悩み

抗がん剤の副作用による手や足のしびれが続き、今後回復するのか、いつまで続くのか不安になった。



助言


【しびれの特徴と日常生活での工夫】


抗がん剤によるしびれは、日々の暮らしの中で、しびれによる不快と生活への支障の両方を感じることが多く、つらさや不安も大きいものと思います。

抗がん剤による末梢神経障害(手足のしびれや知覚異常など)では、
◎抗がん剤の種類や組み合わせによって異なる
◎症状の程度、持続期間等、個人差がある
◎治療を重ねるほど(総投与量が増えるに伴って)、症状が出てきたり、強くなったりする
などがあります。

なお、薬の種類による特徴などは、同じ静岡がんセンターのHPにある『冊子・電子書籍・動画』のなかの『冊子PDF版 抗がん剤治療と末梢神経障害』をご参照ください。薬の名前、神経障害の症状、対象となるがんの種類などをまとめた表で確認できます。

治療終了後、しびれがやわらいでくるのは、月単位、あるいは年単位となることがあるといわれています。
患者さんのお話では、「1年以上かかった」、「やわらいでくるまで、6-7年かかった」という方もいらっしゃり、「手のしびれはよくなったけど、足の指先はまだ残っている」等、部位により異なる回復状況の方もいらっしゃいました。また、残念ながら、改善しない場合もあります。

しびれによるつらさや不安はなかなかぬぐえないかもしれませんが、しびれをやわらげる可能性のある試みと、しびれが原因で、やけどやけがなどしないように、日常生活のなかで注意が必要な点についてお話しします。

しびれの程度などは個人差があり、またしびれをやわらげる可能性のある試みも、すべての方に効果があるわけではありません。患者さんから経験談をお聞きすると、ご自分なりにいろいろ試して自分にあった方法を日常生活に取り入れたり、自分なりの工夫をしたり、されているようです。

【やけどに注意する】
◎ 手(指など)がしびれているときは、熱さを感じにくくなるので、湯飲みを持つときや熱い物にさわるときに、やけどに注意する(湯飲みではなく、取っ手のついたカップを使うなど)
◎ カイロなどでの低温やけどに注意する(カイロを長時間身につけておかない、ストーブのそばに長時間いないなど)
◎ 家事の時は、綿手袋などをし、直接熱いものに触らないようにする

【けがに注意する】
◎ 刃物を使うとき、指先がしびれて鈍くなっていることがあるので、けがをしないように注意する(調理をしなければいけないときなどは、包丁は危ないので、料理用はさみ、ピューラー、フードプロセッサーなどを使用する、あるいは、野菜などあらかじめカットされた状態で購入できる材料を活用するなどしてみる)
◎ 深爪をしないように注意する(入浴後など爪がやわらかい状態のときに爪切りをする、爪やすりを使うなど)
◎ 手や足のしびれがあるときは、買い物などで重いものを持てなかったり、買い物袋を落としてしまったりすることがある。ショッピングカートの利用、ネットスーパーやネット通販の利用、スーパーの配達(配達してくれるところであれば)などを利用する方法もある

【転倒に注意する】
◎ 足(足先や足の裏など)がしびれているときは、滑りにくい靴をはき、段差は特に気をつける
◎ 脱げやすい履物(サンダルやゆるい靴)は避ける
◎ ハイヒールは足先に体重がかかって転びやすいので履かないようにする
◎ 階段では手すりを使い、ゆっくり上り下りする。あるいは、エスカレーターやエレベーターを利用する。
◎ 足がしびれているときは、立ち上がるときに力が入りにくいことがあるので、ゆっくり立ち上がるように気をつける
◎ 部屋の床につまずきやすいものを放置しない
◎ 滑りやすいカーペットやマットなどを敷かない
◎ 転倒防止のためのバランス運動
特に高齢になると、筋力の低下、足首の関節が硬くなる、視力低下(老眼、白内障など)などが起こりやすくなり、そこに足のしびれが加わることで、転びやすくなります。家でできるバランス運動などを取り入れてみましょう。
バランス運動の例)
片足を軽くあげて(10cm程度でよい)、30秒間くらいそのままでいます。その後、反対側も同じようにします。
なお、からだがふらついても支えられるように、足を上げるのと同じ側の片手(たとえば、右足をあげるときは、右手)は壁などを触るか、テーブルなどを持ち、ふらついても大丈夫なように安全に気をつけましょう。

【日常生活での工夫】
日常生活の工夫の情報やグッズ等を探すときなど、『抗がん剤治療の副作用で起こるしびれ』と限定してしまうと、なかなか見つけにくいと思います。しびれという症状に着目して、『しびれがある』、『指や手の力が弱っている』ときに便利なものを探してみましょう。

