悩み

手術後の傷の痛み、突っ張り感や傷痕内部のうずくような痛みに悩まされている。



助言


【自分の痛みの状況を知り、わかりやすく人に伝える工夫をしてみましょう】


【手術の傷跡や周辺の痛みやしびれ、つっぱり感など】 
(1)手術後の傷の痛みは、多くの場合、次第に和らいできますが、慢性的な痛みが、数ヶ月以上、あるいは何年も続くこともあります。
(2)手術後少なくとも3ヶ月持続する痛みを『遷延性術後痛(CPSP)』といいます。がんの手術でこれを発症する可能性が高い手術には、開胸手術や乳房手術なども含まれており、肺がんでは『開胸術後疼痛症候群』、乳がんでは『乳房切除後疼痛症候群』とも呼ばれていました。
(2)痛みの原因は、手術による神経の一部の傷つき(神経は全身に細かくはりめぐらされています)、手術による周囲の組織のダメージ、傷のひきつれ、癒着による痛みなどさまざまなことが考えられます。また、『遷延性術後痛(CPSP)』では、その他に心理的な要因、社会環境的な要因なども影響するといわれます。
(3)手術から時間がたち、傷の痛みが徐々にやわらいでほとんど感じなくなっていても、湿度が高い時、気温が低いときなどに傷跡周辺が神経痛のように痛むことがあります。
(5)痛みは個人差があり、客観的には判断しにくいものなので、医師などの医療者、家族などに伝わりにくいことがあります。伝える時は、相手にわかりやすく伝える工夫をしてみましょう。痛みのために、日常生活上で支障がある場合は、そのことも具体的に伝えましょう。
(6) 痛み止めを使えば痛みは一時的にやわらぐかもしれませんが、手術後の痛みに使われる痛み止めは、使いすぎると胃に負担がかかることがあります(これは、市販の痛み止めを使用したときにも同様です)。担当医があまり痛み止めを使わないように、あるいは湿布等で様子を見るように言う時があるかもしれませんが、それは痛みがわからないというより、痛み止めの副作用も考えての発言ということもあります。
(7)長く続く(慢性的な)痛みに対処するためには、毎日の生活の中で、痛みを和らげるための自分なりの工夫も取り入れてみましょう。
(8)痛みが続き、つらいようであれば、ペインクリニック(痛みの治療を専門にする診療所)などで診てもらってもよいと思います。
(9)傷跡が、ケロイドや肥厚性瘢痕になっている場合は、形成外科でみてもらってもよいと思います。

【痛みの状況の整理と人への伝え方】
痛みは主観的なものなので、痛みの程度や痛みに伴うつらさは、なかなか人に伝わりにくいともいえます。そのため、医師など医療者が判断している痛みによるつらさと、患者さんが感じる痛みによるつらさに隔たりが出ることもあります。そこで、医師や他周囲の人々などにも理解してもらえるように、ご自分の痛みについてよく知り、人にわかりやすく伝えるという、伝える時の工夫も必要です。

同じ痛みでも人によってその苦痛は異なり、また痛みに伴うさまざまな生活の支障(動くと痛いので、あまり動きたくない、体をひねると痛いので動作が制限される、手を使うと痛みがひびく、痛みのせいで集中して仕事ができない、など)なども、整理して医師に伝えましょう。

1. 痛みを整理してみましょう
(1)どのような時に痛みが出てくるのか、あるいは強くなるのか
例)歩いているとき、動き始めるとき、からだの向きで、からだをひねったとき、重いものを持ったとき、雨の日や湿気の多い時期、下着などで傷跡周辺がこすれたときなど
(2)どのへんが痛むのか
例)創(きず)跡全体、創(きず)の左側の奥の方、など
(3)どのくらい痛むのか
例)数字で表してみる
0-10の数字で表す(0: 全く痛くない.........10: 耐えられないくらい痛い)
一日のうち、時刻による変化を数字で表してみる
(4)どのように痛いのか
例)きりきり痛い、ずきんずきんする、時々ぴりっと電気が走るよう、など
  (動作に伴って痛むときは、体を右にひねったとき、かがんだとき なども伝える)
(5)痛み止めを使っていればその効果
例)
・痛み止めをのむと、1時間くらいでいったん楽になるけれど、6時間くらいでまた痛くなる
・痛み止めを飲んでも、痛くて夜に眠れないときがある
・痛みのために、気分がふさぎがちになったり、いらいらしたりすることがある

2.痛みがあることで、生活上困っていることを整理してみましょう
例)家事ができない、食事がとりにくい、洗濯物をほすのが大変、布団をあげられない、パソコンを長い間打てない、体をひねると痛い、重いものが持てない、書き物がしにくい、など

長く続く痛みに対処するためには、毎日の生活の中で、痛みを和らげるための自分なりの工夫を取り入れることが有効的な場合もあります。
そのためには、
◎どのような時に痛みが楽になったり痛みを忘れたりするときがあるのか
◎どのような姿勢のとき、痛みが楽なのか
など『痛みの日記』をつけてみるのもよいでしょう。

痛みがやわらぐ状況は、時間帯、そのときしている活動、取っている姿勢など、人によっていろいろなきっかけがあります。『痛みの日記』をつけることで、“痛いところを温めたら楽になった”、“○○さんとしゃべっている時は痛みを忘れていた”、“よく眠った次の日には痛みが減った”、“お風呂で湯船に浸かり、十分温まったあとは楽だった”など、自分自身の痛みがやわらぐきっかけに気づくことができます。その中から、自分にとってよかった対処法を、日常生活に取り入れてみましょう。
ご自分なりの工夫で痛みをやわらげられることもあります。
自分の痛みと生活の過ごし方について、いろいろ検討し、よいと思われることは、生活の中に取り入れてみましょう。

【痛みの専門医に診てもらう】
痛みが長く続くようであれば、担当医に相談して、専門の医師を紹介してもらうことを考えてもよいでしょう。
最近では、『疼痛外来』、『ペイン外来』などの名称で、痛み治療の専門外来などを設けている病院やペインクリニックも増えてきています。また、痛みの種類や原因によっては、麻酔科や形成外科に相談することが、痛みの解消に役立つこともあります。それぞれの窓口で対応できる痛みとそうでない痛みがあるので、受診する前に自分の痛みの状況を伝えて、対応してもらえるかどうか確認するようにしましょう。

<参考資料>
(1)西日本がん研究機構.患者さんのためのガイドブック よくわかる肺がんQ&A 第4版 .金原出版. 2014
PDF版:http://www.wjog.jp/doc/guidebook/guidebook_v4.pdf
(2)日本乳癌学会編. 患者さんのための乳がん診療ガイドライン 2019年版. 金原出版.2019
HP版:http://jbcs.gr.jp/guidline/p2019/
(3)日本形成外科学会:一般の方へ
https://jsprs.or.jp/general/
(4)日本ペインクリニック学会:一般の皆様へ
https://www.jspc.gr.jp/ippan/ippan.html

(最終更新日:2022年1月5日)


 
参考になるホームページ
(1)日本ペインクリニック学会
https://www.jspc.gr.jp/
『一般の皆様』の項目に、ペインクリニックとはどのようなところか、専門医のリストなどがあります。
(2)日本乳癌学会:乳腺専門医と『患者さんのための乳がん診療ガイドライン』
https://www.jbcs.gr.jp/
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