膵がん患者のS-1(抗がん剤)術後補助化学療法の臨床試験で生存率が大幅上昇

2013年1月23日
静岡県立静岡がんセンター
公益財団法人静岡県産業振興財団 ファルマバレーセンター

 静岡県立静岡がんセンター(総長:山口 建、以下 静岡がんセンター)は、「膵がん切除後の補助化学療法における塩酸ゲムシタビン(以下、GEM)療法とS-1(以下、TS(ティー)-(エス)1(ワン))療法の第V相比較試験(JASPAC 01※1)」において、著しく良好な結果が得られたことを、本試験の研究代表者 静岡がんセンター 肝胆膵外科 部長 上坂克彦医師が、米国臨床腫瘍学会 消化器がんシンポジウム(ASCO-GI 2013 米国サンフランシスコ※2)で発表することをお知らせいたします(発表予定:米国時間1月25日、抄録番号145)。

 本試験は、手術で切除可能なステージ(UICC病期分類※3)T期〜II期およびV期の一部の膵がん患者に対する再発のリスク低減と生存率の向上を目的とした術後補助化学療法についての第V相臨床試験で、従来の標準治療薬であるGEMと、TS-1単剤の効果を比較するものです。静岡がんセンターをはじめとする全国33施設による研究グループ(JASPAC※1)によって行われました。中間解析の結果、TS-1群のGEM群に対するハザード比(HR:Hazard Ratio)が0.56となり、TS-1を術後に投与することによって、GEMを投与するよりも死亡のリスクを44%も減らすことがわかりました。現在の標準治療薬であるGEMと比較してTS-1は手術後の膵がん患者の生存率を大幅に上昇させることが示されたことになります。
 
―試験結果―
 主要評価項目である全生存期間は、TS-1群がGEM群よりも優れていることが統計学的に証明されました(HR=0.56、95%信頼区間0.42-0.74、P<0.0001 非劣性、P<0.0001 優越性;log-rank test※4)。なお、2年生存率はGEM群53%、TS-1群70%でした。副次的評価項目である無再発生存期間についても、中央値はGEM群が11.2ヶ月、TS-1群が23.2ヶ月であり、TS-1群がGEM群よりも優れていることが統計学的に証明されました(HR=0.56、95%信頼区間0.43-0.71、P<0.0001;log-rank test)。有害事象については、主なグレード3以上の血液毒性は、GEM群、TS-1群それぞれの白血球数減少39%, 8.5%、血小板数減少9%, 4%、血色素減少17%, 13%、グレード3以上の非血液毒性は、食欲不振5.7%, 8%、下痢0%, 4.8%、口内炎0%, 3%などでした。

<研究代表者 上坂克彦医師(静岡がんセンター 副院長 兼 肝・胆・膵外科部長)コメント>
 今回の私たちの研究結果は、当初の私たちの予想を大きく上回る、たいへんすばらしいものでした。従来、膵がんの手術の後には、再発率を下げるためにゲムシタビンによる補助化学療法(抗がん剤治療)を行ってきました。手術の後にゲムシタビンを使うと、使わない場合に比べて、明らかに再発率が下がり、結果として生存率が向上するからです。しかし、今回の研究結果は、ゲムシタビンのかわりにTS-1を用いると、ゲムシタビンよりも再発のリスクを減少させ、死亡のリスクを44%減少させること、結果として生存率が一層向上することを明らかにしました。難治がんの代表である膵がんに対する手術後の死亡のリスクをこれだけ飛躍的に減少させた研究は近年にはなく、画期的な進歩と言えます。また、TS-1は飲み薬であり、有害事象(副作用)の頻度もゲムシタビンと遜色なく、使いやすい薬と言えます。今回の研究結果に基づいて、日本の膵癌診療ガイドラインが書き換わることを期待しています。またこの結果が、膵がんに苦しむ患者さんやご家族にとって、大きな福音となれば幸いです。最後に、今回の研究に参加してくださった患者さん、そのご家族、そして私たちの研究グループ(JASPAC*1)の参加施設のスタッフの皆様に感謝申し上げます。

