【緩和ケア病棟などの緩和ケアを受ける場所と緩和ケア病棟の入院費用】
【終末期緩和ケアのことでまず考えておきたいこと】
病状のことをふまえたうえで、今後、緩和ケア病棟への入院を考えているというのは、最後まで自分らしい人生を送るための準備、ご家族やご友人など周囲になるべく負担や迷惑をかけたくないという気持ち、穏やかにできるだけ苦しくない状態を維持してほしいという気持ち、いろいろなことを考えてのご自身の意思なのではないかと思います。
ただ、その場合、以下の点をおさえておく必要があります。
(1)緩和ケア病棟といっても、費用にばらつきがあります(特に、公的医療保険制度でまかなえる費用『以外』の費用でばらつきがあります。たとえば、差額ベッド代などです。)
(2)緩和ケア病棟(ホスピス病棟ともいいます)のベッド数の多くは1医療施設20-30床前後で、10床程度のところもあります。また、2016年のデータですが、緩和ケア病棟数は全国あわせて400程度で、ベッド数は全国あわせて8千あまりです(1)。また病棟の数は、都道府県によってばらつきがあります。
(3)[特定非営利活動法人 日本ホスピス緩和ケア協会]のサイトには、全国の緩和ケア病棟のある病院を都道府県別に表にして公開しています。日本地図の該当する都道府県名をクリックすると、緩和ケア病棟のベッド数等とともに、ホームページへのリンクがあり、より詳しい情報はホームページで確認することができます。ご自身のお住いの近くに緩和ケア病棟があるか、設備や費用はどのようなところかなどをまず確認にしてみましょう。
(4)緩和ケアは、がんと診断されて以降の体のつらさ、心のつらさ、暮らしのなかの問題などをやわらげるための治療やケアです。そして、現在、このようなさまざまなつらさをやわらげるための医療である緩和ケアは、緩和ケア病棟でしか受けられないわけではありません。
緩和ケアを受けるには、どのような形があるのか、費用のことも含めて情報も集めて、そのうえで、あなたの希望と考えられる過ごす場所のことをすりあわせてみましょう。地域の緩和ケア体制の状況も情報として知っておくと、ご自分の希望と負担、地域の医療や介護状況をふまえて、どのようにしたいか、それは可能かなど具体的に考えることができると思います。
(5)ご自分のために、そして、ご家族のために、いろいろな情報を集め、吟味することは大切です。これまで、手術、放射線治療、がん薬物療法(抗がん薬治療)などさまざまな治療を受けてきた過程でも、いろいろな情報を入手し、吟味し、決定したり行動したりする過程で、すべてが希望通りにはいかないこともあったと思います。それでも、具体的な情報を前もって知っておくことは、大きなプラスになると思います。
(6)緩和ケアは、緩和ケア病棟でしか受けられないというわけではありません。むしろ、現在は、人生の最後の時期も含めて、在宅医療(訪問診療や訪問看護など)という形も増加してきています。緩和ケア病棟だけではなく、緩和ケアを受けるには他にどのような方法があるか等、いろいろな情報を入手しておくと、対処する際のバリエーションが増え、安心につながるのではないかと思います。
(7) 入院費用に関しては、具体的な計算等を含めた例は後述します。入院した場合にかかる費用は、公的医療保険制度(健康保険、国民健康保険など)により自己負担額がおさえられる費用(医療費)だけではありません。それ以外にかかる費用(差額ベッド代、テレビ代、コインランドリー代、クリーニング代など病院によって異なる費用)によって、差が出ます。また公的医療保険制度の医療費も所得等で自己負担限度額が異なります。
入院費用に関して、ある程度具体的に知りたい場合は、(1)ご自身のお住いの近くで緩和ケアを受けるとしたら、病院、在宅緩和ケアを含めてどこがあるのか、(2)緩和ケア病棟に絞った場合、近いのはどこかなどを調べ、その上で、概算は該当医療機関等のホームページ等で直接確認する(公的医療保険の対象にならない差額ベッド代の費用やテレビ代などの諸費用など)か、その病院の相談窓口などに確認してみましょう。目安になると思います。
