいので履かないようにする
◎階段では手すりを使い、ゆっくり上り下りする。あるいは、エスカレーターやエレベーターを利用する。
◎足がしびれているときは、立ち上がるときに力が入りにくいことがあるので、ゆっくり立ち上がるように気をつける
◎部屋の床につまずきやすいものを放置しない
◎滑りやすいカーペットやマットなどを敷かない

■日常生活での工夫
日常生活の工夫の情報やグッズ等を探すときなど、『抗がん剤治療の副作用で起こるしびれ』と限定してしまうと、なかなか見つけにくいと思います。
しびれという症状に着目して、『しびれがある』、『指や手の力が弱っている』ときに便利なものを探してみましょう。特に、高齢者用やリハビリ用のグッズなど、100円ショップにも、使うと便利なグッズがあると思います。

◎ペットボトルやびんのフタなどがあけにくいときは、ペットボトルオープナーなどの補助具、指サックや太めの輪ゴムなどを使ってみる。指サックは、外出時に持ち歩くとどこでもすぐに取り出せ使える
◎ボタンのない服や、ボタンがはめやすい服を着る
◎靴下はしめつけないものを履く(履き口のゆるいものなど)
◎指に力が入りにくく、文字がうまく書けないときは、パソコンやスマホ、タブレット等を利用できる場合は利用する
◎<筆記補助具(高齢者や手や指が不自由な方などための筆記具の補助具、すべりにくいシリコン製のグリップを筆記具の指があたるところにかぶせたり、いろいろ工夫されている>などを試してみる など

■しびれをやわらげるための試み
指先や足先がしびれているときに、これらを動かす(運動する)ことで、しびれがやわらぐことがあります。
◎1日に数回、症状のある手足の筋肉を曲げ伸ばしする運動を数回ずつ行う
◎くるみを2個(あるいは、くるみ大の小さな球やゴムボールなどを使い)手のひらで転がしたり、もむようにしたり、手指の運動を行ってみる
握力が弱った高齢者やリハビリ用に市販されているグッズのなかにも活用できるものがあります。

温めると血行がよくなり、しびれがやわらぐことがあります。入浴は、シャワーだけで済まさず湯船につかると、血行がよくなります。お湯につかっているとき、手指の運動も兼ね、手足の指先を動かしてみてもよいでしょう。
また、「温泉に行くと、温まるだけでなく、気持ちもほぐれて楽になる」と言われた患者さんもいらっしゃいました。
温めるという点では、特に寒い時期は、厚手の手袋や靴下で保温するのもよいでしょう。

しびれに対して対症的にお薬を使う場合もあります。ただ、日常臨床で使われていても、まだ科学的に有効かどうか検証されている途中であったり、十分に検証されていないものもあります。また、効果が期待できても、そのお薬の副作用(眠気やだるさ、ムカムカするなど)との兼ね合いで、慎重に検討する必要があります。
お薬を対症的に使うかどうかは、しびれの度合いや日常生活の支障、しびれのお薬の副作用との兼ね合いをよく検討した上でになります。しびれがつらいときは、主治医とよくご相談ください。
実際に、さまざまな病院で使われているお薬に関しては、下記ページにより詳細な情報が掲載されています。
※『対症療法について』は、静岡がんセンターで作成した小冊子『抗がん剤治療と末梢神経障害』に、より詳細な情報が掲載されています。また、静岡がんセンターのHPでも読むことができます。助言の最後にある『関連情報』から、『対症療法について』に移動できます。

【オキサリプラチン(一般名)の急性の症状とその対応策】
しびれが出る可能性のあるお薬の中で、オキサリプラチン(一般名)の場合、お薬を投与した直後(数時間から数日)に現れる急性の神経障害と、回数を重ねるごとに現れる慢性の障害があります。
このうち、特に急性の末梢神経障害は、寒冷刺激で誘発するといわれており、お薬を使ってから5~7日頃迄は、寒冷刺激を避けることが大切です。

具体的には
◎手洗い:水ではなく温水を使う
◎外が寒い季節は、手袋やマフラー、靴下などをつけ、肌に直接冷たい外気が触れないようにする
◎暑い季節でも、冷房等で室内を冷やしすぎないようにする
◎エアコンの風に直接あたらないようにする
◎冷たい飲み物や食べ物は避ける
◎家事などの時には、手袋を使用する
◎ドアノブ、はさみなどの金属製品、冷蔵庫の中のものなど冷たいものには直接手を触れず手袋を使用する
◎しびれていると深爪になったりするので、注意する
◎足先が冷えやすいので、靴下やスリッパをはいて保温する
などです。

【しびれの程度や日常生活上の支障を医療者や周囲の人に伝える】
しびれのつらさ、しびれに伴う暮らしの中の不便さは、周囲の人々や医療者にはわかりにくいことです。
医師の診察の際、あるいは看護師や薬剤師に状況を聞かれた際には、しびれの自覚症状としびれに伴う日常生活の支障(困っていること)を、具体的に伝えることが大切です。しびれの程度や日常生活への影響の状況と、治療の効果、治療の目的、患者さんの意向なども含めて総合的に判断し、薬の変更や減量、中止になる場合もあります。

■しびれの状況の伝え方
◎部位
右手、左手、右足、左足
◎どのあたりまで
指先第一関節あたりまで、足の裏など
◎強さ
全くしびれや痛みなどを感じないのを<0>として、一番つらい状態を<10>としたときにいくつくらいか
◎どのような状態か
ピリピリする、じんじんする、痛みを伴うなど
症状はずっと続いている、○○のときに起こる、○○のとき強くなるなど
◎前回、診察時に比べ、しびれにかかわることで変化はあったか
◎しびれによる日常生活での支障の状況
 ・ボタンが留めにくい
 ・ヒモやネクタイが結びにくくなる
 ・つまずきやすい
 ・パソコンのキーボードが打ちにくい
 ・ペットボトルの蓋があけにくい
 ・箸が使いにくい
 ・テレビなどのリモコンが操作しにくい
 ・字が書きにくい(指に力が入らない)
など
◎もし何か試していたらその効果

<参考資料>
(1)日本がんサポーティブケア学会編.がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引 2017年版.金原出版
(2)市川度 編著.がん薬物療法の副作用ケアとことん攻略本.メディカ出版.2016
(3)飯田宏樹, 新田都子.痛み・神経障害ケア:がまんさせないケアへ.がん看護 2017; 22: 389-392
(4)草場仁志.末梢神経障害.がん看護 2017; 22: 222-224

(更新日:2019年10月10日)


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