【JASPAC 01試験について】
 膵がん切除後の補助化学療法における塩酸ゲムシタビン療法とS-1療法の第V相比較試験(JASPAC 01)」は、膵がん補助化学療法研究グループであるJASPAC(全国33の医療機関が参加)によって行われた臨床試験で、2007年4月から2010年6月までの3年3カ月間に計385例の患者さんが登録・参加して行われました。対象は、膵がん切除後(UICC第6版病期分類 stageU以下、もしくは腹腔動脈合併切除を行ったstageV)の患者さんで、GEM単独で治療する群と、経口抗がん剤であるTS-1単独で治療する群の2つの群を比較したものです。主要評価項目は全生存期間、副次評価項目は無再発生存期間および安全性等です。投与方法は、GEM単独の治療群は、1,000mg/uのGEMを1日目、8日目、および15日目に点滴静注し、22日目は休薬する28日を1コースとし、6ヶ月間投与するスケジュールでした。TS-1単独の治療群は40〜60mgのTS-1を1日2回、28日間連続経口投与し、その後14日間休薬する42日を1コースとし、4コース(6ヶ月間)まで実施するスケジュールでした。2012年7月までの追跡データに基づいて中間解析をおこなったところ、2012年8月27日、第3者機関である「効果・安全性評価委員会」から中間解析の結果を早期に公表するよう勧告があり、今回、ASCO-GI 2013において、結果を発表することになりました。
本試験は、公益財団法人 静岡県産業振興財団 ファルマバレーセンター(所長:植田勝智)が大鵬薬品工業株式会社(社長:小林 将之)との委受託契約に基づき、ファルマバレープロジェクトとして実施した試験です。

【膵がんについて】
 日本における膵がんの罹患数は、2007年の統計で約2万9千人、死亡数は2011年の統計で約2万8千9百人と報告されており、年々増加傾向にあります。また膵がんは、肺、胃、大腸、肝に次いで、がん死の第5位を占めています。膵がんでは切除術が唯一根治をめざすことができる治療ですが、切除可能な症例は20〜30%前後にすぎず、たとえ切除されても、術後2年以内に約7割が再発すると報告されています。切除後の5年生存率はおよそ20%と、最も予後の悪いがん腫の一つとなっています。主な治療法には、@手術と術後補助化学療法、A化学療法単独、B化学療法と放射線治療の併用、などがあります。切除が可能な場合の主な術式は、@膵頭十二指腸切除、A膵体尾部切除、B膵全摘術ですが、膵臓付近は血管や臓器が複雑にからまっているため、膵臓の手術を多く手掛けている病院で手術を行うことが望ましいと考えられています。

※1 JASPAC 01について
http://www.fuji-pvc.jp/center/jaspac/nojoin.aspx?j=1

※2 ASCO-GI 2013(Gastrointestinal Cancers Symposium):http://gicasym.asco.org/
   プログラム:http://gicasym.asco.org/meeting-program

※3 UICC: Union for International Cancer Control 国際対がん連合。日本の癌取扱い規約の病期分類ではありません。

※4 「log-rank test(ログランク検定)」とは、2つの群の生存曲線が統計学的に同じかどうかを調べる検定



<関連情報>

※ASCO-GI(米国臨床腫瘍学会 消化器がんシンポジウム)の記者向け説明会の動画

January 22 Presscast
http://www.asco.org/ASCOv2/Press+Center/Meetings+and+Events/Gastrointestinal+Cancers+Symposium


※ASCO2013 Gastrointestinal Cancers Symposium:http://www.gicasym.org/
Meeting Program:http://www.gicasym.org/meeting-program


※JASPAC 01について
膵癌補助化学療法研究グループ(Japan Adjuvant Study Group of Pancreatic
Center)
http://www.fuji-pvc.jp/center/jaspac/nojoin.aspx?j=1



本プレスリリースPDFはこちら → 
(PDFファイル:178KB)

Acrobat Readerをお持ちでない方はこちらから  ダウンロードしてください。



※本件に関するお問い合わせは、下記までお願いいたします。
静岡 県立静岡がんセンター マネジメントセンター 医療広報担当  TEL 055(989)5222



静岡がんセンターホームページへ