【緩和ケア病棟以外の場所やシステムなど】
からだやこころのつらさをやわらげながら、過ごす場所としては、以下のような場所やシステム等があります。
◎現在かかっている医療機関にある緩和ケア病棟に入院する(緩和ケア病棟に入院が必要と判断された場合、入院予約をして、ベッドが空けば入院となります。)
◎緩和ケア(ホスピス)病棟のある病院に転院する
まず予約を取り外来受診します。ご本人が受診できない状況のときは、かわりにご家族が、まず緩和ケア外来を受診します。そして、入院が必要と判断された場合は、入院予約をとり、ベッドがあけば入院となります。ベッドがあくまでは待機となり、場合により、その間は訪問診療や訪問看護、訪問介護等を受けながら過ごします。
◎緩和ケア外来にかかりながら、必要に応じて、地域の訪問診療や介護サービスを利用する
◎在宅緩和ケア(在宅ホスピスケア)を受ける
◎現在かかっている病院で、みてもらう
最後まで、現在の担当医にみてもらい、入院が必要なときは、担当医の専門診療科の病棟に入院します
◎以前からかかっている地域の開業医(もしくは、自宅に往診してくれる在宅医)にみてもらいながら自宅で過ごす
などがあります。
ですから、地域の緩和ケア体制の状況も情報として知っておくと、ご自分の希望と負担、地域の医療や介護状況をふまえて、どのようにしたいか、それは可能かなど具体的に考えることができると思います。
【緩和ケア病棟でかかる費用】
緩和ケア病棟に入院した際の費用に関しては、大体このくらいというのが難しい状況があります。というのも、緩和ケア病棟に入院しても、公的医療保険制度(国民健康保険、健康保険など)が適用される費用や入院中の食事代とは別にかかる費用が、施設や病室の設備等によりかなり幅があるからです。
ですから、これまでご説明したように、まず緩和ケアを受ける場所に関して、いくつかの候補をあげ、その施設のホームページや問い合わせ等で差額ベッド代等確認すると、1ヶ月にかかるおおよその金額は概算できると思います。
入院費用は、大まかに言うと、
(a)公的医療保険制度が適用される医療費 + (b)食事代(入院食) + (c)差額ベッド代やコインランドリー代など(病院によって異なります)
になります。
(a)公的医療保険制度が適用される医療費(自己負担限度額があります)
手術やがん薬物療法(抗がん薬治療)、放射線療法など、がんの治療で入院されたときと同じように考えていただけばよいと思います。
緩和ケア病棟の入院料の区分は複雑ですが、下記の2つを押さえておけば、窓口での支払いは、自己負担限度額となります。
◎ご自分の公的医療保険(健康保険、国民健康保険など)での1ヶ月の自己負担限度額を再確認しておきましょう。
◎緩和ケア病棟への入院が決まったら、あらかじめ所得区分の『認定証』の交付を受けて医療機関の窓口で提示することで、入院、外来診療ともに窓口での支払いを自己負担限度額までにとどめることができます。これをしておかないと、医療機関の会計窓口では、いったん○割負担の額を支払い、改めて自己負担の限度額を超えた分は、自分で申請して払い戻しをしなければなりません。
70歳未満の方、70歳以上で所得区分が現役並みIか現役並みIIの方、住民税非課税世帯の方で、高額の支払いが見込まれる治療(緩和ケア病棟での治療やケアも「治療」に含まれます)を予定する場合には、事前に所得区分の『認定証』を自分が加入している保険者(保険証に記載あり)に申請し、入手しておきましょう。申請の際には保険証のほか、印鑑等が必要になることもあるので、あらかじめ自分が加入している保険者に電話等で確認するようにしてください。
b)食事代(自己負担分 1食510円)
注意)住民税非課税の方で限度額認定・標準負担減額認定証をお持ちの方は食事代が減額されます。
c)差額ベッド代など全額自費になる費用や患者さんの入院に伴って生じる費用
差額ベッド代など、全額自費になる費用は、施設や設備でも異なりますが、主なものを以下にお示しします。
●差額ベッド代(特別療養環境室)