特に、高齢者用やリハビリ用のグッズなど、100円ショップにも、使うと便利なグッズがあると思います。
◎ペットボトルやびんのフタなどがあけにくいときは、ペットボトルオープナーなどの補助具、指サックや太めの輪ゴムなどを使ってみる。指サックは、外出時に持ち歩くとどこでもすぐに取り出せ使える
◎ボタンのない服や、ボタンがはめやすい服を着る
◎靴下はしめつけないものを履く(履き口のゆるいものなど)
◎指に力が入りにくく、文字がうまく書けないときは、可能であれば、パソコンやスマホ、タブレット等を利用する
◎また、<筆記補助具(高齢者や手や指が不自由な方などための筆記具の補助具、すべりにくいシリコン製のグリップを筆記具の指があたるところにかぶせたものなど、いろいろ工夫されている>などを試してみる など

【しびれをやわらげるための試み】
指先や足先がしびれているときに、これらを動かす(運動する)ことで、しびれがやわらぐことがあります。1日に数回、症状のある手足の筋肉を曲げ伸ばしする運動を数回ずつ行ったり、くるみを2個手のひらで転がしたり、くるみ大の小さな球やゴムボールを使ったり、手指の運動を行ってみましょう。
握力が弱った高齢者やリハビリ用に市販されているグッズもあります。

温めると血行がよくなり、しびれがやわらぐことがあります。入浴は、シャワーだけで済まさず湯船につかると、血行がよくなります。お湯につかっているとき、手指の運動も兼ね、手足の指先を動かしてみてもよいでしょう。
また、「温泉に行くと、温まるだけでなく、気持ちもほぐれて楽になる」と言われた患者さんもいらっしゃいました。
温めるという点では、特に寒い時期は、厚手の手袋や靴下で保温するのもよいでしょう。

しびれに対して対症的にお薬を使う場合もあります。ただ、日常臨床で使われていても、まだ科学的に有効かどうか検証されている途中のもの、十分に検証されていないものもあります。また、効果が期待できても、そのお薬の副作用(眠気やだるさ、ムカムカするなど)との兼ね合いで、慎重に検討する必要があります。
お薬を対症的に使うかどうかは、しびれの度合いや日常生活の支障、しびれのお薬の副作用との兼ね合いをよく検討した上になります。しびれがつらいときは、主治医とよくご相談ください。
実際に、さまざまな病院で使われているお薬に関しては、下記ページにより詳細な情報が掲載されています。

※『対症療法について』は、静岡がんセンターで作成した小冊子『抗がん剤治療と末梢神経障害』に、より詳細な情報が掲載されています。また、静岡がんセンターのHPで読むこともでき、PDF版をダウンロードすることもできます。

《参考文献》
(1) 日本がんサポーティブケア学会編.がん薬物療法に伴う末梢神経障害マネジメントの手引 2017年版.金原出版
(2) 市川度 編著.がん薬物療法の副作用ケアとことん攻略本.メディカ出版.2016
(3) 飯田宏樹, 新田都子.痛み・神経障害ケア:がまんさせないケアへ.がん看護 2017; 22: 389-392
(4) 草場仁志.末梢神経障害.がん看護 2017; 22: 222-224

(最終更新日:2020年9月25日)


 
参考になるホームページ
(1)静岡がんセンター 冊子PDF版『抗がん剤治療と末梢神経障害』
https://www.scchr.jp/book/manabi-body10.html
がんの薬物療法(従来型の抗がん剤や分子標的薬など)による手先・足先のしびれや感覚が鈍いなど末梢神経への副作用に対する心構えや具体的な対処法などについて紹介しています。全PDF版の他、ほしい情報の部分だけPDFでダウンロードできる分冊版もあります。
(2)静岡がんセンター 末梢神経障害を起こしやすい抗がん剤について:冊子・動画ダウンロード『抗がん剤治療と末梢神経障害』
https://www.scchr.jp/book/manabi2/manabi-body10/mashoshinkei_shogai_chemo5.html
冊子『抗がん剤治療と末梢神経障害』の分冊の一つのHTMLページ版です。スマホでみたいときは、こちらのほうが見やすいと思います。使用する頻度が高く、末梢神経障害を起こしやすい薬剤を表にまとめています。
(3)静岡がんセンター お薬別の末梢神経障害の症状について:冊子・動画ダウンロード『抗がん剤治療と末梢神経障害』
https://www.scchr.jp/book/manabi2/manabi-body10/mashoshinkei_shogai_chemo6.html#bmanabishinkei6-1
冊子『抗がん剤治療と末梢神経障害』の分冊の一つのHTMLページ版です。お薬別に、症状、患者さんの訴え、病態などを表にまとめています。
(4)静岡がんセンター 対症療法について:冊子・動画ダウンロード『抗がん剤治療と末梢神経障害』
https://www.scchr.jp/book/manabi2/manabi-body10/対症療法について-3.html
冊子『抗がん剤治療と末梢神経障害』の分冊の一つのHTMLページ版です。

 
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