個室など(1~4人までの少ない人数の病室で、ベッドごとのプライバシーの確保など設備等に関して決まりがあります)を希望して利用する際にかかる料金で、病院によって異なります。ただし、緩和ケア病棟の施設基準では、有料の差額ベッドの数は全体の半数以下にするよう決められています。
●患者さんの寝間着などのレンタル料
病院によっては、レンタルの寝衣が準備されている場合があります。
●家族室や付き添いベッド料金
家族室は、施設によって有料、あるいは無料とどちらの場合もあり、設備も医療機関により異なります。また、病室で付き添う場合、ソファーベッドなどがある病室では、それを利用できますが、付き添いベッドを手続きして借りる形もあります。
●テレビや冷蔵庫などの設備
病院によって異なります。有料個室では、部屋の設備として無料の場合もあるようです。
●洗濯機やクリーニング
コインランドリーのようになっていたり、施設内のクリーニングを利用できたりする施設もあるようです。どちらも費用がかかります。
その他患者さんの入院に伴って生じる費用としては、
●ご家族の面会などの際の交通費
これは、あまり意識されることはないと思いますが、遠方だったり、頻回に面会されたりする際など、バスや電車など公的交通機関の交通費やガソリン代なども見えにくい費用の一つです。
●ご家族の食事代
ご家族が付き添われたり、面会にこられたりした際、食事は病院の売店などで購入する、病院の食堂を利用する等されることも多いと思います。これらも見えにくい費用の一つです。
【医療費等に関して事前に行っておくとよいこと】
●『認定証』の申請
前述したように、医療費は年齢や収入に応じて1ヶ月に支払う自己負担限度額が定められています。医療機関の窓口で自己負担限度額を超えて支払った金額については、後日高額療養費として支給されます。あらかじめ、所得区分の『認定証』の交付を受けて、医療機関の窓口で提示することで支払いを自己負担限度額までに抑えることができます。入院が決まったら(入院予約後)、『認定証』を申請しておき、入院時に、『認定証』を窓口に提示しましょう。なお、マイナ保険証(マイナンバーカードの健康保険証利用)をしている場合には申請は不要です。
●保険者の問い合わせ先の確認
加入している公的医療保険の保険者の問い合わせ先を確認しておきましょう。保険証には、保険者の名称や連絡先などが記載されています。
また、保険者がホームページに保険の内容や申請書様式などを公開している場合がありますので、確認しておきましょう。
●民間保険に加入している場合に確認すること
民間保険に加入している場合は、保険証書や問い合わせ窓口などを確認しておきましょう。保証内容、手続き方法なども確認し、不明な点は、保険担当者に問い合わせておきましょう。
契約されている保険によっては、診断書が不要な簡易請求(医療機関で発行される診療明細書や治療状況報告書で請求)が可能な場合や、他の生命保険会社に提出する診断書のコピーでの対応ができる場合もありますので、保険請求手続きをする前に確認しましょう。
【在宅緩和ケアの費用】
在宅緩和ケアでも、入院と同じように公的医療保険や高額療養費制度が使えます。患者さんが40歳以上であれば、病状によっては、介護保険を使って日常生活の様々な場面で介護サービスを受けることができます。
ただ、緩和ケア病棟に入院する場合と異なり、在宅緩和ケアにかかる費用は、患者さんの状態、ご家族の介護力、医療機関の方針によっても異なります。
詳しくは、かかっている病院の相談窓口(ソーシャルワーカー等)、緩和ケア外来や緩和ケアセンター、在宅支援や医療連携に関連する部門などにご相談ください。どこに相談してよいかわからないときは、まず、今かかっている外来の看護師等に相談してみてください。
【お住いの地域のなかで緩和ケアを受けられる施設等の情報を探し検討する】
[特定非営利活動法人 日本ホスピス緩和ケア協会]のサイトには、<ホスピス緩和ケアを受けられる場所のご案内>というページがあり、ホスピス緩和ケア病棟、緩和ケアチーム、在宅ホスピス緩和ケアの病院や診療所の情報が掲載されています。ホスピス緩和ケア病棟のページは、都道府県ごとにわかれ、ホームページへのリンクもあるので、詳細はその施設のホームページで確認してもよいでしょう。緩和ケアチームは、リストで確認できます。在宅ホスピス緩和ケアのページは、都道府県ごとに施設名称があり、施設名称をクリックすると、詳細な情報のページに移動します。ホームページへのリンクもあります。
また、おかかりの病院の相談室、もしくはおかかりの病院ががん診療連携拠点病院でなくても、お近くのがん相談支援センターに相談してみてもよいでしょう。地域の具体的な情報を入手できる可能性があります。
【相談できる場所】
1. かかっている病院の相談窓口
ご自分のかかっている病院の相談窓口を事前に確認しておきましょう。相談窓口は、病院のパンフレットやホームページなどに案内されていることがあります。相談窓口は、病院によっては、複数あることもあります。たとえば、
◎経済的な問題や福祉制度のこと、療養中や退院後の生活のことなどは、医療ソーシャルワーカー
◎治療選択の迷い、病気や治療に関する悩み、これからどうしたらよいかの悩みなどは看護師
など、相談内容によって窓口や対応する職種が異なる場合もあります。
どこにいけばよいかわからないときには、「総合案内」で聞いたり、外来で聞いたりしてもよいでしょう。
2. がん相談支援センター
全国のがん診療連携拠点病院(厚生労働省が指定)には、相談支援センターが設置されています。相談支援センターでは、がんの病気のことやがんの治療について知りたい、今後の療養や生活のことが心配などの質問や相談に対応しています。電話相談を行っているところもあります。
相談員は、患者さんやご家族のいろいろな不安や悩み、こころの声に耳を傾け、患者さんやご家族が問題を整理したり行動したりするお手伝いをしています。
国立がん研究センターの『がん情報サービス』のホームページでは、各都道府県の相談支援センターの一覧表を閲覧できますので、ご参照ください。
電話相談は、相手の顔が見えないことで、緊張せずに気持ちを話しやすいときもあります。
3. お住まいの市町の相談窓口
ひとり親家庭の医療費支援など、市町で実施しているいろいろな支援サービスもあります。「総合相談窓口」を確認しておくとよいでしょう。
<参考資料>
(1)日本ホスピス・緩和ケア研究振興財団.ホスピス緩和ケア白書2017.2017
(2)静岡がんセンター疾病管理センター緩和ケアセンター . 緩和ケアとは 第4版.2023
https://www.scchr.jp/book/manabi1/manabi-medical-treatment1.html
(3)静岡がんセンター疾病管理センターよろず相談 . 医療費のしくみ 第4版2刷 .2025
https://www.scchr.jp/book/manabi4/manabi4-4.html
(最終更新日:2025年5月27日)

![]() (1)日本ホスピス緩和ケア協会 https://www.hpcj.org/index.html サイドメニューに、『ホスピス緩和ケアをご利用の方に向けた情報』があり、『ホスピス緩和ケアQ&A』(ホスピス緩和ケアに関することをQ&Aで情報提供しています)、『ホスピスってなあに?』(冊子PDF版)などホスピス緩和ケアに関する情報や、ホスピス緩和ケアの解説やホスピス緩和ケアを受けられる医療機関一覧(ホスピス緩和ケア病棟、緩和ケアチーム、在宅ホスピス緩和ケア)の情報があります。 (2)国立がん研究センター『がん情報サービス』:相談先・病院を探す https://hospdb.ganjoho.jp/ https://ganjoho.jp/public/index.html がん情報サービスの[相談先・病院を探す]では、全国のがん診療連携拠点病院や小児がん拠点病院、希少がん情報公開専門病院等の一覧が掲載されていて、さまざまな条件で検索できます。 (3)緩和ケア.net https://www.kanwacare.net/ 緩和ケアに関する総論的な情報、痛みや痛み以外の症状、緩和ケアの医療費に関する情報、こころの変化やつらさへの対処法などの情報が掲載されています。 |